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特別な人
特別な人 第97話
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できるならずっとこうしていたい。
なんて、そんなことを考えてたら、コンコンってドアをノックする音が聞こえた気がした。
きっと瑛大が戻ってきたんだろうな……って思って、名残惜しいけど虎君から離れようとする僕。
でも、僕が離れようとするよりも先に虎君が離さないと言わんばかりに強く抱きしめてきて……。
(本当、虎君には敵わないなぁ……。まだ甘えてたいって思ってたのもお見通しなんだもん……)
僕の願い通りいっぱい甘やかしてくれる虎君。僕はその腕の中で離されるまでこうしてようって虎君にしがみついた。
「えっと……、虎兄、無視は止めて……」
「俺がいつ無視したって言うんだよ。ちゃんと目が合っただろ?」
「合ったけどさぁ……」
瑛大の困ったような声も、虎君の腕の中に居たら遠くに聞こえる。
今一番はっきり聞こえてるのは、虎君の心臓の音。ドキドキと鼓動を知らせるそれは、少し早い気がした。
「葵、まだ怒ってる?」
「怒らせるようなことしたのか?」
「え? 葵から聞いてない?」
虎君の問いかけに返ってくるのは凄く意外そうな声。てっきり全部話してると思ったって言いたそうなその声に、まだ怒りの治まってない僕はカチンとくる。
大事な従兄弟で『弟』でもある瑛大から『暴力的』だと思われてるなんて、虎君が知ったら悲しむに決まってる。
だったら、瑛大が本当は虎君をどう思ってるか伝えることなんてしない。この怒りも悲しみも、僕で留めておきたいから。
けど、そんな僕のことも、瑛大は理解してくれてない。昔はこんなことなかったのにって思っちゃうのは仕方ない。
(きっと僕は瑛大の世界には取るに足らない存在なんだろうな……)
凄く悲しい事だけど、中学に進学してからのおよそ3年間で僕達の関係は変わってしまったようだった……。
「お前、葵が告げ口する性格だと思ってるのか?」
ショックを受けても悟られないように努力はした。それなのに虎君には伝わってて、嬉しいやら申し訳ないやら感情がぐちゃぐちゃになりそうだ。
情けない気持ちを堪えながらも上着を握り締める手に力を籠めたら、虎君は『大丈夫だよ』って言葉の代わりに腕に力を込めてくれる。
その腕は僕の心を守る盾であり、怒気を含んだ声は僕を傷つける相手を牽制するための剣のように思えた。
「ちがっ、そんなこと思ってないって! ただ、葵と虎兄って、仲、良いだろ……? だから、隠し事とかないんだろうなって思って……」
「まったく秘密のない関係なんてありえないだろうが。常識を考えろ」
どれほど親しい間柄にも秘密は存在する。すべて話しているつもりでも『すべて』を共有することは不可能だ。
そう瑛大に伝える虎君。お互いを大事に思い合ってても、だからこそ口に出せない言葉もある。って。
「それはそうだけど……」
「お前は本当、図体しか成長してないな」
「うぅ……ごめん……」
本気で呆れてる虎君の声と、傷ついたような瑛大の声。
その時、ハッとした。瑛大が虎君の事をどう思ってるかは知ってるけど、でも、誤解してしまった理由はこれかもしれない。って。
(もしかして、全部僕のせい……?)
虎君はいつも僕を優先してくれる。僕が一番手のかかる『弟』だから。そして虎君は僕を優先してくれるあまり、こうやって他を怒る時が昔から度々あった。
僕には優しい虎君。でも、瑛大には厳しい時がある虎君。
きっと瑛大はだから勘違いしちゃったんだ……。
(僕のせいで虎君が誤解されてる……。慶史達だけじゃなくて、瑛大にまで……)
虎君はすごく優しいのに、僕が甘えただからっ……!
