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恋しい人
恋しい人 第33話
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「姉さん、なんで……。どうして諦めないの……?」
「『絶対に報われないのに』って?」
「そう」
「それは、……、諦められるなら、諦めたいと思ってるだろうな……」
僕の問いかけに虎君が見せるのは苦笑い。力ないその笑い顔に、僕は思わず眉を下げてしまった。姉さんと虎君の間に存在する絆をまざまざと思い知ってしまったから……。
すると虎君は僕の鼻先にキスを落としてくる。僕が何を感じたか、察したのかもしれない。
「そんな不安そうな顔しないで……。俺が愛してるのは、誰?」
「……僕……」
「そう。葵だ。……何度も諦めようと思ったけど、どうしても諦められなかった。止められなかった……」
「虎君……」
「諦めようと思えば思うほど、止めようと思えば思うほど、思い知ったんだ。葵を愛してるって。葵以外要らないって……」
僕を見つめ、少し辛そうに笑う虎君。僕を想ってくれていた当時を思い出しているのかもしれない。
僕は虎君の頬に手を伸ばした。でも、言葉は何も出てこなかった。
「報われないと分かっていても諦められない想いがあるってことを俺は知ってる。そして、未来は誰にも分からないって事も身を持って知ってる」
僕の手を包み込むように触れる虎君は目を細め、不意打ちとばかりにチュッとキスを落としてきた。
「俺も、絶対に報われないと思ってた。葵が他の誰かと幸せになるところを傍で見なければならないって、覚悟もしてた。でも、違った」
額を小突き合わせて笑う虎君の笑みは幸せを物語っていて、胸が締め付けられる。
僕を心から愛してくれている虎君。僕が想っている以上に、ずっとずっと深く。
「自分が思い描いていた未来と全然違う。こうやって葵を抱きしめることができる。こうやって葵に触れることができる」
夢じゃないと確かめるように触れられ、涙が出そうになる。
潤む視界。必死に涙を堪え、虎君を見つめる僕が思うのは、姉さんの心からの幸せだった。
「こんな俺を見ていたら、桔梗も期待するに決まってるだろ?」
「陽琥さんにいつか思いが通じるかもしれない。って……?」
「そう。……俺も、いつかそんな日が来て欲しいと思うよ」
僕を見つめる虎君の瞳は僕以外を見ていない。
姉さんを想う気持ちは家族としての―――兄としての感情であってそれ以上の感情は映されてはいなかった。
「大切な『妹』だから……?」
「そうだな。大切な『妹』であり、葵の大切な家族だからな」
桔梗が辛いと葵も悲しいだろ?
問いかけてくる虎君に、僕は大事な家族だから当然だと頷いた。
「なら、桔梗の幸せを俺が願うのも当然だ。葵が悲しい想いをしないためなら、俺は何でもするから」
「虎君……。疑ってごめんなさい……」
これからは信じるから許して。
そう言って抱きつけば、虎君は疑っても良いし不安になっても良いと言ってくる。
何故? と疑問を抱く僕。すると虎君は「それだけ俺のことが好きって事だろ?」と笑った。
「言っとくけど、好きになればなるほど疑うし不安にもなるぞ?」
「でも、虎君は僕のこと信じてくれてるよね?」
「ああ。信じてる。葵が俺を裏切るわけないって。……でも、それでも不安はあるよ。もしも葵が他の誰かを好きになったらどうしようって、毎日ビクビクしてる。本当はね」
どれほど信じていても、愛しているからこそ失ってしまったらと考えて不安になる。
だから僕が不安や疑いを抱いても怒らないと言ってくれる虎君。愛されているとむしろ喜ぶよ。と。
「でも、一つだけ約束」
「何?」
「さっきも言った通り、隠し事は無し。ちゃんと話をして、すれ違ったりしないようにしよう」
何があっても葵を失いたくない。だから、約束して欲しい。
虎君からのお願いに、僕が嫌だと言うわけがない。それが虎君と一緒にいるためのものなら、なおさら。
僕は虎君の見つめ返し、約束すると頷いた。僕も虎君を失いたくない。絶対に、何があっても。
「葵、愛してる……」
「僕も……。虎君、大好き……」
触れ合う唇に、心が蕩ける。
