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恋しい人
恋しい人 第59話
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「脈は安定してるな……。呼吸はなるべく深くゆっくりしなさい。今のままだと過呼吸になる」
斗弛弥さんは僕の手を放すと、手本を見せるように深呼吸をして見せた。僕は言われるがまま胸いっぱい空気を取り込むように息を吸い込んだ。
2、3度深呼吸を繰り返せば息苦しさは無くなる。
穏やかになる呼吸。僕の背をずっと擦ってくれていた慶史に「もう平気」と力なく笑えば、慶史は眉を下げたまま僕の言葉を疑ってきた。
「本当に大丈夫。心配かけてごめんね?」
本当は凄く不安。でも、この不安を口に出すことはできない。口に出したら慶史はもちろん、斗弛弥さんも僕を安心させる言葉をくれるって分かっているから。
我慢しないとダメだ。って自分に言い聞かせる僕。
するとその時、バイブ音が耳に届いた。反射的に音のする方向に顔を上げれば斗弛弥さんの姿が。
斗弛弥さんも携帯が鳴っていることに気づいたようで白衣のポケットから携帯を取り出し、「仕事中に誰だ?」と着信の相手を確認する。
でもすぐに斗弛弥さんは携帯を仕事机に置いてしまう。バイブ音は止まらず鳴り響いているのにどうして出ないんだろう……?
(仕事中だから出ないのかな……?)
まだ少しドキドキしている胸を手で押さえながら携帯が気になってしまう僕。
すると斗弛弥さんはもう一度白衣のポケットに手を入れ、もう一台携帯を取り出した。さっき取り上げられた僕の携帯だ。
「それ、僕の携帯ですよ?」
「あいつ、講義中だろうが」
「え? なんですか?」
僕の携帯をジッと見下ろす斗弛弥さんの眉間に皺が寄る。
珍しく不機嫌だと分かるその表情に、声はちゃんと聞き取れたけど思わず尋ね返してしまう。
「ジュニアからだ」
「え……」
「ほら、早く出てやれ。そろそろ留守電に切り替わるぞ」
声のトーンが全然違う。それを少し怖いと思いながらも僕は携帯を受け取るとすぐに通話ボタンを押して電話に出た。
「もしもし……?」
『葵、いきなり電話してごめん。授業休んで保健室にいるって聞いたから心配になって……。体調は大丈夫?』
心配してくれる虎君の声は凄く優しくて、色々我慢していた僕の心にダイレクトに響く。
此処に虎君はいないけど、携帯越しに聞こえる声に虎君がすぐ傍にいてくれるような安心感が生まれる。
心を溶かす虎君の声に聞き入っていたら、返事がないことに虎君の声色が変わる。
『葵? 葵、聞いてる? 大丈夫か?』
「! ごめんなさい、聞こえてるよ。僕は大丈夫。トイレに行ってたら授業が始まっちゃって、遅れて教室に入れなかっただけだから心配しないで」
心配のあまり焦りが滲む声に、不謹慎ながらドキドキする。
僕は早口で今保健室にいる理由を伝える。斗弛弥さんが連絡した通りだよ。と。
『本当に? 本当に気分が悪いとかじゃないんだな? 吐いたとかそういうわけじゃないんだな?』
「うん。違うよ。大丈夫」
重ねて確認され、僕は虎君に安心してもらうよう返事をする。
そして返事をしながら、虎君の愛を実感する。僕はこんなにも大事にされている。こんなにも愛されてる。と。
(あぁ……僕、本当に虎君のこと、大好きだなぁ……)
虎君からの想いを感じる度こんなに幸せになれるんだから、恋って凄い。
そして、虎君からの想いを感じる度貰った分の想いを……いや、貰った以上の想いを返したいと思うから、愛って偉大だと思う。
「心配かけてごめんね? ……ありがとう、虎君」
隣には何とも言えない顔をしている慶史がいて、目の前には呆れ顔の斗弛弥さんがいるから『大好き』とは伝えられなかった。
けど、『大好き』を込めて『ありがとう』を伝えたら、虎君から返ってくるのは同じ想いだよって言葉。
『俺も大好きだよ。……でも、よかった。体調が悪いわけじゃないなら安心した』
「うん……」
ホッとした声は優しい音に戻って僕の心を鷲掴む。
改めて虎君の傍にいたいと願う僕。
でも、幸せの中、思い出す。虎君のお父さんとお母さんにとても失礼なことをしてしまったという現実を。
(今夜、電話していいかな……)
時差とお仕事のことを考えてまずはメッセージで電話してもいいか尋ねて、大丈夫そうならちゃんと自分の言葉で謝ろう。
たとえ二人が僕のことを嫌いになったままでも、僕はもう虎君から離れられないから、認めてもらえるまで諦めない。
(そうだ。怖がって一人でウジウジしていても何も変わらないんだから、自分から動かないと……!)
