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特別な人
特別な人 第139話
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「だーめ。僕は今日から変わるんだから!」
声を朗らかに決意を伝えるんだけど、本心を見抜かれたくないからやっぱり振り返ることはできない。
昨日までの僕のままではもういられないから変わりたいって気持ちも嘘じゃないんだけど、でも、やっぱり本当は甘えたいし甘やかして欲しい。
でも、『好き』を育てちゃだめだから、我慢。
「虎君がいなくても平気なぐらい頼りになる男になるんだから!」
そう。目下の目標は双子の片割れ、茂斗。
そう言って中学三年生とは思えない落ち着きと聡明さを持つ兄弟の名を挙げれば、虎君は「それは淋しいな」って僕の頭を撫でてくる。
(最終目標は虎君なんだけどね)
僕にとって『最高の兄弟』も『最高の大人』も『最高の男性』も、全部虎君なんだから。
『好き』だって言えないし、『好き』になってもらえないなら、せめて虎君に近づきたい。
なんて、そんなことをもし口に出したら、虎君はどんな顔をするだろう……?
「葵の決意はわかったけど、でも偶には俺にも頼ってくれよ? ……まったく頼られなくなったら俺の生きてる理由がなくなるし」
「あはは。またそんなこと言って!」
あぁ、虎君のそんな冗談が今は辛い。
単純な僕の心は喜ぶし、伝えた『決意』が早くも挫けそうになる。
「いや、結構真剣な話、葵に頼ってもらえなくなったら俺はたぶんまともじゃいられないと思う」
「え?」
背後から聞こえた虎君の声は、お世辞にも朗らかとは言えない、低く押し殺したものだった。そう、滲むのは『辛さ』だ。
僕は思わず振り返る。虎君が心配で。
そして目に入ったその表情に心臓が止まりそうになった。
「虎君……?」
僕を見つめる虎君はとても苦しそうで、そしてとても悲しそうだった。
何故虎君がこんな顔をしているのか分からないけど、僕はその苦しみと悲しみを取り除きたいと思った。だって虎君は僕にとって誰よりも大事な人だから……。
「どうしたの……?」
無意識に伸びた手をその頬に添えれば、虎君は目尻を下げ笑った。でも、やっぱりその笑い顔は悲しげで……。
「葵、俺の我儘、聞いてくれる……?」
「! もちろん! 僕にできることならなんでも言って?」
虎君が元気になるならなんでもするよ! って虎君に詰め寄ったら、虎君はそんな僕を抱きしめてきた。
当然、虎君が『好き』な僕は平静ではいられない。ぎゅっと抱きしめられたら、心臓は途端に大きく鼓動し出す。
「葵に『好きな人』ができるまで、俺の事、頼って欲しい……」
「! えっ……」
「葵に、『好きな人』ができるまで、で、いいから……」
そう言って一層強く抱きしめてくる虎君。僕は窒息しそうな程強く抱きしめられながら、ずっとこの腕の中に居たいって思ってしまう。
(僕、『好きな人』、できたよ……?)
告げられない。でも、告げたい。
僕は唇を噛みしめ、言葉を我慢する。
(今僕を力いっぱい抱きしめてる人が、僕の『好きな人』だよ……)
蓋をしても零れる想いに、僕は虎君の背中に手を回して抱きつきたいって思った。でも……。
(我慢しなくちゃ。これ以上好きにならないように、我慢しなくちゃ……)
僕は虎君の背中に縋りつきたい手を握り締め、心の奥底に沈めたはずの宝箱から溢れる想いがこれ以上零れてしまわぬよう抑えつけた。
「と、らくん、は……」
「何……?」
「っ、虎君、は、……虎君は、優しい、ね……」
漸く絞り出した言葉は、なんてことのない単語だった。虎君が優しいなんて、そんなこと分かり切ってるのに……。
(せっかく『どうして』って、聞けそうだったのに……)
『どうして』優しくしてくれるの? とか、『どうして』僕なの? とか、今なら不自然なく聞けたはず。
でも、聞けなかった。
(この短時間で二回もガッカリしたくないもんね……)
勘違いは一回で十分。
僕は抑えつけてるのに溢れる『想い』に頼むからこれ以上零れないでと祈るしかできない。
声を朗らかに決意を伝えるんだけど、本心を見抜かれたくないからやっぱり振り返ることはできない。
昨日までの僕のままではもういられないから変わりたいって気持ちも嘘じゃないんだけど、でも、やっぱり本当は甘えたいし甘やかして欲しい。
でも、『好き』を育てちゃだめだから、我慢。
「虎君がいなくても平気なぐらい頼りになる男になるんだから!」
そう。目下の目標は双子の片割れ、茂斗。
そう言って中学三年生とは思えない落ち着きと聡明さを持つ兄弟の名を挙げれば、虎君は「それは淋しいな」って僕の頭を撫でてくる。
(最終目標は虎君なんだけどね)
僕にとって『最高の兄弟』も『最高の大人』も『最高の男性』も、全部虎君なんだから。
『好き』だって言えないし、『好き』になってもらえないなら、せめて虎君に近づきたい。
なんて、そんなことをもし口に出したら、虎君はどんな顔をするだろう……?
