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特別な人
特別な人 第185話
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(泣きすぎて瞼が重い……)
いつの間に眠ってしまっていたのか、携帯のアラームの音に目が覚めた。
目が覚めたのに瞼がなかなか持ち上がらなくて、視界はいつもよりもずっとボンヤリしている。
僕はすぐに昨日の夜に泣きすぎたせいだと理解するも、このままリビングに降りてもいいか迷ってしまう。
でも、昨日はお風呂に入っていないからシャワーを浴びたくて、迷いながらもベッドを降りた。
鍵をあけて部屋を後にする僕。とりあえずリビングを通らずにバスルームに向かうルートで歩き出すものの、誰にも会いたくないと思っている時に限って人に会うのが世の常と教えられる。
「おはよう、葵。昨日は随分疲れてたみたいだけど、だいじょ―――! どうしたの、その顔!!」
突然開いたドアにビックリして反応が遅れた。
現れたのは母さんで、お風呂にも入らず寝入ってしまった僕を心配してくれる。
けど、僕の顔を見た母さんは僕を気遣う言葉よりも腫れ上がっているだろう瞼に顔面蒼白になって悲鳴のような声を響かせた。
「何があったの? まさか一晩中泣いてたの? どうして?」
駆け寄る母さんは両手を伸ばして僕の頬を包み込むと、辛そうに顔を歪める。
何も返事をしていないけど、顔を見れば泣き明かした後だとバレバレなんだろうな。
「なんでもない……。お風呂、入ってくる……」
オロオロする母さんの手に手を重ねると、放してと言わんばかりに頬からそれを引き離す。
母さんの顔が一層僕を心配するものに変わったけど、僕は母さんと目が合わせられなくて逃げるように隣を通り過ぎた。
「葵っ……!」
僕を呼ぶ母さんの声は悲痛なもので心臓が痛くなる。
大好きな母さんに心配かけてしまうなんて僕はダメな息子だと自分を責めた。でも、それでも母さんを振り返ることはできなかった。
バスルームに辿り着いた僕は、そこで漸く自分の顔を鏡で見ることになる。
鏡の前に立つ僕の目の前には、瞼が赤く腫れ上がっているお化け顔の自分。この顔を見て、母さんが取り乱すのも無理はないかと力なく笑った。
腫れぼったい瞼を指でなぞると、熱を持っていた。
だから僕はシャワーを浴びるよりも先に洗面台で顔を洗った。真冬の冷たい水が頬を刺したけど、瞼にはとても心地よかった……。
(……だめ、考えるな……)
冷水のおかげで寝起きで働いていなかった頭が活動を開始する。
それが今の僕にはとても迷惑で、必死に考えること考えること全てを打ち止めて頭を空っぽにするように繰り返した。
無意識に考えてしまう事を止めて別の事を考えようと努力するも、結局『別の事』にならなくて、堂々巡り。
シャワーを浴びる頃には素数を数えてそれ以外の思考をシャットアウトする羽目になっていた。
頭を空っぽにしたい。
心も空っぽにしたい。
でも、頭は空っぽになるどころか不安と疑問で満たされていて、心に至ってはドロドロした感情が渦巻いていて苦しかった。
「どうしよう……。こんなんじゃ僕、ダメだよ……」
シャワーを終えて再び洗面台に立つ僕の顔は、さっきよりは幾分マシになっている。
見た目だけ何とか取り繕えればいいかと半ば自棄に近い考えになっている僕は、部屋着に袖を通すととりあえずもう一度眠ろうと考えることを放棄する。
けど、現実は本当に残酷だ。
だって僕がバスルームのドアを開けたら、其処には虎君が立っていたんだから……。
「! と、ら、くん……」
なんで此処にいるの? まさか昨日ずっと姉さんと一緒に居たの?
