特別な人

鏡由良

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恋しい人

恋しい人 第17話

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「特に葵は相手の懐に入るのが上手いから期待してる」
「でも僕、テクニックとか特に何も持ってないよ?」
「テクニックっていうより、人柄かな。ある意味カリスマ性があるっていうか」
 茂斗のような圧倒的な求心力はないけど、一緒にいると穏やかな気持ちになれる。
 そう笑う慶史は嘘を言っている雰囲気はない。純粋に褒められて僕はちょっぴり照れてしまう。
「葵って本当、純粋だよね」
「え? なんで? ……もしかして今の嫌味だったの?」
「違う違う。ちゃんと褒めてたよ」
 からかっていたのかと不機嫌になってしまう。けど、慶史はそうじゃないと笑い、僕に視線を寄越すと薄く微笑んだ。
 笑顔が綺麗で可愛くてドキッとする。
「葵にとっては望んだ進路じゃないって分かってるけど、また三年間一緒で嬉しいよ。俺は」
「! 意地悪な言い方しないでよ。僕だって嬉しいんだからね?」
「えぇ? 本当に?」
 疑いの眼差しを向けられ、かと思うと慶史は僕の肩を抱き寄せると小声で「でも先輩と一緒の方がいいんでしょ?」なんて言ってくる。本当、意地悪だ。
「もう。なんで比べさせるの? 虎君は恋人。慶史は親友。比べられるわけないでしょ?」
 どちらかとしか一緒にいられない。そんな究極の二択を迫らないでよ。
 睨めば、満足そうに笑う慶史。今は慶史が何を考えているか分からない。
 目だけで不満を訴えてみる僕だけど、慶史は何処吹く風と更に僕を困らせてきて……。
「で、葵は先輩とエッチはできたのかな?」
 声を更に潜めて「お兄さんに教えてごらん?」と可愛い笑顔でそんなことを聞いてくる。
 凄く楽しそうなその様子に、僕は「絶対分かってるよね?」と睨んだ。
「まだなの?」
「まだだよっ……!」
 だから、分かってるのに確認しないでよ。
 頬を膨らませて怒る僕に慶史は満足したのかポンポンと頭を叩くと「前も言ったけど」と前置きして言葉を続けた。
「性欲に支配された男は獣と一緒だから、本当に気を付けてよね」
 慶史が心配しているのは、虎君が僕にエッチを無理強いしないかどうか。
 僕からすれば、虎君がそんなことするわけないって分かってるから無用の心配。でも、虎君をよく思っていない慶史からすれば、当然の心配なんだろう。
 僕は心配性の親友を安心させるため、本音をぽろっと零した。虎君になら何されてもいいよ。と。
「あのねぇ……」
「慶史の言いたいことは分かってるつもりだよ。でも、それも全部ひっくるめて、虎君の傍にいたいんだもん……」
「……それ、先輩に言った?」
「うん。伝えた……」
 慶史は笑顔を引き攣らせ、僕は頬を染めて頷く。
 慶史がわざとらしく溜め息を吐いたのはそれからすぐの事だった。
「最悪。本当、最悪っ!」
「な、なんで最悪なの?」
「だって近々アイツとセックスするんでしょ? そんなの最悪過ぎるでしょっ!」
 聞こえるのは盛大な舌打ちで、あいつのドヤ顔が今から目に浮かぶ。なんて言いながら僕の髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。
「ちょ、止めてよ! 慶史、止めて!」
「オイ慶史、マモ苛めんなよ」
「苛めてるんじゃなくてじゃれてるんですぅ」
 いつの間にか到着していた教室。悠栖達は教室に入らずドアの前で僕達を待ってくれていた。
 3人に合流した僕と慶史。
 5人そろったところでドアを開く悠栖に続いて教室に入れば、ざわついていた空間が一瞬シンと静まり返る。
 慶史は特に気にするでもなく我が物顔で自分の席に着いて、僕を振り返ると隣の席だと教えてくれた。
「僕の席は慶史君の前かな」
「じゃあ俺は深町の近くだろうしこっちか」
 視線が自分達に集中していると気づきながら朋喜と姫神君は気にしつつも無視して平静を装う。
 僕はおどおどしながら慶史の隣の席に座って、居心地の悪そうな悠栖は一人離れた窓際の席に足を進めていた。
(そっか。僕達は一緒だけど他の人達はちゃんとクラス替えがあったんだ)
 いや、それだけじゃない。慶史、悠栖、朋喜の愛らしさに慣れていたクラスメイト達も姫神君の凛とした綺麗さに目を奪われてしまったのだろう。
 注目される友人達に、僕は分かっていたことだけどちょっと惨めな気持ちを覚えてしまうのは仕方ない。
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