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特別な人
特別な人 第181話
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ただ嗚咽交じりに泣きじゃくる僕の傍にいてくれる茂斗は、時々僕の髪を撫でてくれた。
本当なら理由を問い詰めたいだろうに衝動をぐっと耐えて言葉を飲み込んでくれる茂斗は、やっぱりいつもと違って優しかった。
「ご、ごめんね……茂斗……ごめっ……ごめ……」
「ごめんは良いから、今は思いっきり泣いとけ。泣くのは最高のストレス解消らしいし、な?」
高ぶっていた感情が少し落ち着いた。
だから茂斗に説明しなくちゃと僕は口を開いたんだけど、全然言葉が紡げなかった。
謝ることすらままならない僕に、茂斗はこうなったらとことん泣けと髪を乱暴に撫でてくる。
「でもっ、でもぉ……」
「『でも』じゃねぇーよ。だいたい、まだ言いたくないんだろ? 言いたかったら葵は放っておいても喋るもんな?」
理由は知りたい。でも、覚悟できるまでは待ってやるから。
なんて、そんな風に笑わないでよ。
茂斗の笑い顔がとても苦し気だと気づいた僕は、胸に別の痛みを感じた。
(きっとこれは茂斗の痛みだ……)
双子の片割れが隠す『辛さ』が流れ込んできたような錯覚を覚え、僕はますます涙を零して泣いてしまった。
「しげ、しげとっ……、ぼく、つら、くて……」
「ああ。分かってるよ。お前が辛いって事ぐらい、言われなくても分かってる」
無理するなと言ってくれる茂斗に、僕は嗚咽交じりながらも言葉を紡いだ。
虎君が好きで、本当に大好きでどうしようもないのに、僕は虎君を諦めなくちゃならない。
伝えたかったのはたったそれだけの事なのに、泣きじゃくってる僕には全然上手く伝えられなかった。
言葉が聞き取り辛いとかそれ以前に言葉として発音できていたかすら怪しい。
けど茂斗は僕の言葉を汲み取ってくれて、自分の言葉で確認をとってきた。
「つまり、虎には他に好きな奴がいて、葵はそいつの代わりだったってことか?」
茂斗の表情は強張っていて、何処か怒りを抑え込んでいるようにも思えた。
僕は茂斗が何に対して怒っているのか分からなかったけど、言葉選びは悪いけどそういう事だと頷いた。
虎君はきっと僕を身代わりにしているつもりなんて一切ない。ただ僕が勝手に勘違いして盛り上がっていただけ。
それなのに僕は心臓が潰されそうな苦しみを紛らわせるために虎君を悪者にしてしまう……。
(ああ……、僕、本当に嫌な奴だ……)
こんなんじゃ虎君に『自慢の弟』だと思ってもらえない。家族としてでも、好きでいてもらえない。
自業自得なんだけど、それだけはどうしても嫌だった。
「―――っざけんなよ……」
「茂斗……?」
自分の身勝手さが情けなくてまた泣いている僕から手を放す茂斗。
うわ言のように呟かれた言葉には明らかな怒りが滲んでいて、僕は僕の自分勝手さが茂斗を怒らせたのかと焦ってしまう。
でも茂斗は「何があっても葵を泣かせるなって約束だろうがっ」なんて握り拳を自分の掌に叩きつけていて、怒りの対象はどうやら僕ではなくて虎君のようだ。
「や、『約束』……?」
「! え?」
「今、茂斗が言ったんでしょ……? 虎君と何を『約束』してたの……?」
問いかけに驚く茂斗。どうやら自分が声に出していたとは思ってなかったみたいだ。
僕は聞こえた『約束』が何のために交わされたものなのか尋ねた。
茂斗はすごく困った顔をしていたけど、僕を振り返って大きなため息を吐くと昔虎君とある契約を交わしたと教えてくれた。
「何年前のことだったかははっきり覚えてないけど、たぶん10年ぐらい前、かな……。俺、あいつがずっと隠してる『秘密』を全然隠せてないって忠告したことがあるんだよ」
少し気まずそうに茂斗が零した言葉。それに僕は心臓が鷲掴みされたような痛みを覚えた
だって茂斗、10年前って言った。10年前とえいえば、確か虎君が姉さんに好きな人が居ると知った頃じゃなかったっけ……?