学校は冬休みだからこんな朝早く虎君が家にいるっていう事は、泊まったっていうこと。
虎君の部屋は今は僕が使ってるしきっとゲストルームで眠ったんだろうけど、でも頭を過ってしまったある可能性に自分の想像力を呪いたくなった。
「ど、どうしたの……? なんで、いるの……?」
びっくりしたと笑わないと。いつも通り、『弟』にならないと。
そう自分に必死に言い聞かせて口を開いたら、墓穴を掘る羽目になって死にたくなる。
(姉さんの部屋に泊まったって言われたら、僕、本当に死んじゃいそうだ……)
姉さんと上手くいったなんて報告、絶対に聞きたくない。
もし虎君の口からその言葉が出たら、僕は一体どうなってしまうんだろう……。
僕は自分の質問にどうか答えないでと祈る思いで立ち尽くす。
すると、僕の前に立ちはだかっている虎君に名前を呼ばれた。思わず肩が震えてしまったのは、仕方ないことだと許して欲しい。
「泣いてたのか……?」
「えっと……、これは、その……」
腫れぼったさは随分マシになったものの、まだ瞼は腫れ上がったまま。
大泣きしたと言葉以上に物語る顔で『泣いてない』と言っても誰も信じてはくれないというもので、僕は『言い訳』を考え、俯いた。
いつの間に眠ってしまっていたのか、携帯のアラームの音に目が覚めた。
目が覚めたのに瞼がなかなか持ち上がらなくて、視界はいつもよりもずっとボンヤリしている。
僕はすぐに昨日の夜に泣きすぎたせいだと理解するも、このままリビングに降りてもいいか迷ってしまう。
でも、昨日はお風呂に入っていないからシャワーを浴びたくて、迷いながらもベッドを降りた。
鍵をあけて部屋を後にする僕。とりあえずリビングを通らずにバスルームに向かうルートで歩き出すものの、誰にも会いたくないと思っている時に限って人に会うのが世の常と教えられる。
「おはよう、葵。昨日は随分疲れてたみたいだけど、だいじょ―――! どうしたの、その顔!!」
突然開いたドアにビックリして反応が遅れた。
現れたのは母さんで、お風呂にも入らず寝入ってしまった僕を心配してくれる。
けど、僕の顔を見た母さんは僕を気遣う言葉よりも腫れ上がっているだろう瞼に顔面蒼白になって悲鳴のような声を響かせた。
「何があったの? まさか一晩中泣いてたの? どうして?」
駆け寄る母さんは両手を伸ばして僕の頬を包み込むと、辛そうに顔を歪める。
何も返事をしていないけど、顔を見れば泣き明かした後だとバレバレなんだろうな。
「なんでもない……。お風呂、入ってくる……」
オロオロする母さんの手に手を重ねると、放してと言わんばかりに頬からそれを引き離す。
母さんの顔が一層僕を心配するものに変わったけど、僕は母さんと目が合わせられなくて逃げるように隣を通り過ぎた。
「葵っ……!」
僕を呼ぶ母さんの声は悲痛なもので心臓が痛くなる。
大好きな母さんに心配かけてしまうなんて僕はダメな息子だと自分を責めた。でも、それでも母さんを振り返ることはできなかった。
バスルームに辿り着いた僕は、そこで漸く自分の顔を鏡で見ることになる。
鏡の前に立つ僕の目の前には、瞼が赤く腫れ上がっているお化け顔の自分。この顔を見て、母さんが取り乱すのも無理はないかと力なく笑った。
腫れぼったい瞼を指でなぞると、熱を持っていた。
だから僕はシャワーを浴びるよりも先に洗面台で顔を洗った。真冬の冷たい水が頬を刺したけど、瞼にはとても心地よかった……。
(……だめ、考えるな……)
冷水のおかげで寝起きで働いていなかった頭が活動を開始する。
それが今の僕にはとても迷惑で、必死に考えること考えること全てを打ち止めて頭を空っぽにするように繰り返した。
無意識に考えてしまう事を止めて別の事を考えようと努力するも、結局『別の事』にならなくて、堂々巡り。
シャワーを浴びる頃には素数を数えてそれ以外の思考をシャットアウトする羽目になっていた。
頭を空っぽにしたい。
心も空っぽにしたい。
でも、頭は空っぽになるどころか不安と疑問で満たされていて、心に至ってはドロドロした感情が渦巻いていて苦しかった。
「どうしよう……。こんなんじゃ僕、ダメだよ……」
シャワーを終えて再び洗面台に立つ僕の顔は、さっきよりは幾分マシになっている。
見た目だけ何とか取り繕えればいいかと半ば自棄に近い考えになっている僕は、部屋着に袖を通すととりあえずもう一度眠ろうと考えることを放棄する。
けど、現実は本当に残酷だ。
だって僕がバスルームのドアを開けたら、其処には虎君が立っていたんだから……。
「! と、ら、くん……」
なんで此処にいるの? まさか昨日ずっと姉さんと一緒に居たの?
学校は冬休みだからこんな朝早く虎君が家にいるっていう事は、泊まったっていうこと。
虎君の部屋は今は僕が使ってるしきっとゲストルームで眠ったんだろうけど、でも頭を過ってしまったある可能性に自分の想像力を呪いたくなった。
「ど、どうしたの……? なんで、いるの……?」
びっくりしたと笑わないと。いつも通り、『弟』にならないと。
そう自分に必死に言い聞かせて口を開いたら、墓穴を掘る羽目になって死にたくなる。
(姉さんの部屋に泊まったって言われたら、僕、本当に死んじゃいそうだ……)
姉さんと上手くいったなんて報告、絶対に聞きたくない。
もし虎君の口からその言葉が出たら、僕は一体どうなってしまうんだろう……。
僕は自分の質問にどうか答えないでと祈る思いで立ち尽くす。
すると、僕の前に立ちはだかっている虎君に名前を呼ばれた。思わず肩が震えてしまったのは、仕方ないことだと許して欲しい。
「泣いてたのか……?」
「えっと……、これは、その……」
腫れぼったさは随分マシになったものの、まだ瞼は腫れ上がったまま。
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