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特別な人
特別な人 第199話
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「葵、大丈夫……?」
僕の嗚咽が響くトイレに、もう一つの音が混じった。
それは慶史の声で、ドアをノックした後遠慮がちに鍵を開けて欲しいと乞われた。
(なんで? なんで慶史が……?)
「慶史、マモ大丈夫か……?」
「! オイ悠栖、俺の言ったこと理解できなかったのか? 俺、『外で待ってろ』って言ったよな?」
「そ、そんな怒んなよ。言葉遣い、男に戻ってるぞっ」
「俺は男だバカ悠栖! さっさと出て行け!」
ドアの外で聞こえるのは声を荒げた慶史とおっかなびっくり喋る悠栖の声。そして、おそらく慶史が悠栖を蹴ったような鈍い音。
僕はトイレットペーパーを引き出して口元と目尻を拭って立ち上がると、ゆっくりとドアを開けた。
「! 葵! 大丈夫?」
「大丈夫……。色々、ごめん……」
僕が出て行くや否や駆け寄ってくる慶史は本当に心配そうな顔をしていて、それに安心する自分は何処までも嫌な人間だと思った。
昨晩のことも含めて謝るんだけど、明確には言えなかった。本当、僕って狡い奴だ……。
「俺こそごめん、葵の気持ち考えずに無責任なこと言った。葵が怒るのも当然だったって反省した。だから、……だから、仲直りしよ?」
「慶史っ……」
「ごめん、葵。……もう一人で泣かないで……」
僕がまた泣きだす前に慶史が僕を抱き締めてくる。
泣き顔が他の人に見えないように気を使ってくれる慶史に、僕は声を上げて泣き出してしまった。
何が悲しいのか、何が辛いのか、もう分からない。
ただ溢れてくる悲しみと胸を締め付ける辛さに零れてくる涙を堪えることができない……。
「葵。葵、ごめんね。辛い時に余計なこと考えさせて本当にごめん」
泣きじゃくる僕の髪を撫でながら謝ってくる慶史の声も辛さが滲んでる。
慶史を酷く傷つけながら、慶史に救ってもらっている僕。
それなのに僕は慶史を少しも癒してあげられていない。救ってあげられていない。
罪悪感も相まって余計に泣けてくる僕は、完全に負のスパイラルに嵌っていた。
「……悠栖も、ごめん。八つ当たりして悪かった」
「! い、いや、別にいいけど……。マモ、大丈夫なのか……?」
「だいじょ、ぶ。……心配かけてごめんね……」
悠栖の立場で考えれば、慶史も僕もかなり理不尽なことをしていると思う。
でも、それでも僕を心配してくれる優しい友達。
僕は友達の優しさに触れて、こんな最高の友達がいるんだからそれ以上を欲しいと思っちゃダメだと自分に言い聞かせる。きっとこの胸の痛みは欲張りな自分に神様が与えた罰なんだ。って。
「ねぇ、慶史君。さっきから携帯が何度も鳴ってるんだけど、葵君の様子は―――、って、どうしたの? 何があったの?」
「大丈夫。ちょっと行き違いがあっただけ。携帯預かっててくれてありがとう」
僕の背中をさすりながら、慶史はトイレに顔を見せた朋喜から震えている携帯を受け取った。着信の真っ只中みたいだ。
きっと電話に出るだろう慶史に気を使わせないために僕は離れようとするんだけど、何故か慶史は僕の頭を自分の肩に押し付けて離れさせてくれなかった。
「慶史、電話……」
「平気平気。後でかけ直すから」
「でも……」
「相手、茂斗だからそんな顔しない。分かった?」
嘘じゃないよ。って携帯のディスプレイを見せてくれる慶史。
確かにそこには『茂斗』の文字があって、言葉は本当だとちょっとだけ安心する。
でもすぐにどうして茂斗が慶史に連絡を? って疑問が生まれて、思わず慶史を見てしまった。
ばっちりあった目に、慶史は肩を竦ませて僕の疑問に対する答えを教えてくれた。
「携帯放置してるのは誰?」
と。
「……僕、です」
「あのブラコンが今の葵を放っておくわけないよね。『葵の状況を教えろ!』ってしつこくて敵わないよ、まったく」
「ご、ごめん……」
「嘘だよ、嘘。まぁ、めちゃくちゃ心配してるのは本当だけど」
肩を落とす僕に、慶史はまだ鳴り続けている携帯を片手に「部屋に戻ろう」って笑った。
僕の嗚咽が響くトイレに、もう一つの音が混じった。
それは慶史の声で、ドアをノックした後遠慮がちに鍵を開けて欲しいと乞われた。
(なんで? なんで慶史が……?)
