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特別な人
特別な人 第176話
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報われないなら、好きになりたくなかった。できることなら今すぐこの想いを捨て去りたかった。
でも、どんなに後悔しても虎君を好きな気持ちは無くなってくれなくて、それどころかますます思いが募って惨めだった。
(なんであんな言葉信じちゃったの? 虎君が好きになってくれるわけないって分かってたよね?)
虎君が好きだって自覚した瞬間からこの恋は実らないって分かってた。
でもこれは僕にとって初めての恋。何よりも特別な想い。だから、たとえ実らなくともちゃんと伝えようって決めたのは他でもなく僕自身だ。想いを伝えてちゃんとフラれて恋を終わらせよう。って。
それなのに今の僕は虎君が姉さんを好きだと知って物凄くショックを受けている。勘違いとはいえ一度想いが通じてしまったから、こんな終わりは嫌だと心が現実を受け入れたくないと拒否していた。
僕は勘違いした数時間前の自分に激しい怒りを覚えてしまう。あの時虎君の言葉を勘違いしなければ、ちゃんと正しく理解できていれば、こんな傷つくことも無かったのに。って。
そして怒りは勘違いした自分だけに留まらず、僕の想いはちゃんと成就すると言って背中を押した慶史達にも向いてしまう。
慶史達が無責任に煽るから僕は乗せられて勘違いしてしまったんだ。
なんて、それは何とも自分勝手な言い分だ。慶史達からすれば僕のこの怒りは理不尽極まりないに違いない。
そう分かっているのに、辛すぎる今から逃避するために僕は悪者を求めてしまう。
八つ当たりはダメだと叫ぶ理性的な自分の声は小さくて、慶史達のせいだと責任転嫁する我儘な自分の大きな声には敵わない。
おかげで僕はドロドロした心には憎しみまで追加されて、いよいよ限界を迎えそうだった。
「ごめんね。起きたら鍵は掛けておくから心配しないでね」
早く、一刻も早く一人になりたい。これ以上頭を働かせたらきっと虎君の前で大泣きしてしまうから、だからどうか早く―――。
祈る思いで虎君に告げる僕は、家に入ってと促した。風邪ひいちゃうよ。と。
すると虎君は「分かったよ」と僕の言うことを聞いてくれる。
(よかった……。とりあえず目の前の危機は回避できた……)
突然泣き出して困らせる事態は回避できたと胸を撫で下ろす僕。相反する感情を必死で押し殺しながら再び眠りにつくフリをすれば、虎君はきっとドアを閉めて立ち去ってくれるだろう。
しかし、僕のそんな期待は予想外の虎君の行動に阻まれた。
「! な、なに?」
僕の腰に、足に触れるのは虎君の腕。
突然のことに何が起ったか全く理解できなくてパニックに陥りかけた僕は思わず暴れてしまう。
するとそんな僕に虎君は危ないからジッとするように言ってきて……。
「な、なにす―――」
「移動中にうたた寝するぐらいならいいけど、家に着いたんだし眠いならちゃんとベッドで休んだ方が良いだろ?」
そう言うと虎君は事も無げに僕を抱き上げてきた。車のシートから引きはがされた僕は虎君によっていわゆる『お姫様抱っこ』され、そのまま部屋へと連れて行かれる。
バランスを崩してみっともなく地面に転がりたくないから、僕は反射的に虎君の首に腕を回してしがみついてしまう。
密着する身体に狂おしいほど恋焦がれてしまうのは、もうどうしようもなかった。
(虎君っ……)
どうして僕は姉さんじゃないんだろう?
ううん。姉さんにはなれなくても、せめて女の子に生まれたかった。そうしたら、いつか姉さんへの想いを昇華させた虎君に愛してもらえたかもしれないから。
(虎君、ねぇ、虎君。どうすれば僕を見てくれる? どうすれば男の僕を好きになってくれる……?)
もしも僕が女の子になったら、その時は僕を見てくれる?
