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恋しい人
恋しい人 第18話
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入学式とはいっても正直あまり感動を覚えないのが一貫校。
長い祝辞を何度も聞いて、立って座ってを繰り返して、終盤になると欠伸をする生徒がちらほら。僕も欠伸こそしなかったけど早く終わらないかなぁと時間を気にしてしまう始末だ。
そんな中、新入生代表の挨拶に呼ばれた名前に何処かへ行っていた気持ちが戻って来る。呼ばれた名前は、姫神君だったから。
講堂にはざわめきが広がる。入試でオール満点だったらしいから代表の挨拶に抜擢されることはまぁ当然だろう。
でも、ざわめきの原因は那鳥君が外部からの編入生だから。そして、その容姿から。
(みんな姫神君を見てる。まぁ、そうだよね)
まっすぐに伸びた背筋は凛としていて、とても綺麗。みんなが目で追うその姿は、さながらスターのようだった。
僕ももれなく姫神君に見惚れていれば始まるスピーチ。
声は少し高いけど耳障りというわけではなくて、聞いていて心地よい音。
そんな心地よい音色で紡がれるスピーチの内容はとても同級生とは思えなくて、ちょっぴり気後れする。
(凄いなぁ……みんなの前でスピーチするってだけでも僕にはハードルが高いのにあんな堂々としていて……)
原稿をただ読み上げるだけじゃなくちゃんと視線を僕達に向けて言葉を紡ぐ姿に、感動すら覚えた。
みんな他の人の祝辞はちゃんと聞いていなかったのに、姫神君のスピーチには耳を傾けている。カリスマ性ってきっとこういう事を言うんだろうな。
一言一言聞き入っていたら、あっという間。姫神君は今一度前を向き、スピーチの最後を締めくくる。
「新入生代表、1年A組姫神那鳥」
姫神君は一礼すると壇上から降りてくる。
階段を降りる姿も様になっていて、思わず劇団のトップスターみたいだと思ってしまう。
しかし、自分が思い浮かべた劇団が女性だけの劇団だったことを思い出して、姫神君に心の中で謝る。
(綺麗だったからつい……。自分が同じこと慶史達に思われたら絶対怒るくせに、ダメだな。僕)
自分は女の子扱いされると凄く嫌がるくせに、友達を女の人扱いしちゃった。
僕は心の中で反省する。でも、再びとらえた姫神君の姿はやっぱり綺麗で、
(綺麗な女の人が男の子の滑降したらこんな感じだろうな)
なんて、さっきの反省は何だったのかと自分に突っ込みを入れてしまうような事を考えてしまっていた。
姫神君が自分の場所に戻って着席して、入学式は終盤に進む。
進行に身を任せていれば入学式が終わり、講堂を退出するよう促される。
僕達新入生は促されるまま講堂を退出し、出口にいた先生に教室へと戻るように指示される。
言われるがまま教室へ戻ろうと歩く僕の肩を叩くのは慶史で、「退屈な式だったね」と隣に並ぶと伸びをする。
「仕方ないよ。入学式なんだし」
もっと生徒を退屈させない工夫ぐらいするべきだと慶史は言うけど、入学式にそれはちょっと無理なんじゃないかなと僕は苦笑い。
慶史がどんな内容を望んでいるのかは分からないけど、式典とは厳かなものであって生徒を楽しませるものじゃない。
僕の否定の言葉に慶史は「真面目なんだから」と笑う。
「あ。でも、姫神のスピーチは面白かった」
「! だよね。僕も思わず聞き入っちゃった」
「あれぇ? 浮気心?」
随分楽しそうに姫神のこと喋るね。
そう言った慶史の顔は見なくても分かる。絶対、凄く意地悪な笑い顔でいるに決まってる。
「僕が好きなのは虎君だけだって知ってるくせに」
「そんな目で見ないでよ。冗談だよ。冗談」
「その手の冗談、嫌い」
怒らないでとご機嫌をとられるも、僕はぷいっとそっぽを向いて不機嫌をアピール。
すると慶史はちゃんと「ごめんってば」と謝ってくれて、意地で怒り通す前に僕は機嫌を治すことができる。本当、僕のことをよく分かっていると思う。
「どうしたの? また葵君を困らせてるの?」
「ちょっと朋喜、その言い方、まるで俺が何回も葵のこと困らせてるみたいに聞こえるんだけど?」
「そのつもりで言ったんだから当然でしょ? 葵君、大丈夫? ストレスの捌け口にされてない?」
僕達の姿を見つけて駆け寄ってきたのは朋喜で、駆け寄るなり慶史から僕を遠ざけるように間に割って入ってきた。
いつもの朋喜ならこんな強引なことをしないのに、一体どうしちゃったんだろう?
