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恋しい人
恋しい人 第25話
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「ガチの本音じゃん」
「慶史が聞いたんでしょ」
親友が嫌な思いしてるのに喜ばないでよね!
そう言って慶史が僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でてきて、いつもよりもずっと乱暴なスキンシップに「止めてよ!」と思わず逃げてしまう。
悠栖も朋喜もきっと今は慶史の味方。そう感じた僕が逃げた先は姫神君の背後で、姫神君を盾にして三人の様子を窺った。
「……なぁ、楽しんでるところ悪いけど」
「! な、何……?」
状況が掴めないと言いたげな姫神君。
でも、表情は戸惑いというよりも真顔に近くて、僕をジッと見下ろしていた。
(あ、そうだ。姫神君に僕の恋人が虎君だってバレたんだった……)
同性同士の恋愛に嫌悪感を示している人に同性の恋人がいると知られてしまった。
隠し通す気はなかったけど、できればもう少し仲良くなってから話したかった。話してはいないとはいえ、今の僕達の会話を聞いていれば丸分かりだろう……。
僕は蔑まれるかもしれないとビクビクしながらもとりあえず笑って見せる。誤魔化せるものなら誤魔化したいと思ったから。
「……いや、いい加減教室行こうぜ。遅れて目立つのはごめんだ」
「! そうだね! 行こう行こう!」
不自然なまでに元気よくみんなを促して急いで歩くと、背中に突き刺さる視線。居た堪れないってこういうことを言うのだろう。
駆け足で数メートル進むと四人を振り返る。ちゃんと付いてきてくれるか不安だったから。
四人は何やら言葉を交わしながらもちゃんと足を進めていて、ひとまず安心だ。
(あ。やっぱり四人が並ぶと壮観だな)
正統派美人の慶史と正統派可愛い朋喜。そして男子っぽさを合わせ持った愛らしさの悠栖と男装の麗人を彷彿させる姫神君。
タイプが違う綺麗さと可愛らしさを持つ四人が並ぶと本当、壮観で眼福だ。
(父さんのネームバリューが無ければ一緒にいられなかっただろうなぁ)
気後れしているわけじゃないけど、つくづく思う。僕が一緒にいることが不自然な程四人は容姿が整っているから。
僕が四人と一緒にいられるのは、父さんのおかげだ。
もちろん、慶史達は僕の親のことなんて気にしてない。気にしているのは他の人達。
慶史達を男子校のアイドルのように扱っている人達からすれば、僕がくっついていることをさぞ相応しくないと思っている事だろう。
できるなら別行動して欲しいと思われているってことは分かっているけど、文句を言われたことが無いのは僕が『MITANI』の会長の孫で社長の息子だから。
家柄のおかげで僕は周りからの嫌がらせを受けずに済んでいる。慶史達とは違う意味で僕も遠巻きにされているから。
(あ。でも、引き立て役がいるとみんなの魅力がより一層増すから許してもらってるのかも?)
まぁ、平凡な僕がみんなと一緒にいることを妬まれていないだけで十分だから深く考えないようにしよう。
「先先歩かないでよ。はぐれたら危ないでしょ」
「! ごめん! そうだよね。僕がはぐれたらみんなが危ないよね」
虎君のおかげで僕は上級生から絡まれる心配をしなくていい。
でも、みんなは違う。朋喜も悠栖も姫神君も声を掛けられて一歩間違えば危ない目に遭っていた。
みんなを守れるのは、僕。その僕が離れてしまったら、四人が危険に晒されてしまう。
失念していたと反省して謝れば、慶史から「そういう意味じゃない」と呆れられた。
「? 違うの?」
「なぁ、なんでマモっていつもこうなわけ? 家に鏡がないのか?」
「あの豪邸に鏡がないわけないだろ。葵は自己評価が極端に低いんだよ」
「なんで? 自己評価低くなる要因ないだろ?」
悠栖は慶史と内緒話をしているつもりだろうけど、丸聞こえ。
慶史はそれに気づいていながらも調子を合わせて話を進めていて、僕は朋喜と顔を見合わせ肩を竦ませた。
「悠栖は自分の見た目、好き? それとも、もっと男らしい容姿になりたい?」
「そりゃ男らしい容姿になりたいに決まってるだろ?」
「なら、分からない? 毎日毎日雄臭い兄弟と顔を合わせていて、しかもその兄弟は二卵性と言えど双子。それなのに自分は雄臭いどころか乳臭いままで、自分の容姿は平凡だって思う程度で済んでよかったと俺は思うけど?」
「! ちょっと慶史! 僕のことそんな風に見てたの!?」
『乳臭い』って酷くない!?
流石に聞き流せなくて怒ったら、悠栖は心底ビックリしていた。本当に聞こえてないと思っていたみたいだ。
でも今は悠栖よりも慶史だ。いくら慶史と言えど『乳臭い』はない。本当、『乳臭い』は!
