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特別な人
特別な人 第164話
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「天野君はその『上野君』と喧嘩でもしたのか?」
「えっと、『喧嘩』ではない、かな?」
「? 喧嘩じゃないのか?」
状況がいまいち把握できないって言う虎君。僕はなんて説明したらいいか困ってしまう。
悠栖と上野君は、仲違いしたわけじゃないし、喧嘩したわけでもない。でも、もう友達じゃない。その理由は上野君の『想い』に悠栖が応えられなかったからなんだけど、僕はどうしてもその経緯を話すことができない……。
(だってどうしても考えちゃうんだもん……。虎君も『いつか離れて行っちゃうかもしれない』って……)
これは悠栖と上野君の話であって僕と虎君の事じゃない。でも、分かっていても考えてしまうんだからどうしようもない。
きっとこの状況で説明しようものなら、感情移入して最悪泣いてしまうかもしれない。
僕は、不思議そうな顔をして見つめてくる虎君に空笑いを返すことしかできなくて……。
「ねぇ先輩。その話、本当に興味あるんですかぁ?」
「当たり前だろう? 目の前でこんなに取り乱す天野君を見たら気になるに決まってるだろう?」
笑顔で尋ねる慶史の後ろには相変わらず本音が透けて見える。今回は『絶対興味ないですよね?』って言いたげだ。
僕は、またそうやって虎君に難癖をつけるんだから……って慶史の態度に苦笑してたんだけど、続く虎君の言葉に心臓が止まりそうになってしまった。
「へぇ……。気になるのは、『悠栖が取り乱してるから』、ですか」
「藤原は何が言いたいのかな?」
「いえ、先輩が『他』を気にかけるなんて、ずいぶん優しくなられたなぁと思って」
虎君を煽る慶史の減らず口は止まらない。慶史は、『葵のこと以外興味ないでしょ?』って言いたいんだろうけど、頼むから今それを問い詰めないでほしい。もしも慶史が望む答えが返ってこなかったら、ショックを受けるのは僕なんだから。
(そもそもそんな答えが返ってくるわけないのに……)
『もしも』、なんて、無意識に期待している証拠だ。慶史達が煽るから僕まで虎君の『想い』が僕に向いてる気になってしまってる。
僕は心とは裏腹に、期待する想いに蓋をするように予防線を張り巡らせる。虎君は優しいから悠栖の事を純粋に心配しているんだから。と。僕は関係ないんだから。と……。
「何が言いたいか分からないけど、天野君は葵の『友達』だろう?」
「そうですけど、それが先輩と関係あります?」
「俺との関係なら今言っただろう?」
明確な言葉を求めて追求を止めない慶史に僕の心臓はドキドキしっぱなしだ。
そしてそんな状況で虎君に耳打ちなんてされたら、心臓が口から飛び出そうになるに決まってる。
「……藤原は中等部に進学してから頭の回転が鈍くなったのか?」
「! うひゃっ!」
「葵……?」
耳にかかる吐息混じりの声に変な声が出てしまった。慌てて両手で口を塞ぐも、声は響いた後。
慶史達の驚いた顔に、ほっぺたが熱くなってしまう。そして、すぐ隣で僕を呼ぶ虎君の声に恥ずかしさのあまり涙目になってしまう……。
「ご、めん、びっくりして……」
「いや、俺も驚かせてごめんな?」
赤くなっているだろう顔を見られたくなくて顔を隠す僕。その仕草は不自然極まりないだろうが、分かっていても背に腹は変えられなかった。
虎君は僕の戸惑いも恥ずかしさも全部分かっているようで、『大丈夫だよ』って言葉の代わりに繋いでいた手にぎゅっと力を籠めて笑いかけてくれる。
その笑い顔は蕩けるほど優しくて、僕の心を掴んで放さない……。
「先輩、人のことディスっといてにやけた顔するの止めてもらえません?」
