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恋しい人
恋しい人 第52話
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愛されていないわけじゃない。でも、昔の母を見て自分の存在意義に疑問を抱いている。
慶史はそんな悲しい事を言うと深く息を吐くと「そんな顔しないでよ」とこちらを見ずに薄く笑った。
「ごめんね。幸せ真っ只中の葵に話しちゃダメだって分かってたんだけど、ちょっと我慢できなかった……」
「自分が苦しい時にまで人に気を使うの止めなよ」
「気を使ったんじゃなくて、そうやって涙ぐまれるって分かってるから言いたくなかったんだよ」
我慢しても、声が震える。
慶史は僕に辛い思いをさせたくないだけだと言うと、何故か「ありがとう」とお礼を言ってきた。
僕は慶史に何もしてあげられていない。辛いことからも苦しいことからも助けられていない。
それなのにどうして『ありがとう』なんて言ってくれるんだろう……?
「葵が俺の気持ちを分かってくれるから、頑張れるんだよ」
「そんなに頑張らなくていいよっ」
「うん。そうだよね……。でも、もう少し付き合って」
「最後まで付き合うって言ってるでしょ? 慶史が納得するまで、僕は慶史から離れないからっ」
それまでは頼まれたって離れないからね!? って、慶史の腕にもたれかかる僕。
慶史は僕の髪を撫でて凄く優しい声で「お人好し」って悪態を吐く。
(神様……。お願いします、慶史を苦しみから解放してあげてください……)
僕は心の中で祈りを捧げる。
きっと僕が父さんに助けを求めれば、諸悪の根源となった慶史の継父は罪を免れないだろう。
でももしそれをすれば、僕は親友を失うことになる。
慶史だってどうすればこの苦しみから解放されるか分かっている。それなのに、慶史は耐える選択をした。
僕だって真実を知った時真っ先に大人の人に相談しようって提案した。それなのに、慶史はそれを許さなかった。
僕は慶史に何もしてあげられない自分に苛立ちを覚えた。慶史のために、絶縁される覚悟でどうして動けないのか。と。
(慶史を救いたいのに……)
親友を失いたくない。なんて、それは自分のエゴだ。
僕は慶史と手を繋ぎ、休み時間とは打って変わって静かな校内に泣きそうになった。
「……これって浮気になるのかな?」
「え……?」
「だから、これ」
慶史は繋いだ手を持ち上げると、悪戯に笑う。先輩に見せたらどうなるかな? そんな言葉を続けて。
僕は慶史の笑顔に「どうもしないよ」って顔を歪めた。
苦しいのにそんな風に笑わないで……。
「さっきも言ったけど、先輩には話していいからね」
「だから話さないよっ」
「うん。でも……、でも、もしも俺が原因で喧嘩して抉れそうだったら、本当に話して欲しい」
「だから―――」
「いいから黙って聞いて。葵が俺を守りたいように、俺も葵のこと守りたいんだ。それなのにその俺が葵の幸せをダメにするとか本末転倒だろ?」
だから、もしもの時は話していい。
慶史の表情はいつになく真剣で、気圧される。
僕は渋々ながらも頷き、分かったと了承する。すると、不本意な同意だと分かっているのだろう。慶史は狡い言葉を投げかけてきた。
「俺達、親友だろ?」
唯一無二の友人だからこそ、幸せを願ってやまない。
そう笑ってくれる慶史に僕は俯いた。涙が零れそうだったから……。
「あ、やば。柊先生だ」
鼻を啜って堪えきれない涙を拭えば、慶史のしまったと言わんばかりの声。
涙目のまま顔を上げれば、真っ直ぐ此方に向かって歩いてくる養護教諭の斗弛弥さんの姿が目に入った。
「見逃してくれると思う?」
「それは、無理じゃないかな……」
ぐすぐすと鼻を啜る僕は、慶史とは違う意味で危機感を覚えた。
授業をサボっていることを怒られるのは仕方ないにしても、慶史と一緒にサボって涙目になっていることがバレてしまったことの方が不味い。
だって虎君、斗弛弥さんに僕に何かあったら絶対に自分に連絡して欲しいってお願いしてるから……。
慶史はそんな悲しい事を言うと深く息を吐くと「そんな顔しないでよ」とこちらを見ずに薄く笑った。
「ごめんね。幸せ真っ只中の葵に話しちゃダメだって分かってたんだけど、ちょっと我慢できなかった……」
「自分が苦しい時にまで人に気を使うの止めなよ」
「気を使ったんじゃなくて、そうやって涙ぐまれるって分かってるから言いたくなかったんだよ」
我慢しても、声が震える。
慶史は僕に辛い思いをさせたくないだけだと言うと、何故か「ありがとう」とお礼を言ってきた。
僕は慶史に何もしてあげられていない。辛いことからも苦しいことからも助けられていない。
それなのにどうして『ありがとう』なんて言ってくれるんだろう……?
