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特別な人
特別な人 第14話
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「何で西さん、『クビ』になったんだ?」
僕からは虎君の背中しか見えないけど、でも、声でわかる。虎君の機嫌が凄く悪いってことが。
「わかったよ。言うから放せよ。……凪、これで耳塞いどけ」
虎君に気圧されたのか、茂斗は知ってることを全部話すっていう。でも、話す前に凪ちゃんに自分の携帯とイヤフォンを渡した。
茂斗に言われるがままイヤフォンを耳に付ける凪ちゃん。茂斗はそれを確認すると携帯を操作して音楽を再生して……。
「凪ちゃんに聞かせたくない事なのか?」
「できれば葵にも聞かせたくない」
そう言って茂斗は僕に視線を向けてくる。その視線に僕は漸く我に返って「なんで?」って会話に加わった。
「胸糞わりぃから」
「えぇ? どういうこと?」
西さんを思い出してか、そう吐き捨てる茂斗。
僕は不安を覚えてしまう。
「最初は姉貴が言い出したんだ。西が変だって」
「桔梗が?」
「そ。姉貴が。あいつが洗濯の時に葵の服抱きしめてるの見たって」
茂斗が言うには、3週間前の夜、喉が渇いてリビングに降りてきた姉さんは西さんが洗濯機の前で僕の服を抱きしめて匂いを嗅いでいたところを目撃してしまったらしい。
その時、姉さんはあまりにも衝撃的な光景で逃げてしまったらしいんだけど、その日から先週までのおよそ2週間、西さんの行動に目を光らせて監視していた。
そして集めた証拠を持って陽琥さんに相談して、陽琥さんが今日、現場を押さえて父さんに報告。そのままクビになったってことだった。
「げ、現場って……?」
信じられない話で、すぐには受け入れられない。でも茂斗が僕に嘘をつくとは思えないから、ちゃんと理解しないとだめだって両足を踏ん張った。
陽琥さんが押さえた決定的証拠が何か尋ねたら、茂斗はまた僕じゃなくて虎君を見て……。
「……聞かない方がいい」
「! なんで?」
「茂斗、葵には知る権利がある」
教えてよって訴える僕と、そんな僕を後押ししてくれる虎君。
茂斗は、深いため息の後に「忠告はしたからな」って言葉を零した。
「葵の部屋でクローゼットから下着引っ張り出して匂い嗅いで抜いてたんだよ」
不快感を隠さずに吐き捨てる茂斗。僕は、「うそ……」って顔から血の気が引いていく感覚を味わった。
(に、西さんが、僕の下着で……?)
あんまり喋ったことはなかったけど、みんなのお世話を嫌な顔一つせずしてくれてた西さんの事、僕は家族みたいだって信じてた。
それなのに……。
「葵の事好きになっただけなら、親父も誰も『クビ』になんてしなかったよ。西が自分から辞めるって言わない限りな。……でも、流石にこれは放っておいたら葵の身が危ないから、出て行ってくれって親父が」
「そう、なんだ……」
僕は立ってるのがやっとで、息をするのも忘れそうだった。
そしたらそんな僕に気づいたのか虎君は僕の方に歩いてきて、そのまま僕をぎゅって抱きしめてくれた。虎君は何も言わなかったけど、大丈夫だよ。って言われてる気がした……。
「出ていけって言っただけか? 警察には突き出さなかったのか?」
「それ俺も言った。でも西の派遣先から二度と近寄らせないから警察沙汰だけは勘弁してくれって泣きつかれたんだってさ」
やってることは犯罪だぞ。って言う虎君の声はすごく低くてすごく怒ってくれてるってわかった。
「いい年した男が中学生の下着片手にオナってたなんて完全に警察事案だろうが」
「だから俺も分かってるって。……俺がその場にいたら半殺しにしてるって」
金輪際おかしな気が起こらないように潰してる。
そう言った茂斗の顔は怒ってるとかそういうのを通り越した表情で、ちょっと怖かった。
「茂斗、やめてよ。そんなことしたら茂斗が怒られちゃうよ……」
「んなヘマしねぇーよ」
茂斗の喧嘩の強さはよく知ってる。だからもし茂斗が本気で西さんに報復を考えてたら、警察沙汰になることは避けられない。
僕は、何かされたわけじゃないから大丈夫だよって茂斗の怒りを宥めようとした。本当は全然大丈夫じゃないけど……。
「ごめん、葵」
「何が……?」
「本当は親父達に口止めされたんだ。葵に西の事言うの。……葵が傷つくだけだから、西は個人的な事情で辞めたってことにしとこうって」
虎君に支えられながらなんとか立ってる僕を見て、茂斗はもう一度「本当にごめん」って謝ってきた。
「俺は葵もちゃんと知っとくべきだって思ったから喋ったんだけど、やっぱり言うべきじゃなかったな……」
胸糞悪いところは伏せておこうと思ったけど、そんなの無理な話だよな。
