73 / 552
特別な人
特別な人 第72話
しおりを挟む
「そんなに驚くことか? いつもしてるだろ?」
「そ、そうだけどっ! そう、だけど……」
自分でも過剰反応してるって分かってる。だから虎君がこうやってからかってくることも納得できる。
でも、分かってても心臓は全然落ち着いてくれない。
「なんか、いつもと違うって言うか……」
口ごもりながらもいつもと同じだけどいつもと違うって訴えたら、虎君は「まぁいつもは葵からだもんな」っていつもと違う理由を教えてくれた。
「! 本当だ!」
「なんだ、気づいてなかったのか?」
思い返せば虎君からキスを貰う時はその前に必ず僕からキスを贈っていた。こうやって虎君からっていうのは本当の本当に初めてだった。
どうやら僕は無意識のうちにそれを感じ取っていたみたい。
そう、このドキドキは初めてもらった虎君からのキスにびっくりしただけ。
「そっか。そっかそっか! なんだ! 納得した!」
「何が?」
「んーん、なんでもない!」
ドキドキの理由が分かって、安心。
笑う僕に虎君は気になるって言うんだけど、深くは追及してこなかった。
運転席に座り直すと虎君はシートベルトをしてギアに手を添える。僕の『納得』の意味を聞きたいけど、そろそろ帰らないといけないからってことみたい。
「あんまり遅くなったら樹里斗さんも心配だろうしな」
「かなぁ……? 斗弛弥さん、喋っちゃったしなぁ……」
帰ったら顔面蒼白な母さんが駆け寄ってくるのが目に浮かぶ。
ゆっくりと走り出す車に揺られながらも僕はため息交じりに「だから黙っててほしかったのに」って唇を尖らせた。
すると虎君はハンドルを切りながらもそんな僕を柔らかい言葉ながらも窘めてくる。黙ってようとしちゃダメだろ。って。
「えぇ? なんで? 心配かけるだけだよ?」
「んー。葵はよく『心配かけたくない』って言うけど、心配かけるのってそんなにダメな事かな?」
心配かけるだけだから知られたくなかったって言う僕だけど、虎君はそれは悪い事じゃないって言う。大切な人であればある程、心配させて欲しいと人は思うから。って……。
その言葉に僕はそういうものなの? って聞いてしまう。僕にはまだその想いが分からないから。
「そうだな。……少なくとも俺は心配させて欲しいって思うよ。どんな些細な事でもいいからちゃんと教えて欲しいって思う」
「『どんな些細な事でも』?」
「ああ。その日一日、何をして何を感じたか、誰とどんな言葉を交わしたか、俺は知りたいよ」
穏やかな虎君の声は、続く。それを言うとストーカーみたいだからあんまり言わないようにしてるけどね。って。
僕はその言葉に少し考えて、ふと浮かんだ疑問に悪戯心が顔を出す。
(虎君がそんな風に心配する相手ってまだ僕だよね?)
なんとなく、虎君に好きな人がいることには気づいてる。でも、それでも虎君はこうやって僕を優先してくれる。
だから今はまだ『好きな人』よりも『僕』の事を心配してくれてる気がした。
「ねぇ、虎君」
「なんだ?」
「僕の事、知りたい?」
この言葉に虎君はどんな反応をするかな? って好奇心が抑えられない。
身を乗り出して虎君を見れば、虎君は前を見たまま口角を持ち上げて笑みを浮かべた。
「ああ、知りたいよ。……葵が学校で何をしてたか、昼休みに誰と喋って、何を聞いて笑ったか、全部知りたいよ」
「ほ、本当に?」
穏やかな声色に、なんだか身体がムズムズする。こんなにソワソワして落ち着かない気持ちは遠足が待ち遠しくて眠れなかった初等部の頃以来かも。
虎君をほんのちょっとからかうだけのつもりが、何故か僕が動揺しちゃう。でも変に思われたくないから声を上擦らせながらも続きを促せば、今度は虎君が悪戯に笑った。
「もちろん。何回トイレに行ったとかもちゃんと教えてくれよ?」
「! 虎君!!」
緩やかなカーブに合わせてハンドルを回す虎君の声は楽し気なもので、からかわれたってすぐに気づいた。
僕は「酷い!」って声を上げるんだけど、どっちが酷いんだって虎君には返されてしまった。
「可愛いこと聞いてきたかと思えば、俺の反応が見たかっただけなんだろ?」
「そ、そんなことないし!」
声を出して笑う虎君は本当に楽しそう。一方、行動を見透かされた僕は、恥ずかしくて堪らなかった。
「……なんで分かったの?」
「そりゃ他でもない葵のことだからな。自慢じゃないけど、葵のことならなんでも分かるぞ?」
だから悪いことは言わないから俺に嘘を吐いたり隠し事はしない事だな。
そんな言葉を続ける虎君はなおも笑ってる。
