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特別な人
特別な人 第74話
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「……二人の世界って感じね」
じゃれてる僕達に向けられる母さんの視線。何? って振り返ったら母さんは虎君を指さして、
「葵は私の息子なんだからね!」
って分かり切ってることを口にする。
(何当たり前の事言ってるんだろ、母さんってば)
意味不明な母さんの行動に僕は思わず首を傾げてしまう。
すると虎君は「分かってますよ」って苦笑しながらも僕の背を押してくる。これは『部屋に行こう』ってことかな?
きっと虎君も母さんの言動が理解できないに違いない。だからこれ以上絡まれる前に部屋に避難したいんだろうな。
虎君の気持ちを汲み取った僕は、一応体調不良で早退したから部屋で休むねって母さんに伝える。心配性の母さんは僕の言葉に過敏な反応をするんだけど、平気だからって言って虎君の腕を引くと足早にその場を後にした。
「葵! まだ話は終わってないでしょ!」
「父さんが帰ってきたらまた話するんでしょ? その時にちゃんと話すから!」
逃げる様に歩く僕を引き留める声。でも、楽しくない話を何度もするのは嫌だから母さんの声を無視した。
追いかけてこられたら面倒だからと階段を急いで登る僕。と、そこまで黙って手を引かれていた虎君がストップをかけてくる。
「何?」
「樹里斗さんなら追いかけ来てないから大丈夫だよ。だから、ゆっくり歩いて?」
そう仕向けたのは俺だけど、ちょっと樹里斗さんが可哀想になった。
虎君の笑い声に、僕は「だって……!」と振り返る。流石に強引だと思ったけど、でもあれぐらいしないと逃げれなかったんだもん! って。
「うん。分かってる。……ありがとな」
心配してくれてる母さんに対する態度じゃないってことは分かってるけど、でも……!
そう訴える僕に、虎君は目尻を下げて笑う。
階段の段差のおかげでいつもと違う目線。見上げないと見ることができないはずの虎君の笑い顔が目の前にあって、ちょっとだけドキドキした。
(やっぱり虎君ってかっこいいなぁ……)
こうやって見ると改めて思う。虎君はやっぱりカッコいい。って。
見た目は勿論、性格もカッコいい。本当、男として憧れずにはいられない。
「葵? 顔赤いぞ?」
「そ、そう? 暑いからかな?!」
今日暑いよね?! ってまくしたてる僕に、虎君は「そうか?」ってびっくりした顔をする。でも、そのびっくりした顔はすぐに心配そうなものに変わって、僕の額に手が伸びてきた。
ひんやりとした虎君の手は前髪をかき上げて僕の額に触れる。
「熱はないみたいだな……」
「と、虎君……?」
「ああ、ごめんごめん。殴られたせいで熱が出たのかと思った」
虎君の話では殴り合いの喧嘩をすると殴られた患部が熱を帯びて発熱することがあるらしい。初めて知った事実に、僕は素直に驚いた。
「虎君って物知りだよね」
「そうか?」
「そうだよ。僕の知らない事いっぱい知ってるもん」
自分が無知なのは分かってるけど、それを差し引いても物知りだと思う。
博学を凄い凄いって褒め称えたら、虎君からもらうのは『褒め過ぎ』って苦笑い。
「まぁこれでも一応大学生だからな。伊達に5年も年喰ってないよ」
「でも僕、5年後に虎君みたいになれるとは思えないんだけど」
虎君はこの程度で博学と言われたら恥ずかしいって笑う。僕も後5年したらこれぐらい普通だって思うよって。
けど僕はその言葉を素直に受け取れない。だって、5年経とうが10年経とうが僕が虎君みたいになれるとは思えないから。
「はは。そこまで言ってくれるなら、これからも頑張るよ」
「? 何を?」
「んー、葵の期待を裏切らない努力を、かな?」
ポンって頭の上に乗る大きな手。笑顔の虎君は「自慢の『兄貴』でいたいから」って目を細める。
(! もう! 虎君って本当に、もう!)
努力しなくても充分自慢の『お兄ちゃん』なんですけど!
