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特別な人
特別な人 第73話
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家に着いたら予想通り、顔を真っ青にした母さんが抱き着いてきた。
母さんはまずガーゼで覆われた僕の頬っぺたを包み込んで痛くないか尋ねてきて、僕が返事をするより先に何もされなかったかと身体の心配をしてきた。
「大丈夫なの? 本当に何もされてない? 殴られただけ?」
「か、母さん、落ち着いて」
「落ち着けるわけないでしょ!? 斗弛弥さんから連絡貰ってどれだけ心配したと思ってるの!!」
顔を身体を確認する母さん。そのか細い腕の何処にそんな力があるのか聞きたくなるぐらい左に右に首を傾けられ、クルクル身体を回され、僕は目が回るから止めてって訴える。
でも母さんは僕の声を「我慢しなさい!」って一蹴すると足をチェックするように制服のズボンを捲り上げてきて……。
「ちょ、母さん! 大丈夫だってば!」
「樹里斗さん、葵の怪我は頬だけですよ。それ以外は無事ですから……」
このままだとズボンを脱がされそうな勢い。いくら親子でもそれは恥ずかしいと騒ぐ僕。
それに背後で静観してた虎君も助け舟とばかりに母さんを止めてくれて、漸く母さんの追及の手が止まった。でもまぁ恨めしそうな顔で見上げてくるから納得はしてないんだろうけど。
「と、斗弛弥さんから聞いたんでしょ? 確かに色々危ないところだったけど、僕が殴られて丸く納まったから、ね?」
「聞いたけど、でも心配するのは当然でしょ? 葵は父さんと母さんの大事な大事な子供なのよ?」
連絡を受けた時に経緯は聞いたから頬の怪我以外無事だったことは分かってる。でも、それでも心配するのが親と言うもの。
そう言って僕を見上げる母さんの視線はまっすぐで、僕はそれを受け止めながらももう一度「ありがとう。でも、大丈夫だよ」って笑った。
漸く納得したのか、母さんは僕を抱きしめると、心の底から安堵した声で無事でよかったって言葉を零す。
「……、! 母さん、痛い! 痛いよ!?」
「! ごめんっ、つい力が入っちゃった」
母さんが納得するまで我慢してようと思ったけど、何故か徐々に力が込められて、痛い。
なんで?! って思いながらも痛みを訴えたら、我に返った母さんはパッと手を放してくれた。痛みから解放された僕はまた抱きしめられたくないと虎君の後ろに避難してしまう。
「何で逃げるのよ」
「痛いからに決まってるでしょ!」
虎君をはさんで問答を繰り返す僕と母さん。逃げるなんて酷いって言う母さんだけど、今日はもう痛い思いをしたくない僕は虎君を盾に絶対に出て行かないからって母さんを睨む。
「虎っ! 退きなさい!」
「虎君、ダメ!! 絶対退かないでね!?」
「ちょ、樹里斗さん落ち着いてください。ってか、葵も俺を盾にするなよ」
振り返ってこういう巻き込み方するなって言ってくる虎君は、迫ってくる母さんにたじたじ。
いつも落ち着いてる虎君らしくないその姿に、僕は思わず声をだして笑ってしまう。
「あはは! 虎君可愛い!」
「! 俺は退いてもいいんだぞ?」
「ダメ! それは絶対ダメ!」
笑ったのがダメだったのか、『可愛い』って言ったのがダメだったのか、虎君は僕を睨んで脅してくる。
でもその頬がちょっぴり赤かったから、全然怖くない。けど、へそを曲げた虎君に退かれたら困るから、僕は怒らないでって謝って。
「顔が笑ってるぞ」
「笑ってないよ? 全然笑ってないよ?」
「いや、めちゃくちゃ笑ってるからな?」
疑いの眼差しに僕は「だって」と苦笑いを浮かべて、
「慌ててる虎君って凄く珍しいから……」
ついつい白状してしまう。
当然、虎君はそんな僕に「まーもーるー」って僕の頬っぺたを抓ってくるんだけど。
(全然痛くないんだもんなぁ……)
ガーゼに覆われてる頬っぺたは勿論抓られてないし、抓られてる方の頬っぺたも全然痛くない。本当、虎君って僕に甘いんだから。
「年上をからかうなって昨日も言っただろう?」
「分かってる。虎君、ごめんね?」
素直に謝れば、解放される頬っぺた。虎君は自分で抓っておきながらもその頬を指の背でなぞると、痛くないか聞いてくる。
その表情は何処か心配そうで、改めて大事にされてるって感じた。
「全然平気!」
虎君の腕にしがみついて笑えば、安心した笑顔が返ってきて嬉しい。
「本当、葵は虎に懐いてるんだから」
僕達のやり取りに母さんが漏らすのは苦笑い。こうしてみると本当の兄弟みたいね。って。
その言葉に僕は虎君を見て、虎君は僕を見て、笑う。
「本当の兄弟よりもずっとずっと兄弟だよね?」
「言いたいことは分かるけど、言葉にすると意味不明だな」
