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恋しい人
恋しい人 第60話
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『葵、何かあった?』
「え……? 『何か』って……?」
虎君はきっと授業中だろうしそろそろ電話を切らないとと思っていたら、僕の不安を知っているかのように問いかけられた。
僕はこれ以上心配かけたくないし、甘えちゃダメだと平静を装う。けど虎君にはそれすらお見通しなのか、『俺には甘えていいんだよ』って優しい声で囁いてくる。
甘えたな僕はそれにあっけなく心が揺らいでしまって、全部吐き出したくなってしまう。
(虎君に『大丈夫だよ』って言って欲しい……。『何があっても一緒だよ』って言って欲しい……)
お父さんとお母さんに反対されても、僕と一緒にいると言って欲しい。
そんな我儘な願望には流石に自分自身呆れてしまう。けど、虎君なら僕を選んでくれるような気がした。だって虎君が世界で一番大事に想ってくれているのは僕なんだから。
「あのね、虎君。実は―――」
「おい、虎。お前講義中だろう? 葵はこの通りピンピンしてるから今すぐ講義に戻れ」
「斗弛弥さんっ!」
虎君に甘えようとした矢先、僕は携帯を斗弛弥さんに奪われてしまう。
何するんですか! って怒る僕。すると斗弛弥さんは「静かにしてろ」と睨みを利かせ、僕を黙らせる。
「今度くだらない理由でサボったら必修科目で落第させるよう頼むぞ。いいな?」
横暴というか最早ただの脅しだ。
斗弛弥さんは言いたいことを言った後電話を切って、僕を見下ろしたまま携帯を返してくる。その眼差しがいつもと違って怖くて、僕は怒っているのに何も言えず無言で携帯を受け取った。
真っ暗になったディスプレイに写るのは自分の顔。
その表情に滲むのは虎君が恋しいという想いで、ついさっき少しだけ聞いた虎君の声を反芻して更に会いたくて堪らなくなってしまう。
虎君が恋しくて恋しくて、耐えられなくなって電源ボタンを押せば、昨日の朝二人で撮った写真がディスプレイに表示される。
写真の中で優しく笑う虎君の笑顔。見つめていれば今の僕に向けて笑ってくれているような気がしてくる。まぁ勘違いなんだけど。
写真の中の虎君の笑顔は、写真の中の僕に向けられたもの。今の僕に向けられたものじゃない。
そんなことを考えてしまう僕は、一日前の自分を羨ましいと思う。いや、羨ましいを通り越して妬ましいぐらいだ。
虎君の傍で笑う自分の幸せそうな笑顔に嫉妬した。なんて言ったら、隣に座る慶史に呆れられるに決まってる。
僕は慶史に気づかれないように俯いたまま携帯のディスプレイの電源をオフにした。
(僕の虎君に会いたい……)
家に帰ったら会えるのに、それまでの数時間が我慢できない。
虎君を好きになればなるほど堪え性が無くなっていってるって自分でも分かるぐらい、僕は虎君に逢いたくて堪らなくなっていた。
「先輩に逢いたくて堪らない。って顔してるね」
「! そ、そんなこと、ない、よ」
深く俯いていたから横顔もはっきり見えていたわけじゃないだろうに、なんでバレバレなんだろう……。
認めたらいよいよ我慢ができなくなりそうだからしどろもどろになりながらも否定するんだけど、まぁ嘘だって分かるよね。
案の定、慶史は『どうしてバレないと思ったの?』って言いたげな顔で僕を見つめていた。
(こういう時、何も言われないと居た堪れなさって倍増するんだね……)
僕は携帯をポケットに片づけると、斗弛弥さんに聞こえないように小声で「そんなに分かり易い?」と自分の頬っぺたをマッサージするようにふにふにと撫でまわした。
虎君のことを想って頬が緩んでしまっていたのかもしれない。と。
でも慶史は顔を見なくても分かると呆れ声を返してきて……。
「先輩の傍にいたい葵が先輩の声を聞いて我慢できるとは思えないからね」
「やっぱり僕って堪え性ない?」
「『堪え性がない』っていうわけじゃないんじゃない? 今が一番楽しい時だろうし、そういうモノなんじゃないの? 恋愛って」
この後はなぁなぁな関係になるだけだし、今を命一杯楽しんだらいいんじゃないかな?
