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特別な人
特別な人 第71話
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好きな人ができたら、その人と一緒に居たいと思うもの。だから僕に好きな人ができたら、きっと僕はその人と過ごす時間を大事にするだろう。
それはとてもいいことだし、幸せなこと。『兄』としてそれを祝福するのは当然だと思ってる。でも、それでも……。
「俺にとって葵の代わりになる存在なんて世界中探しても何処にも居ないから、葵が俺から離れていくのは想像するだけで辛い」
だから、僕に好きな人ができたら、虎君は僕の傍にはいられないって目を伏せた。僕が離れていく絶望を味わいたくないからって……。
「虎君……」
「ごめんな? ダメな兄貴で。……葵には本当に幸せになって欲しいって思ってるんだけど、な……」
自嘲気味に笑う虎君は今一度僕の手を握ると、だから、それまでは葵の一番近くにいていいかな? って聞いてくる。
まさかそんな風に思ってくれてると思わなかった僕は虎君の手を振りほどいてそのまま虎君に抱き着いた。シートベルトをしてたせいで虎君を引き寄せる感じになっちゃったけど、でもそれは後で謝るから、今は虎君の気持ちが嬉しいって伝えることが先決だ。
「ま、葵?」
突然のことに虎君はびっくりしてるみたい。声がちょっと上擦ってるから。まぁそれは当然だよね。いきなりだし。
でも、驚かせたことを謝るのも、後回し。
「僕だって一緒だもん! 虎君の代わりなんて誰にもできないんだからね!?」
大切な大切な、本当に大切な僕の虎君。たとえ僕が誰かを好きになったとしても、この気持ちは絶対に変わらないって自信を持って言えるよ?
「だから、お願い。ずっと僕の傍にいてよ?」
「葵……。……でも、それじゃ葵の恋人に悪いよ」
虎君が傍にいてくれないなんて悲しすぎる。
そう訴える僕に、虎君は笑った気がする。顔は見えないけど、声がとても明るかったから。
抱きしめ返してくれる腕はやっぱり優しい。僕の未来の恋人を気遣ってくれる優しさも、今の僕には堪らなかった……。
「なら、その人とは別れる! 虎君との事を理解してくれない人となんて絶対一緒にいられないもん!」
ぎゅーって力いっぱい抱き着いて声を大きく訴え続ける僕。
(これは一時の感情じゃないよ? ちゃんと僕の本心だからね?)
だからお願い。虎君、信じて……。
「っ―――、……馬鹿だな。そんなこと言ってたら、結婚できないぞ?」
「いいもん! そうしたら虎君、一緒にいてくれるでしょ?」
「! ははっ……。そうだな。葵が結婚できなかったら、俺が責任持って一緒にいてあげるよ」
僕の背中をポンポンって叩く虎君の笑う声はとっても穏やか。その声に僕は漸く虎君に抱き着く腕を緩めることができた。
「やっぱり。泣きそうな顔してた」
「約束だからねっ!」
僕の泣きっ面を見て笑う虎君。約束守ってよね! って睨んだら、虎君からもらうのは「葵が忘れなかったら」って言葉。
「絶対忘れないし! 後から『こんなはずじゃなかった』って言ってもダメだからね!」
「俺が? それはないよ。『明日世界が終わる』確率ぐらい、ありえない」
「『明日世界が終わる』確率って、ほぼゼロだよ?」
「ほぼじゃなくて、『ゼロ』だよ。言っただろ? 『ありえない』って」
食いつく僕に虎君は楽しそうに声を出して笑う。
そんな笑わなくても……って僕が唇を尖らせて拗ねて見せたら、虎君の表情が柔らかいものに変わった。
(あ……、いつもの虎君だ……)
さっき感じた距離は、もうなくなった。むしろいつもよりも近くに感じる虎君に、僕は拗ね顔を保てない。
ただ純粋に嬉しくて、自然と顔は綻んだ。
「……本当に葵は可愛いな」
「え?」
虎君の見せる表情は、たとえるなら『愛しげ』。それは言葉と相まって、僕の心臓を大きく飛び跳ねさせてくれる。
そして、その後虎君が取った行動に僕の心臓は全力疾走した後みたいに物凄く煩くなってしまう。
額に触れる温もりは、虎君の唇。ちゅっと音を鳴らして離れるそれに、僕の頭は真っ白になった。
(今のって、キス、だよ、ね……?)
一瞬何が起こったのか分からなかったけど、よく知る感触にそれが『キス』だと理解する。理解して、顔が一瞬で熱くなる。
(あれ? なんで? なんでこんなにドキドキしてるの?)