そう言って茂斗が見るのは何故か僕じゃなくて虎君だった。
僕からは虎君の背中しか見えないけど、でも、声でわかる。虎君の機嫌が凄く悪いってことが。
「わかったよ。言うから放せよ。……凪、これで耳塞いどけ」
虎君に気圧されたのか、茂斗は知ってることを全部話すっていう。でも、話す前に凪ちゃんに自分の携帯とイヤフォンを渡した。
茂斗に言われるがままイヤフォンを耳に付ける凪ちゃん。茂斗はそれを確認すると携帯を操作して音楽を再生して……。
「凪ちゃんに聞かせたくない事なのか?」
「できれば葵にも聞かせたくない」
そう言って茂斗は僕に視線を向けてくる。その視線に僕は漸く我に返って「なんで?」って会話に加わった。
「胸糞わりぃから」
「えぇ? どういうこと?」
西さんを思い出してか、そう吐き捨てる茂斗。
僕は不安を覚えてしまう。
「最初は姉貴が言い出したんだ。西が変だって」
「桔梗が?」
「そ。姉貴が。あいつが洗濯の時に葵の服抱きしめてるの見たって」
茂斗が言うには、3週間前の夜、喉が渇いてリビングに降りてきた姉さんは西さんが洗濯機の前で僕の服を抱きしめて匂いを嗅いでいたところを目撃してしまったらしい。
その時、姉さんはあまりにも衝撃的な光景で逃げてしまったらしいんだけど、その日から先週までのおよそ2週間、西さんの行動に目を光らせて監視していた。
そして集めた証拠を持って陽琥さんに相談して、陽琥さんが今日、現場を押さえて父さんに報告。そのままクビになったってことだった。
「げ、現場って……?」
信じられない話で、すぐには受け入れられない。でも茂斗が僕に嘘をつくとは思えないから、ちゃんと理解しないとだめだって両足を踏ん張った。
陽琥さんが押さえた決定的証拠が何か尋ねたら、茂斗はまた僕じゃなくて虎君を見て……。
「……聞かない方がいい」
「! なんで?」
「茂斗、葵には知る権利がある」
教えてよって訴える僕と、そんな僕を後押ししてくれる虎君。
茂斗は、深いため息の後に「忠告はしたからな」って言葉を零した。
「葵の部屋でクローゼットから下着引っ張り出して匂い嗅いで抜いてたんだよ」
不快感を隠さずに吐き捨てる茂斗。僕は、「うそ……」って顔から血の気が引いていく感覚を味わった。
(に、西さんが、僕の下着で……?)
あんまり喋ったことはなかったけど、みんなのお世話を嫌な顔一つせずしてくれてた西さんの事、僕は家族みたいだって信じてた。
それなのに……。
「葵の事好きになっただけなら、親父も誰も『クビ』になんてしなかったよ。西が自分から辞めるって言わない限りな。……でも、流石にこれは放っておいたら葵の身が危ないから、出て行ってくれって親父が」
「そう、なんだ……」
僕は立ってるのがやっとで、息をするのも忘れそうだった。
そしたらそんな僕に気づいたのか虎君は僕の方に歩いてきて、そのまま僕をぎゅって抱きしめてくれた。虎君は何も言わなかったけど、大丈夫だよ。って言われてる気がした……。
「出ていけって言っただけか? 警察には突き出さなかったのか?」
「それ俺も言った。でも西の派遣先から二度と近寄らせないから警察沙汰だけは勘弁してくれって泣きつかれたんだってさ」
やってることは犯罪だぞ。って言う虎君の声はすごく低くてすごく怒ってくれてるってわかった。
「いい年した男が中学生の下着片手にオナってたなんて完全に警察事案だろうが」
「だから俺も分かってるって。……俺がその場にいたら半殺しにしてるって」
金輪際おかしな気が起こらないように潰してる。
そう言った茂斗の顔は怒ってるとかそういうのを通り越した表情で、ちょっと怖かった。
「茂斗、やめてよ。そんなことしたら茂斗が怒られちゃうよ……」
「んなヘマしねぇーよ」
茂斗の喧嘩の強さはよく知ってる。だからもし茂斗が本気で西さんに報復を考えてたら、警察沙汰になることは避けられない。
僕は、何かされたわけじゃないから大丈夫だよって茂斗の怒りを宥めようとした。本当は全然大丈夫じゃないけど……。
「ごめん、葵」
「何が……?」
「本当は親父達に口止めされたんだ。葵に西の事言うの。……葵が傷つくだけだから、西は個人的な事情で辞めたってことにしとこうって」
虎君に支えられながらなんとか立ってる僕を見て、茂斗はもう一度「本当にごめん」って謝ってきた。
「俺は葵もちゃんと知っとくべきだって思ったから喋ったんだけど、やっぱり言うべきじゃなかったな……」
胸糞悪いところは伏せておこうと思ったけど、そんなの無理な話だよな。
そう言って茂斗が見るのは何故か僕じゃなくて虎君だった。
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