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恋しい人
恋しい人 第1話
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今日から高校一年生。一貫校とはいえ環境が変わる不安のせいか、昨晩の寝つきが悪かったせいで予定していた起床時間を大幅に越えてしまって結局いつも通り虎君に起こしてもらうことになってしまった。
「はぁ……」
「溜め息吐いてどうした?」
朝ご飯を食べながら自分のダメさ加減にげんなりしていたら、向かいで朝ご飯を食べていた虎君に心配をかけてしまう。
僕は空笑いを浮かべて何でもないって言うんだけど、きっと虎君にはお見通しだろう。
虎君は薄く笑うと「大丈夫だよ」と声を掛けてくれる。
「……本当に?」
「ああ、本当に。クラスにも高校にもすぐに慣れるから不安なんてすぐに何処かへ行くさ」
僕が感じている不安はすぐに無くなると言ってくれる虎君。虎君が言うと本当にそうだと思えるから不思議だ。
僕は小さく頷くと、早く安心したいと苦笑を漏らす。
「何があっても俺が傍にいるよ。これはお守りにはならないか?」
「! なるよ! 虎君がいてくれるって思うと、それだけでなんだってできそうだもん」
「なら、笑って? 葵の笑顔を見ないと一日が始まらない」
マイナス思考に陥っていることもお見通しなのかな?
虎君の穏やかな笑い顔に、心がじんわりと暖かくなる。
暖かな気持ちは安心を生んでくれて、僕ははにかみを浮かべることができた。
「心配かけてごめんね?」
「謝ることないさ。俺が葵のことしか考えてないことはもう知ってるだろ?」
「! うん、知ってる」
悪戯な笑顔に、心臓がぎゅっと締め付けられる。
(僕、毎日虎君のこと好きになってる気がする……)
昨日も好きだったけど、今日はそれ以上に好き。毎日大好きが強くなっていって、ちょっと怖い。
「やだ、二人ともまだ食べてたの? 早く出ないと入学式に遅刻するわよ?」
大好きを噛みしめていたら、二階から降りてきた母さんに急かされる。
「本当だ。葵、急いで」
「うん」
今日は学校の入学式。姉さんとめのうは在校生だから関係ないけど、新入生の僕と茂斗には関係大有りで、母さんは茂斗の入学式に顔を出すことになっていた。
だからいつもと違ってしっかりメイクをしてよそ行きの服を着た母さん。僕はそんな母さんを横目に、心の中でやっぱり綺麗だなと思った。
(僕ももう少し母さんか父さんに似てたらなぁ……)
平凡な自分の容姿をコンプレックスだと思ったことは今までも何度かあったけど、虎君と付き合い始めてからは一層それが強くなった。まぁカッコよくて優しい自慢の『お兄ちゃん』が恋人になったんだから仕方ないといえば仕方ないことなんだろうけど。
でも、虎君に見合う人間になりたいから、この悩みとはずっと付き合っていかないとダメだろう。
(でも僕はどっちに頑張ればいいんだろう……? 可愛くなった方が良いのかな? それともカッコよくなった方が良いのかな……?)
虎君は僕のことをよく『可愛い』っていうから、可愛くなるのが正解なのかな……?