キスなんて僕の家では挨拶代わり。その癖で僕から虎君にキスすることも虎君からしてもらうことも毎日じゃないけど、頻繁にある。
だから、今額に貰ったキスだって過去何度かされたことはある。
それなのに僕の心臓はいつもと全然違ってて、苦しくなるぐらい早く鼓動していて戸惑う。
「……顔、真っ赤」
何か言わないとって思うんだけど、口をパクパクさせるだけで言葉は出てこない。
そんな僕に虎君は目尻を下げ、楽しそうに笑った。
それはとてもいいことだし、幸せなこと。『兄』としてそれを祝福するのは当然だと思ってる。でも、それでも……。
「俺にとって葵の代わりになる存在なんて世界中探しても何処にも居ないから、葵が俺から離れていくのは想像するだけで辛い」
だから、僕に好きな人ができたら、虎君は僕の傍にはいられないって目を伏せた。僕が離れていく絶望を味わいたくないからって……。
「虎君……」
「ごめんな? ダメな兄貴で。……葵には本当に幸せになって欲しいって思ってるんだけど、な……」
自嘲気味に笑う虎君は今一度僕の手を握ると、だから、それまでは葵の一番近くにいていいかな? って聞いてくる。
まさかそんな風に思ってくれてると思わなかった僕は虎君の手を振りほどいてそのまま虎君に抱き着いた。シートベルトをしてたせいで虎君を引き寄せる感じになっちゃったけど、でもそれは後で謝るから、今は虎君の気持ちが嬉しいって伝えることが先決だ。
「ま、葵?」
突然のことに虎君はびっくりしてるみたい。声がちょっと上擦ってるから。まぁそれは当然だよね。いきなりだし。
でも、驚かせたことを謝るのも、後回し。
「僕だって一緒だもん! 虎君の代わりなんて誰にもできないんだからね!?」
大切な大切な、本当に大切な僕の虎君。たとえ僕が誰かを好きになったとしても、この気持ちは絶対に変わらないって自信を持って言えるよ?
「だから、お願い。ずっと僕の傍にいてよ?」
「葵……。……でも、それじゃ葵の恋人に悪いよ」
虎君が傍にいてくれないなんて悲しすぎる。
そう訴える僕に、虎君は笑った気がする。顔は見えないけど、声がとても明るかったから。
抱きしめ返してくれる腕はやっぱり優しい。僕の未来の恋人を気遣ってくれる優しさも、今の僕には堪らなかった……。
「なら、その人とは別れる! 虎君との事を理解してくれない人となんて絶対一緒にいられないもん!」
ぎゅーって力いっぱい抱き着いて声を大きく訴え続ける僕。
(これは一時の感情じゃないよ? ちゃんと僕の本心だからね?)
だからお願い。虎君、信じて……。
「っ―――、……馬鹿だな。そんなこと言ってたら、結婚できないぞ?」
「いいもん! そうしたら虎君、一緒にいてくれるでしょ?」
「! ははっ……。そうだな。葵が結婚できなかったら、俺が責任持って一緒にいてあげるよ」
僕の背中をポンポンって叩く虎君の笑う声はとっても穏やか。その声に僕は漸く虎君に抱き着く腕を緩めることができた。
「やっぱり。泣きそうな顔してた」
「約束だからねっ!」
僕の泣きっ面を見て笑う虎君。約束守ってよね! って睨んだら、虎君からもらうのは「葵が忘れなかったら」って言葉。
「絶対忘れないし! 後から『こんなはずじゃなかった』って言ってもダメだからね!」
「俺が? それはないよ。『明日世界が終わる』確率ぐらい、ありえない」
「『明日世界が終わる』確率って、ほぼゼロだよ?」
「ほぼじゃなくて、『ゼロ』だよ。言っただろ? 『ありえない』って」
食いつく僕に虎君は楽しそうに声を出して笑う。
そんな笑わなくても……って僕が唇を尖らせて拗ねて見せたら、虎君の表情が柔らかいものに変わった。
(あ……、いつもの虎君だ……)
さっき感じた距離は、もうなくなった。むしろいつもよりも近くに感じる虎君に、僕は拗ね顔を保てない。
ただ純粋に嬉しくて、自然と顔は綻んだ。
「……本当に葵は可愛いな」
「え?」
虎君の見せる表情は、たとえるなら『愛しげ』。それは言葉と相まって、僕の心臓を大きく飛び跳ねさせてくれる。
そして、その後虎君が取った行動に僕の心臓は全力疾走した後みたいに物凄く煩くなってしまう。
額に触れる温もりは、虎君の唇。ちゅっと音を鳴らして離れるそれに、僕の頭は真っ白になった。
(今のって、キス、だよ、ね……?)
一瞬何が起こったのか分からなかったけど、よく知る感触にそれが『キス』だと理解する。理解して、顔が一瞬で熱くなる。
(あれ? なんで? なんでこんなにドキドキしてるの?)
キスなんて僕の家では挨拶代わり。その癖で僕から虎君にキスすることも虎君からしてもらうことも毎日じゃないけど、頻繁にある。
だから、今額に貰ったキスだって過去何度かされたことはある。
それなのに僕の心臓はいつもと全然違ってて、苦しくなるぐらい早く鼓動していて戸惑う。
「……顔、真っ赤」
何か言わないとって思うんだけど、口をパクパクさせるだけで言葉は出てこない。
そんな僕に虎君は目尻を下げ、楽しそうに笑った。
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