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特別な人
特別な人 第8話
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「先に入ってていいのに」
「これぐらい平気だってば」
寒いだろ? って僕の事を気にしてくれる虎君の後ろについて歩いていれば、何してるんだって笑われてしまう。
愛車を車庫の片隅に停めると虎君は振り返ってついさっき僕に渡したカバンを奪い取ってしまう。渡す気のなかった僕はあっという間の出来事にちょっと驚いた。
「虎君、強引だよ! 僕のカバンまで持って行ってるし!」
「ああ、本当だ。……それよりも、葵は受験生って自覚が足りないぞ? この時期に風邪ひいたら洒落にならないぞ?」
返してって手を伸ばすけど、虎君は僕の手をかわして玄関へと歩き出してしまう。
それを追いかける僕だけど虎君はカバンを返してくれない。それどころか話題を変えてきて、このまま返す気はないってことみたいだ。
「もう。虎君って本当、強引!」
「はいはい。ほら入って」
ほっぺたを膨らまして不満を訴えるけど、返ってくるのは優しい笑顔。
玄関のドアを開けて先に家に入るように促されて、なんだかんだ言いながら僕はその優しさに甘えるように先に玄関のドアをくぐった。
「ただいま」
「お邪魔します」
玄関に響く僕たちの声。それに僕は「あれ?」って首を傾げてしまう。だっていつもなら聞こえる家族の声が全然聞こえないから。
僕は虎君を振り返る。そしたら虎君は「俺の後ろから離れないで」って言って先に歩き出す。
しんと静まり返った家の中、僕は無意識に虎君の上着を握り締めてしまう。その手が震えていることに気づいて、思わず虎君を止めるように手を引いてしまった。
(こんなに静かなの、変だよ……)
みんな居るはずなのに、なんでこんなに静かなの? 玄関鍵かかってなかったし、陽琥さんもいるってことだよね?
なのになんで? なんで声、聞こえないの?
いつもなら聞こえる母さんと姉さんの喋り声も、めのうの足音も、全然聞こえない……。
頭をよぎるのは、過去の出来事。
昔、僕がまだゼウス学園の初等部に通っていたころ、金品目的の強盗が家に入ったことがあった。
当時部屋で虎君と姉さんと茂斗とゲームをして遊んでいた僕は、飲み物を取りに部屋を出た時に運悪くその強盗と鉢合わせてしまった。
ナイフを片手に声を出すなって凄んできた強盗に僕は身を竦ませて従うことしかできなかったんだけど、自分も喉が渇いたって僕の後を追ってきた虎君に助けられて事なきを得た。
あの時は虎君が腕に掠り傷を負っただけで済んだけど、それは家に父さんとボディーガードの陽琥さんがいたから。
「大丈夫、あの時みたいなヘマはしないから」
「! でもっ……!」
あの時は怪我したけど。ってことなんだろうけど、危ないことはしないでって僕は虎君を止める。
あの時、逆上した強盗に僕は刺されそうになった。それに虎君は僕を守るように自分を盾にして、陽琥さんが強盗を止めてくれなかったらきっと虎君は無事じゃ済まなかったと思う。
もう二度とあんな怖い思いしたくない。そう訴える僕に、虎君は分かってるって頷く。
「葵は俺が守るから大丈夫」
「そうじゃなくて……!」
守って欲しいわけじゃないって訴えるけど、虎君には伝わらない。それどころかまた奥へと歩き出してしまって、僕は怖いけどその後ろに付いて行くしかなかった。
静まり返った家の中は、自分の家なのにそうじゃないみたいで本当に怖かった。
虎君は周囲を警戒しながら通り過ぎる部屋のドアをすべて開いて中に不審者がいないことを確認して行く。
(どうしよ……、警察、警察に電話したほうがいいよね?)
震える手をコートのポケットに突っ込んで携帯を探す。けど、見つからない。
(! カバンの中だ……)
バイクに乗るから落とさないようにカバンに片づけたのを思い出して、またパニックになる。
「虎君っ、一回出よ? 警察に電話したほうがいいよ、絶対」
恐怖に震える声は意図せず小さなものになっていた。
それに虎君は大丈夫って奥に進むことを強行しようとする。でも、本当に怖くて仕方ない僕だって必死だ。
「ヤダっ……、虎君に何かあったら、僕どうしたらいいのっ」
これ以上奥に進まないで!
