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特別な人
特別な人 第98話
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「え、何? どういうこと?」
「だから! だから、瑛大は誤解してるんだってば!!」
必死に訴える僕に向けられるのは困惑の表情で、伝わってないと感じた僕は更に言葉を続けた。瑛大の腕を掴んで、瑛大の知ってる虎君は本当の虎君じゃないから! って。
「俺の知ってる虎兄って……、……! そっちに行ったのか……」
「瑛大? 『そっち』って……?」
僕の言葉に眉を顰める瑛大だけど、何かを察したのか項垂れる。脱力してるっぽいその様子と言葉に、どうやら僕は瑛大の想像から外れた反応をしているみたいだ。
瑛大は大きなため息を吐くと、僕の視線を受け止めると「ちゃんと分かってる」って苦笑いを浮かべた。
「葵は虎兄が『優しい』って言いたいんだろ?」
「そ、そうだよ? 虎君はすごく優しいんだから!」
「だから、それは分かってるって」
「! だったら、なんであんなこと言ったの?」
虎君が優しいって分かってるなら、なんで虎君が『暴力的』だなんて言ったの?
隣に虎君がいる手前、はっきりとは言わない。でも瑛大には分かるよね?
問い詰める僕の目に観念したのか、瑛大はまた溜め息を吐く。
「だからだろうが。……虎兄が優しいから、俺はああ言ったんだよ」
瑛大は一瞬視線を虎君に向けるも、すぐに僕に戻す。
そして、言葉を続けた。優しいから、覚える怒りも大きいんだろ。って。
「虎兄は優しいし、お前を……、『俺達』を大事に思ってくれてる。だから―――」
「瑛大」
「! 虎兄、これは違うからな!? これは苛めてるとかそういうのじゃないから!! 本当、断じて違うから!!」
僕に応えるように真剣な顔の瑛大。でも、言葉を遮った虎君の声に瑛大は何故か他人が見ても明らかなほど怯えていて、僕を放って虎君に弁解を始めていた。
「分かったから落ち着け。大体なんでそんなビビってるんだよ? これじゃまるで俺が怒ってるみたいだろ?」
必死過ぎるその様子に虎君は苦笑いを浮かべて瑛大を宥める様に頭を撫でてみせる。
それに瑛大の顔から焦りが消えてホッとした表情が浮かんでて、瑛大が本当に虎君の事が大好きなんだって伝わってきた。
(瑛大が虎君の事大好きだって事は知ってるけど、なんでだろう……。すごく、モヤモヤする……)
嘘。『なんでだろう』なんて言ったけど、本当は分かってる。分かってるけど、気づかない振りをしたいだけ……。
だって僕、瑛大に対して『モヤモヤ』してるわけじゃないんだもん。虎君に対して、『モヤモヤ』しちゃってるんだもん……。
(本当、自分の独占欲にびっくりだよ……)
虎君にとって瑛大も大事な『弟』の一人。だからああやって頭を撫でるのだって、普通のことだ。
でも、僕はそれが嫌だって思った。『僕の虎君』なのに、って。
(この思考って、やっぱり危ないよね? 瑛大でこれなら、虎君の『好きな人』に会ったら僕、凄い顔しちゃいそうだよ……)
なんだか最近日に日にこの独占欲が強くなっていってる気がしてたけど、『日に日に』どころじゃない。
(だって、昼間よりもずっとずっと強くなってる気がするもん)
気づかれないように吐き出した溜め息。それと一緒にこのモヤモヤも吐き出して、気持ちを切り替えるよう頑張ってみる。でも―――。
「だって虎兄、怒ったらめっちゃ怖いんだし、しかたねぇーじゃんっ」
「怒ったら誰だって怖いだろうが」
「いーや! 虎兄は誰よりも怖いから! 特に葵が絡んだら―――」
「瑛大、お前は本当、学習能力がないな」
「と、とりゃにー、はなひて……」
言い返す瑛大の口を笑顔で塞ぐ虎君。大人顔負けに体格のいい瑛大だけど、虎君はその大きな手一つですべて制してみせた。
顔を上げて目に入る仲良しなその雰囲気に、吐き出したはずのモヤモヤが戻ってきてしまう。
「いったい何度教えりゃ理解するんだ? ん?」
虎君が満面の笑みのまま凄んだら瑛大の顔から血の気が引いて、聞き取り辛いけど『ごめんなさい』って謝ってるみたい。
一応聞けた謝罪の言葉に虎君は瑛大から手を放して、「それで」って話を切り出す。
「お前は今度は何を言ったんだ? 葵に」
「えーっと……、虎兄、怒らない、よな?」
「聞いてから考える」
「! じゃ、じゃあ言わな―――」
「黙秘するなら期待に応えて盛大に怒ってやるからな?」
「それって俺に拒否権ないじゃん……。分かったよ……話すよ。話します……」
一歩も引かない虎君に観念した瑛大は肩を落としてボソボソした声で説明した。虎君が『暴力的な解決をする』って僕に喋ったってことを。
「だから! だから、瑛大は誤解してるんだってば!!」
必死に訴える僕に向けられるのは困惑の表情で、伝わってないと感じた僕は更に言葉を続けた。瑛大の腕を掴んで、瑛大の知ってる虎君は本当の虎君じゃないから! って。
「俺の知ってる虎兄って……、……! そっちに行ったのか……」
「瑛大? 『そっち』って……?」
僕の言葉に眉を顰める瑛大だけど、何かを察したのか項垂れる。脱力してるっぽいその様子と言葉に、どうやら僕は瑛大の想像から外れた反応をしているみたいだ。
瑛大は大きなため息を吐くと、僕の視線を受け止めると「ちゃんと分かってる」って苦笑いを浮かべた。
「葵は虎兄が『優しい』って言いたいんだろ?」
「そ、そうだよ? 虎君はすごく優しいんだから!」
「だから、それは分かってるって」
「! だったら、なんであんなこと言ったの?」
虎君が優しいって分かってるなら、なんで虎君が『暴力的』だなんて言ったの?