そこまで考えて、ちょっともやっとしたのは仕方ない。だって僕は女の子じゃなくて男なんだから。可愛いよりもカッコよくなりたいと思うのは普通のことだろう。
「葵、聞いてる?」
「え?」
「箸が止まってる。入学式に遅刻してもいいのか?」
気が付けば虎君はご飯を食べ終えていて、僕は慌てて朝ご飯をかき込んだ。
「虎、準備は大丈夫?」
「携帯もカメラもちゃんと充電してきたので任せてください」
家を出る準備をする母さんの問いかけに虎君は手元に置いた携帯とデジカメに手を伸ばし、僕にレンズを向けてきた。
「! 食べてるところなんて撮らないでよ!」
「頬っぺた一杯に頬張ってるところが最高に可愛いのに?」
「可愛くないし!」
「可愛いよ。ハムスターみたいだ」
楽しそうに笑う虎君。小動物に喩えられて機嫌を損ねた振りをするのは僕。
「そうやって頬っぺた膨らませて怒ってるとますますハムスターみたいだぞ」
「! 僕怒ってるんだけど!」
「怒ってる振りだろ?」
目じりを下げて微笑む虎君は、カメラを向けたまま「笑って」と促してくる。
虎君の笑い顔が飛び切り大好きな僕はその言葉に従うしか他ない。
「はぁ……」
「溜め息吐いてどうした?」
朝ご飯を食べながら自分のダメさ加減にげんなりしていたら、向かいで朝ご飯を食べていた虎君に心配をかけてしまう。
僕は空笑いを浮かべて何でもないって言うんだけど、きっと虎君にはお見通しだろう。
虎君は薄く笑うと「大丈夫だよ」と声を掛けてくれる。
「……本当に?」
「ああ、本当に。クラスにも高校にもすぐに慣れるから不安なんてすぐに何処かへ行くさ」
僕が感じている不安はすぐに無くなると言ってくれる虎君。虎君が言うと本当にそうだと思えるから不思議だ。
僕は小さく頷くと、早く安心したいと苦笑を漏らす。
「何があっても俺が傍にいるよ。これはお守りにはならないか?」
「! なるよ! 虎君がいてくれるって思うと、それだけでなんだってできそうだもん」
「なら、笑って? 葵の笑顔を見ないと一日が始まらない」
マイナス思考に陥っていることもお見通しなのかな?
虎君の穏やかな笑い顔に、心がじんわりと暖かくなる。
暖かな気持ちは安心を生んでくれて、僕ははにかみを浮かべることができた。
「心配かけてごめんね?」
「謝ることないさ。俺が葵のことしか考えてないことはもう知ってるだろ?」
「! うん、知ってる」
悪戯な笑顔に、心臓がぎゅっと締め付けられる。
(僕、毎日虎君のこと好きになってる気がする……)
昨日も好きだったけど、今日はそれ以上に好き。毎日大好きが強くなっていって、ちょっと怖い。
「やだ、二人ともまだ食べてたの? 早く出ないと入学式に遅刻するわよ?」
大好きを噛みしめていたら、二階から降りてきた母さんに急かされる。
「本当だ。葵、急いで」
「うん」
今日は学校の入学式。姉さんとめのうは在校生だから関係ないけど、新入生の僕と茂斗には関係大有りで、母さんは茂斗の入学式に顔を出すことになっていた。
だからいつもと違ってしっかりメイクをしてよそ行きの服を着た母さん。僕はそんな母さんを横目に、心の中でやっぱり綺麗だなと思った。
(僕ももう少し母さんか父さんに似てたらなぁ……)
平凡な自分の容姿をコンプレックスだと思ったことは今までも何度かあったけど、虎君と付き合い始めてからは一層それが強くなった。まぁカッコよくて優しい自慢の『お兄ちゃん』が恋人になったんだから仕方ないといえば仕方ないことなんだろうけど。
でも、虎君に見合う人間になりたいから、この悩みとはずっと付き合っていかないとダメだろう。
(でも僕はどっちに頑張ればいいんだろう……? 可愛くなった方が良いのかな? それともカッコよくなった方が良いのかな……?)
虎君は僕のことをよく『可愛い』っていうから、可愛くなるのが正解なのかな……?
そこまで考えて、ちょっともやっとしたのは仕方ない。だって僕は女の子じゃなくて男なんだから。可愛いよりもカッコよくなりたいと思うのは普通のことだろう。
「葵、聞いてる?」
「え?」
「箸が止まってる。入学式に遅刻してもいいのか?」
気が付けば虎君はご飯を食べ終えていて、僕は慌てて朝ご飯をかき込んだ。
「虎、準備は大丈夫?」
「携帯もカメラもちゃんと充電してきたので任せてください」
家を出る準備をする母さんの問いかけに虎君は手元に置いた携帯とデジカメに手を伸ばし、僕にレンズを向けてきた。
「! 食べてるところなんて撮らないでよ!」
「頬っぺた一杯に頬張ってるところが最高に可愛いのに?」
「可愛くないし!」
「可愛いよ。ハムスターみたいだ」
楽しそうに笑う虎君。小動物に喩えられて機嫌を損ねた振りをするのは僕。
「そうやって頬っぺた膨らませて怒ってるとますますハムスターみたいだぞ」
「! 僕怒ってるんだけど!」
「怒ってる振りだろ?」
目じりを下げて微笑む虎君は、カメラを向けたまま「笑って」と促してくる。
虎君の笑い顔が飛び切り大好きな僕はその言葉に従うしか他ない。
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