特別な人

鏡由良

文字の大きさ
56 / 552
特別な人

特別な人 第55話

しおりを挟む
 当時の悠栖はクライストの風習が凄く嫌で早く彼女が欲しいってずっと言ってた。でも寮と学校の往復に出会いは全くなくて、週末に街に出かけても女の子達は悠栖じゃなくて悠栖の友達に好意を持って、結果彼女ができたことは一度もなかった。
 そんな矢先に開催されたクリスマスパーティーに悠栖が飛びつかないわけもなく、マリア女学院の女の子に積極的に声を掛けて何とか恋愛に発展させようとしていた。
 見ていた僕達は、相手が好きだから恋愛するんじゃなくて彼女が欲しいから誰かと恋愛したい悠栖に正直呆れてた。だって、そんな気持ちじゃ相手に失礼だから。
 でも僕達の注意なんて聞く耳持たずに突っ走った悠栖。綺麗で可愛い見た目に少年らしさを持ち合わせた悠栖は確かにクリスマスパーティーではすっごくモテてた。
 けど、女の子といい感じになる前に親友の上野君が登場して、男らしい上野君に女の子は心変わり。それが何度も続いて怒った悠栖が故意に邪魔する理由を問い詰めたら、返ってきたのが、悠栖が好きだから邪魔したって言葉だったらしい。
「『悠栖とどうこうなりたいわけじゃないけど、本気で好きな人以外と付き合う悠栖を見たくない』だっけ?」
「え? 『誰のモノにもならないでほしい』じゃなかった?」
 慶史と朋喜が悠栖に確認するのは、上野君が告白した時に告げた想い。
 上野君は悠栖が同性の恋愛に否定的な事を知っていたから、応えて欲しいわけじゃないしギクシャクするのも嫌だから次の日には忘れて欲しいって言ってたらしい。
 それが凄く切なくて、当時話を聞いた僕は落ち込む悠栖には申し訳ないけど、上野君を応援したいって思っちゃったっけ。まぁでも悠栖は「男と恋愛なんて死んでも嫌だ!」って豪語してたし、思っただけで留めておいたけど。
 それから1年。悠栖から上野君に関する相談を受けてないから、僕達は終わった話だと思ってた。けど、それはどうやら違ったようで……。
「どっちも言われた……。てか、ヒデの奴自分で『友達でいさせてくれ』って言っといてなんなんだよ。マジで……」
「『やっぱり友達じゃ無理』って言われたの?」
「俺が気持ち知ってるのにマジ全然態度が変わらないから辛いんだってさ……」
 僕の言葉に悠栖は「そう言われた方がマシだった」って机に突っ伏す。
 告白する前と変わらない態度で上野君と遊んでた悠栖を知ってるからか、慶史は「あー……」って納得してる感じだった。
「『変えるな』って言ったのはヒデのくせに、それが理由で『もう無理』って言われた俺はどうしたらいいんだよ……」
 流石に泣きそう……。
 そう言葉を零す悠栖は、この3年間で友達を7人すべて同じ理由で失くしてる。
 みんな悠栖の人となりに惹かれて同性って分かってても好きになってくれるんだけど、悠栖に好きになってもらいたいって頑張って、頑張っても進展しない仲に心が疲れて去ってしまう。それの繰り返し。
「付き合う振りでもすりゃよかったのかなぁ……」
「! それはダメだよっ」
「そうだね。相手に失礼だよね」
 友達を失う位なら恋人ごっこに付き合ってやればよかった。って、いくら参ってるからってその言葉は聞き流せない。
 でも、僕と朋喜が注意したら、悠栖は「他に何かいい案あるのかよ……」って恨めしそうな顔を見せる。
「どうせ気の迷いとか好奇心なんだし、飽きるまで適当に付き合っとけば友達失くさずに済むじゃん……」
「相手見下しといて友達って笑えること言うよな、悠栖は」
 不貞腐れる悠栖に慶史が見せるのは満面の笑み。でもその笑顔に軽蔑が含まれてるってことは僕達には一目瞭然だった。
「な、なんだよっ……。慶史だって似たようなことしてるだろっ!」
「一緒にしないでくれる? 俺は、『本気』の相手と寝たことないしこれからも寝るつもりないから」
 誰彼構わずヤってるくせに! って悠栖が声を荒げるのは、痛いところを突かれたからなんだろうな。
 暴言を受けた慶史はそれを分かってるのか、「人の『本気』を軽く見てたらいつか周りから『本気』で相手してもらえなくなるからな」って真顔で悠栖を見据える。俺の言いたいこと分かるよね? って圧を感じたけど、それはきっと気のせいじゃない。
 現に悠栖は言葉を詰まらせて俯くと、小さな声で「ごめん……」って謝ってきた。
「分かればいいよ。まぁ悠栖がショック受けてるのは分かるし、本心じゃないってことも分かってるし」
「慶史……」
「なんだよ。あ、反省はしといてよ? 二度目があったら、今度は俺が『縁切り』するから」
「! わ、分かったっ。気を付ける」
 たとえ本心じゃなかったとしても、二度目は許さない。
 そう笑顔で圧をかける慶史だけど、慶史の気持ちは伝わったみたいで悠栖は力いっぱい頷いて気を付けるって約束してくれた。
「で、悠栖はどうすんの? 二週間後のクリスマスパーティーで今度こそ彼女作るの?」
「気分じゃねぇーよ」
 場の空気を変えてくれるのはやっぱり慶史。笑いながら悠栖に尋ねるのは、悠栖がこの1年間上野君の想いに応えれない代わりに願いをきいて恋人づくりを自粛していたから。
「縁は切られたけど、でもヒデの言ったことは正しいからな。本気で好きになれる相手は探すけど、前みたいに手あたり次第はもうしない」
「おー。進歩してるじゃん!」
 苦笑いの悠栖。そんな悠栖の頭を茶化す様に撫でる慶史。
 触れるのが嫌いな悠栖はそれに「やめろよ!」って必死の抵抗。
 僕はそんな二人を眺めながら「そんなに嫌がらなくても……」って笑う。好きな人に髪を撫でられるのは気持ちいいよ? って。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

処理中です...