特別な人

鏡由良

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大切な人

大切な人 第19話

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「え、何この状況」
「ああ、電話終わったの? 慶史君。ご両親はどうだった?」
「久しぶりに会えると思ったのにってボヤかれたけど、まぁ葵が相手なら仕方ないって納得はしてくれたよ」
 僕をもみくちゃにしている悠栖とそれを見て笑っている朋喜の姿に、実家への電話を終えて戻ってきた慶史が肩を竦ませ「あんまり葵を苛めないでよ」っと僕を気遣ってくれる。
 優しい慶史に僕達は視線を合わせ笑って、それに慶史は何故笑っているのか分からずちょっぴり不機嫌な顔をする。
「慶史ってマジでマモ大好きだよな。そりゃ先輩に嫉妬されるわ」
「は? 何? バカ悠栖は俺に喧嘩売ってるの?」
「いや、事実を述べただけだろ? もし俺が先輩の立場だったら、やっぱ面白くねぇーって思うわぁ」
「ふざけんな! 俺は一度だって葵をあんな穢れた目で見たことねぇーからな!! あの変態と一緒にすんな!!」
 悠栖の胸ぐらを掴んで威嚇する慶史。
 僕と朋喜は二人をまた頑張って引き離すことになる。
「もう! なんで不用意なこと言うの? 本当、悠栖ってデリカシーゼロなんだから!!」
 空気ぐらい読んでよね!!
 そう怒りを露わにする朋喜は勢い余って悠栖の首を絞めていて、しっかり腕が首に入っちゃってる。
 物凄く苦しそうな表情の悠栖は朋喜の腕を叩いて意識が落ちそうだと訴えている。
 僕はそれを見ながら、可愛いけどやっぱり朋喜も男の子なんだなぁなんて思ったり。
「何騒いでんだ。お前等」
「! 茂斗、降りてきたんだ?」
 騒いでたわけじゃないけど、この場に入ってきたばかりの茂斗からすればどう見ても騒いでじゃれてるようにしか見えないだろう。
 僕は慶史が落ち着いたことを確認して茂斗に駆け寄ると、さっきの悪態を反省する意味を込めて謝った。
「さっきはごめんね、茂斗」
「……お喋り虎に全部聞いたみたいだな」
「! うん。聞いた」
 僕は申し訳なさそうな顔をしていたと思う。
 だから茂斗も僕の誤解が解けて謝っていると分かったみたいで、それはそれで腹が立つと言わんばかりに顔を顰めた。
 意地悪な言い方に正直ムッとしたけど、茂斗の置かれてる状況を考えると八つ当たりをしたくなる気持ちも分からなくもないからグッと我慢。
「シゲちゃん、マモちゃんと喧嘩したの……?」
「……してねぇーよ。そんな心配そうな顔すんなよ、凪」
 茂斗の機嫌も悪いままかとため息を吐きそうになった僕。
 それを助けてくれるのは凪ちゃんで、心配そうに僕達を見つめる。
 凪ちゃんに弱い茂斗が凪ちゃんの不安な眼差しをそのままにするわけもなく、小さく溜め息を吐くと次の瞬間笑って凪ちゃんの髪を撫でて見せた。
「悪いな、葵。単なる八つ当たりだから気にすんな」
「ん、分かった」
 苦笑いの茂斗に、僕は頷きを返す。
 見れば凪ちゃんは茂斗の手を握り締め寄り添っていて、これで付き合っていないのか……とやっぱり驚きを隠せない。
「……海音兄と虎は?」
「あ、さっき出かけたよ。何か用だった?」
「いや、用ってか、いるもんだと思ってたのに居ないから聞いただけ」
 僕の意味深な視線を感じたのか、茂斗はこっちを見ろと言わんばかり。
 怒らせちゃったかな……って心配しながら愛想笑いを浮かべれば、今度は分かり易く溜め息を吐かれてしまった。
「……で、藤原の機嫌はなおってねぇーの?」
「! ちょっと! ばっちり聞こえてるけど? そういうのは聞こえないように聞くもんでしょ?」
「全然なおってねぇーじゃん。……瑛大も居ないのに何カリカリしてんだよ、藤原」
「だから! カリカリしてないってば!」
 お前の神経を逆撫でする奴は此処にはいないだろうが。
 そう悪戯な口調で慶史を茶化す茂斗。
 慶史はそんな茂斗を睨みつけると、「相変わらずな性格だな! お前も!」って怒りを露わにする。
「精神安定剤が居るのに喧嘩吹っ掛けてくんな!」
「お前の減らず口も相変わらずだな。葵に移すなよ。虎が煩いから」
「! なんだとっ――――」
「落ち着け、慶史。あいつの言う通り、お前イライラしすぎだぞ」
 止めに入ってくれる悠栖の言葉に声を詰まらせる慶史は、まだちょっと落ち着かない様子。
 イライラの原因はもう取り除いたと思っていたけど、まだ残ってるのかな……?
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