「どうしたの? 身の危険でも感じた?」
僕の疑問を口にした慶史。でも、続いた言葉は僕が想像もしていなかったもので、目を見張ってしまう。
朋喜は笑顔のまま「そう」と肯定の返事を口にして、近くにいてくれてよかったと安堵の息を吐いてみせた。
「え? 嘘。大丈夫? 何があったの?」
「声かけられただけだから大丈夫だよ」
心配しないでと言われても、心配せずにはいられない。
長い祝辞を何度も聞いて、立って座ってを繰り返して、終盤になると欠伸をする生徒がちらほら。僕も欠伸こそしなかったけど早く終わらないかなぁと時間を気にしてしまう始末だ。
そんな中、新入生代表の挨拶に呼ばれた名前に何処かへ行っていた気持ちが戻って来る。呼ばれた名前は、姫神君だったから。
講堂にはざわめきが広がる。入試でオール満点だったらしいから代表の挨拶に抜擢されることはまぁ当然だろう。
でも、ざわめきの原因は那鳥君が外部からの編入生だから。そして、その容姿から。
(みんな姫神君を見てる。まぁ、そうだよね)
まっすぐに伸びた背筋は凛としていて、とても綺麗。みんなが目で追うその姿は、さながらスターのようだった。
僕ももれなく姫神君に見惚れていれば始まるスピーチ。
声は少し高いけど耳障りというわけではなくて、聞いていて心地よい音。
そんな心地よい音色で紡がれるスピーチの内容はとても同級生とは思えなくて、ちょっぴり気後れする。
(凄いなぁ……みんなの前でスピーチするってだけでも僕にはハードルが高いのにあんな堂々としていて……)
原稿をただ読み上げるだけじゃなくちゃんと視線を僕達に向けて言葉を紡ぐ姿に、感動すら覚えた。
みんな他の人の祝辞はちゃんと聞いていなかったのに、姫神君のスピーチには耳を傾けている。カリスマ性ってきっとこういう事を言うんだろうな。
一言一言聞き入っていたら、あっという間。姫神君は今一度前を向き、スピーチの最後を締めくくる。
「新入生代表、1年A組姫神那鳥」
姫神君は一礼すると壇上から降りてくる。
階段を降りる姿も様になっていて、思わず劇団のトップスターみたいだと思ってしまう。
しかし、自分が思い浮かべた劇団が女性だけの劇団だったことを思い出して、姫神君に心の中で謝る。
(綺麗だったからつい……。自分が同じこと慶史達に思われたら絶対怒るくせに、ダメだな。僕)
自分は女の子扱いされると凄く嫌がるくせに、友達を女の人扱いしちゃった。
僕は心の中で反省する。でも、再びとらえた姫神君の姿はやっぱり綺麗で、
(綺麗な女の人が男の子の滑降したらこんな感じだろうな)
なんて、さっきの反省は何だったのかと自分に突っ込みを入れてしまうような事を考えてしまっていた。
姫神君が自分の場所に戻って着席して、入学式は終盤に進む。
進行に身を任せていれば入学式が終わり、講堂を退出するよう促される。
僕達新入生は促されるまま講堂を退出し、出口にいた先生に教室へと戻るように指示される。
言われるがまま教室へ戻ろうと歩く僕の肩を叩くのは慶史で、「退屈な式だったね」と隣に並ぶと伸びをする。
「仕方ないよ。入学式なんだし」
もっと生徒を退屈させない工夫ぐらいするべきだと慶史は言うけど、入学式にそれはちょっと無理なんじゃないかなと僕は苦笑い。
慶史がどんな内容を望んでいるのかは分からないけど、式典とは厳かなものであって生徒を楽しませるものじゃない。
僕の否定の言葉に慶史は「真面目なんだから」と笑う。
「あ。でも、姫神のスピーチは面白かった」
「! だよね。僕も思わず聞き入っちゃった」
「あれぇ? 浮気心?」
随分楽しそうに姫神のこと喋るね。
そう言った慶史の顔は見なくても分かる。絶対、凄く意地悪な笑い顔でいるに決まってる。
「僕が好きなのは虎君だけだって知ってるくせに」
「そんな目で見ないでよ。冗談だよ。冗談」
「その手の冗談、嫌い」
怒らないでとご機嫌をとられるも、僕はぷいっとそっぽを向いて不機嫌をアピール。
すると慶史はちゃんと「ごめんってば」と謝ってくれて、意地で怒り通す前に僕は機嫌を治すことができる。本当、僕のことをよく分かっていると思う。
「どうしたの? また葵君を困らせてるの?」
「ちょっと朋喜、その言い方、まるで俺が何回も葵のこと困らせてるみたいに聞こえるんだけど?」
「そのつもりで言ったんだから当然でしょ? 葵君、大丈夫? ストレスの捌け口にされてない?」
僕達の姿を見つけて駆け寄ってきたのは朋喜で、駆け寄るなり慶史から僕を遠ざけるように間に割って入ってきた。
いつもの朋喜ならこんな強引なことをしないのに、一体どうしちゃったんだろう?
「どうしたの? 身の危険でも感じた?」
僕の疑問を口にした慶史。でも、続いた言葉は僕が想像もしていなかったもので、目を見張ってしまう。
朋喜は笑顔のまま「そう」と肯定の返事を口にして、近くにいてくれてよかったと安堵の息を吐いてみせた。
「え? 嘘。大丈夫? 何があったの?」
「声かけられただけだから大丈夫だよ」
心配しないでと言われても、心配せずにはいられない。
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