隣に虎君がいる手前、はっきりとは言わない。でも瑛大には分かるよね?
問い詰める僕の目に観念したのか、瑛大はまた溜め息を吐く。
「だからだろうが。……虎兄が優しいから、俺はああ言ったんだよ」
瑛大は一瞬視線を虎君に向けるも、すぐに僕に戻す。
そして、言葉を続けた。優しいから、覚える怒りも大きいんだろ。って。
「虎兄は優しいし、お前を……、『俺達』を大事に思ってくれてる。だから―――」
「瑛大」
「! 虎兄、これは違うからな!? これは苛めてるとかそういうのじゃないから!! 本当、断じて違うから!!」
僕に応えるように真剣な顔の瑛大。でも、言葉を遮った虎君の声に瑛大は何故か他人が見ても明らかなほど怯えていて、僕を放って虎君に弁解を始めていた。
「分かったから落ち着け。大体なんでそんなビビってるんだよ? これじゃまるで俺が怒ってるみたいだろ?」
必死過ぎるその様子に虎君は苦笑いを浮かべて瑛大を宥める様に頭を撫でてみせる。
それに瑛大の顔から焦りが消えてホッとした表情が浮かんでて、瑛大が本当に虎君の事が大好きなんだって伝わってきた。
(瑛大が虎君の事大好きだって事は知ってるけど、なんでだろう……。すごく、モヤモヤする……)
嘘。『なんでだろう』なんて言ったけど、本当は分かってる。分かってるけど、気づかない振りをしたいだけ……。
だって僕、瑛大に対して『モヤモヤ』してるわけじゃないんだもん。虎君に対して、『モヤモヤ』しちゃってるんだもん……。
(本当、自分の独占欲にびっくりだよ……)
虎君にとって瑛大も大事な『弟』の一人。だからああやって頭を撫でるのだって、普通のことだ。
でも、僕はそれが嫌だって思った。『僕の虎君』なのに、って。
(この思考って、やっぱり危ないよね? 瑛大でこれなら、虎君の『好きな人』に会ったら僕、凄い顔しちゃいそうだよ……)
なんだか最近日に日にこの独占欲が強くなっていってる気がしてたけど、『日に日に』どころじゃない。
(だって、昼間よりもずっとずっと強くなってる気がするもん)
気づかれないように吐き出した溜め息。それと一緒にこのモヤモヤも吐き出して、気持ちを切り替えるよう頑張ってみる。でも―――。
「だって虎兄、怒ったらめっちゃ怖いんだし、しかたねぇーじゃんっ」
「怒ったら誰だって怖いだろうが」
「いーや! 虎兄は誰よりも怖いから! 特に葵が絡んだら―――」
「瑛大、お前は本当、学習能力がないな」
「と、とりゃにー、はなひて……」
言い返す瑛大の口を笑顔で塞ぐ虎君。大人顔負けに体格のいい瑛大だけど、虎君はその大きな手一つですべて制してみせた。
顔を上げて目に入る仲良しなその雰囲気に、吐き出したはずのモヤモヤが戻ってきてしまう。
「いったい何度教えりゃ理解するんだ? ん?」
虎君が満面の笑みのまま凄んだら瑛大の顔から血の気が引いて、聞き取り辛いけど『ごめんなさい』って謝ってるみたい。
一応聞けた謝罪の言葉に虎君は瑛大から手を放して、「それで」って話を切り出す。
「お前は今度は何を言ったんだ? 葵に」
「えーっと……、虎兄、怒らない、よな?」
「聞いてから考える」
「! じゃ、じゃあ言わな―――」
「黙秘するなら期待に応えて盛大に怒ってやるからな?」
「それって俺に拒否権ないじゃん……。分かったよ……話すよ。話します……」
一歩も引かない虎君に観念した瑛大は肩を落としてボソボソした声で説明した。虎君が『暴力的な解決をする』って僕に喋ったってことを。
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