「人聞きが悪いな。昔はもっと理解力があった藤原の事を心配してるんだろ?」
「! 本当っ、いい性格してますねっ!」
爽やかな虎君の笑顔に全身の毛を逆立てて怒りを表す慶史。まるで他人を前にした野良猫のようなその姿に、見かねた朋喜が「もう止めなよ」って声をかける。相手が悪すぎるよ。って。
宥める朋喜に、悔しさを隠さない慶史は顔をしかめたまま足を組み直してそっぽを向いた。
その様子に、これ以上虎君を煽るようなことはしなさそうで正直ホッとした。
「すげぇ……。慶史が口で負けるところ、初めて見た……」
「! 悠栖はバカなのかなぁ?」
「え、なんで俺、睨まれてんの?」
口の達者な慶史と口論したところでいつも言い負かされている悠栖空すれば、確かに今のやり取りは驚くものだろう。
でも、思っていたことを口に出したところはいただけない。不機嫌オーラ全開の慶史がイライラをぶつけないわけがないってことは、友達ならば分かるだろうに。
案の定、慶史は悠栖を笑顔で威圧しだして、笑顔の下に般若のごとき表情を垣間見た悠栖は怯んで身を引いて見せた。
「あーあ! 今すっごい上野と喋りたい気分! まだこっち見てるし、上野のこと、呼ぼうかな!?」
「! ちょ、おまっ、マジ勘弁してくれよっ!!」
「ああもう! 二人ともこんなところで止めてってば! 恥ずかしいじゃない!!」
悠栖に八つ当たりする慶史は伸びをしてまだこちらを伺っているらしい上野君へと視線を向ける。悠栖はそれを全力で阻止するんだけど、その反応がまた慶史の嗜虐心を煽ってしまって、事態を余計に悪化させた。
ギャーギャー騒ぐ二人を止めるのは赤い顔をした朋喜で、ただでさえこの空間に自分達のような学生は場違いなのにこんな風に騒いで注目されるとか場違い以前の問題だよ?! って声を荒げて二人を窘める。まぁその声も十分大きくて目立ってしまっているんだけど。
僕は自分達が悪目立ちしていると知りつつも、三人のやり取りを眺めながら込み上がってくる感情のまま笑ってしまった。
「えっと、『喧嘩』ではない、かな?」
「? 喧嘩じゃないのか?」
状況がいまいち把握できないって言う虎君。僕はなんて説明したらいいか困ってしまう。
悠栖と上野君は、仲違いしたわけじゃないし、喧嘩したわけでもない。でも、もう友達じゃない。その理由は上野君の『想い』に悠栖が応えられなかったからなんだけど、僕はどうしてもその経緯を話すことができない……。
(だってどうしても考えちゃうんだもん……。虎君も『いつか離れて行っちゃうかもしれない』って……)
これは悠栖と上野君の話であって僕と虎君の事じゃない。でも、分かっていても考えてしまうんだからどうしようもない。
きっとこの状況で説明しようものなら、感情移入して最悪泣いてしまうかもしれない。
僕は、不思議そうな顔をして見つめてくる虎君に空笑いを返すことしかできなくて……。
「ねぇ先輩。その話、本当に興味あるんですかぁ?」
「当たり前だろう? 目の前でこんなに取り乱す天野君を見たら気になるに決まってるだろう?」
笑顔で尋ねる慶史の後ろには相変わらず本音が透けて見える。今回は『絶対興味ないですよね?』って言いたげだ。
僕は、またそうやって虎君に難癖をつけるんだから……って慶史の態度に苦笑してたんだけど、続く虎君の言葉に心臓が止まりそうになってしまった。
「へぇ……。気になるのは、『悠栖が取り乱してるから』、ですか」
「藤原は何が言いたいのかな?」
「いえ、先輩が『他』を気にかけるなんて、ずいぶん優しくなられたなぁと思って」
虎君を煽る慶史の減らず口は止まらない。慶史は、『葵のこと以外興味ないでしょ?』って言いたいんだろうけど、頼むから今それを問い詰めないでほしい。もしも慶史が望む答えが返ってこなかったら、ショックを受けるのは僕なんだから。
