特別な人

鏡由良

文字の大きさ
118 / 552
特別な人

特別な人 第117話

しおりを挟む
 僕にとって、瑛大も慶史もかけがえのない大切な友達。それは今でも変わらないし、これからも変わらないと思う。
 でも、僕にはどうしても話すことのできない『秘密』がある。
 その『秘密』を慶史とは共有しているのに瑛大とは共有できない理由は他でもなく、その『秘密』が僕のモノではないから。
 だから僕は絶対に『秘密』を他者に語るわけにはいかない。たとえそれが家族や大切な友達であったとしても、絶対に喋るわけにはいかないし、喋りたくない。
 そんな僕の想いを汲み取ってくれていた父さん達には感謝だし、追及しようとしてた茂斗達を止めてくれた虎君はやっぱり僕の一番の理解者だって思った。
 そして、本当は知りたくて堪らなかったのにずっと我慢し続けてくれていた瑛大には申し訳なさを覚えた……。
(ごめん、瑛大……。でも、これだけはどうしても言えないんだ……)
 もし僕が瑛大の立場だったら?
 ふと考えてしまった『もしも』の話。
 もし同じことを信じてた人にされたら、僕はどう感じるだろう……?
(どうしよう……。すごく、すごく悲しいし、辛い……)
 頭に浮かんだのは、虎君の笑い顔。
 虎君が僕以外の誰かと『秘密』を共有していたら、僕は瑛大のように耐え続けることができるのだろうか?
 もしその相手が、僕が良く知る相手――たとえば茂斗だったらどうだろう?
(やだ……、絶対、やだ……)
 たとえ『仲間外れ』じゃなくても、『理由』があったとしても、疎外感を覚えてしまうのは当然。
 そしてその疎外感を抱えたまま何年もずっと傍にいるなんて、どう考えても無理だ。
(! だから瑛大、僕達から離れて行ったんだ……)
 漸く、本当に漸く理解した。3年前、瑛大が僕と慶史から離れて行った『理由』を、今。
「そんな顔すんなよ」
「どう、しよ……僕、瑛大になんて言ったらいいの……? なんて謝ったら……」
「なんも言う必要ねぇーよ。……謝る必要もねぇー」
 どれほど瑛大を苦しめていたか知って取り乱す僕に、茂斗は「落ち着け」って言いながら宥めてくれる。僕は何もしちゃダメだって。
 友達を傷つけておいて、その理由を理解して、それなのにどうして何もしちゃダメなの?
 せめて謝らないと……って僕が食い下がったら、茂斗は僕を窘めるように名前を呼んだ。
「『秘密』を打ち明けられるのか? もし無理なら、辛いかも知んねぇけど耐えろ。それが今お前にできる精一杯だ」
「で、でも……」
「『秘密』は言えない。でも謝らせて欲しい。――それはお前のエゴだ。……葵に謝られたら、瑛大は許さないとダメだろうが」
 ああ、僕って本当、短慮だ。考え無しで愚かで、何処までも自分のことしか考えられない子供だ……。
 茂斗の言葉が刺さって痛い。でも、これは僕が受け止めなくちゃいけない痛みだ。
「お前が『秘密』を打ち明けられる時に、瑛大に謝ればいい」
 頭に乗せられた手。
 僕は小さく頷くものの、茂斗の言葉の意味を、真意を理解して辛くなった。
(もしもその時が来たとして、瑛大は僕を許してくれるかな……)
 もしかしたら、その時はもう手遅れになってるかもしれない。
 瑛大は、僕の顔も見たくないと思ってるかもしれない。
 でも、でも―――。
(それは僕が選んだ『未来』だから受け入れないと……)
 想像するだけでどうしようもないほど悲しいけれど、僕だけ楽になるのはフェアじゃない。
 瑛大を傷つけた分、僕もこの辛さを受け入れないと。
「あんまり思い詰めんなよ」
「うん……。分かってる……」
 瑛大の事はなるようにしかならねぇーし、いざとなったら俺と虎がなんとかしてやるから。
 そう言ってくれる茂斗に、僕は泣きそうになりながらも笑った。僕って愛されてるね。って。
「今頃気づいたのか? お前は昔から俺らの『お姫様』だっただろ?」
「そうだね。本当、その通りだよ……」
 茶化す茂斗の言葉に、何とか朗らかな声を返す。
 けど、気を抜いたら泣きそうだ。
「……虎、呼ぶか?」
「いい。……虎君も今日は疲れただろうし、ゆっくり休んで欲しいから」
 瑛大を寮まで送った後、もう一度家に寄ってもらおうかと言ってくれる茂斗。
 その申し出に心が揺れたけど、これは僕が一人で乗り越えるべき事だからと遠慮した。瑛大へのせめてもの償いのつもりで。
(でも本当は、虎君に会いたい……)
 虎君に会って、不安を聞いてもらって、『大丈夫だよ』って抱きしめて背中を擦って欲しい。
 自分だけ楽になっちゃダメだって分かっているのに気を抜くとこうやって虎君を求める自分がいて、僕はいつまで『お姫様』なんだろうって悲しくなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

リンドグレーン大佐の提案

高菜あやめ
BL
軍事国家ロイシュベルタの下級士官テオドアは、軍司令部のカリスマ軍師リンドグレーン大佐から持ちかけられた『ある提案』に応じ、一晩その身をゆだねる。 一夜限りの関係かと思いきや、大佐はそれ以降も執拗に彼に構い続け、次第に独占欲をあらわにしていく。 叩き上げの下士官と、支配欲を隠さない上官。上下関係から始まる、甘くて苛烈な攻防戦。 【支配系美形攻×出世欲強めな流され系受】

処理中です...