僕の難解な日本語に笑いながらも虎君は僕の頭を撫でて「可愛い弟だよ」って言ってくれる。
母さんはまずガーゼで覆われた僕の頬っぺたを包み込んで痛くないか尋ねてきて、僕が返事をするより先に何もされなかったかと身体の心配をしてきた。
「大丈夫なの? 本当に何もされてない? 殴られただけ?」
「か、母さん、落ち着いて」
「落ち着けるわけないでしょ!? 斗弛弥さんから連絡貰ってどれだけ心配したと思ってるの!!」
顔を身体を確認する母さん。そのか細い腕の何処にそんな力があるのか聞きたくなるぐらい左に右に首を傾けられ、クルクル身体を回され、僕は目が回るから止めてって訴える。
でも母さんは僕の声を「我慢しなさい!」って一蹴すると足をチェックするように制服のズボンを捲り上げてきて……。
「ちょ、母さん! 大丈夫だってば!」
「樹里斗さん、葵の怪我は頬だけですよ。それ以外は無事ですから……」
このままだとズボンを脱がされそうな勢い。いくら親子でもそれは恥ずかしいと騒ぐ僕。
それに背後で静観してた虎君も助け舟とばかりに母さんを止めてくれて、漸く母さんの追及の手が止まった。でもまぁ恨めしそうな顔で見上げてくるから納得はしてないんだろうけど。
「と、斗弛弥さんから聞いたんでしょ? 確かに色々危ないところだったけど、僕が殴られて丸く納まったから、ね?」
「聞いたけど、でも心配するのは当然でしょ? 葵は父さんと母さんの大事な大事な子供なのよ?」
連絡を受けた時に経緯は聞いたから頬の怪我以外無事だったことは分かってる。でも、それでも心配するのが親と言うもの。
そう言って僕を見上げる母さんの視線はまっすぐで、僕はそれを受け止めながらももう一度「ありがとう。でも、大丈夫だよ」って笑った。
漸く納得したのか、母さんは僕を抱きしめると、心の底から安堵した声で無事でよかったって言葉を零す。
「……、! 母さん、痛い! 痛いよ!?」
「! ごめんっ、つい力が入っちゃった」
母さんが納得するまで我慢してようと思ったけど、何故か徐々に力が込められて、痛い。
なんで?! って思いながらも痛みを訴えたら、我に返った母さんはパッと手を放してくれた。痛みから解放された僕はまた抱きしめられたくないと虎君の後ろに避難してしまう。
「何で逃げるのよ」
「痛いからに決まってるでしょ!」
虎君をはさんで問答を繰り返す僕と母さん。逃げるなんて酷いって言う母さんだけど、今日はもう痛い思いをしたくない僕は虎君を盾に絶対に出て行かないからって母さんを睨む。
「虎っ! 退きなさい!」
「虎君、ダメ!! 絶対退かないでね!?」
「ちょ、樹里斗さん落ち着いてください。ってか、葵も俺を盾にするなよ」
振り返ってこういう巻き込み方するなって言ってくる虎君は、迫ってくる母さんにたじたじ。
いつも落ち着いてる虎君らしくないその姿に、僕は思わず声をだして笑ってしまう。
「あはは! 虎君可愛い!」
「! 俺は退いてもいいんだぞ?」
「ダメ! それは絶対ダメ!」
笑ったのがダメだったのか、『可愛い』って言ったのがダメだったのか、虎君は僕を睨んで脅してくる。
でもその頬がちょっぴり赤かったから、全然怖くない。けど、へそを曲げた虎君に退かれたら困るから、僕は怒らないでって謝って。
「顔が笑ってるぞ」
「笑ってないよ? 全然笑ってないよ?」
「いや、めちゃくちゃ笑ってるからな?」
疑いの眼差しに僕は「だって」と苦笑いを浮かべて、
「慌ててる虎君って凄く珍しいから……」
ついつい白状してしまう。
当然、虎君はそんな僕に「まーもーるー」って僕の頬っぺたを抓ってくるんだけど。
(全然痛くないんだもんなぁ……)
ガーゼに覆われてる頬っぺたは勿論抓られてないし、抓られてる方の頬っぺたも全然痛くない。本当、虎君って僕に甘いんだから。
「年上をからかうなって昨日も言っただろう?」
「分かってる。虎君、ごめんね?」
素直に謝れば、解放される頬っぺた。虎君は自分で抓っておきながらもその頬を指の背でなぞると、痛くないか聞いてくる。
その表情は何処か心配そうで、改めて大事にされてるって感じた。
「全然平気!」
虎君の腕にしがみついて笑えば、安心した笑顔が返ってきて嬉しい。
「本当、葵は虎に懐いてるんだから」
僕達のやり取りに母さんが漏らすのは苦笑い。こうしてみると本当の兄弟みたいね。って。
その言葉に僕は虎君を見て、虎君は僕を見て、笑う。
「本当の兄弟よりもずっとずっと兄弟だよね?」
「言いたいことは分かるけど、言葉にすると意味不明だな」
僕の難解な日本語に笑いながらも虎君は僕の頭を撫でて「可愛い弟だよ」って言ってくれる。
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