「そ、そうだけどっ! そう、だけど……」
自分でも過剰反応してるって分かってる。だから虎君がこうやってからかってくることも納得できる。
でも、分かってても心臓は全然落ち着いてくれない。
「なんか、いつもと違うって言うか……」
口ごもりながらもいつもと同じだけどいつもと違うって訴えたら、虎君は「まぁいつもは葵からだもんな」っていつもと違う理由を教えてくれた。
「! 本当だ!」
「なんだ、気づいてなかったのか?」
思い返せば虎君からキスを貰う時はその前に必ず僕からキスを贈っていた。こうやって虎君からっていうのは本当の本当に初めてだった。
どうやら僕は無意識のうちにそれを感じ取っていたみたい。
そう、このドキドキは初めてもらった虎君からのキスにびっくりしただけ。
「そっか。そっかそっか! なんだ! 納得した!」
「何が?」
「んーん、なんでもない!」
ドキドキの理由が分かって、安心。
笑う僕に虎君は気になるって言うんだけど、深くは追及してこなかった。
運転席に座り直すと虎君はシートベルトをしてギアに手を添える。僕の『納得』の意味を聞きたいけど、そろそろ帰らないといけないからってことみたい。
「あんまり遅くなったら樹里斗さんも心配だろうしな」
「かなぁ……? 斗弛弥さん、喋っちゃったしなぁ……」
帰ったら顔面蒼白な母さんが駆け寄ってくるのが目に浮かぶ。
ゆっくりと走り出す車に揺られながらも僕はため息交じりに「だから黙っててほしかったのに」って唇を尖らせた。
すると虎君はハンドルを切りながらもそんな僕を柔らかい言葉ながらも窘めてくる。黙ってようとしちゃダメだろ。って。
「えぇ? なんで? 心配かけるだけだよ?」
「んー。葵はよく『心配かけたくない』って言うけど、心配かけるのってそんなにダメな事かな?」
心配かけるだけだから知られたくなかったって言う僕だけど、虎君はそれは悪い事じゃないって言う。大切な人であればある程、心配させて欲しいと人は思うから。って……。
その言葉に僕はそういうものなの? って聞いてしまう。僕にはまだその想いが分からないから。
「そうだな。……少なくとも俺は心配させて欲しいって思うよ。どんな些細な事でもいいからちゃんと教えて欲しいって思う」
「『どんな些細な事でも』?」
「ああ。その日一日、何をして何を感じたか、誰とどんな言葉を交わしたか、俺は知りたいよ」
穏やかな虎君の声は、続く。それを言うとストーカーみたいだからあんまり言わないようにしてるけどね。って。
僕はその言葉に少し考えて、ふと浮かんだ疑問に悪戯心が顔を出す。
(虎君がそんな風に心配する相手ってまだ僕だよね?)
なんとなく、虎君に好きな人がいることには気づいてる。でも、それでも虎君はこうやって僕を優先してくれる。
だから今はまだ『好きな人』よりも『僕』の事を心配してくれてる気がした。
「ねぇ、虎君」
「なんだ?」
「僕の事、知りたい?」
この言葉に虎君はどんな反応をするかな? って好奇心が抑えられない。
身を乗り出して虎君を見れば、虎君は前を見たまま口角を持ち上げて笑みを浮かべた。
「ああ、知りたいよ。……葵が学校で何をしてたか、昼休みに誰と喋って、何を聞いて笑ったか、全部知りたいよ」
「ほ、本当に?」
穏やかな声色に、なんだか身体がムズムズする。こんなにソワソワして落ち着かない気持ちは遠足が待ち遠しくて眠れなかった初等部の頃以来かも。
虎君をほんのちょっとからかうだけのつもりが、何故か僕が動揺しちゃう。でも変に思われたくないから声を上擦らせながらも続きを促せば、今度は虎君が悪戯に笑った。
「もちろん。何回トイレに行ったとかもちゃんと教えてくれよ?」
「! 虎君!!」
緩やかなカーブに合わせてハンドルを回す虎君の声は楽し気なもので、からかわれたってすぐに気づいた。
僕は「酷い!」って声を上げるんだけど、どっちが酷いんだって虎君には返されてしまった。
「可愛いこと聞いてきたかと思えば、俺の反応が見たかっただけなんだろ?」
「そ、そんなことないし!」
声を出して笑う虎君は本当に楽しそう。一方、行動を見透かされた僕は、恥ずかしくて堪らなかった。
「……なんで分かったの?」
「そりゃ他でもない葵のことだからな。自慢じゃないけど、葵のことならなんでも分かるぞ?」
だから悪いことは言わないから俺に嘘を吐いたり隠し事はしない事だな。
そんな言葉を続ける虎君はなおも笑ってる。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる