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特別な人
特別な人 第222話
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迷惑をかけっぱなしの僕に慶史が呆れるのは当然だ。
でも、心のどこかで僕は慶史が僕を見捨てるはずがないって傲慢な考えを持っていたのかもしれない。
だって、僕は今物凄く傷ついているから。当然だと思っているくせに、信じられないとも思ってしまっていたから。
「あ、甘えてばかりで、ごめん……」
血の気が引く思いをしながらも、僕は必死で慶史に謝った。
声が喉につっかえて苦しかったけど、どうしても謝らなければならないと、必死に。
すると慶史は苦笑を浮かべ、「口だけの謝罪は言葉の信憑性を下げるだけだよ」って僕の頭をポンポンと叩いた。
「慶史……」
「そんな泣きそうな顔しない。……俺が限界って言ったのは、葵が思ってる事に対してじゃないから安心しなよ」
優しく笑う慶史。僕はその笑顔に涙を潤ませた。
「らしくない葵を見るのが限界ってこと。俺は、葵には幸せの中で笑っててほしいんだよ。誰に対しても優しくて無邪気なままでいて欲しいんだよ」
僕を見つめたまま、慶史は目尻を下げて微笑む。でも、その微笑みは悲しみを称えている気がした。
「だから、こんな風に傷ついて欲しくないし、人を疑って自分の殻に閉じこもって欲しくもない。……前みたいに、幸せそうに、楽しそうに笑っててほしいんだよ」
「な、んで……? どうしてそんな風に思ってくれるの……?」
慶史にそこまで大事に思ってもらえるような人間じゃないのに、どうしてそんな風に僕のことを思ってくれるのか。
僕は、僕こそ慶史にそうであって欲しいと思っているのにと伝えた。
そしたら慶史は僕から手を離すと、「後悔してるから」って力なく呟いた。
「何に……?」
「葵に歪んだ愛情があるって教えたのは俺だから……」
慶史は言った。葵の愛に満ちた人生に黒い闇を存在させたのは自分だ。と。愛情を信じ切っていた葵に愛情という名の欲望が存在するという現実を突きつけたのは自分の過去だ。と……。
「俺はそれがどうしても許せない……」
「そんな……。自分の過去をそんな風に言わないでよ……」
「無理だよ。俺の過去が葵の世界に影を落としたらどうしようって、それだけがずっと怖かったんだから。俺は葵の優しさに救われたのに、その俺が葵の優しさを奪うかもしれないって、ずっと―――、だから、だから葵の生きる優しい世界は俺が守らないとって、ずっと必死なんだよ」
「慶史……」
「だから、今の葵を見るのは凄く辛い。葵の世界が変わってしまいそうで、凄く、……本当、凄く怖いんだ……」
どんな葵でも好きだし大事な友達だと思ってるけど、葵には絶対にこっち側に来てほしくない。
そう僕を見下ろす慶史は、涙こそ見えなかったが泣き笑いのような表情だった。
「ねぇ葵。このままだと必ず後悔するよ。お願いだから、もう一度先輩と話そう?」
懇願する慶史の眼差しは必死なものだった。
僕は話を聞きながら慶史のためにも『分かった』と頷かないとと思った。今度こそ言わないと。って。
(なんで……? なんで、声が出ないの……?)
声が出ない。ううん、唇すら動かない。
何かが僕の意思を邪魔しているように思えるほど僕の全てがバラバラだった。
頭で考えながらも心がそれを拒否する。身体はどちらに従えばいいか分からず、動かない。
「葵……。そんなに、嫌なの……?」
慶史の顔が辛そうに歪んで、気づいた。僕はまた泣いていた。と。
違うと首を振るも、慶史は余計に辛そうな顔をして僕の手を強く握りしめてきた。
「逃げても何も変わらない。それは分かってるよね?」
分かってる。逃げても何も変わらないし、何も良くならないって、ちゃんと分かってる。
でも、それでも僕はどうしても踏み留まれない。前を向くことができない。
「いい、葵。よく聞いて。『時間が解決してくれる』ってよく言われるけど、時間は過ぎるだけで何もしちゃくれない。解決するためには自分が変わらないと解決なんて永遠にしないんだよ」
むしろ逃げ続けていれば時間は攻撃してくるよ。
そう僕に凄んだ慶史。
経験に基づいた話だと言った慶史は、逃げ癖が付いたら二度と立ち向かえないんだと苦し気だった。
「真実を知った時に好きな人を失うことが怖いって気持ちはなんとなくだけど理解できる。でも、本当にそうなの? 本当に、あの人は葵の気持ちに応えられないからって居なくなっちゃうような無責任な人なの?」
「! 違う! 虎君は! 虎君は、誰よりも優しい人だもんっ!」
「なら、何が怖いの? 葵の気持ちが変わっても、あの人があの人であることは変わらないんだよ? 葵の気持ちが落ち着くまで、ずっとずっと寄り添ってくれる人なんじゃないの?」
慶史の悲痛な声は僕の心を容赦なく刺してくる。
刺さった真実に、心臓から血が吹き出して溺れ死んじゃいそうな錯覚を覚える僕。
慶史が言いたいことは、分かる。理解できる。僕だって、そう思うから。
でも、それでも現実に向き合えない一番の理由は、辛いからでも苦しいからでもない。
(これ以上僕は僕を知りたくない……)
