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恋しい人
恋しい人 第20話
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「べ、別にあの人の心配してるわけじゃないからね!?」
「はいはい。葵君のためだよね」
慶史はムキになるけど、ムキになればなるほど真実味が増すというもの。
僕は二人のやり取りに置いてけぼりになりながらも、僕のために危険を顧みず、無償の愛で僕を守ってくれた虎君を想い、胸が苦しくなってしまった。
(虎君に会いたい……会いたいよ……)
今すぐ踵を返して講堂に戻りたい。戻って虎君に抱きつきたい。
でも、それをするとホームルームをサボることになってしまって先生から大目玉を貰うことになるだろう。そうなると姉さんから母さん達に話が渡り、母さんは僕を、いや、僕と虎君を怒るに決まっている。
そこまで想定して、僕は虎君に迷惑を掛けたくないから衝動をグッと我慢する。
「先輩のこと、嫌になった?」
「え……? なんで……?」
「だって黙ってるから。凶暴な男に引っかかったって後悔してるんじゃないの?」
「確かに暴力はダメだけど、でも虎君は僕のために仕方なくそうしたんだよ。そんなの、嫌いになんてなるわけないよ」
ますます大好きになることはあれど、嫌いになんて絶対にならない。
そう強く言い切れば、慶史は肩を竦ませ「失敗した」と笑った。これは僕が絶対に虎君を嫌いにならないって信じているからこその悪態だ。
本当、素直じゃないんだから。慶史は。
「でも本当によかった。虎君のおかげで僕は朋喜を守れたんだから、あとで虎君にお礼言わなくちゃ」
「必要ないでしょ。あの人にとっては葵が笑ってることが第一なんだし、俺達を守ることも否応なしに仕事に含まれてるはずでしょ」
「慶史君ってお兄さんのこと『大嫌い』とか言いながら、本当は凄く大好きだよね?」
絶対的な信頼があるからこその言葉に聞こえたのは僕だけじゃないみたい。
茶化す朋喜に慶史は心底嫌そうな顔をしたけど、信頼していることを否定はしなかった。
「葵のために生きてるってことは認めてあげてるからね」
「上からな言い方だね」
「そうだよ。俺は『女王様』だからね」
茶化すように笑う姿は可愛いのに、態度は横柄。そんな慶史は確かに『女王様』と形容するのがピッタリかもしれない。
僕と朋喜は肩を竦ませ苦笑を漏らす。そんな僕達にバツが悪いと感じたのか、慶史は話を逸らせるために辺りをキョロキョロと見渡し始めた。
「どうしたの?」
「もう一人危なっかしい奴がいるでしょ。そいつを探してるの」
誰とは言わなかったが、誰のことを話しているかは分かった。悠栖のことだ。
そう言えば姿を見かけないと不安に思った僕は、慌てて悠栖を探し出す。
「いた?」
「見えるところにはいないね。……あのバカ、まさかどっかに連れ込まれてたりしないよね……」
「ちょっと慶史君! 怖いこと言わないでよっ!」
ついさっき自分が直面した恐怖を思い出したのだろう。朋喜は急いで悠栖を見つけないとと焦り出す。
僕の腕を掴んだ朋喜の手には力が籠り、緊張が伝わる。
僕も必死に悠栖の姿を探すんだけど、見つからない。いつもならすぐに見つけられるのに。
「ねぇ、いた?!」
「いないっ。そっちは?」
「見えない。見えないよっ」
三方を探す僕達の焦りは酷くなる一方だ。
悠栖が酷い目に遭っている想像をしてしまったのは僕だけじゃない。慶史も朋喜も同じことを想像しているのだろう。声に余裕は無い。
「チッ……、バカ悠栖、何処にいるんだよっ……」
見つからないことへの焦りは苛立ちに変わり、慶史は一度悠栖を探すのを止め、僕達を振り返る。そして乱暴な口調で「二人はこのまま教室に向かって」と僕達の背を押した。
慶史はどうする気なのか。僕は不安を覚え、来た道を戻ろうとする慶史の腕を思わず掴んでしまった。
「葵、放せ。今はそれどころじゃないって分かってるだろ」
「や、ヤダっ! 探すなら僕も一緒に行く!」
絶対にこの手を放してはいけない。僕の本能がそう叫んでる。
悠栖を探すなら一緒に行くと聞き分けない僕に、慶史は苛立ちを濃くし、放せと怒鳴った。
その声に近くにいた生徒は何事かと足を止め、興味を示すように僕達を盗み見てきて……。
「朋喜、なんとかしろ」
騒ぎになる前に探しに行かせろ。
