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特別な人
特別な人 第63話
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男として、父親として、父さんは母さんと僕達家族を命に代えて守るって公言してる。だから家族に害をなす存在は容赦なく排除する。たとえそれが法に触れる手法であっても、命より大事な存在を守るためには手段は問わないって考えだ。
(多少なりとも情があったお手伝いさん達が相手でも結構揉めたし、見ず知らずの相手だったらどうなるか……。考えるだけで怖いや)
なるべく考えないようにしてたけど、西さんに対しても父さんは『社会的制裁』と呼べる手段を取った気がする。あくまでも僕の想像だけど、僕の父さんはそういう人だから。
だから僕が殴られるに至った経緯を知ったら、父さんは大人げないと言われようとも絶対に表に出てきちゃう。たとえ僕が自分で解決するって言っても、口では『分かった』って言いながら裏で何かしら動いてそうだし、絶対に知られるわけにはいかない。
僕は父さんに知られたくない理由を斗弛弥さんに伝える。斗弛弥さんなら分かってくれるよね? って。
「いつも『子どもの喧嘩に大人が出て来るべきじゃない』って斗弛弥さん言ってるもんね?」
「ああ。確かに言ってるな」
「でしょ? だから、父さんには『殴られた』って言わないでくださいっ……!」
お願いします! って手を合わせて必死に頼み込む僕に、斗弛弥さんは「安心しろ」って笑う。
「茂には俺からは何も言わないよ。そもそも相手は茂じゃないしな」
「え? 父さんじゃないんですか?」
父さんへの連絡だとばかり思ってた僕は斗弛弥さんの返答に驚いてしまう。父さんじゃないなら誰に連絡してるですか? って聞いちゃうのは至極当然の流れ。
「相手と送った内容だ」
「見ていいんですか?」
「知らないと困るだろう?」
渡される携帯。斗弛弥さんはその画面以外は見るなよって冗談交じりで釘を刺してくる。そんなことしませんっ! って反応しながらも受け取った携帯に視線を落とせば、そこに見えたのは『絃凉Jr.』の文字。
(『絃凉』って……虎君のお父さんの名前だよね? ジュニアってことは、虎君、のこと、だよね?)
「相手、虎君だったんですか?」
「見ての通りだ」
なんで確認してくるんだって言いたげな斗弛弥さん。絃凉の子供はあいつだけだろうが。って。
(それを確認したわけじゃないんだけどな……)
『虎君ですよね?』って意味で聞いたわけじゃないんだけど、斗弛弥さんは分かってないみたいだからまぁいいや。
斗弛弥さんは昔、医者になる前に虎君のお父さんとバンドを組んでたらしい。でも研修医になって忙しくなったから音楽を続けられなくなって、斗弛弥さんの代わりにメンバーになったのが虎君のお母さんの弓さん。
その後バンドはメジャーデビューして今や世界でも活躍する人気ミュージシャンになったわけだけど、斗弛弥さんと絃凉さん、弓さんは今も交流があって、斗弛弥さんには家族ぐるみでお世話になってるって虎君が言ってた。
だから、斗弛弥さんが虎君とこうやって連絡を取ってることは全然変じゃないし、本当に仲良しなんだぁって思うぐらい。
僕が不思議に思ったのは、どうして虎君に僕の状態を報告してるのかってところ。普通こういう時って親に連絡するよね?
(まぁ連絡されたら困るしいいんだけど)
おかげで父さんに知られなかったわけだし、あまり深く考えないでおこう。
僕は一人納得して再び斗弛弥さんの携帯に視線を落とした。虎君になんて送ったのかな? って思って。
でも、そこで目にした文面に僕は弾かれた様に顔を上げると斗弛弥さんに「これ送っちゃったんですか!?」って声を上げていた。
「ああ。送信済みだ」
「そんなっ……、全部書いてるじゃないですかっ!!」
「なんだ、不味かったか?」
どうしよう……って狼狽える僕に斗弛弥さんは隠す気だったのかと尋ねてくる。顔に青あざ咲かせてどうやって秘密にする気なんだ? って。
それに僕は声を小さく誤魔化すために考えてた『青あざの理由』を口にした。
「か、『階段から落ちた』って……」
「雑な嘘だな。階段から落ちたらその程度じゃ済まないし、流石の虎も騙されてはくれないだろうな」
いつもなら分かってても騙されてくれる虎も今回ばかりは流石に追及してくると思うぞ。
僕の精一杯の嘘に笑いながら斗弛弥さんは「反応が気になるからそのまま言ってみろ」って言ってくる。案外騙されてくれるかもしれないぞ? って、絶対思ってないよね? だって完全に楽しんでるって顔だもん。
斗弛弥さんがそんな風に言ってるのに『階段から落ちた』なんて言えるわけがない。
僕はもう一度斗弛弥さんの携帯に視線を落として、虎君に送信されたメッセージを読み返す。
(『怪我した』でいいのになんで『殴られた』とか『吐いた』とか書いちゃうのかな、斗弛弥さんは。これじゃ虎君にまた心配かけちゃうじゃない)
おかげで『手のかかる弟』ポジションは当分返上できそうになくて、ちょっと悲しくなる。僕も虎君に頼られる存在になりたいのに……。って。
沈む気持ちで携帯の画面を眺めていたら、斗弛弥さんが虎君に送ったメッセージに『既読』マークがついた。一瞬、虎君が見る前にメッセージを削除したら問題解決では? って思ったけど、既に『既読』マークがついてしまって手遅れだし、青あざは消えてくれないしで、無駄なあがきだった。
そんな事を考えながらぼんやり携帯を見ていたら、突然ディスプレイが切り替わった。
