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特別な人
特別な人 第105話
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茂斗はともかく、いつもの虎君なら従兄弟の心配をするはず。それなのに、なんで心配するどころか笑ってるの?
虎君らしくない様子に困惑して僕は言葉を失ってしまう。
「葵? 樹里斗さん待ってるぞ?」
「早くしろよー」
「ちょっと黙ってろ茂斗」
いい加減にしないと本気で怒るぞってオーラを出してくる茂斗だけど、虎君は声のトーンを落とすだけでそれを制してしまう。
ついさっきまで見せてた笑顔からは考えられない凄むような表情を見せる虎君は、実は表情が豊かだ。
「葵、本当にどうしたんだ? 泣きそうな顔になってるぞ?」
身を屈めて僕と同じ視線になってくれる虎君は優しい。でも相変わらず瑛大の事は無視し続けてて、どうして? って疑問が頭の中でグルグル回ってた。
心配なことがあるなら何でも言って欲しい。って、言ってくれる虎君。
その声と眼差しには優しさしかなくて、僕は意を決して尋ねてみる。どうして瑛大の心配をしないのか。
「瑛大、辛そうなのになんで放っておくの?」
「! んー……。そうだな。本気で体調が悪いとかなら俺も心配するけど、体調がわるいわけじゃないから、かな?」
「え……?」
「そうだよな? 瑛大」
あんなに苦しそうだったのに、虎君は瑛大は元気そのものだって言う。
流石にそんな嘘には騙されないよ? って僕が訴えようとしたその時、瑛大は「体調は万全です……」って蹲ったまま呟いた。
「なんでそんな嘘吐くの? そんなに辛そうなのに……」
「べ、別に辛いわけじゃねぇーよ……。これはただびっくりしすぎて力が抜けたって言うか、なんていうか……」
瑛大はバツが悪そうにボソボソ喋ると、ゆっくりと立ち上がると僕をジトっとした視線で見据えてきた。
その視線は好意的とはお世辞にも言えなくて、僕は一瞬怯んでしまう。
「葵、お前さ、中学三年だって自覚あるわけ?」
「えっと……、あ、るよ? なんで?」
睨まれてるわけじゃないって分かってる。でも限りなく睨まれてるように感じる。
僕は無意識のうちにその視線から逃げていて、気づいたら虎君の背中越しに瑛大を見つめ返していた。
「それだよ、それ! お前全然自覚ねぇーじゃん!?」
「えぇ……、なんでそんな怒るの……?」
瑛大の心配をしてたのは僕だけなのに、なんで僕が怒られてるの?
いくらなんでも理不尽すぎて悲しくなる。僕は虎君の上着を握る手に力を込めて、込み上がってくる熱いものを必死で耐えた。
「瑛大、いい加減にしろ。葵が怯えてるだろうが」
「っ、いや、そもそも虎兄も虎兄だ! いくらなんでも甘やかし過ぎだろ!? 中三の男子学生が一人で寝れないとかヤバすぎだろ?!」
虎君が瑛大を宥めようと試みてくれるも、効果はない。それどころか、むしろ火に油だったみたいで瑛大は虎君に詰め寄って僕を指さしてくる。依存させすぎだ! って。
それはきっと瑛大の心からの本心なんだろうけど、でも、面と向かってぶつけられた言葉に僕は身が竦んだ。自覚してたつもりだったけど、改めて言われると傷つく。こうやって近しい友人から指摘されるととても悪いことのような気がしたから……。
「虎と一緒に寝てるのは西の事があったからで、それまでは葵も一人で寝てたぞ」
「俺が言ってるのはそういうことじゃない! 確かにその西って人はキモイしヤバいけど、でも実際その場にいたわけでもないんだし虎兄に泊まり込みしてもらうとか流石にビビりすぎだって言ってんだよ!」
珍しく茂斗がフォローしてくれるんだけど、瑛大はそもそもが変だって言ってくる。もう家に居ないのになんでそこまで怖がるか分からないって感じで。
(やっぱり変な事なんだ……)
西さんの事があって『怖いから』とか、そんな感情は男の僕が持っちゃダメだったみたい。……ううん、実害がなかったのに怖がるのは変だってことだよね。
(でもどっちにしろ僕は『おかしい』ってことだよね……)
瑛大が小さく零した「女じゃあるまいし……」って言葉が、胸を刺す。
自意識過剰なだけかもしれない。って悪い方向に考えてしまうのは、それからすぐの事だった。
ショックなのと恥ずかしいのとで虎君から離れようとする僕。でも虎君は『離れなくていい』って言葉の代わりに離した手を握り締めてくれる……。
(虎君……)
顔を上げたら、悲しそうに笑う虎君と目が合った。
どうして虎君が悲しそうな顔をしてるんだろうって思ったけど、でもすぐにこの顔をさせてるのは僕なんだって分かった。
「葵、頼むからそんな顔しないで……? 葵が悲しい顔をしてたら俺まで悲しくなる」
目尻に伸びてくる指に、僕は漸く自分が泣きそうな顔をしてるって気づいた。
でもこのやり取りも瑛大には『変な事』かもしれない。
そう考えたら、胸は苦しくなって顔を歪めて本当に泣いてしまいそうになってしまった。
「泣かないで……」
「ごめっ、虎く、ん……ごめんなさいっ……」
『泣いてない』って強がりたいのに、全然心がついてこない。