(そもそもそんな答えが返ってくるわけないのに……)
『もしも』、なんて、無意識に期待している証拠だ。慶史達が煽るから僕まで虎君の『想い』が僕に向いてる気になってしまってる。
僕は心とは裏腹に、期待する想いに蓋をするように予防線を張り巡らせる。虎君は優しいから悠栖の事を純粋に心配しているんだから。と。僕は関係ないんだから。と……。
「何が言いたいか分からないけど、天野君は葵の『友達』だろう?」
「そうですけど、それが先輩と関係あります?」
「俺との関係なら今言っただろう?」
明確な言葉を求めて追求を止めない慶史に僕の心臓はドキドキしっぱなしだ。
そしてそんな状況で虎君に耳打ちなんてされたら、心臓が口から飛び出そうになるに決まってる。
「……藤原は中等部に進学してから頭の回転が鈍くなったのか?」
「! うひゃっ!」
「葵……?」
耳にかかる吐息混じりの声に変な声が出てしまった。慌てて両手で口を塞ぐも、声は響いた後。
慶史達の驚いた顔に、ほっぺたが熱くなってしまう。そして、すぐ隣で僕を呼ぶ虎君の声に恥ずかしさのあまり涙目になってしまう……。
「ご、めん、びっくりして……」
「いや、俺も驚かせてごめんな?」
赤くなっているだろう顔を見られたくなくて顔を隠す僕。その仕草は不自然極まりないだろうが、分かっていても背に腹は変えられなかった。
虎君は僕の戸惑いも恥ずかしさも全部分かっているようで、『大丈夫だよ』って言葉の代わりに繋いでいた手にぎゅっと力を籠めて笑いかけてくれる。
その笑い顔は蕩けるほど優しくて、僕の心を掴んで放さない……。
「先輩、人のことディスっといてにやけた顔するの止めてもらえません?」
「人聞きが悪いな。昔はもっと理解力があった藤原の事を心配してるんだろ?」
「! 本当っ、いい性格してますねっ!」
爽やかな虎君の笑顔に全身の毛を逆立てて怒りを表す慶史。まるで他人を前にした野良猫のようなその姿に、見かねた朋喜が「もう止めなよ」って声をかける。相手が悪すぎるよ。って。
宥める朋喜に、悔しさを隠さない慶史は顔をしかめたまま足を組み直してそっぽを向いた。
その様子に、これ以上虎君を煽るようなことはしなさそうで正直ホッとした。
「すげぇ……。慶史が口で負けるところ、初めて見た……」
「! 悠栖はバカなのかなぁ?」
「え、なんで俺、睨まれてんの?」
口の達者な慶史と口論したところでいつも言い負かされている悠栖空すれば、確かに今のやり取りは驚くものだろう。
でも、思っていたことを口に出したところはいただけない。不機嫌オーラ全開の慶史がイライラをぶつけないわけがないってことは、友達ならば分かるだろうに。
案の定、慶史は悠栖を笑顔で威圧しだして、笑顔の下に般若のごとき表情を垣間見た悠栖は怯んで身を引いて見せた。
「あーあ! 今すっごい上野と喋りたい気分! まだこっち見てるし、上野のこと、呼ぼうかな!?」
「! ちょ、おまっ、マジ勘弁してくれよっ!!」
「ああもう! 二人ともこんなところで止めてってば! 恥ずかしいじゃない!!」
悠栖に八つ当たりする慶史は伸びをしてまだこちらを伺っているらしい上野君へと視線を向ける。悠栖はそれを全力で阻止するんだけど、その反応がまた慶史の嗜虐心を煽ってしまって、事態を余計に悪化させた。
ギャーギャー騒ぐ二人を止めるのは赤い顔をした朋喜で、ただでさえこの空間に自分達のような学生は場違いなのにこんな風に騒いで注目されるとか場違い以前の問題だよ?! って声を荒げて二人を窘める。まぁその声も十分大きくて目立ってしまっているんだけど。
僕は自分達が悪目立ちしていると知りつつも、三人のやり取りを眺めながら込み上がってくる感情のまま笑ってしまった。
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