「慶史、マモ大丈夫か……?」
「! オイ悠栖、俺の言ったこと理解できなかったのか? 俺、『外で待ってろ』って言ったよな?」
「そ、そんな怒んなよ。言葉遣い、男に戻ってるぞっ」
「俺は男だバカ悠栖! さっさと出て行け!」
ドアの外で聞こえるのは声を荒げた慶史とおっかなびっくり喋る悠栖の声。そして、おそらく慶史が悠栖を蹴ったような鈍い音。
僕はトイレットペーパーを引き出して口元と目尻を拭って立ち上がると、ゆっくりとドアを開けた。
「! 葵! 大丈夫?」
「大丈夫……。色々、ごめん……」
僕が出て行くや否や駆け寄ってくる慶史は本当に心配そうな顔をしていて、それに安心する自分は何処までも嫌な人間だと思った。
昨晩のことも含めて謝るんだけど、明確には言えなかった。本当、僕って狡い奴だ……。
「俺こそごめん、葵の気持ち考えずに無責任なこと言った。葵が怒るのも当然だったって反省した。だから、……だから、仲直りしよ?」
「慶史っ……」
「ごめん、葵。……もう一人で泣かないで……」
僕がまた泣きだす前に慶史が僕を抱き締めてくる。
泣き顔が他の人に見えないように気を使ってくれる慶史に、僕は声を上げて泣き出してしまった。
何が悲しいのか、何が辛いのか、もう分からない。
ただ溢れてくる悲しみと胸を締め付ける辛さに零れてくる涙を堪えることができない……。
「葵。葵、ごめんね。辛い時に余計なこと考えさせて本当にごめん」
泣きじゃくる僕の髪を撫でながら謝ってくる慶史の声も辛さが滲んでる。
慶史を酷く傷つけながら、慶史に救ってもらっている僕。
それなのに僕は慶史を少しも癒してあげられていない。救ってあげられていない。
罪悪感も相まって余計に泣けてくる僕は、完全に負のスパイラルに嵌っていた。
「……悠栖も、ごめん。八つ当たりして悪かった」
「! い、いや、別にいいけど……。マモ、大丈夫なのか……?」
「だいじょ、ぶ。……心配かけてごめんね……」
悠栖の立場で考えれば、慶史も僕もかなり理不尽なことをしていると思う。
でも、それでも僕を心配してくれる優しい友達。
僕は友達の優しさに触れて、こんな最高の友達がいるんだからそれ以上を欲しいと思っちゃダメだと自分に言い聞かせる。きっとこの胸の痛みは欲張りな自分に神様が与えた罰なんだ。って。
「ねぇ、慶史君。さっきから携帯が何度も鳴ってるんだけど、葵君の様子は―――、って、どうしたの? 何があったの?」
「大丈夫。ちょっと行き違いがあっただけ。携帯預かっててくれてありがとう」
僕の背中をさすりながら、慶史はトイレに顔を見せた朋喜から震えている携帯を受け取った。着信の真っ只中みたいだ。
きっと電話に出るだろう慶史に気を使わせないために僕は離れようとするんだけど、何故か慶史は僕の頭を自分の肩に押し付けて離れさせてくれなかった。
「慶史、電話……」
「平気平気。後でかけ直すから」
「でも……」
「相手、茂斗だからそんな顔しない。分かった?」
嘘じゃないよ。って携帯のディスプレイを見せてくれる慶史。
確かにそこには『茂斗』の文字があって、言葉は本当だとちょっとだけ安心する。
でもすぐにどうして茂斗が慶史に連絡を? って疑問が生まれて、思わず慶史を見てしまった。
ばっちりあった目に、慶史は肩を竦ませて僕の疑問に対する答えを教えてくれた。
「携帯放置してるのは誰?」
と。
「……僕、です」
「あのブラコンが今の葵を放っておくわけないよね。『葵の状況を教えろ!』ってしつこくて敵わないよ、まったく」
「ご、ごめん……」
「嘘だよ、嘘。まぁ、めちゃくちゃ心配してるのは本当だけど」
肩を落とす僕に、慶史はまだ鳴り続けている携帯を片手に「部屋に戻ろう」って笑った。
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