特別な人

鏡由良

文字の大きさ
298 / 552
恋しい人

恋しい人 第13話

しおりを挟む
 慶史につられて僕も虎君を振り返れば、此方を気にしている虎君の姿が。
 僕を見ている気がして確かめるように手を振れば、虎君も同じく手を振り返してくれる。やっぱり僕を見てくれていたみたいだ。
 嬉しくて笑顔になる僕。
 慶史はそんな僕の頭をぐりぐり抑えつけるように撫でまわしてきて、「愛想振り撒かないで」と仏頂面を見せる。
「あのめちゃくちゃ美形な三人組って三谷の知り合い?」
「うん。そうだよ」
「父親と、……兄貴と姉貴?」
 虎君達を『美形』だと褒めてくれる姫神君。姫神君も凄く綺麗なのにそんな姫神君が『美形』と言うなんて、やっぱりみんなカッコいいんだとちょっぴり鼻が高い。姉さんが綺麗なことは知っていたけど。
「えっと、母さんのボディーガードをしてくれてる人と、僕のこ、――っ幼馴染と、僕の姉さんだよ」
 姫神君の勘違いを訂正しよう『家族』を紹介する僕に、慶史が脇を突いてきたのは虎君のことを『恋人』と言いかけた時だった。馬鹿正直に言わないの。と言わんばかりに。
 慶史のおかげで自分の父親が大企業の社長を務めていることを思い出した僕は慌てて虎君との関係を偽った。姫神君に嘘を吐いた罪悪感を覚えたけど、もっとちゃんと仲良くなってから話すべきことだと自分に言い聞かせた。
「え? 『母親』のボディーガード? 姉貴のじゃなくて? てか、幼馴染がなんでいんの?」
「えっと、それはその―――」
「葵は双子で、ご両親は兄貴の入学式に出てるから父兄として幼馴染の『兄貴代わり』とお姉さんが来てるんだよね?」
「そ、そう! 母さんには父さんが付いてるし、姉さんが僕の入学式に行きたいって聞かなくて、陽琥さん――ボディーガードの人が今日は姉さんに付いてるんだ」
 僕の家族をよく知っている慶史達には普通のこと。でも、知らない人の目には奇妙に映っちゃうんだろうな。姫神君は訝しそうな顔をしていたから。
 慌てて説明を重ねようとしたんだけど、慶史にそれを遮られる。そろそろ教室に行こう。と。
 気が付けば他の皆も昇降口に向かっていて、僕は自分のクラスが何処か確かめていなかったから急いで確認しないとと掲示板を振り返った。
「マモ、行くぞー」
「ま、待って! 僕、何クラスか見てないんだ」
 すぐに確認するから!
 僕はそう急いで張り出されているクラス分けから自分の名前を探す。けど、それを邪魔するのはもちろん慶史で、遅れて目立ちたくないでしょ。と僕の腕を引っ張って歩き出してしまう。
「ちょ、慶史! 待って! 待ってってば! クラス分からないって言って―――」
「全員一緒。Aクラス。分かった?」
「本当?」
「葵には嘘吐いたことないでしょ」
 だから行くよ。
 そう言った慶史に僕は大人しく従い、抗うことを止めて隣を歩く。
 前を歩く悠栖から「俺等にも嘘吐くなよ」と突っ込まれていたけど、慶史は適当にあしらって二人のじゃれ合いがまた始まった。
「お前等って仲良いのか悪いのか分かんねーな」
「悠栖と慶史君のコレはじゃれてるだけだから気にしないでいいよ。まぁ、すぐ慣れると思うけど」
「ふーん……。ま、言い合いはほどほどにしてくれよ。煩いのは好きじゃないんだ」
 子犬がキャンキャン鳴いてるみたいで頭に響くと言う姫神君。
 ちょっぴり言葉がきついと感じたけど、裏表のない性格なんだろうなと僕は解釈する。
「姫神は口が悪いよな。……見た目に反して」
「オイ、聞こえてるぞ」
「よかった。聞こえるように言ったから」
 慶史が肩を竦ませ挑発するも、姫神君は苦笑だけでそれには乗らなかった。悠栖ならすぐに挑発に乗って言い返すだろうに。
「確かに俺の見た目は男らしいとは言えない。でも、『でも』、だ。お前らにだけは言われたくないぞ」
「ちょ! 意義あり! この中じゃ俺が一番男らしいからな!」
「はいはい。悠栖は男らしいでちゅねー」
「! 慶史!」
 姫神君も慶史も、そして悠栖も、僕からすればみんな綺麗で可愛くて中性的だと思う。朋喜も勿論。
 きっと四人は凄くモテるんだろうなとこれから始まる高校生活を想像する。
(四人ともトラブルに巻き込まれなきゃいいけど……)
 寮生活だし本当、犯罪まがいなトラブルが起きなければいいんだけど……。
 四人が心配で僕の表情は曇ってしまう。これから入学式で楽しい高校生活が始まると言うのに全く相応しくない表情だ。
(ダメだダメだ! 慶史達に心配かけちゃう……!)
 表情に出易いってことは分かってるから、俯いて隠そうと試みる。まぁ、すぐにバレちゃうだろうけど。
「三人とも、いい加減にしなよ。葵君が色々想像して泣きそうな顔してるよ」
 ほら。やっぱり。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

処理中です...