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大切な人
大切な人 第2話
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「虎君、もう大丈夫だよ」
「! 本当に……?」
「うん。大丈夫。もう全然平気」
もう大丈夫だからこんなに強く抱きしめてくれなくても平気だよ。
そう言って頬っぺたに触れたら、掌にキスしてくれる虎君。
(ああ……。やっぱり僕、虎君が大好きだ……)
堪らず虎君に抱き着く僕。
すると僕の背後から「だからいちゃつくなって」って呆れたような茂斗の声が聞こえた。
僕は虎君に抱き着いたまま茂斗を振り返ると、
「虎君に免じて今日は怒らないでいてあげる」
笑ってそう言い返した。
虎君が止めてくれなかったら、僕は間違いなく茂斗と喧嘩していた。
そして僕達の兄弟喧嘩はだいたいいつも僕が一方的に怒っているだけなんだけど、喧嘩の後決まって僕は双子の兄弟に酷い言葉を浴びせてしまったと落ち込んで、茂斗は目に見えて落ち込む僕のご機嫌を取るために結構な時間を割かなくてはならなくなる。
それがいつもの流れだ。
でも今回は虎君が止めてくれたから、僕は落ち込まずに済んだし、茂斗も大変な面倒な思いをしなくて済んだ。
だから僕は虎君に感謝したし、茂斗も感謝するべきだと思う。
まぁ茂斗はそんなこと全然分かってないだろうけど。
「は? 何のことだよ?」
ほら、やっぱり!
僕は茂斗に舌を出すと、「自分で考えれば?」と悪態をつく。
その後すぐに不満げな声が返ってきたけど、僕はもうそれを無視して虎君にぎゅっと抱き着いて幸せな時間を過ごす。
「無視すんなよ、葵。可愛くねーぞ」
「今の言葉は聞き捨てならないな。葵の何処が可愛くないって言うんだ?」
「虎君、茂斗のことは放っておいていいよ。どうせ凪ちゃんが来ればすぐご機嫌になるんだし。ね?」
「葵がそう言うなら、放っておこうかな」
茂斗に意識を向ける虎君の頬っぺたに余所見しちゃヤダってキスを贈れば、虎君は僕の首筋に唇を落として、チュッとキスをするとそのまま抱きしめてくれる。
その甘えるような態度が愛しくて、僕はもっともっと虎君の傍にいたいと身を捩って虎君の膝の上に座ってギューッと抱き着いた。
「だーかーら! 頼むから見せつけんなよ! ムカつく奴等だな!」
「良いでしょ! いつもは自分達の方が見せつけてるくせに!」
人の話聞けよ! って声を荒げる茂斗。
でも、今まで散々凪ちゃんとラブラブなところを周りに見せつけていた茂斗には『見せつけるな』なんて絶対言われたくない。昨日だって夕方まで凪ちゃんと仲良く過ごしていたくせに。
(僕は虎君に会うのは一日ぶりなんだからね!?)
