特別な人

鏡由良

文字の大きさ
100 / 552
特別な人

特別な人 第99話

しおりを挟む
「なるほどな……」
 怯えながらも説明を終える瑛大に虎君が零したのは深い溜め息で、言葉にしなくても『呆れてる』って伝わってきた。
「瑛大、お前は叔父さんに感謝しとけ」
「うっ……。ご、めん……」
 息を吐ききった後、虎君が瑛大に向けて言い放った言葉の意味が僕には分からない。
 でも瑛大は理解できたみたいで、しゅんと肩を落として小さくなっていた。
(やっぱり、やだな……。僕だって居るのに……)
 二人しか分からない話、しないで欲しい。
 疎外感を感じて気持ちが落ち込む上に心臓まで痛くなってきて、辛い。
 楽しそうな虎君と瑛大を見たくなくて、気づいたら視線はつま先まで落ちていた。
「葵」
「! ……何?」
 このまま楽しそうな会話が続いたら泣いちゃいそうだって思ってたら、僕の名前を呼ぶ虎君の声。
 たったそれだけのことなのに気持ちが浮上するから、本当、僕って虎君が大好きなんだなぁ。
 けど、放っておかれて凄く寂しかったのも本当だから、完全に浮上はできてない。だからすごく微妙な態度を返しちゃったってことは自覚してる。
(こういうところが子供っぽいって分かってるんだけどなぁ)
 まだ中学生だし大人みたいに振る舞えるとは思ってないけど、それでも少しぐらい余裕を持ちたいところだ。
 自分のダメな部分を目の当たりにしてまた落ち込みそうになる僕。
 だけど次の瞬間、もやもやが全部吹き飛ばされた。
「! と、虎君……?」
 それは本当に突然の事だった。
 落としていた視線に突然虎君の手が入ってきて、そしてそのまま虎君は僕の腕を掴んで僕を引き寄せてきた。
 あっという間の出来事で、気が付けば僕は虎君の腕の中にまた納まっていた。
「そんな顔しなくても大丈夫だから。……さっき瑛大に言ったのは『従兄弟でよかったな』ってことだから」
「! ……分かった……」
 さっきまでとは全然違う声は僕の耳元に落とされる。その甘く優しい音に、心がムズムズしちゃった。
 僕が疎外感を感じてるって察してフォローを入れてくれるだけじゃなく安心させてくれる虎君。
 胸に居座っていたもやもやは跡形もなく消えていて、素直に頷きを返せた。
「葵、ありがとう」
「何が?」
「俺の為に怒ってくれたんだろ? 相手は瑛大なのに」
 機嫌は直ったけど離れがたくて虎君にギュっとしがみついていたら、何故かお礼を言われてびっくりした。
 でも、何に対する『ありがとう』か尋ねるために顔を上げたら、凄く嬉しそうな虎君と目が合って……。
「そ、そんなの当然でしょ? 虎君の事悪く言われたら誰が相手でも怒るよ!」
「桔梗相手でも?」
「もちろん!」
「茂さんや樹里斗さんでも?」
「関係ないよ。父さんと母さん相手でも怒るに決まってるでしょ?」
 虎君を悪く言う人は誰であろうと許せない。だって、虎君は誰よりも優しいから。
 たとえ瑛大が言ったように優しいが故の暴力性を持っていたとしても、虎君はその『暴力性』をむやみに振りかざすことはしないって僕は信じてる。
「信じてくれてありがとう、葵。……でも、葵も知ってるだろ? 茂さんが止めてくれたから、俺はまだ『優しい兄貴』でいてられるんだよ」
「それは違うよ! 父さんは助言しただけで選んだのは虎君だよ? 虎君が虎君の意思で選んだから、僕の自慢の『お兄ちゃん』なんだよ?」
 自分は優しくないって言う虎君。僕はその言葉を否定した。
 助言に耳を貸さない人は沢山いるし、激情に任せて行動する人も沢山いる。
 でも、虎君はそうしなかった。怒りを抑えてくれた。どうしても許せないって言ってたのに……。
「それは―――。それは、葵が望んだから、だよ」
 僕が怒りを抑えることを望んだから我慢したって言う虎君は、「俺は優しくないよ」って笑った。
 その笑顔がとても悲しそうで、僕は手を伸ばしてその頬っぺたに触れた。
「虎君は優しいよ? だって僕の為に我慢してくれたんでしょ? ……優しくない人は誰かのために自分を抑えることなんてしないよ?」
「葵っ……」
 自分の事を卑下しすぎだって笑ったら、虎君は僕を抱きしめてくる。
 ぎゅっと力強く抱きしめられるのは嬉しいけど、でも虎君の胸に顔を埋めてたから、息苦しい。でも離れたくないから、『苦しい』って言いたくなかった……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...