そんな心の中での問いかけに返事はもちろんもらえない。それでも僕は問い続ける。虎君が僕を好きになってくれるなら、僕は何だってするよ? と。
(お願い、虎君。どうか僕を好きになって……)
呆れるほど強く願うも、冷静な自分が教えてくれる。それは叶わぬ願いだよ。と。
何が起ろうとも虎君は僕を――男を好きになったりはしない。虎君は愛情深い人だけど、唯一の愛は姉さんに――女の人に向いているんだから。
理解していたつもりだったけど現実として受け止められていなかった僕は、この想いはもう二度と口に出すことはできないとようやく悟った。
口に出したところで虎君に好きになってはもらえない。むしろ同性からの告白に困らせてしまうだけ。
悲しいかな、弟のような存在からの愛の告白に戸惑った虎君を想像するのは実に簡単だった。
「ああ、二人ともおかえり。パーティーは楽しかった?」
「ただいま、樹里斗さん。それなりに楽しかったですよ」
リビングに入るや否や母さんの楽し気な声が聞こえる。首を回せばソファに腰を下ろした父さんと母さんの姿が目に入った。
二人が座るソファの前にはワイングラスが2つローテーブルに並んでいて、どうやら夫婦水入らずの時間を満喫していたようだ。
(……やだ……)
父さんと一緒にすぎしているから母さんの笑顔はいつもとちょっと違っていたし、父さんの表情もまた違って見えた。
それは『親』としての顔じゃなくて、もっとずっと『素顔』に近い顔。父さんを心から愛している女の人の顔と、母さんを心から愛している男の人の顔だ。
愛し合ってる父さんと母さんの姿を見るとなんだか僕も幸せに気持ちになれる。と、今までの僕なら嬉しくて笑みが零れていただろう。
でも、行き場のない想いに囚われた僕は、そんな綺麗な感情は待つことができない。仲睦まじい両親が僕の苦しみをしり目に幸せを見せつけているようにすら思えた……。
(やだ……。こんなの、ヤダよ……)
今の僕の世界は嫉妬に支配されてしまっていて、すべてが憎くてどうしようもなかった。
でも、どんなに後悔しても虎君を好きな気持ちは無くなってくれなくて、それどころかますます思いが募って惨めだった。
(なんであんな言葉信じちゃったの? 虎君が好きになってくれるわけないって分かってたよね?)
虎君が好きだって自覚した瞬間からこの恋は実らないって分かってた。
でもこれは僕にとって初めての恋。何よりも特別な想い。だから、たとえ実らなくともちゃんと伝えようって決めたのは他でもなく僕自身だ。想いを伝えてちゃんとフラれて恋を終わらせよう。って。
それなのに今の僕は虎君が姉さんを好きだと知って物凄くショックを受けている。勘違いとはいえ一度想いが通じてしまったから、こんな終わりは嫌だと心が現実を受け入れたくないと拒否していた。
僕は勘違いした数時間前の自分に激しい怒りを覚えてしまう。あの時虎君の言葉を勘違いしなければ、ちゃんと正しく理解できていれば、こんな傷つくことも無かったのに。って。
そして怒りは勘違いした自分だけに留まらず、僕の想いはちゃんと成就すると言って背中を押した慶史達にも向いてしまう。
慶史達が無責任に煽るから僕は乗せられて勘違いしてしまったんだ。
なんて、それは何とも自分勝手な言い分だ。慶史達からすれば僕のこの怒りは理不尽極まりないに違いない。
そう分かっているのに、辛すぎる今から逃避するために僕は悪者を求めてしまう。
八つ当たりはダメだと叫ぶ理性的な自分の声は小さくて、慶史達のせいだと責任転嫁する我儘な自分の大きな声には敵わない。
おかげで僕はドロドロした心には憎しみまで追加されて、いよいよ限界を迎えそうだった。
「ごめんね。起きたら鍵は掛けておくから心配しないでね」
早く、一刻も早く一人になりたい。これ以上頭を働かせたらきっと虎君の前で大泣きしてしまうから、だからどうか早く―――。