「葵が俺の気持ちを分かってくれるから、頑張れるんだよ」
「そんなに頑張らなくていいよっ」
「うん。そうだよね……。でも、もう少し付き合って」
「最後まで付き合うって言ってるでしょ? 慶史が納得するまで、僕は慶史から離れないからっ」
それまでは頼まれたって離れないからね!? って、慶史の腕にもたれかかる僕。
慶史は僕の髪を撫でて凄く優しい声で「お人好し」って悪態を吐く。
(神様……。お願いします、慶史を苦しみから解放してあげてください……)
僕は心の中で祈りを捧げる。
きっと僕が父さんに助けを求めれば、諸悪の根源となった慶史の継父は罪を免れないだろう。
でももしそれをすれば、僕は親友を失うことになる。
慶史だってどうすればこの苦しみから解放されるか分かっている。それなのに、慶史は耐える選択をした。
僕だって真実を知った時真っ先に大人の人に相談しようって提案した。それなのに、慶史はそれを許さなかった。
僕は慶史に何もしてあげられない自分に苛立ちを覚えた。慶史のために、絶縁される覚悟でどうして動けないのか。と。
(慶史を救いたいのに……)
親友を失いたくない。なんて、それは自分のエゴだ。
僕は慶史と手を繋ぎ、休み時間とは打って変わって静かな校内に泣きそうになった。
「……これって浮気になるのかな?」
「え……?」
「だから、これ」
慶史は繋いだ手を持ち上げると、悪戯に笑う。先輩に見せたらどうなるかな? そんな言葉を続けて。
僕は慶史の笑顔に「どうもしないよ」って顔を歪めた。
苦しいのにそんな風に笑わないで……。
「さっきも言ったけど、先輩には話していいからね」
「だから話さないよっ」
「うん。でも……、でも、もしも俺が原因で喧嘩して抉れそうだったら、本当に話して欲しい」
「だから―――」
「いいから黙って聞いて。葵が俺を守りたいように、俺も葵のこと守りたいんだ。それなのにその俺が葵の幸せをダメにするとか本末転倒だろ?」
だから、もしもの時は話していい。
慶史の表情はいつになく真剣で、気圧される。
僕は渋々ながらも頷き、分かったと了承する。すると、不本意な同意だと分かっているのだろう。慶史は狡い言葉を投げかけてきた。
「俺達、親友だろ?」
唯一無二の友人だからこそ、幸せを願ってやまない。
そう笑ってくれる慶史に僕は俯いた。涙が零れそうだったから……。
「あ、やば。柊先生だ」
鼻を啜って堪えきれない涙を拭えば、慶史のしまったと言わんばかりの声。
涙目のまま顔を上げれば、真っ直ぐ此方に向かって歩いてくる養護教諭の斗弛弥さんの姿が目に入った。
「見逃してくれると思う?」
「それは、無理じゃないかな……」
ぐすぐすと鼻を啜る僕は、慶史とは違う意味で危機感を覚えた。
授業をサボっていることを怒られるのは仕方ないにしても、慶史と一緒にサボって涙目になっていることがバレてしまったことの方が不味い。
だって虎君、斗弛弥さんに僕に何かあったら絶対に自分に連絡して欲しいってお願いしてるから……。
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