でもきっと虎君はそれを伝えたらこう言うんだろうな。
『今以上に最高の兄貴になりたいよ』
こんな言葉を虎君に言われたら、流石に僕も平静を保つ自信がない。
だから言いたい言葉を飲み込んで、この想いが伝わりますようにって願いを込めて笑うんだ。
じゃれてる僕達に向けられる母さんの視線。何? って振り返ったら母さんは虎君を指さして、
「葵は私の息子なんだからね!」
って分かり切ってることを口にする。
(何当たり前の事言ってるんだろ、母さんってば)
意味不明な母さんの行動に僕は思わず首を傾げてしまう。
すると虎君は「分かってますよ」って苦笑しながらも僕の背を押してくる。これは『部屋に行こう』ってことかな?
きっと虎君も母さんの言動が理解できないに違いない。だからこれ以上絡まれる前に部屋に避難したいんだろうな。
虎君の気持ちを汲み取った僕は、一応体調不良で早退したから部屋で休むねって母さんに伝える。心配性の母さんは僕の言葉に過敏な反応をするんだけど、平気だからって言って虎君の腕を引くと足早にその場を後にした。
「葵! まだ話は終わってないでしょ!」
「父さんが帰ってきたらまた話するんでしょ? その時にちゃんと話すから!」
逃げる様に歩く僕を引き留める声。でも、楽しくない話を何度もするのは嫌だから母さんの声を無視した。
追いかけてこられたら面倒だからと階段を急いで登る僕。と、そこまで黙って手を引かれていた虎君がストップをかけてくる。
「何?」
「樹里斗さんなら追いかけ来てないから大丈夫だよ。だから、ゆっくり歩いて?」
そう仕向けたのは俺だけど、ちょっと樹里斗さんが可哀想になった。
虎君の笑い声に、僕は「だって……!」と振り返る。流石に強引だと思ったけど、でもあれぐらいしないと逃げれなかったんだもん! って。
「うん。分かってる。……ありがとな」
心配してくれてる母さんに対する態度じゃないってことは分かってるけど、でも……!
そう訴える僕に、虎君は目尻を下げて笑う。
階段の段差のおかげでいつもと違う目線。見上げないと見ることができないはずの虎君の笑い顔が目の前にあって、ちょっとだけドキドキした。
(やっぱり虎君ってかっこいいなぁ……)
こうやって見ると改めて思う。虎君はやっぱりカッコいい。って。
見た目は勿論、性格もカッコいい。本当、男として憧れずにはいられない。
「葵? 顔赤いぞ?」
「そ、そう? 暑いからかな?!」
今日暑いよね?! ってまくしたてる僕に、虎君は「そうか?」ってびっくりした顔をする。でも、そのびっくりした顔はすぐに心配そうなものに変わって、僕の額に手が伸びてきた。
ひんやりとした虎君の手は前髪をかき上げて僕の額に触れる。
「熱はないみたいだな……」
「と、虎君……?」
「ああ、ごめんごめん。殴られたせいで熱が出たのかと思った」
虎君の話では殴り合いの喧嘩をすると殴られた患部が熱を帯びて発熱することがあるらしい。初めて知った事実に、僕は素直に驚いた。
「虎君って物知りだよね」
「そうか?」
「そうだよ。僕の知らない事いっぱい知ってるもん」
自分が無知なのは分かってるけど、それを差し引いても物知りだと思う。
博学を凄い凄いって褒め称えたら、虎君からもらうのは『褒め過ぎ』って苦笑い。
「まぁこれでも一応大学生だからな。伊達に5年も年喰ってないよ」
「でも僕、5年後に虎君みたいになれるとは思えないんだけど」
虎君はこの程度で博学と言われたら恥ずかしいって笑う。僕も後5年したらこれぐらい普通だって思うよって。
けど僕はその言葉を素直に受け取れない。だって、5年経とうが10年経とうが僕が虎君みたいになれるとは思えないから。
「はは。そこまで言ってくれるなら、これからも頑張るよ」
「? 何を?」
「んー、葵の期待を裏切らない努力を、かな?」
ポンって頭の上に乗る大きな手。笑顔の虎君は「自慢の『兄貴』でいたいから」って目を細める。
(! もう! 虎君って本当に、もう!)
努力しなくても充分自慢の『お兄ちゃん』なんですけど!
でもきっと虎君はそれを伝えたらこう言うんだろうな。
『今以上に最高の兄貴になりたいよ』
こんな言葉を虎君に言われたら、流石に僕も平静を保つ自信がない。
だから言いたい言葉を飲み込んで、この想いが伝わりますようにって願いを込めて笑うんだ。
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