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特別な人
特別な人 第95話
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「だってお前狙ってふざけたことして生きてられるとか、そいつ、悪運強すぎだって」
「だから、なんでそうなるかな?! 父さん達は力で解決したりしないよ?!」
ちゃんと話し合いで解決したって言ってたし、瑛大が想像してるようなことは一切起きてない。
それなのに瑛大は信じられないって顔をしてて、僕の家族が凄く暴力的だと言いたげ。
昔から僕達の事を知ってるはずなのに、そんな風に思われたなんて正直ショックだ。
「いや、『おじさん達が』なんて一言も言ってないだろ。……俺が言ってるのは、おじさん達じゃなくて虎兄のことだよ」
家族を悪く言われたと顔を顰める僕に瑛大は「落ち着けよ」って苦笑い。
そして、もう一度首を一回りさせると身を屈めて僕に耳打ちした。暴力的な解決をするのは虎君だ。って。
「虎兄の過保護具合はお前が一番知ってるだろ?」
身を放す瑛大は、真顔。
どうやら瑛大は本気で虎君が物事の解決に暴力的な手法を取ると思ってるみたいだ。
僕を見下ろす瑛大は、虎君の従兄弟。だから、ちゃんと知ってるはず。虎君の事を。それなのに、それなのに―――。
「葵、おい、聞いてる―――」
「ごめん、今瑛大と喋りたくない」
肩に乗せられた手を、反射的に払い除けてしまった。
言葉を途切れさせた瑛大はいきなり怒り出した僕にきっとびっくりしてるに違いない。
いつもなら、すぐに我に返って謝るところ。
でも、今は分かってても謝りたくなかった。
「……何怒ってんだよ」
呆れたような声と、溜め息。
尋ねながらも僕の怒りの理由が分かってるだろう瑛大はきっとこう思ってるんだろうな。面倒くさい。って。
でも、瑛大の性格的にこのまま放っておくことはしないはず。
「……悪かった。謝るから、機嫌直せよ。な?」
僕が何に怒ってるかは分からないけど、とりあえずご機嫌取りとばかりに謝ってくる瑛大。
力ない声に、きっと首を振って『僕こそごめん』って謝らないといけないところだってことは分かる。
けど、やっぱり謝りたくない。
(こんな風に嫌々ご機嫌取られても困るし)
それでも、友達の困った顔を見たら意思に反した態度を僕は取るだろう。
だから僕は瑛大の顔を見ることなく踵を返すと廊下を歩き出す。
当然、瑛大はそれを止めてくるんだけど、僕はその手も振り払って今度は走り出していた。
「オイ! 葵!」
瑛大が本気で追いかけてきたら、僕に追いつくことなんて簡単だろう。
それなのに僕が新しい部屋まで辿り着けたのは、瑛大にも追いかける意思がなかったからだ。
(ほら、やっぱり。口先だけの『ごめん』なんて意味ないんだからねっ!)
虎君の事が大好きなくせに、虎君の事を全然理解しない瑛大。
でもそれは虎君が僕のことばかり気にかけてるせいだって分かってる。頭では。
(けど、理解してても腹が立つんだもん! 虎君は誰よりも優しいんだから!!)