真実を目の当たりにした僕は、慌てた。今こうやって甘えてるのも瑛大により誤解させてしまってるに違いないから。
「……葵? どうした?」
「ごめん、虎君っ」
離れたくないと後ろ髪惹かれながらも、僕は虎君の腕を拒むように身体を離した。
早く離れないとって気ばかり焦って拒絶に近い離れ方だったけど、今は仕方ないって自分に言い聞かせた。
泣きそうな顔をしてる自覚はあったけど、虎君の心配そうな顔を見ると本当に泣いてしまいそうだ。
「―――っ、瑛大、違うからっ!」
「え? 何が?」
「虎君、凄く優しいからっ!!」
虎君の眼差しから逃げる様に、僕は瑛大に向き直ると訴えた。瑛大は誤解してるだけだから! って。
「えっと、葵、とりあえず落ちつ―――」
「僕が悪いの! 僕が虎君に頼ってばっかりだから、僕がしっかりしてないから、だから虎君に心配かけて瑛大にあんな誤解させたの!!」
だから悪いのは全部僕で、虎君は悪くない。虎君は誰よりも優しい人だから、誤解しないで……。
なんて、そんなことを考えてたら、コンコンってドアをノックする音が聞こえた気がした。
きっと瑛大が戻ってきたんだろうな……って思って、名残惜しいけど虎君から離れようとする僕。
でも、僕が離れようとするよりも先に虎君が離さないと言わんばかりに強く抱きしめてきて……。
(本当、虎君には敵わないなぁ……。まだ甘えてたいって思ってたのもお見通しなんだもん……)
僕の願い通りいっぱい甘やかしてくれる虎君。僕はその腕の中で離されるまでこうしてようって虎君にしがみついた。
「えっと……、虎兄、無視は止めて……」
「俺がいつ無視したって言うんだよ。ちゃんと目が合っただろ?」
「合ったけどさぁ……」
瑛大の困ったような声も、虎君の腕の中に居たら遠くに聞こえる。
今一番はっきり聞こえてるのは、虎君の心臓の音。ドキドキと鼓動を知らせるそれは、少し早い気がした。
「葵、まだ怒ってる?」
「怒らせるようなことしたのか?」
「え? 葵から聞いてない?」
虎君の問いかけに返ってくるのは凄く意外そうな声。てっきり全部話してると思ったって言いたそうなその声に、まだ怒りの治まってない僕はカチンとくる。
大事な従兄弟で『弟』でもある瑛大から『暴力的』だと思われてるなんて、虎君が知ったら悲しむに決まってる。
だったら、瑛大が本当は虎君をどう思ってるか伝えることなんてしない。この怒りも悲しみも、僕で留めておきたいから。
けど、そんな僕のことも、瑛大は理解してくれてない。昔はこんなことなかったのにって思っちゃうのは仕方ない。
(きっと僕は瑛大の世界には取るに足らない存在なんだろうな……)
凄く悲しい事だけど、中学に進学してからのおよそ3年間で僕達の関係は変わってしまったようだった……。
「お前、葵が告げ口する性格だと思ってるのか?」
ショックを受けても悟られないように努力はした。それなのに虎君には伝わってて、嬉しいやら申し訳ないやら感情がぐちゃぐちゃになりそうだ。
情けない気持ちを堪えながらも上着を握り締める手に力を籠めたら、虎君は『大丈夫だよ』って言葉の代わりに腕に力を込めてくれる。
その腕は僕の心を守る盾であり、怒気を含んだ声は僕を傷つける相手を牽制するための剣のように思えた。
「ちがっ、そんなこと思ってないって! ただ、葵と虎兄って、仲、良いだろ……? だから、隠し事とかないんだろうなって思って……」
「まったく秘密のない関係なんてありえないだろうが。常識を考えろ」
どれほど親しい間柄にも秘密は存在する。すべて話しているつもりでも『すべて』を共有することは不可能だ。
そう瑛大に伝える虎君。お互いを大事に思い合ってても、だからこそ口に出せない言葉もある。って。
「それはそうだけど……」
「お前は本当、図体しか成長してないな」
「うぅ……ごめん……」
本気で呆れてる虎君の声と、傷ついたような瑛大の声。
その時、ハッとした。瑛大が虎君の事をどう思ってるかは知ってるけど、でも、誤解してしまった理由はこれかもしれない。って。
(もしかして、全部僕のせい……?)
虎君はいつも僕を優先してくれる。僕が一番手のかかる『弟』だから。そして虎君は僕を優先してくれるあまり、こうやって他を怒る時が昔から度々あった。
僕には優しい虎君。でも、瑛大には厳しい時がある虎君。
きっと瑛大はだから勘違いしちゃったんだ……。
(僕のせいで虎君が誤解されてる……。慶史達だけじゃなくて、瑛大にまで……)
虎君はすごく優しいのに、僕が甘えただからっ……!
真実を目の当たりにした僕は、慌てた。今こうやって甘えてるのも瑛大により誤解させてしまってるに違いないから。
「……葵? どうした?」
「ごめん、虎君っ」
離れたくないと後ろ髪惹かれながらも、僕は虎君の腕を拒むように身体を離した。
早く離れないとって気ばかり焦って拒絶に近い離れ方だったけど、今は仕方ないって自分に言い聞かせた。
泣きそうな顔をしてる自覚はあったけど、虎君の心配そうな顔を見ると本当に泣いてしまいそうだ。
「―――っ、瑛大、違うからっ!」
「え? 何が?」
「虎君、凄く優しいからっ!!」
虎君の眼差しから逃げる様に、僕は瑛大に向き直ると訴えた。瑛大は誤解してるだけだから! って。
「えっと、葵、とりあえず落ちつ―――」
「僕が悪いの! 僕が虎君に頼ってばっかりだから、僕がしっかりしてないから、だから虎君に心配かけて瑛大にあんな誤解させたの!!」
だから悪いのは全部僕で、虎君は悪くない。虎君は誰よりも優しい人だから、誤解しないで……。
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