唇を触れ合わせたまま、お互いの吐息を感じる距離で僕達はもう一度キスを交わした……。
「『絶対に報われないのに』って?」
「そう」
「それは、……、諦められるなら、諦めたいと思ってるだろうな……」
僕の問いかけに虎君が見せるのは苦笑い。力ないその笑い顔に、僕は思わず眉を下げてしまった。姉さんと虎君の間に存在する絆をまざまざと思い知ってしまったから……。
すると虎君は僕の鼻先にキスを落としてくる。僕が何を感じたか、察したのかもしれない。
「そんな不安そうな顔しないで……。俺が愛してるのは、誰?」
「……僕……」
「そう。葵だ。……何度も諦めようと思ったけど、どうしても諦められなかった。止められなかった……」
「虎君……」
「諦めようと思えば思うほど、止めようと思えば思うほど、思い知ったんだ。葵を愛してるって。葵以外要らないって……」
僕を見つめ、少し辛そうに笑う虎君。僕を想ってくれていた当時を思い出しているのかもしれない。
僕は虎君の頬に手を伸ばした。でも、言葉は何も出てこなかった。
「報われないと分かっていても諦められない想いがあるってことを俺は知ってる。そして、未来は誰にも分からないって事も身を持って知ってる」
僕の手を包み込むように触れる虎君は目を細め、不意打ちとばかりにチュッとキスを落としてきた。
「俺も、絶対に報われないと思ってた。葵が他の誰かと幸せになるところを傍で見なければならないって、覚悟もしてた。でも、違った」
額を小突き合わせて笑う虎君の笑みは幸せを物語っていて、胸が締め付けられる。
僕を心から愛してくれている虎君。僕が想っている以上に、ずっとずっと深く。
「自分が思い描いていた未来と全然違う。こうやって葵を抱きしめることができる。こうやって葵に触れることができる」
夢じゃないと確かめるように触れられ、涙が出そうになる。
潤む視界。必死に涙を堪え、虎君を見つめる僕が思うのは、姉さんの心からの幸せだった。
「こんな俺を見ていたら、桔梗も期待するに決まってるだろ?」
「陽琥さんにいつか思いが通じるかもしれない。って……?」
「そう。……俺も、いつかそんな日が来て欲しいと思うよ」
僕を見つめる虎君の瞳は僕以外を見ていない。
姉さんを想う気持ちは家族としての―――兄としての感情であってそれ以上の感情は映されてはいなかった。
「大切な『妹』だから……?」
「そうだな。大切な『妹』であり、葵の大切な家族だからな」
桔梗が辛いと葵も悲しいだろ?
問いかけてくる虎君に、僕は大事な家族だから当然だと頷いた。
「なら、桔梗の幸せを俺が願うのも当然だ。葵が悲しい想いをしないためなら、俺は何でもするから」
「虎君……。疑ってごめんなさい……」
これからは信じるから許して。
そう言って抱きつけば、虎君は疑っても良いし不安になっても良いと言ってくる。
何故? と疑問を抱く僕。すると虎君は「それだけ俺のことが好きって事だろ?」と笑った。
「言っとくけど、好きになればなるほど疑うし不安にもなるぞ?」
「でも、虎君は僕のこと信じてくれてるよね?」
「ああ。信じてる。葵が俺を裏切るわけないって。……でも、それでも不安はあるよ。もしも葵が他の誰かを好きになったらどうしようって、毎日ビクビクしてる。本当はね」
どれほど信じていても、愛しているからこそ失ってしまったらと考えて不安になる。
だから僕が不安や疑いを抱いても怒らないと言ってくれる虎君。愛されているとむしろ喜ぶよ。と。
「でも、一つだけ約束」
「何?」
「さっきも言った通り、隠し事は無し。ちゃんと話をして、すれ違ったりしないようにしよう」
何があっても葵を失いたくない。だから、約束して欲しい。
虎君からのお願いに、僕が嫌だと言うわけがない。それが虎君と一緒にいるためのものなら、なおさら。
僕は虎君の見つめ返し、約束すると頷いた。僕も虎君を失いたくない。絶対に、何があっても。
「葵、愛してる……」
「僕も……。虎君、大好き……」
触れ合う唇に、心が蕩ける。
唇を触れ合わせたまま、お互いの吐息を感じる距離で僕達はもう一度キスを交わした……。
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