そう腕を掴んで訴える僕は泣いていたかもしれない。振り返った虎君が凄く驚いた顔してたから。
「……分かった。一回家出よう」
泣かないで。って抱きしめてくれる虎君は、漸く僕の言葉を聞いてくれる。
家族が危険かもしれない。このまま家を出たら、家族とは二度と会えないかもしれない。
そんな不安を感じながらも、今の自分には危険を回避する力がないから仕方ないって言い聞かせて、僕は家族を助けるために家を出ようとした。
けど、その時……。
「何してんの?」
リビングのドアが開き、顔を見せたのは双子の片割れ、茂斗だった。
「これぐらい平気だってば」
寒いだろ? って僕の事を気にしてくれる虎君の後ろについて歩いていれば、何してるんだって笑われてしまう。
愛車を車庫の片隅に停めると虎君は振り返ってついさっき僕に渡したカバンを奪い取ってしまう。渡す気のなかった僕はあっという間の出来事にちょっと驚いた。
「虎君、強引だよ! 僕のカバンまで持って行ってるし!」
「ああ、本当だ。……それよりも、葵は受験生って自覚が足りないぞ? この時期に風邪ひいたら洒落にならないぞ?」
返してって手を伸ばすけど、虎君は僕の手をかわして玄関へと歩き出してしまう。
それを追いかける僕だけど虎君はカバンを返してくれない。それどころか話題を変えてきて、このまま返す気はないってことみたいだ。
「もう。虎君って本当、強引!」
「はいはい。ほら入って」
ほっぺたを膨らまして不満を訴えるけど、返ってくるのは優しい笑顔。
玄関のドアを開けて先に家に入るように促されて、なんだかんだ言いながら僕はその優しさに甘えるように先に玄関のドアをくぐった。
「ただいま」
「お邪魔します」
玄関に響く僕たちの声。それに僕は「あれ?」って首を傾げてしまう。だっていつもなら聞こえる家族の声が全然聞こえないから。
僕は虎君を振り返る。そしたら虎君は「俺の後ろから離れないで」って言って先に歩き出す。
しんと静まり返った家の中、僕は無意識に虎君の上着を握り締めてしまう。その手が震えていることに気づいて、思わず虎君を止めるように手を引いてしまった。
(こんなに静かなの、変だよ……)
みんな居るはずなのに、なんでこんなに静かなの? 玄関鍵かかってなかったし、陽琥さんもいるってことだよね?
なのになんで? なんで声、聞こえないの?
いつもなら聞こえる母さんと姉さんの喋り声も、めのうの足音も、全然聞こえない……。
頭をよぎるのは、過去の出来事。
昔、僕がまだゼウス学園の初等部に通っていたころ、金品目的の強盗が家に入ったことがあった。
当時部屋で虎君と姉さんと茂斗とゲームをして遊んでいた僕は、飲み物を取りに部屋を出た時に運悪くその強盗と鉢合わせてしまった。
ナイフを片手に声を出すなって凄んできた強盗に僕は身を竦ませて従うことしかできなかったんだけど、自分も喉が渇いたって僕の後を追ってきた虎君に助けられて事なきを得た。
あの時は虎君が腕に掠り傷を負っただけで済んだけど、それは家に父さんとボディーガードの陽琥さんがいたから。
「大丈夫、あの時みたいなヘマはしないから」
「! でもっ……!」
あの時は怪我したけど。ってことなんだろうけど、危ないことはしないでって僕は虎君を止める。
あの時、逆上した強盗に僕は刺されそうになった。それに虎君は僕を守るように自分を盾にして、陽琥さんが強盗を止めてくれなかったらきっと虎君は無事じゃ済まなかったと思う。
もう二度とあんな怖い思いしたくない。そう訴える僕に、虎君は分かってるって頷く。
「葵は俺が守るから大丈夫」
「そうじゃなくて……!」
守って欲しいわけじゃないって訴えるけど、虎君には伝わらない。それどころかまた奥へと歩き出してしまって、僕は怖いけどその後ろに付いて行くしかなかった。
静まり返った家の中は、自分の家なのにそうじゃないみたいで本当に怖かった。
虎君は周囲を警戒しながら通り過ぎる部屋のドアをすべて開いて中に不審者がいないことを確認して行く。
(どうしよ……、警察、警察に電話したほうがいいよね?)
震える手をコートのポケットに突っ込んで携帯を探す。けど、見つからない。
(! カバンの中だ……)
バイクに乗るから落とさないようにカバンに片づけたのを思い出して、またパニックになる。
「虎君っ、一回出よ? 警察に電話したほうがいいよ、絶対」
恐怖に震える声は意図せず小さなものになっていた。
それに虎君は大丈夫って奥に進むことを強行しようとする。でも、本当に怖くて仕方ない僕だって必死だ。
「ヤダっ……、虎君に何かあったら、僕どうしたらいいのっ」
これ以上奥に進まないで!
そう腕を掴んで訴える僕は泣いていたかもしれない。振り返った虎君が凄く驚いた顔してたから。
「……分かった。一回家出よう」
泣かないで。って抱きしめてくれる虎君は、漸く僕の言葉を聞いてくれる。
家族が危険かもしれない。このまま家を出たら、家族とは二度と会えないかもしれない。
そんな不安を感じながらも、今の自分には危険を回避する力がないから仕方ないって言い聞かせて、僕は家族を助けるために家を出ようとした。
けど、その時……。
「何してんの?」
リビングのドアが開き、顔を見せたのは双子の片割れ、茂斗だった。
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