できることを全てやりきって、それでもダメだった時は周囲に助けてもらえばいい。僕の周りには優しい人が沢山いるんだから。
斗弛弥さんは僕の手を放すと、手本を見せるように深呼吸をして見せた。僕は言われるがまま胸いっぱい空気を取り込むように息を吸い込んだ。
2、3度深呼吸を繰り返せば息苦しさは無くなる。
穏やかになる呼吸。僕の背をずっと擦ってくれていた慶史に「もう平気」と力なく笑えば、慶史は眉を下げたまま僕の言葉を疑ってきた。
「本当に大丈夫。心配かけてごめんね?」
本当は凄く不安。でも、この不安を口に出すことはできない。口に出したら慶史はもちろん、斗弛弥さんも僕を安心させる言葉をくれるって分かっているから。
我慢しないとダメだ。って自分に言い聞かせる僕。
するとその時、バイブ音が耳に届いた。反射的に音のする方向に顔を上げれば斗弛弥さんの姿が。
斗弛弥さんも携帯が鳴っていることに気づいたようで白衣のポケットから携帯を取り出し、「仕事中に誰だ?」と着信の相手を確認する。
でもすぐに斗弛弥さんは携帯を仕事机に置いてしまう。バイブ音は止まらず鳴り響いているのにどうして出ないんだろう……?
(仕事中だから出ないのかな……?)
まだ少しドキドキしている胸を手で押さえながら携帯が気になってしまう僕。
すると斗弛弥さんはもう一度白衣のポケットに手を入れ、もう一台携帯を取り出した。さっき取り上げられた僕の携帯だ。
「それ、僕の携帯ですよ?」
「あいつ、講義中だろうが」
「え? なんですか?」
僕の携帯をジッと見下ろす斗弛弥さんの眉間に皺が寄る。
珍しく不機嫌だと分かるその表情に、声はちゃんと聞き取れたけど思わず尋ね返してしまう。
「ジュニアからだ」
「え……」
「ほら、早く出てやれ。そろそろ留守電に切り替わるぞ」
声のトーンが全然違う。それを少し怖いと思いながらも僕は携帯を受け取るとすぐに通話ボタンを押して電話に出た。
「もしもし……?」
『葵、いきなり電話してごめん。授業休んで保健室にいるって聞いたから心配になって……。体調は大丈夫?』
心配してくれる虎君の声は凄く優しくて、色々我慢していた僕の心にダイレクトに響く。
此処に虎君はいないけど、携帯越しに聞こえる声に虎君がすぐ傍にいてくれるような安心感が生まれる。
心を溶かす虎君の声に聞き入っていたら、返事がないことに虎君の声色が変わる。
『葵? 葵、聞いてる? 大丈夫か?』
「! ごめんなさい、聞こえてるよ。僕は大丈夫。トイレに行ってたら授業が始まっちゃって、遅れて教室に入れなかっただけだから心配しないで」
心配のあまり焦りが滲む声に、不謹慎ながらドキドキする。
僕は早口で今保健室にいる理由を伝える。斗弛弥さんが連絡した通りだよ。と。
『本当に? 本当に気分が悪いとかじゃないんだな? 吐いたとかそういうわけじゃないんだな?』
「うん。違うよ。大丈夫」
重ねて確認され、僕は虎君に安心してもらうよう返事をする。
そして返事をしながら、虎君の愛を実感する。僕はこんなにも大事にされている。こんなにも愛されてる。と。
(あぁ……僕、本当に虎君のこと、大好きだなぁ……)
虎君からの想いを感じる度こんなに幸せになれるんだから、恋って凄い。
そして、虎君からの想いを感じる度貰った分の想いを……いや、貰った以上の想いを返したいと思うから、愛って偉大だと思う。
「心配かけてごめんね? ……ありがとう、虎君」
隣には何とも言えない顔をしている慶史がいて、目の前には呆れ顔の斗弛弥さんがいるから『大好き』とは伝えられなかった。
けど、『大好き』を込めて『ありがとう』を伝えたら、虎君から返ってくるのは同じ想いだよって言葉。
『俺も大好きだよ。……でも、よかった。体調が悪いわけじゃないなら安心した』
「うん……」
ホッとした声は優しい音に戻って僕の心を鷲掴む。
改めて虎君の傍にいたいと願う僕。
でも、幸せの中、思い出す。虎君のお父さんとお母さんにとても失礼なことをしてしまったという現実を。
(今夜、電話していいかな……)
時差とお仕事のことを考えてまずはメッセージで電話してもいいか尋ねて、大丈夫そうならちゃんと自分の言葉で謝ろう。
たとえ二人が僕のことを嫌いになったままでも、僕はもう虎君から離れられないから、認めてもらえるまで諦めない。
(そうだ。怖がって一人でウジウジしていても何も変わらないんだから、自分から動かないと……!)
できることを全てやりきって、それでもダメだった時は周囲に助けてもらえばいい。僕の周りには優しい人が沢山いるんだから。
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