今月の頭に中等部を卒業した僕は四月の高等部の入学式まで宿題もない春休みの真っ只中。
『やらなければならないこと』のない長期の休みとなれば、大好きな人と付き合うことになって二カ月目の今の時期は毎日と言わずずっと一緒にいたいと思うのが当然だろう。
でも、悲しいかな一昨日の午後から今日の朝まで僕は虎君と一緒に過ごすことができなかった。
もちろん虎君も一緒にいたいって思ってくれているんだけど、でも虎君にはどうしても僕と過ごせない理由があった。
それは、大学の講義を受けに行っているから。本来二月の半ばから三月いっぱいまで大学は春休み期間なんだけど、僕のせいで年が明けてからおよそ一カ月もの間虎君は大学を休んでいたから、その間の補習を受けに行っているのだ。
虎君が大学を休んでいた間、年度末ということもあって進級試験や必修講義がいくつかあったらしい。
本来ならそれらを欠席した学生は有無を言わさず進級不可――つまり留年が言い渡されるんだけど、海音君が先生達に『病気療養中』と根回ししてくれたおかげで虎君は特別に進級試験の追試と必修講義の補習を受けさせてもらえることになった。
そしてその追試と補習は先生達の都合を優先して春休みに行われることになっているというわけだ。
だから、僕も虎君も毎日ずっと一緒にいたいって思っているけど実際は会えない日がちょくちょくあったりして、寂しい。
でもこうなったのは全部自分のせいだから『会いたい』ってわがままは一切言ってないし、虎君のためにも会えない寂しさを口に出すこともしていない。
その代わり、会えた時はその寂しさを埋めるようにこうやって引っ付いて過ごしてる。
僕と虎君にとってはこれはお互いのために必要な行為であり時間だ。
それなのに毎日毎日凪ちゃんと朝から晩まで過ごしている茂斗に『いちゃつくな』と言われるなんて、本当に腹が立つし、そんなことを言われる筋合いは全く無いって思う。
(昨日凪ちゃんと別れてからまだ12時間も経ってないくせに『会えない』って八つ当たりしないで欲しいよ)
ブスッとむくれる僕が茂斗を恨めしく思って睨めば、茂斗から返ってくるのは「俺達とお前らじゃ関係が違うだろうが!」って苛立った声を返してきた。
「何言ってるの? 『関係』ってわけわかんないんだけど」
僕と虎君、茂斗と凪ちゃん。二組の恋人達にいったいどんな違いがあるというのか。
(まぁ僕と虎君は『男同士』だけど……)
でも、性別以外はまるっきり一緒だよね?
少し年の離れた幼馴染でお互いがお互いを『大好き』な恋人同士。
年上の恋人はちょっぴりヤキモチ焼きで心配性だけど、そんな愛情深い恋人に僕達は夢中。
僕にとって虎君は、凪ちゃんにとって茂斗は、物心ついた頃から一緒にいる世界で一番大切な人だ。
「! 本当に……?」
「うん。大丈夫。もう全然平気」
もう大丈夫だからこんなに強く抱きしめてくれなくても平気だよ。
そう言って頬っぺたに触れたら、掌にキスしてくれる虎君。
(ああ……。やっぱり僕、虎君が大好きだ……)
堪らず虎君に抱き着く僕。
すると僕の背後から「だからいちゃつくなって」って呆れたような茂斗の声が聞こえた。
僕は虎君に抱き着いたまま茂斗を振り返ると、
「虎君に免じて今日は怒らないでいてあげる」
笑ってそう言い返した。
虎君が止めてくれなかったら、僕は間違いなく茂斗と喧嘩していた。
そして僕達の兄弟喧嘩はだいたいいつも僕が一方的に怒っているだけなんだけど、喧嘩の後決まって僕は双子の兄弟に酷い言葉を浴びせてしまったと落ち込んで、茂斗は目に見えて落ち込む僕のご機嫌を取るために結構な時間を割かなくてはならなくなる。
それがいつもの流れだ。
でも今回は虎君が止めてくれたから、僕は落ち込まずに済んだし、茂斗も大変な面倒な思いをしなくて済んだ。
だから僕は虎君に感謝したし、茂斗も感謝するべきだと思う。
まぁ茂斗はそんなこと全然分かってないだろうけど。
「は? 何のことだよ?」
ほら、やっぱり!