僕の脳裏に過ったのは、虎君が抱く姉さんへの恋心を茂斗が知っていたという可能性。
虎君の想いを知った茂斗は、虎君に懐く僕を想って僕を悲しませないという条件で姉さんへの想いを秘密にしていたのかもしれない。
そこまで考えを巡らせて、僕はそういうことかと納得してしまった。
(僕だけ、知らなかったんだ……。虎君のことなら何でも知ってるはずの僕だけが、虎君のことを何も理解できていなかったんだ……)
覚えるのは、激しい羞恥。
虎君の一番の理解者面をしていた僕は、茂斗から見ればとても愚かで浅はかな存在だったに決まっている。もしかしたら鈍感すぎると陰で笑われていたかもしれない。
そんな風に大切な双子の片割れに疑いを持ってしまったせいで、僕は僕を慰めてくれている茂斗に対してすら怒りを覚えてしまった……。
本当なら理由を問い詰めたいだろうに衝動をぐっと耐えて言葉を飲み込んでくれる茂斗は、やっぱりいつもと違って優しかった。
「ご、ごめんね……茂斗……ごめっ……ごめ……」
「ごめんは良いから、今は思いっきり泣いとけ。泣くのは最高のストレス解消らしいし、な?」
高ぶっていた感情が少し落ち着いた。
だから茂斗に説明しなくちゃと僕は口を開いたんだけど、全然言葉が紡げなかった。
謝ることすらままならない僕に、茂斗はこうなったらとことん泣けと髪を乱暴に撫でてくる。
「でもっ、でもぉ……」
「『でも』じゃねぇーよ。だいたい、まだ言いたくないんだろ? 言いたかったら葵は放っておいても喋るもんな?」
理由は知りたい。でも、覚悟できるまでは待ってやるから。
なんて、そんな風に笑わないでよ。
茂斗の笑い顔がとても苦し気だと気づいた僕は、胸に別の痛みを感じた。
(きっとこれは茂斗の痛みだ……)
双子の片割れが隠す『辛さ』が流れ込んできたような錯覚を覚え、僕はますます涙を零して泣いてしまった。
「しげ、しげとっ……、ぼく、つら、くて……」
「ああ。分かってるよ。お前が辛いって事ぐらい、言われなくても分かってる」
無理するなと言ってくれる茂斗に、僕は嗚咽交じりながらも言葉を紡いだ。
虎君が好きで、本当に大好きでどうしようもないのに、僕は虎君を諦めなくちゃならない。
伝えたかったのはたったそれだけの事なのに、泣きじゃくってる僕には全然上手く伝えられなかった。
言葉が聞き取り辛いとかそれ以前に言葉として発音できていたかすら怪しい。
けど茂斗は僕の言葉を汲み取ってくれて、自分の言葉で確認をとってきた。
「つまり、虎には他に好きな奴がいて、葵はそいつの代わりだったってことか?」
茂斗の表情は強張っていて、何処か怒りを抑え込んでいるようにも思えた。
僕は茂斗が何に対して怒っているのか分からなかったけど、言葉選びは悪いけどそういう事だと頷いた。
虎君はきっと僕を身代わりにしているつもりなんて一切ない。ただ僕が勝手に勘違いして盛り上がっていただけ。
それなのに僕は心臓が潰されそうな苦しみを紛らわせるために虎君を悪者にしてしまう……。
(ああ……、僕、本当に嫌な奴だ……)
こんなんじゃ虎君に『自慢の弟』だと思ってもらえない。家族としてでも、好きでいてもらえない。
自業自得なんだけど、それだけはどうしても嫌だった。
「―――っざけんなよ……」
「茂斗……?」
自分の身勝手さが情けなくてまた泣いている僕から手を放す茂斗。
うわ言のように呟かれた言葉には明らかな怒りが滲んでいて、僕は僕の自分勝手さが茂斗を怒らせたのかと焦ってしまう。
でも茂斗は「何があっても葵を泣かせるなって約束だろうがっ」なんて握り拳を自分の掌に叩きつけていて、怒りの対象はどうやら僕ではなくて虎君のようだ。
「や、『約束』……?」
「! え?」
「今、茂斗が言ったんでしょ……? 虎君と何を『約束』してたの……?」
問いかけに驚く茂斗。どうやら自分が声に出していたとは思ってなかったみたいだ。
僕は聞こえた『約束』が何のために交わされたものなのか尋ねた。
茂斗はすごく困った顔をしていたけど、僕を振り返って大きなため息を吐くと昔虎君とある契約を交わしたと教えてくれた。
「何年前のことだったかははっきり覚えてないけど、たぶん10年ぐらい前、かな……。俺、あいつがずっと隠してる『秘密』を全然隠せてないって忠告したことがあるんだよ」
少し気まずそうに茂斗が零した言葉。それに僕は心臓が鷲掴みされたような痛みを覚えた
だって茂斗、10年前って言った。10年前とえいえば、確か虎君が姉さんに好きな人が居ると知った頃じゃなかったっけ……?
僕の脳裏に過ったのは、虎君が抱く姉さんへの恋心を茂斗が知っていたという可能性。
虎君の想いを知った茂斗は、虎君に懐く僕を想って僕を悲しませないという条件で姉さんへの想いを秘密にしていたのかもしれない。
そこまで考えを巡らせて、僕はそういうことかと納得してしまった。
(僕だけ、知らなかったんだ……。虎君のことなら何でも知ってるはずの僕だけが、虎君のことを何も理解できていなかったんだ……)
覚えるのは、激しい羞恥。
虎君の一番の理解者面をしていた僕は、茂斗から見ればとても愚かで浅はかな存在だったに決まっている。もしかしたら鈍感すぎると陰で笑われていたかもしれない。
そんな風に大切な双子の片割れに疑いを持ってしまったせいで、僕は僕を慰めてくれている茂斗に対してすら怒りを覚えてしまった……。
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