醜い自分の本性と向き合う勇気が、僕にはまだなかっただけなんだ……。
でも、心のどこかで僕は慶史が僕を見捨てるはずがないって傲慢な考えを持っていたのかもしれない。
だって、僕は今物凄く傷ついているから。当然だと思っているくせに、信じられないとも思ってしまっていたから。
「あ、甘えてばかりで、ごめん……」
血の気が引く思いをしながらも、僕は必死で慶史に謝った。
声が喉につっかえて苦しかったけど、どうしても謝らなければならないと、必死に。
すると慶史は苦笑を浮かべ、「口だけの謝罪は言葉の信憑性を下げるだけだよ」って僕の頭をポンポンと叩いた。
「慶史……」
「そんな泣きそうな顔しない。……俺が限界って言ったのは、葵が思ってる事に対してじゃないから安心しなよ」
優しく笑う慶史。僕はその笑顔に涙を潤ませた。
「らしくない葵を見るのが限界ってこと。俺は、葵には幸せの中で笑っててほしいんだよ。誰に対しても優しくて無邪気なままでいて欲しいんだよ」
僕を見つめたまま、慶史は目尻を下げて微笑む。でも、その微笑みは悲しみを称えている気がした。
「だから、こんな風に傷ついて欲しくないし、人を疑って自分の殻に閉じこもって欲しくもない。……前みたいに、幸せそうに、楽しそうに笑っててほしいんだよ」
「な、んで……? どうしてそんな風に思ってくれるの……?」
慶史にそこまで大事に思ってもらえるような人間じゃないのに、どうしてそんな風に僕のことを思ってくれるのか。
僕は、僕こそ慶史にそうであって欲しいと思っているのにと伝えた。
そしたら慶史は僕から手を離すと、「後悔してるから」って力なく呟いた。
「何に……?」
「葵に歪んだ愛情があるって教えたのは俺だから……」
慶史は言った。葵の愛に満ちた人生に黒い闇を存在させたのは自分だ。と。愛情を信じ切っていた葵に愛情という名の欲望が存在するという現実を突きつけたのは自分の過去だ。と……。
「俺はそれがどうしても許せない……」
「そんな……。自分の過去をそんな風に言わないでよ……」
「無理だよ。俺の過去が葵の世界に影を落としたらどうしようって、それだけがずっと怖かったんだから。俺は葵の優しさに救われたのに、その俺が葵の優しさを奪うかもしれないって、ずっと―――、だから、だから葵の生きる優しい世界は俺が守らないとって、ずっと必死なんだよ」
「慶史……」
「だから、今の葵を見るのは凄く辛い。葵の世界が変わってしまいそうで、凄く、……本当、凄く怖いんだ……」
どんな葵でも好きだし大事な友達だと思ってるけど、葵には絶対にこっち側に来てほしくない。
そう僕を見下ろす慶史は、涙こそ見えなかったが泣き笑いのような表情だった。
「ねぇ葵。このままだと必ず後悔するよ。お願いだから、もう一度先輩と話そう?」
懇願する慶史の眼差しは必死なものだった。
僕は話を聞きながら慶史のためにも『分かった』と頷かないとと思った。今度こそ言わないと。って。
(なんで……? なんで、声が出ないの……?)
声が出ない。ううん、唇すら動かない。
何かが僕の意思を邪魔しているように思えるほど僕の全てがバラバラだった。
頭で考えながらも心がそれを拒否する。身体はどちらに従えばいいか分からず、動かない。
「葵……。そんなに、嫌なの……?」
慶史の顔が辛そうに歪んで、気づいた。僕はまた泣いていた。と。
違うと首を振るも、慶史は余計に辛そうな顔をして僕の手を強く握りしめてきた。
「逃げても何も変わらない。それは分かってるよね?」
分かってる。逃げても何も変わらないし、何も良くならないって、ちゃんと分かってる。
でも、それでも僕はどうしても踏み留まれない。前を向くことができない。
「いい、葵。よく聞いて。『時間が解決してくれる』ってよく言われるけど、時間は過ぎるだけで何もしちゃくれない。解決するためには自分が変わらないと解決なんて永遠にしないんだよ」
むしろ逃げ続けていれば時間は攻撃してくるよ。
そう僕に凄んだ慶史。
経験に基づいた話だと言った慶史は、逃げ癖が付いたら二度と立ち向かえないんだと苦し気だった。
「真実を知った時に好きな人を失うことが怖いって気持ちはなんとなくだけど理解できる。でも、本当にそうなの? 本当に、あの人は葵の気持ちに応えられないからって居なくなっちゃうような無責任な人なの?」
「! 違う! 虎君は! 虎君は、誰よりも優しい人だもんっ!」
「なら、何が怖いの? 葵の気持ちが変わっても、あの人があの人であることは変わらないんだよ? 葵の気持ちが落ち着くまで、ずっとずっと寄り添ってくれる人なんじゃないの?」
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刺さった真実に、心臓から血が吹き出して溺れ死んじゃいそうな錯覚を覚える僕。
慶史が言いたいことは、分かる。理解できる。僕だって、そう思うから。
でも、それでも現実に向き合えない一番の理由は、辛いからでも苦しいからでもない。
(これ以上僕は僕を知りたくない……)
醜い自分の本性と向き合う勇気が、僕にはまだなかっただけなんだ……。
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