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恋しい人
恋しい人 第32話
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たった一度の告白でも心臓が飛び出しそうな程緊張するのに、たった一度の失恋ですらこの世の終わりだと思ってしまうのに、姉さんはなんて強いんだろう。
そして、どんなに辛くとも想いを手放せない姉さんの一途さに、僕は相手の男の人に憎しみに似た感情を抱いてしまう。
「姉さんにはもっと相応しい人が居ると思うっ」
「ん……。いや、どうかな……」
「虎君は姉さんが好きな人、知ってるの……?」
早く次の恋に向かって欲しいと願う僕とは反対に、虎君はそれを良しとしていないようだった。
姉さんに辛い思いをさせている、僕の知らない姉さんの好きな人。
その人のことを虎君は認めているのだろう。姉さんを誰よりも幸せにできるのはその人だけだと虎君は苦笑を見せた。
「だ、誰なの? 姉さんの好きな人、どんな人なの?」
「葵もよく知ってる人だよ」
そんなに凄い人なの?
そう問いかければ虎君は苦笑を濃くして、秘密にできるかと聞いてきた。
「桔梗には葵に話しても良いって許可は貰ってるけど、秘密にできないのなら、言えない」
「それは虎君の意志……?」
「ああ。……知らない振り、できる?」
姉さんは言っていいと言っている。でも、虎君は秘密にできないなら話せないと言う。
それはどうしてだろう?
僕には理由が分からない。けど、意味もなくそんなことを言う人じゃないってこと、僕はちゃんと理解しているから約束した。秘密を守る。と。知らない振りをする。と。
「姉さんの好きな人って、誰なの?」
僕が知っていて、虎君が絶対的な信頼を寄せている人。
頭に浮かんだのは、たった一人。虎君の親友、海音君だった。
(なんで海音君、姉さんの想いに応えてあげないんだろう……)
海音君は姉さんのこと、嫌いじゃないと思う。それなのに、どうして?
思い浮かぶ理由は、『妹』だからというもの。大切だけど恋愛対象として見れないという、残酷な愛情だ。
僕は海音君の優しさを知っているから、絶対にそうだと確信する。確信して、応えられないのならちゃんと諦めさせてあげて欲しいとその優しさを恨めしく思った。
でも、僕が海音君への複雑な思いをグルグルと巡らせていたら、虎君の声がそれを止めた。
「陽琥さんだよ」
「え……?」
「だから、陽琥さん」
聞こえた名前に、陽琥さんが部屋に来たのかと慌ててドアを振り返る。
でもそこには誰も居なくて、僕は虎君を見上げた。陽琥さんの声、聞こえたの? と。
「! 違う違う。桔梗の好きな人の話」
「ほぇ?」
「桔梗はずっと陽琥さんが好きなんだよ」
なんでいきなり話が飛ぶんだと苦笑いを浮かべる虎君は、理解できる? と尋ねてくる。
僕は思考が停止した頭を頑張ってフル回転させ、考える。
虎君は今姉さんの好きな人の話をしている。
そして口にした名前は幼馴染の海音君のものじゃなくて、僕が生まれる前から家族を守り続けている陽琥さんのものだった。
つまり姉さんが好きな人は、陽琥さんと言うことになる。そう。海音君じゃなくて、陽琥さん。
そこまで理解できた僕は、勢いよく顔を上げ虎君を見た。本当なの? と言う問いかけと、なんで陽琥さん? という疑問を含んで。
「驚いた?」
「お、驚いたなんてもんじゃないよ……。本当に、本当に陽琥さんなの? 海音君じゃなくて?」
「なんで『海音』が出てくるんだ? 眼中にもない相手だぞ」
びっくりするよな。って僕の驚愕に理解を示してくれるものの、僕の勘違いに対してはあり得ないだろうとバッサリ切り捨ててしまう。
「だって陽琥さん、母さんと同い年だよ?」
「まぁ、それぐらいだよな」
僕も陽琥さんのことは大好きだけど、それはあくまでも家族としてだ。
血の繋がりはないけど年の離れた兄のような存在であり、父親のような存在でもある陽琥さんのことを姉さんが恋愛的な意味で『好き』だなんて、全く想定外だった。
親子ほど年の離れた陽琥さんと姉さん。僕はその時姉さんの想いは絶対に成就しないと理解してしまった。
(だって陽琥さん、自分の仕事に誇りを持ってる人だもん……)
陽琥さんの仕事は僕達をあらゆる危険から守ること。その為なら命を落とす事すら厭わない人だ。
陽琥さんは仕事が最優先であり、自分のことは二の次。そんな人が姉さんの想いを受け入れるとは到底考えられない。
そして、どんなに辛くとも想いを手放せない姉さんの一途さに、僕は相手の男の人に憎しみに似た感情を抱いてしまう。
「姉さんにはもっと相応しい人が居ると思うっ」
「ん……。いや、どうかな……」
「虎君は姉さんが好きな人、知ってるの……?」
早く次の恋に向かって欲しいと願う僕とは反対に、虎君はそれを良しとしていないようだった。
姉さんに辛い思いをさせている、僕の知らない姉さんの好きな人。
その人のことを虎君は認めているのだろう。姉さんを誰よりも幸せにできるのはその人だけだと虎君は苦笑を見せた。
「だ、誰なの? 姉さんの好きな人、どんな人なの?」
「葵もよく知ってる人だよ」
そんなに凄い人なの?