それどころか抱きしめてくれる虎君の腕に安心して僕は『泣かない』って最後の防壁まで崩してしまっていた……。
虎君らしくない様子に困惑して僕は言葉を失ってしまう。
「葵? 樹里斗さん待ってるぞ?」
「早くしろよー」
「ちょっと黙ってろ茂斗」
いい加減にしないと本気で怒るぞってオーラを出してくる茂斗だけど、虎君は声のトーンを落とすだけでそれを制してしまう。
ついさっきまで見せてた笑顔からは考えられない凄むような表情を見せる虎君は、実は表情が豊かだ。
「葵、本当にどうしたんだ? 泣きそうな顔になってるぞ?」
身を屈めて僕と同じ視線になってくれる虎君は優しい。でも相変わらず瑛大の事は無視し続けてて、どうして? って疑問が頭の中でグルグル回ってた。
心配なことがあるなら何でも言って欲しい。って、言ってくれる虎君。
その声と眼差しには優しさしかなくて、僕は意を決して尋ねてみる。どうして瑛大の心配をしないのか。
「瑛大、辛そうなのになんで放っておくの?」
「! んー……。そうだな。本気で体調が悪いとかなら俺も心配するけど、体調がわるいわけじゃないから、かな?」
「え……?」
「そうだよな? 瑛大」
あんなに苦しそうだったのに、虎君は瑛大は元気そのものだって言う。
流石にそんな嘘には騙されないよ? って僕が訴えようとしたその時、瑛大は「体調は万全です……」って蹲ったまま呟いた。
「なんでそんな嘘吐くの? そんなに辛そうなのに……」
「べ、別に辛いわけじゃねぇーよ……。これはただびっくりしすぎて力が抜けたって言うか、なんていうか……」
瑛大はバツが悪そうにボソボソ喋ると、ゆっくりと立ち上がると僕をジトっとした視線で見据えてきた。
その視線は好意的とはお世辞にも言えなくて、僕は一瞬怯んでしまう。
「葵、お前さ、中学三年だって自覚あるわけ?」
「えっと……、あ、るよ? なんで?」
睨まれてるわけじゃないって分かってる。でも限りなく睨まれてるように感じる。
僕は無意識のうちにその視線から逃げていて、気づいたら虎君の背中越しに瑛大を見つめ返していた。
「それだよ、それ! お前全然自覚ねぇーじゃん!?」
「えぇ……、なんでそんな怒るの……?」
瑛大の心配をしてたのは僕だけなのに、なんで僕が怒られてるの?
いくらなんでも理不尽すぎて悲しくなる。僕は虎君の上着を握る手に力を込めて、込み上がってくる熱いものを必死で耐えた。
「瑛大、いい加減にしろ。葵が怯えてるだろうが」
「っ、いや、そもそも虎兄も虎兄だ! いくらなんでも甘やかし過ぎだろ!? 中三の男子学生が一人で寝れないとかヤバすぎだろ?!」
虎君が瑛大を宥めようと試みてくれるも、効果はない。それどころか、むしろ火に油だったみたいで瑛大は虎君に詰め寄って僕を指さしてくる。依存させすぎだ! って。
それはきっと瑛大の心からの本心なんだろうけど、でも、面と向かってぶつけられた言葉に僕は身が竦んだ。自覚してたつもりだったけど、改めて言われると傷つく。こうやって近しい友人から指摘されるととても悪いことのような気がしたから……。
「虎と一緒に寝てるのは西の事があったからで、それまでは葵も一人で寝てたぞ」
「俺が言ってるのはそういうことじゃない! 確かにその西って人はキモイしヤバいけど、でも実際その場にいたわけでもないんだし虎兄に泊まり込みしてもらうとか流石にビビりすぎだって言ってんだよ!」
珍しく茂斗がフォローしてくれるんだけど、瑛大はそもそもが変だって言ってくる。もう家に居ないのになんでそこまで怖がるか分からないって感じで。
(やっぱり変な事なんだ……)
西さんの事があって『怖いから』とか、そんな感情は男の僕が持っちゃダメだったみたい。……ううん、実害がなかったのに怖がるのは変だってことだよね。
(でもどっちにしろ僕は『おかしい』ってことだよね……)
瑛大が小さく零した「女じゃあるまいし……」って言葉が、胸を刺す。
自意識過剰なだけかもしれない。って悪い方向に考えてしまうのは、それからすぐの事だった。
ショックなのと恥ずかしいのとで虎君から離れようとする僕。でも虎君は『離れなくていい』って言葉の代わりに離した手を握り締めてくれる……。
(虎君……)
顔を上げたら、悲しそうに笑う虎君と目が合った。
どうして虎君が悲しそうな顔をしてるんだろうって思ったけど、でもすぐにこの顔をさせてるのは僕なんだって分かった。
「葵、頼むからそんな顔しないで……? 葵が悲しい顔をしてたら俺まで悲しくなる」
目尻に伸びてくる指に、僕は漸く自分が泣きそうな顔をしてるって気づいた。
でもこのやり取りも瑛大には『変な事』かもしれない。
そう考えたら、胸は苦しくなって顔を歪めて本当に泣いてしまいそうになってしまった。
「泣かないで……」
「ごめっ、虎く、ん……ごめんなさいっ……」
『泣いてない』って強がりたいのに、全然心がついてこない。
それどころか抱きしめてくれる虎君の腕に安心して僕は『泣かない』って最後の防壁まで崩してしまっていた……。
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