「慶史が聞いたんでしょ」
親友が嫌な思いしてるのに喜ばないでよね!
そう言って慶史が僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でてきて、いつもよりもずっと乱暴なスキンシップに「止めてよ!」と思わず逃げてしまう。
悠栖も朋喜もきっと今は慶史の味方。そう感じた僕が逃げた先は姫神君の背後で、姫神君を盾にして三人の様子を窺った。
「……なぁ、楽しんでるところ悪いけど」
「! な、何……?」
状況が掴めないと言いたげな姫神君。
でも、表情は戸惑いというよりも真顔に近くて、僕をジッと見下ろしていた。
(あ、そうだ。姫神君に僕の恋人が虎君だってバレたんだった……)
同性同士の恋愛に嫌悪感を示している人に同性の恋人がいると知られてしまった。
隠し通す気はなかったけど、できればもう少し仲良くなってから話したかった。話してはいないとはいえ、今の僕達の会話を聞いていれば丸分かりだろう……。
僕は蔑まれるかもしれないとビクビクしながらもとりあえず笑って見せる。誤魔化せるものなら誤魔化したいと思ったから。
「……いや、いい加減教室行こうぜ。遅れて目立つのはごめんだ」
「! そうだね! 行こう行こう!」
不自然なまでに元気よくみんなを促して急いで歩くと、背中に突き刺さる視線。居た堪れないってこういうことを言うのだろう。
駆け足で数メートル進むと四人を振り返る。ちゃんと付いてきてくれるか不安だったから。
四人は何やら言葉を交わしながらもちゃんと足を進めていて、ひとまず安心だ。
(あ。やっぱり四人が並ぶと壮観だな)
正統派美人の慶史と正統派可愛い朋喜。そして男子っぽさを合わせ持った愛らしさの悠栖と男装の麗人を彷彿させる姫神君。
タイプが違う綺麗さと可愛らしさを持つ四人が並ぶと本当、壮観で眼福だ。
(父さんのネームバリューが無ければ一緒にいられなかっただろうなぁ)
気後れしているわけじゃないけど、つくづく思う。僕が一緒にいることが不自然な程四人は容姿が整っているから。
僕が四人と一緒にいられるのは、父さんのおかげだ。
もちろん、慶史達は僕の親のことなんて気にしてない。気にしているのは他の人達。
慶史達を男子校のアイドルのように扱っている人達からすれば、僕がくっついていることをさぞ相応しくないと思っている事だろう。
できるなら別行動して欲しいと思われているってことは分かっているけど、文句を言われたことが無いのは僕が『MITANI』の会長の孫で社長の息子だから。
家柄のおかげで僕は周りからの嫌がらせを受けずに済んでいる。慶史達とは違う意味で僕も遠巻きにされているから。
(あ。でも、引き立て役がいるとみんなの魅力がより一層増すから許してもらってるのかも?)
まぁ、平凡な僕がみんなと一緒にいることを妬まれていないだけで十分だから深く考えないようにしよう。
「先先歩かないでよ。はぐれたら危ないでしょ」
「! ごめん! そうだよね。僕がはぐれたらみんなが危ないよね」
虎君のおかげで僕は上級生から絡まれる心配をしなくていい。
でも、みんなは違う。朋喜も悠栖も姫神君も声を掛けられて一歩間違えば危ない目に遭っていた。
みんなを守れるのは、僕。その僕が離れてしまったら、四人が危険に晒されてしまう。
失念していたと反省して謝れば、慶史から「そういう意味じゃない」と呆れられた。
「? 違うの?」
「なぁ、なんでマモっていつもこうなわけ? 家に鏡がないのか?」
「あの豪邸に鏡がないわけないだろ。葵は自己評価が極端に低いんだよ」
「なんで? 自己評価低くなる要因ないだろ?」
悠栖は慶史と内緒話をしているつもりだろうけど、丸聞こえ。
慶史はそれに気づいていながらも調子を合わせて話を進めていて、僕は朋喜と顔を見合わせ肩を竦ませた。
「悠栖は自分の見た目、好き? それとも、もっと男らしい容姿になりたい?」
「そりゃ男らしい容姿になりたいに決まってるだろ?」
「なら、分からない? 毎日毎日雄臭い兄弟と顔を合わせていて、しかもその兄弟は二卵性と言えど双子。それなのに自分は雄臭いどころか乳臭いままで、自分の容姿は平凡だって思う程度で済んでよかったと俺は思うけど?」
「! ちょっと慶史! 僕のことそんな風に見てたの!?」
『乳臭い』って酷くない!?
流石に聞き流せなくて怒ったら、悠栖は心底ビックリしていた。本当に聞こえてないと思っていたみたいだ。
でも今は悠栖よりも慶史だ。いくら慶史と言えど『乳臭い』はない。本当、『乳臭い』は!
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