特別な人

鏡由良

文字の大きさ
311 / 552
恋しい人

恋しい人 第26話

しおりを挟む
「あーごめん、ただの言い回しだよ。そんなに目くじら立てないでよ」
「嘘だ! 絶対僕のこと子供っぽいって思ってるんでしょ!」
「子供っぽいとは思ってるよ? だって俺達まだ子供じゃん」
 平然と言い放つ慶史は本当意地悪だ。
 僕が唸り声をあげて睨めば、姫神君が驚いた声を上げた。三谷って双子なのか。と。
「そうだよ。葵君は双子で、今の大きな内緒話に出てきた葵君の双子のお兄さんは物凄くカッコイイんだよね。大学生って言っても通りそうなぐらい凄く大人っぽいんだよ」
「へぇ……。なぁ、MITANIの社長って、昔『絶世の美男』って見出しで何かの経済誌の表紙飾ったことないか?」
「え? それは、知らない……」
「いや、確かにあの表紙はそうだったはずだ。なるほどな。あの人が三谷の父親か」
 存在すら知らなかった雑誌の表紙の話に一人で納得を示す姫神君は何度か深く頷くと僕を見る。上から下まで、二度ほど。
「な、何?」
「いや、似てないなと思って。三谷は母親似? で、双子の兄貴は父親似か?」
「うん、そうだね。僕はどちらかと言えば母さん似、かな? 茂斗――双子の兄は、完全父さん似だね」
 姫神君の質問に答えれば、「なるほどな」と何やら納得している様子。
 僕は姫神君が何を考えているか分からず、聡明な慶史に答えを求めて振り返る。でも、慶史もまだ姫神君を掴めないのか、分からないと首を横に振って見せた。
「なぁ、どういうことだ? さっぱりわからないんだけど」
「! ああ、悪い。三谷が自己評価低い理由が分かったって事だ」
「え? 何? 何々?」
「『何?』って、圧倒的な劣等感だろ? 兄弟って普通、何かと張り合ったり比べられたりするもんだろ? それが双子となれば闘争心は普通の兄弟よりもずっと強いんじゃないかな」
 姫神君の分析を熱心に聞くのは悠栖だけじゃなくて朋喜も。慶史は姫神君の分析に同意なのか「そういうこと」と頷いている。
「葵は凄く優秀だし可愛いし、劣等感を抱く必要なんて全くないんだけど、比較対象が茂斗っていうのが最悪なんだよ」
「確かに、あいつめちゃくちゃすげーもんな……。ほら、なんていうの? チートってやつ?」
「眉目秀麗で頭脳明晰、運動神経も抜群でまさに文武両道。性格を除いたら茂斗に勝てる男なんて殆どいないだろ」
「! 性格は確かに難ありだよな!」
「でも家族と大切な人には真摯で一途って、凄く魅力的じゃない? 僕は茂斗君の性格、とっても魅力的だと思うけどなぁ」
 四人は茂斗の話で盛り上がる。
 双子の片割れを褒めてもらえるのは嬉しいけど、僕の自己評価が低いとか、その手の話は見当違いすぎてどう訂正すればいいかと頭を抱えてしまう。
 だって、別に僕は自己評価が低いわけじゃない。茂斗に劣等感を感じているわけでもない。……確かに、ちょっぴり羨ましいとは思っているけど、劣等感というほどではない。
(そもそも、悠栖も慶史も根本的な勘違いをしてるよね。僕が『優秀』とか『可愛い』とか、他の人に聞かれたら笑われちゃうよ……)
 友達の欲目ってこういう事を言うのかな?
 惨めではないけど、居た堪れないとは思う。僕がもう少し父さんか母さんに似ていたら友人達からの誉め言葉を素直に受け入れられるのかもしれないけど。
(まぁ、努力を評価してくれるのは単純に嬉しいけどね)
 目の前で推理合戦を繰り広げている友人達を眺めながら、身に余る光栄と言いたくなるほど友人達が僕をどう見ているか知ることができて嬉しかった。
 下駄箱前で話し込んでいたら、ホームルームに向かう先生に声を掛けられた。早く教室に戻りなさい。と。
 僕達は先生の声に素直に返事をして、お喋りを終わらせる。
 先生の後を追うように教室に向かって席に着けば、丁度教壇に立った担任の先生が話を始める。
 話の内容は入学を祝う言葉と、明日以降の授業の話。それと、簡単な自己紹介をと促された。
 僕は進級後のこれがとても苦手だった。面白おかしく自己紹介ができる人なら何でもないんだろうけど、自分の名前しか出てこない僕にはテストよりも難関だ。
 徐々に回ってくる順番に、胃が痛くなりそう。
 早々に自己紹介を済ませた悠栖はこれが終われば今日は帰れるとウキウキしてる感じが伝わってきて、正直羨ましい。
 姫神君、朋喜、慶史と自己紹介を終えてゆくのを聞きながら、遂に回ってきた自分の番。
 僕は前の席の人が座ると同時に椅子から立ち、グルグル回り過ぎた思考に眩暈を覚えそうだった。
「三谷葵です。自己紹介が苦手で何を喋ればいいか分からなくて今頭が真っ白です。一年間よろしくお願いします」
 結局当たり障りない事しか言えなくて、自分にげんなりする。むしろ軽いパニック状態で散々な自己紹介だ。
 僕は座るなり頭を抱えてやり直したいとさえ思った。まぁ、もう一度自己紹介をしていいと言われても断固として拒否するけど。
(もうやだ……。虎君に会いたい……)
 後少しで終わるクラスの自己紹介。終わったらみんなと喋るのもそこそこにして帰ろうと心に決めた。
 机に突っ伏してしまいそうな僕を見兼ねてか、隣の席の慶史が気づかれないように机の端をコンコンと叩いてきた。
 何かと視線を向ければ、ルーズリーフに書かれた『先輩欠乏症?』って文字と慶史のにやりと笑った表情。
 何処までも心を見透かす慶史を一睨みすると、僕は舌を見せてそっぽを向いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...