僕は茂斗に舌を出すと、「自分で考えれば?」と悪態をつく。
その後すぐに不満げな声が返ってきたけど、僕はもうそれを無視して虎君にぎゅっと抱き着いて幸せな時間を過ごす。
「無視すんなよ、葵。可愛くねーぞ」
「今の言葉は聞き捨てならないな。葵の何処が可愛くないって言うんだ?」
「虎君、茂斗のことは放っておいていいよ。どうせ凪ちゃんが来ればすぐご機嫌になるんだし。ね?」
「葵がそう言うなら、放っておこうかな」
茂斗に意識を向ける虎君の頬っぺたに余所見しちゃヤダってキスを贈れば、虎君は僕の首筋に唇を落として、チュッとキスをするとそのまま抱きしめてくれる。
その甘えるような態度が愛しくて、僕はもっともっと虎君の傍にいたいと身を捩って虎君の膝の上に座ってギューッと抱き着いた。
「だーかーら! 頼むから見せつけんなよ! ムカつく奴等だな!」
「良いでしょ! いつもは自分達の方が見せつけてるくせに!」
人の話聞けよ! って声を荒げる茂斗。
でも、今まで散々凪ちゃんとラブラブなところを周りに見せつけていた茂斗には『見せつけるな』なんて絶対言われたくない。昨日だって夕方まで凪ちゃんと仲良く過ごしていたくせに。
(僕は虎君に会うのは一日ぶりなんだからね!?)
今月の頭に中等部を卒業した僕は四月の高等部の入学式まで宿題もない春休みの真っ只中。
『やらなければならないこと』のない長期の休みとなれば、大好きな人と付き合うことになって二カ月目の今の時期は毎日と言わずずっと一緒にいたいと思うのが当然だろう。
でも、悲しいかな一昨日の午後から今日の朝まで僕は虎君と一緒に過ごすことができなかった。
もちろん虎君も一緒にいたいって思ってくれているんだけど、でも虎君にはどうしても僕と過ごせない理由があった。
それは、大学の講義を受けに行っているから。本来二月の半ばから三月いっぱいまで大学は春休み期間なんだけど、僕のせいで年が明けてからおよそ一カ月もの間虎君は大学を休んでいたから、その間の補習を受けに行っているのだ。
虎君が大学を休んでいた間、年度末ということもあって進級試験や必修講義がいくつかあったらしい。
本来ならそれらを欠席した学生は有無を言わさず進級不可――つまり留年が言い渡されるんだけど、海音君が先生達に『病気療養中』と根回ししてくれたおかげで虎君は特別に進級試験の追試と必修講義の補習を受けさせてもらえることになった。
そしてその追試と補習は先生達の都合を優先して春休みに行われることになっているというわけだ。
だから、僕も虎君も毎日ずっと一緒にいたいって思っているけど実際は会えない日がちょくちょくあったりして、寂しい。
でもこうなったのは全部自分のせいだから『会いたい』ってわがままは一切言ってないし、虎君のためにも会えない寂しさを口に出すこともしていない。
その代わり、会えた時はその寂しさを埋めるようにこうやって引っ付いて過ごしてる。
僕と虎君にとってはこれはお互いのために必要な行為であり時間だ。
それなのに毎日毎日凪ちゃんと朝から晩まで過ごしている茂斗に『いちゃつくな』と言われるなんて、本当に腹が立つし、そんなことを言われる筋合いは全く無いって思う。
(昨日凪ちゃんと別れてからまだ12時間も経ってないくせに『会えない』って八つ当たりしないで欲しいよ)
ブスッとむくれる僕が茂斗を恨めしく思って睨めば、茂斗から返ってくるのは「俺達とお前らじゃ関係が違うだろうが!」って苛立った声を返してきた。
「何言ってるの? 『関係』ってわけわかんないんだけど」
僕と虎君、茂斗と凪ちゃん。二組の恋人達にいったいどんな違いがあるというのか。
(まぁ僕と虎君は『男同士』だけど……)
でも、性別以外はまるっきり一緒だよね?
少し年の離れた幼馴染でお互いがお互いを『大好き』な恋人同士。
年上の恋人はちょっぴりヤキモチ焼きで心配性だけど、そんな愛情深い恋人に僕達は夢中。
僕にとって虎君は、凪ちゃんにとって茂斗は、物心ついた頃から一緒にいる世界で一番大切な人だ。
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