祈る思いで虎君に告げる僕は、家に入ってと促した。風邪ひいちゃうよ。と。
すると虎君は「分かったよ」と僕の言うことを聞いてくれる。
(よかった……。とりあえず目の前の危機は回避できた……)
突然泣き出して困らせる事態は回避できたと胸を撫で下ろす僕。相反する感情を必死で押し殺しながら再び眠りにつくフリをすれば、虎君はきっとドアを閉めて立ち去ってくれるだろう。
しかし、僕のそんな期待は予想外の虎君の行動に阻まれた。
「! な、なに?」
僕の腰に、足に触れるのは虎君の腕。
突然のことに何が起ったか全く理解できなくてパニックに陥りかけた僕は思わず暴れてしまう。
するとそんな僕に虎君は危ないからジッとするように言ってきて……。
「な、なにす―――」
「移動中にうたた寝するぐらいならいいけど、家に着いたんだし眠いならちゃんとベッドで休んだ方が良いだろ?」
そう言うと虎君は事も無げに僕を抱き上げてきた。車のシートから引きはがされた僕は虎君によっていわゆる『お姫様抱っこ』され、そのまま部屋へと連れて行かれる。
バランスを崩してみっともなく地面に転がりたくないから、僕は反射的に虎君の首に腕を回してしがみついてしまう。
密着する身体に狂おしいほど恋焦がれてしまうのは、もうどうしようもなかった。
(虎君っ……)
どうして僕は姉さんじゃないんだろう?
ううん。姉さんにはなれなくても、せめて女の子に生まれたかった。そうしたら、いつか姉さんへの想いを昇華させた虎君に愛してもらえたかもしれないから。
(虎君、ねぇ、虎君。どうすれば僕を見てくれる? どうすれば男の僕を好きになってくれる……?)
もしも僕が女の子になったら、その時は僕を見てくれる?
そんな心の中での問いかけに返事はもちろんもらえない。それでも僕は問い続ける。虎君が僕を好きになってくれるなら、僕は何だってするよ? と。
(お願い、虎君。どうか僕を好きになって……)
呆れるほど強く願うも、冷静な自分が教えてくれる。それは叶わぬ願いだよ。と。
何が起ろうとも虎君は僕を――男を好きになったりはしない。虎君は愛情深い人だけど、唯一の愛は姉さんに――女の人に向いているんだから。
理解していたつもりだったけど現実として受け止められていなかった僕は、この想いはもう二度と口に出すことはできないとようやく悟った。
口に出したところで虎君に好きになってはもらえない。むしろ同性からの告白に困らせてしまうだけ。
悲しいかな、弟のような存在からの愛の告白に戸惑った虎君を想像するのは実に簡単だった。
「ああ、二人ともおかえり。パーティーは楽しかった?」
「ただいま、樹里斗さん。それなりに楽しかったですよ」
リビングに入るや否や母さんの楽し気な声が聞こえる。首を回せばソファに腰を下ろした父さんと母さんの姿が目に入った。
二人が座るソファの前にはワイングラスが2つローテーブルに並んでいて、どうやら夫婦水入らずの時間を満喫していたようだ。
(……やだ……)
父さんと一緒にすぎしているから母さんの笑顔はいつもとちょっと違っていたし、父さんの表情もまた違って見えた。
それは『親』としての顔じゃなくて、もっとずっと『素顔』に近い顔。父さんを心から愛している女の人の顔と、母さんを心から愛している男の人の顔だ。
愛し合ってる父さんと母さんの姿を見るとなんだか僕も幸せに気持ちになれる。と、今までの僕なら嬉しくて笑みが零れていただろう。
でも、行き場のない想いに囚われた僕は、そんな綺麗な感情は待つことができない。仲睦まじい両親が僕の苦しみをしり目に幸せを見せつけているようにすら思えた……。
(やだ……。こんなの、ヤダよ……)
今の僕の世界は嫉妬に支配されてしまっていて、すべてが憎くてどうしようもなかった。
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