そう問いかければ虎君は苦笑を濃くして、秘密にできるかと聞いてきた。
「桔梗には葵に話しても良いって許可は貰ってるけど、秘密にできないのなら、言えない」
「それは虎君の意志……?」
「ああ。……知らない振り、できる?」
姉さんは言っていいと言っている。でも、虎君は秘密にできないなら話せないと言う。
それはどうしてだろう?
僕には理由が分からない。けど、意味もなくそんなことを言う人じゃないってこと、僕はちゃんと理解しているから約束した。秘密を守る。と。知らない振りをする。と。
「姉さんの好きな人って、誰なの?」
僕が知っていて、虎君が絶対的な信頼を寄せている人。
頭に浮かんだのは、たった一人。虎君の親友、海音君だった。
(なんで海音君、姉さんの想いに応えてあげないんだろう……)
海音君は姉さんのこと、嫌いじゃないと思う。それなのに、どうして?
思い浮かぶ理由は、『妹』だからというもの。大切だけど恋愛対象として見れないという、残酷な愛情だ。
僕は海音君の優しさを知っているから、絶対にそうだと確信する。確信して、応えられないのならちゃんと諦めさせてあげて欲しいとその優しさを恨めしく思った。
でも、僕が海音君への複雑な思いをグルグルと巡らせていたら、虎君の声がそれを止めた。
「陽琥さんだよ」
「え……?」
「だから、陽琥さん」
聞こえた名前に、陽琥さんが部屋に来たのかと慌ててドアを振り返る。
でもそこには誰も居なくて、僕は虎君を見上げた。陽琥さんの声、聞こえたの? と。
「! 違う違う。桔梗の好きな人の話」
「ほぇ?」
「桔梗はずっと陽琥さんが好きなんだよ」
なんでいきなり話が飛ぶんだと苦笑いを浮かべる虎君は、理解できる? と尋ねてくる。
僕は思考が停止した頭を頑張ってフル回転させ、考える。
虎君は今姉さんの好きな人の話をしている。
そして口にした名前は幼馴染の海音君のものじゃなくて、僕が生まれる前から家族を守り続けている陽琥さんのものだった。
つまり姉さんが好きな人は、陽琥さんと言うことになる。そう。海音君じゃなくて、陽琥さん。
そこまで理解できた僕は、勢いよく顔を上げ虎君を見た。本当なの? と言う問いかけと、なんで陽琥さん? という疑問を含んで。
「驚いた?」
「お、驚いたなんてもんじゃないよ……。本当に、本当に陽琥さんなの? 海音君じゃなくて?」
「なんで『海音』が出てくるんだ? 眼中にもない相手だぞ」
びっくりするよな。って僕の驚愕に理解を示してくれるものの、僕の勘違いに対してはあり得ないだろうとバッサリ切り捨ててしまう。
「だって陽琥さん、母さんと同い年だよ?」
「まぁ、それぐらいだよな」
僕も陽琥さんのことは大好きだけど、それはあくまでも家族としてだ。
血の繋がりはないけど年の離れた兄のような存在であり、父親のような存在でもある陽琥さんのことを姉さんが恋愛的な意味で『好き』だなんて、全く想定外だった。
親子ほど年の離れた陽琥さんと姉さん。僕はその時姉さんの想いは絶対に成就しないと理解してしまった。
(だって陽琥さん、自分の仕事に誇りを持ってる人だもん……)
陽琥さんの仕事は僕達をあらゆる危険から守ること。その為なら命を落とす事すら厭わない人だ。
陽琥さんは仕事が最優先であり、自分のことは二の次。そんな人が姉さんの想いを受け入れるとは到底考えられない。
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