慶史は満面の笑みを見せてくる。その笑顔は綺麗で可愛いんだけど、言葉は全然可愛くない。
僕は頬を膨らませ、慶史の言葉に訂正を入れる。この先も幸せしかないからね! と。
「だから今が人生のピークみたいな言い方しないでよね」
「ピークは数日後だと思うけどなぁ」
「なんで『数日後』?」
慶史の口から零れた訂正の言葉に僕は首を傾げた。どういう意味? と。
すると慶史は一度斗弛弥さんに視線を移して、斗弛弥さんが仕事をしていることを確認すると距離を詰めるように座り直すと僕に耳打ちしてきた。
「普通に考えて『初恋の人と初エッチ』が幸せのピークでしょ?」
と。
「え……? 『何か』って……?」
虎君はきっと授業中だろうしそろそろ電話を切らないとと思っていたら、僕の不安を知っているかのように問いかけられた。
僕はこれ以上心配かけたくないし、甘えちゃダメだと平静を装う。けど虎君にはそれすらお見通しなのか、『俺には甘えていいんだよ』って優しい声で囁いてくる。
甘えたな僕はそれにあっけなく心が揺らいでしまって、全部吐き出したくなってしまう。
(虎君に『大丈夫だよ』って言って欲しい……。『何があっても一緒だよ』って言って欲しい……)
お父さんとお母さんに反対されても、僕と一緒にいると言って欲しい。
そんな我儘な願望には流石に自分自身呆れてしまう。けど、虎君なら僕を選んでくれるような気がした。だって虎君が世界で一番大事に想ってくれているのは僕なんだから。
「あのね、虎君。実は―――」
「おい、虎。お前講義中だろう? 葵はこの通りピンピンしてるから今すぐ講義に戻れ」
「斗弛弥さんっ!」
虎君に甘えようとした矢先、僕は携帯を斗弛弥さんに奪われてしまう。
何するんですか! って怒る僕。すると斗弛弥さんは「静かにしてろ」と睨みを利かせ、僕を黙らせる。
「今度くだらない理由でサボったら必修科目で落第させるよう頼むぞ。いいな?」
横暴というか最早ただの脅しだ。
斗弛弥さんは言いたいことを言った後電話を切って、僕を見下ろしたまま携帯を返してくる。その眼差しがいつもと違って怖くて、僕は怒っているのに何も言えず無言で携帯を受け取った。
真っ暗になったディスプレイに写るのは自分の顔。
その表情に滲むのは虎君が恋しいという想いで、ついさっき少しだけ聞いた虎君の声を反芻して更に会いたくて堪らなくなってしまう。
虎君が恋しくて恋しくて、耐えられなくなって電源ボタンを押せば、昨日の朝二人で撮った写真がディスプレイに表示される。
写真の中で優しく笑う虎君の笑顔。見つめていれば今の僕に向けて笑ってくれているような気がしてくる。まぁ勘違いなんだけど。
写真の中の虎君の笑顔は、写真の中の僕に向けられたもの。今の僕に向けられたものじゃない。
そんなことを考えてしまう僕は、一日前の自分を羨ましいと思う。いや、羨ましいを通り越して妬ましいぐらいだ。
虎君の傍で笑う自分の幸せそうな笑顔に嫉妬した。なんて言ったら、隣に座る慶史に呆れられるに決まってる。
僕は慶史に気づかれないように俯いたまま携帯のディスプレイの電源をオフにした。
(僕の虎君に会いたい……)
家に帰ったら会えるのに、それまでの数時間が我慢できない。
虎君を好きになればなるほど堪え性が無くなっていってるって自分でも分かるぐらい、僕は虎君に逢いたくて堪らなくなっていた。
「先輩に逢いたくて堪らない。って顔してるね」
「! そ、そんなこと、ない、よ」
深く俯いていたから横顔もはっきり見えていたわけじゃないだろうに、なんでバレバレなんだろう……。
認めたらいよいよ我慢ができなくなりそうだからしどろもどろになりながらも否定するんだけど、まぁ嘘だって分かるよね。
案の定、慶史は『どうしてバレないと思ったの?』って言いたげな顔で僕を見つめていた。
(こういう時、何も言われないと居た堪れなさって倍増するんだね……)
僕は携帯をポケットに片づけると、斗弛弥さんに聞こえないように小声で「そんなに分かり易い?」と自分の頬っぺたをマッサージするようにふにふにと撫でまわした。
虎君のことを想って頬が緩んでしまっていたのかもしれない。と。
でも慶史は顔を見なくても分かると呆れ声を返してきて……。
「先輩の傍にいたい葵が先輩の声を聞いて我慢できるとは思えないからね」
「やっぱり僕って堪え性ない?」
「『堪え性がない』っていうわけじゃないんじゃない? 今が一番楽しい時だろうし、そういうモノなんじゃないの? 恋愛って」
この後はなぁなぁな関係になるだけだし、今を命一杯楽しんだらいいんじゃないかな?
慶史は満面の笑みを見せてくる。その笑顔は綺麗で可愛いんだけど、言葉は全然可愛くない。
僕は頬を膨らませ、慶史の言葉に訂正を入れる。この先も幸せしかないからね! と。
「だから今が人生のピークみたいな言い方しないでよね」
「ピークは数日後だと思うけどなぁ」
「なんで『数日後』?」
慶史の口から零れた訂正の言葉に僕は首を傾げた。どういう意味? と。
すると慶史は一度斗弛弥さんに視線を移して、斗弛弥さんが仕事をしていることを確認すると距離を詰めるように座り直すと僕に耳打ちしてきた。
「普通に考えて『初恋の人と初エッチ』が幸せのピークでしょ?」
と。
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