「葵の決意はわかったけど、でも偶には俺にも頼ってくれよ? ……まったく頼られなくなったら俺の生きてる理由がなくなるし」
「あはは。またそんなこと言って!」
あぁ、虎君のそんな冗談が今は辛い。
単純な僕の心は喜ぶし、伝えた『決意』が早くも挫けそうになる。
「いや、結構真剣な話、葵に頼ってもらえなくなったら俺はたぶんまともじゃいられないと思う」
「え?」
背後から聞こえた虎君の声は、お世辞にも朗らかとは言えない、低く押し殺したものだった。そう、滲むのは『辛さ』だ。
僕は思わず振り返る。虎君が心配で。
そして目に入ったその表情に心臓が止まりそうになった。
「虎君……?」
僕を見つめる虎君はとても苦しそうで、そしてとても悲しそうだった。
何故虎君がこんな顔をしているのか分からないけど、僕はその苦しみと悲しみを取り除きたいと思った。だって虎君は僕にとって誰よりも大事な人だから……。
「どうしたの……?」
無意識に伸びた手をその頬に添えれば、虎君は目尻を下げ笑った。でも、やっぱりその笑い顔は悲しげで……。
「葵、俺の我儘、聞いてくれる……?」
「! もちろん! 僕にできることならなんでも言って?」
虎君が元気になるならなんでもするよ! って虎君に詰め寄ったら、虎君はそんな僕を抱きしめてきた。
当然、虎君が『好き』な僕は平静ではいられない。ぎゅっと抱きしめられたら、心臓は途端に大きく鼓動し出す。
「葵に『好きな人』ができるまで、俺の事、頼って欲しい……」
「! えっ……」
「葵に、『好きな人』ができるまで、で、いいから……」
そう言って一層強く抱きしめてくる虎君。僕は窒息しそうな程強く抱きしめられながら、ずっとこの腕の中に居たいって思ってしまう。
(僕、『好きな人』、できたよ……?)
告げられない。でも、告げたい。
僕は唇を噛みしめ、言葉を我慢する。
(今僕を力いっぱい抱きしめてる人が、僕の『好きな人』だよ……)
蓋をしても零れる想いに、僕は虎君の背中に手を回して抱きつきたいって思った。でも……。
(我慢しなくちゃ。これ以上好きにならないように、我慢しなくちゃ……)
僕は虎君の背中に縋りつきたい手を握り締め、心の奥底に沈めたはずの宝箱から溢れる想いがこれ以上零れてしまわぬよう抑えつけた。
「と、らくん、は……」
「何……?」
「っ、虎君、は、……虎君は、優しい、ね……」
漸く絞り出した言葉は、なんてことのない単語だった。虎君が優しいなんて、そんなこと分かり切ってるのに……。
(せっかく『どうして』って、聞けそうだったのに……)
『どうして』優しくしてくれるの? とか、『どうして』僕なの? とか、今なら不自然なく聞けたはず。
でも、聞けなかった。
(この短時間で二回もガッカリしたくないもんね……)
勘違いは一回で十分。
僕は抑えつけてるのに溢れる『想い』に頼むからこれ以上零れないでと祈るしかできない。
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