思い出した怒りに、ついついドアを開く手に力が入ってしまった。
乱暴に開いたドアの向こう側では、分解した家具を組み立て直してた虎君が驚いた顔をしている。
「びっくりした。どうしたんだ? 怖い顔してるぞ?」
間抜け面を見られたって苦笑を漏らす虎君。
立ち上がると虎君は持っていたドライバーを既に組み立て終えていた机に置くと、僕に向き直る。
僕は瑛大が戻ってくるって知りながらもドアを閉めて、まだ会いたくない心境を露わにした。
「……葵」
「何?」
「おいで」
怒りに満ちた心を見透かされたくなくて視線を下げたら、虎君がクスッて笑った気がした。
でも、虎君は僕に『何があった?』とは尋ねず、『傍においで』って手を伸ばしてきた。
虎君の誘いに僕が抗えるわけもなく、視線を下げたまま僕は一歩一歩歩み寄る。
「……大丈夫か?」
虎君の手を取った瞬間、虎君に手を掴まれてそのまま引き寄せられた。
そのまま抱きしめてくれる虎君。僕は虎君の腕に身を任せ、小さく頷いた。
「だから、なんでそうなるかな?! 父さん達は力で解決したりしないよ?!」
ちゃんと話し合いで解決したって言ってたし、瑛大が想像してるようなことは一切起きてない。
それなのに瑛大は信じられないって顔をしてて、僕の家族が凄く暴力的だと言いたげ。
昔から僕達の事を知ってるはずなのに、そんな風に思われたなんて正直ショックだ。
「いや、『おじさん達が』なんて一言も言ってないだろ。……俺が言ってるのは、おじさん達じゃなくて虎兄のことだよ」
家族を悪く言われたと顔を顰める僕に瑛大は「落ち着けよ」って苦笑い。
そして、もう一度首を一回りさせると身を屈めて僕に耳打ちした。暴力的な解決をするのは虎君だ。って。
「虎兄の過保護具合はお前が一番知ってるだろ?」
身を放す瑛大は、真顔。
どうやら瑛大は本気で虎君が物事の解決に暴力的な手法を取ると思ってるみたいだ。
僕を見下ろす瑛大は、虎君の従兄弟。だから、ちゃんと知ってるはず。虎君の事を。それなのに、それなのに―――。
「葵、おい、聞いてる―――」
「ごめん、今瑛大と喋りたくない」
肩に乗せられた手を、反射的に払い除けてしまった。
言葉を途切れさせた瑛大はいきなり怒り出した僕にきっとびっくりしてるに違いない。
いつもなら、すぐに我に返って謝るところ。
でも、今は分かってても謝りたくなかった。
「……何怒ってんだよ」
呆れたような声と、溜め息。
尋ねながらも僕の怒りの理由が分かってるだろう瑛大はきっとこう思ってるんだろうな。面倒くさい。って。
でも、瑛大の性格的にこのまま放っておくことはしないはず。
「……悪かった。謝るから、機嫌直せよ。な?」
僕が何に怒ってるかは分からないけど、とりあえずご機嫌取りとばかりに謝ってくる瑛大。
力ない声に、きっと首を振って『僕こそごめん』って謝らないといけないところだってことは分かる。
けど、やっぱり謝りたくない。
(こんな風に嫌々ご機嫌取られても困るし)
それでも、友達の困った顔を見たら意思に反した態度を僕は取るだろう。
だから僕は瑛大の顔を見ることなく踵を返すと廊下を歩き出す。
当然、瑛大はそれを止めてくるんだけど、僕はその手も振り払って今度は走り出していた。
「オイ! 葵!」
瑛大が本気で追いかけてきたら、僕に追いつくことなんて簡単だろう。
それなのに僕が新しい部屋まで辿り着けたのは、瑛大にも追いかける意思がなかったからだ。
(ほら、やっぱり。口先だけの『ごめん』なんて意味ないんだからねっ!)
虎君の事が大好きなくせに、虎君の事を全然理解しない瑛大。
でもそれは虎君が僕のことばかり気にかけてるせいだって分かってる。頭では。
(けど、理解してても腹が立つんだもん! 虎君は誰よりも優しいんだから!!)
思い出した怒りに、ついついドアを開く手に力が入ってしまった。
乱暴に開いたドアの向こう側では、分解した家具を組み立て直してた虎君が驚いた顔をしている。
「びっくりした。どうしたんだ? 怖い顔してるぞ?」
間抜け面を見られたって苦笑を漏らす虎君。
立ち上がると虎君は持っていたドライバーを既に組み立て終えていた机に置くと、僕に向き直る。
僕は瑛大が戻ってくるって知りながらもドアを閉めて、まだ会いたくない心境を露わにした。
「……葵」
「何?」
「おいで」
怒りに満ちた心を見透かされたくなくて視線を下げたら、虎君がクスッて笑った気がした。
でも、虎君は僕に『何があった?』とは尋ねず、『傍においで』って手を伸ばしてきた。
虎君の誘いに僕が抗えるわけもなく、視線を下げたまま僕は一歩一歩歩み寄る。
「……大丈夫か?」
虎君の手を取った瞬間、虎君に手を掴まれてそのまま引き寄せられた。
そのまま抱きしめてくれる虎君。僕は虎君の腕に身を任せ、小さく頷いた。
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