「! 斗弛弥さん、虎君から電話!」
突然震える携帯にびっくりしながらも斗弛弥さんにそれを差し出せば、斗弛弥さんは「思ったより早いな」って笑いながら携帯を受け取って電話に出た。
(多少なりとも情があったお手伝いさん達が相手でも結構揉めたし、見ず知らずの相手だったらどうなるか……。考えるだけで怖いや)
なるべく考えないようにしてたけど、西さんに対しても父さんは『社会的制裁』と呼べる手段を取った気がする。あくまでも僕の想像だけど、僕の父さんはそういう人だから。
だから僕が殴られるに至った経緯を知ったら、父さんは大人げないと言われようとも絶対に表に出てきちゃう。たとえ僕が自分で解決するって言っても、口では『分かった』って言いながら裏で何かしら動いてそうだし、絶対に知られるわけにはいかない。
僕は父さんに知られたくない理由を斗弛弥さんに伝える。斗弛弥さんなら分かってくれるよね? って。
「いつも『子どもの喧嘩に大人が出て来るべきじゃない』って斗弛弥さん言ってるもんね?」
「ああ。確かに言ってるな」
「でしょ? だから、父さんには『殴られた』って言わないでくださいっ……!」
お願いします! って手を合わせて必死に頼み込む僕に、斗弛弥さんは「安心しろ」って笑う。
「茂には俺からは何も言わないよ。そもそも相手は茂じゃないしな」
「え? 父さんじゃないんですか?」
父さんへの連絡だとばかり思ってた僕は斗弛弥さんの返答に驚いてしまう。父さんじゃないなら誰に連絡してるですか? って聞いちゃうのは至極当然の流れ。
「相手と送った内容だ」
「見ていいんですか?」
「知らないと困るだろう?」
渡される携帯。斗弛弥さんはその画面以外は見るなよって冗談交じりで釘を刺してくる。そんなことしませんっ! って反応しながらも受け取った携帯に視線を落とせば、そこに見えたのは『絃凉Jr.』の文字。
(『絃凉』って……虎君のお父さんの名前だよね? ジュニアってことは、虎君、のこと、だよね?)
「相手、虎君だったんですか?」
「見ての通りだ」
なんで確認してくるんだって言いたげな斗弛弥さん。絃凉の子供はあいつだけだろうが。って。
(それを確認したわけじゃないんだけどな……)
『虎君ですよね?』って意味で聞いたわけじゃないんだけど、斗弛弥さんは分かってないみたいだからまぁいいや。
斗弛弥さんは昔、医者になる前に虎君のお父さんとバンドを組んでたらしい。でも研修医になって忙しくなったから音楽を続けられなくなって、斗弛弥さんの代わりにメンバーになったのが虎君のお母さんの弓さん。
その後バンドはメジャーデビューして今や世界でも活躍する人気ミュージシャンになったわけだけど、斗弛弥さんと絃凉さん、弓さんは今も交流があって、斗弛弥さんには家族ぐるみでお世話になってるって虎君が言ってた。
だから、斗弛弥さんが虎君とこうやって連絡を取ってることは全然変じゃないし、本当に仲良しなんだぁって思うぐらい。
僕が不思議に思ったのは、どうして虎君に僕の状態を報告してるのかってところ。普通こういう時って親に連絡するよね?
(まぁ連絡されたら困るしいいんだけど)
おかげで父さんに知られなかったわけだし、あまり深く考えないでおこう。
僕は一人納得して再び斗弛弥さんの携帯に視線を落とした。虎君になんて送ったのかな? って思って。
でも、そこで目にした文面に僕は弾かれた様に顔を上げると斗弛弥さんに「これ送っちゃったんですか!?」って声を上げていた。
「ああ。送信済みだ」
「そんなっ……、全部書いてるじゃないですかっ!!」
「なんだ、不味かったか?」
どうしよう……って狼狽える僕に斗弛弥さんは隠す気だったのかと尋ねてくる。顔に青あざ咲かせてどうやって秘密にする気なんだ? って。
それに僕は声を小さく誤魔化すために考えてた『青あざの理由』を口にした。
「か、『階段から落ちた』って……」
「雑な嘘だな。階段から落ちたらその程度じゃ済まないし、流石の虎も騙されてはくれないだろうな」
いつもなら分かってても騙されてくれる虎も今回ばかりは流石に追及してくると思うぞ。
僕の精一杯の嘘に笑いながら斗弛弥さんは「反応が気になるからそのまま言ってみろ」って言ってくる。案外騙されてくれるかもしれないぞ? って、絶対思ってないよね? だって完全に楽しんでるって顔だもん。
斗弛弥さんがそんな風に言ってるのに『階段から落ちた』なんて言えるわけがない。
僕はもう一度斗弛弥さんの携帯に視線を落として、虎君に送信されたメッセージを読み返す。
(『怪我した』でいいのになんで『殴られた』とか『吐いた』とか書いちゃうのかな、斗弛弥さんは。これじゃ虎君にまた心配かけちゃうじゃない)
おかげで『手のかかる弟』ポジションは当分返上できそうになくて、ちょっと悲しくなる。僕も虎君に頼られる存在になりたいのに……。って。
沈む気持ちで携帯の画面を眺めていたら、斗弛弥さんが虎君に送ったメッセージに『既読』マークがついた。一瞬、虎君が見る前にメッセージを削除したら問題解決では? って思ったけど、既に『既読』マークがついてしまって手遅れだし、青あざは消えてくれないしで、無駄なあがきだった。
そんな事を考えながらぼんやり携帯を見ていたら、突然ディスプレイが切り替わった。
「! 斗弛弥さん、虎君から電話!」
突然震える携帯にびっくりしながらも斗弛弥さんにそれを差し出せば、斗弛弥さんは「思ったより早いな」って笑いながら携帯を受け取って電話に出た。
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