特別な人

鏡由良

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恋しい人

恋しい人 第12話

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「姫神、こちら我らがお姫様、三谷葵。葵、こちら外部受験オール満点を叩き出した天才、姫神那鳥」
 外部入試をオール満点とか頭おかしいよね?
 そう笑いながら姫神君を褒める慶史。姫神君は僕のことをなんと説明されていたのか、「あぁ、『あの』三谷か」と僕をまじまじと観察してくる。
 『お姫様』と称された僕は苦笑いを浮かべ、「変な説明しないでよ」と慶史に不満を訴えた。
「別に変な説明じゃないでしょ? 人を疑うことを知らない正真正銘の『箱入り娘』なんだから」
「だから、僕は女の子じゃないから」
「そういう細かいことは気にしない気にしない」
 慶史はケラケラ笑って僕の背中を叩いて、姫神君に視線を向けると「可愛いだろ?」と僕を茶化す言葉を続けた。
 慶史の悪ふざけは今に始まったことじゃないと諦めた僕は、姫神君に自己紹介をしようと気持ちを切り替えた。
「初めまして。三谷葵です。これからよろしくお願いします」
「! 俺は姫神那鳥。外部受験してきた超庶民だけど、まぁ、よろしく」
 差し出した手を取ってくれる姫神君は綺麗な笑顔を見せてくれる。
 僕はその笑顔に本能的に(いい人だ!)と直感して、一緒のクラスだったらいいなと思った。
「……突っ込みはなしか?」
「え? 何が?」
 嬉しくてついつい笑顔になってしまう僕に姫神君は綺麗な笑顔を苦笑いに変えて、助けを求めるように慶史達に視線を移した。
 僕は何が何だか分からず、姫神君に続いて慶史達を見た。
「葵、『超庶民』って姫神は言ったんだよ? 何か言うことは?」
「え? え? えっと、凄い、ね?」
 何を言えと言われているのか全く分からない。
 僕はとりあえず誇張された言い方に凄いことなのかな? と自分なりに結論づけて褒める言葉をかけてみる。正しい答えかどうか自信が無かったからついつい疑問形になってしまうのは仕方ない。
「葵、MITANIの跡取り息子が『超庶民』に『凄いね』って、嫌味だからね?」
「! 姫神君、違うからね? 僕は跡取りじゃないからね!?」
「そこかよ!」
 慶史のフォローにも僕は失言してしまったようで、悠栖が大笑いしてる。その隣では朋喜も肩を震わせて笑いを耐えているから、僕は相当間違った答えを口にしてしまったようだ。
 どうしようとオロオロする僕。大きなため息が隣から聞こえて、もはやパニック寸前だ。
「お前等、三谷の『親友』なんだろ? そんな追い込んでやるなよ」
「追い込んでるつもりなんてないから。葵が自滅してるだけで」
「まぁ確かに『自滅』だけど……」
 苦笑を濃くする姫神君は、肩を竦ませ僕に改めて自己紹介をしてくれた。
 姫神君は自分を特待生だと言った。特待生は学費や寮費や生活費まで学生生活を送るうえでかかる費用を全て免除してもらえるらしい。
 そんなすごい制度があるとは知らなかったと驚く僕に、学園初の特待生だと慶史は言った。能力のある人材を育成するために設けられた特待制度だけど、その基準をクリアできる人が今まで現れなかった。と。
「! じゃあ、姫神君は特待生第一号なんだ?」
「まぁ、そうだな。金持ち集団にド庶民が乗り込もうなんて普通は思わないしな」
「凄い! 姫神君はすごく優秀なんだね! 本当、凄いなぁ!」
 外部受験でオール満点をとるぐらいだから優秀だってことは分かってるけど、改めて凄いと僕は大興奮だ。
「姫神、悪いことは言わない。葵相手に自虐ネタは止めとけ。スルーされるから」
「そうだな。今痛感してる」
「え? あ……、え?」
 慶史と姫神君のやり取りに再び僕が狼狽えれば、悠栖と朋喜が今度は味方をしてくれる。
「慶史君、姫神君、これ以上苛めないであげてよ」
「そうだぞ。さっきから先輩の視線がめちゃくちゃ突き刺さってお姉様が見れないんだからな」
「悪い。噂通り素直で良い奴みたいだから、つい」
 姫神君は笑いながら僕に謝ってくれる。
 何に対する謝罪かは分からないけど、褒められているみたいだから僕も笑い返して気にしていないと笑った。
「なぁ、三谷って本当に藤原の幼馴染か?」
「そうだよ。初等部からの付き合いだよね?」
「姫神はそう言う意味で言ったんじゃないよね? 俺みたいに捻くれ者と付き合いが長い割に純粋だから驚いてるんだよね?」
 慶史は姫神君に劣らない綺麗な笑顔で「俺の葵は絶滅危惧種レベルで純粋なんだから変なこと教えるなよ?」と僕と肩を組んで見せた。
「慶史、頼むからこれ以上マモにくっつくな。先輩の前だぞ」
「平気平気。桔梗姉が隣にいるし、乗り込んでくる前に桔梗姉に止められるよ」
 虎君に怒られると怯える悠栖。慶史はあんな奴怖くないと不敵な笑みを浮かべ、虎君を振り返る。
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