慶史は僕ではなく朋喜に凄んだ。悠栖のために僕を連れて教室に行けと言わんばかりに。
「はいはい。葵君のためだよね」
慶史はムキになるけど、ムキになればなるほど真実味が増すというもの。
僕は二人のやり取りに置いてけぼりになりながらも、僕のために危険を顧みず、無償の愛で僕を守ってくれた虎君を想い、胸が苦しくなってしまった。
(虎君に会いたい……会いたいよ……)
今すぐ踵を返して講堂に戻りたい。戻って虎君に抱きつきたい。
でも、それをするとホームルームをサボることになってしまって先生から大目玉を貰うことになるだろう。そうなると姉さんから母さん達に話が渡り、母さんは僕を、いや、僕と虎君を怒るに決まっている。
そこまで想定して、僕は虎君に迷惑を掛けたくないから衝動をグッと我慢する。
「先輩のこと、嫌になった?」
「え……? なんで……?」
「だって黙ってるから。凶暴な男に引っかかったって後悔してるんじゃないの?」
「確かに暴力はダメだけど、でも虎君は僕のために仕方なくそうしたんだよ。そんなの、嫌いになんてなるわけないよ」
ますます大好きになることはあれど、嫌いになんて絶対にならない。
そう強く言い切れば、慶史は肩を竦ませ「失敗した」と笑った。これは僕が絶対に虎君を嫌いにならないって信じているからこその悪態だ。
本当、素直じゃないんだから。慶史は。
「でも本当によかった。虎君のおかげで僕は朋喜を守れたんだから、あとで虎君にお礼言わなくちゃ」
「必要ないでしょ。あの人にとっては葵が笑ってることが第一なんだし、俺達を守ることも否応なしに仕事に含まれてるはずでしょ」
「慶史君ってお兄さんのこと『大嫌い』とか言いながら、本当は凄く大好きだよね?」
絶対的な信頼があるからこその言葉に聞こえたのは僕だけじゃないみたい。
茶化す朋喜に慶史は心底嫌そうな顔をしたけど、信頼していることを否定はしなかった。
「葵のために生きてるってことは認めてあげてるからね」
「上からな言い方だね」
「そうだよ。俺は『女王様』だからね」
茶化すように笑う姿は可愛いのに、態度は横柄。そんな慶史は確かに『女王様』と形容するのがピッタリかもしれない。
僕と朋喜は肩を竦ませ苦笑を漏らす。そんな僕達にバツが悪いと感じたのか、慶史は話を逸らせるために辺りをキョロキョロと見渡し始めた。
「どうしたの?」
「もう一人危なっかしい奴がいるでしょ。そいつを探してるの」
誰とは言わなかったが、誰のことを話しているかは分かった。悠栖のことだ。
そう言えば姿を見かけないと不安に思った僕は、慌てて悠栖を探し出す。
「いた?」
「見えるところにはいないね。……あのバカ、まさかどっかに連れ込まれてたりしないよね……」
「ちょっと慶史君! 怖いこと言わないでよっ!」
ついさっき自分が直面した恐怖を思い出したのだろう。朋喜は急いで悠栖を見つけないとと焦り出す。
僕の腕を掴んだ朋喜の手には力が籠り、緊張が伝わる。
僕も必死に悠栖の姿を探すんだけど、見つからない。いつもならすぐに見つけられるのに。
「ねぇ、いた?!」
「いないっ。そっちは?」
「見えない。見えないよっ」
三方を探す僕達の焦りは酷くなる一方だ。
悠栖が酷い目に遭っている想像をしてしまったのは僕だけじゃない。慶史も朋喜も同じことを想像しているのだろう。声に余裕は無い。
「チッ……、バカ悠栖、何処にいるんだよっ……」
見つからないことへの焦りは苛立ちに変わり、慶史は一度悠栖を探すのを止め、僕達を振り返る。そして乱暴な口調で「二人はこのまま教室に向かって」と僕達の背を押した。
慶史はどうする気なのか。僕は不安を覚え、来た道を戻ろうとする慶史の腕を思わず掴んでしまった。
「葵、放せ。今はそれどころじゃないって分かってるだろ」
「や、ヤダっ! 探すなら僕も一緒に行く!」
絶対にこの手を放してはいけない。僕の本能がそう叫んでる。
悠栖を探すなら一緒に行くと聞き分けない僕に、慶史は苛立ちを濃くし、放せと怒鳴った。
その声に近くにいた生徒は何事かと足を止め、興味を示すように僕達を盗み見てきて……。
「朋喜、なんとかしろ」
騒ぎになる前に探しに行かせろ。
慶史は僕ではなく朋喜に凄んだ。悠栖のために僕を連れて教室に行けと言わんばかりに。
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