355 / 552
恋しい人
恋しい人 第70話
しおりを挟む
「今の、先輩のこと馬鹿にしたとかそういうわけじゃないからっ! 本当、違うからっ!!」
本当にごめん! 頼むから許して!!
そう大きな声で僕にせっついてくる悠栖。
昼休みで騒がしい教室でもその声はよく響いて、周りにいたクラスメイトは……いや、教室にいたクラスメイトは何事だと僕達に視線を向けてくる。
目立つことが嫌いな僕は悠栖の謝罪よりも周囲の好奇の目に負けて不機嫌なままではいられなくなってしまった。
「も、もういいよ……」
「本当に!? もう怒ってない!?」
「怒ってないから、そんなに大きな声出さないで……」
土下座から勢いよく顔を上げる悠栖にお願いだから静かにしてと僕は人目を気にする。
でも悠栖は全然人目が気にならないのか、僕の機嫌を窺うようになおも声を大きく詰め寄ってきて困ってしまう。
「悠栖、ストップ」
「え? 何が?」
「それ以上葵君を困らせると親衛隊隊長に泣かされちゃうよ?」
「何言って―――! も、もう喋りません!!」
朋喜の言葉の意味が僕も分からない。でも悠栖はすぐに分かったのか、僕から離れて両手を挙げて降参ポーズで口を噤んで……。
本気で怯えている様子の悠栖。
僕は悠栖の視線の方向に顔を向ける。と、大きな目を半分以下にして睨んでいる慶史の姿が目に入った。
「け、慶史、怖いよ……?」
「……だってギャンギャン煩いんだもん。俺は静かに昼ご飯を食べたいのに」
「とりあえず、話の続きはお昼食べながらにしよっか?」
「だな。いい加減腹減った」
バカ騒ぎをしていないで座れと悠栖に命令するのは姫神君。
その有無を言わさぬ口調に悠栖は素直に従って、僕達は無言で机を囲った。
「……三谷、体調は本当に大丈夫なんだよな?」
「! うん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
お弁当を広げる僕を気にしてくれる姫神君は口はちょっぴり悪いけど、やっぱり優しい。
頷きを返せば、姫神君は食べきれなかったら無理せず残すようにとなおも心配してくれる。
僕は「そうするね」ともう一度頷いて手を合わせてお昼ご飯を食べ始める。
と、正面から感じる視線。
「……もう怒ってないから、そんな目で見ないでよ」
「! ご、ごめん」
虎君を軽んじた発言をまだ完全に許すことはできないけど、縋るような目で見つめられたら良心が痛むと言うものだ。
僕は小さく息を吐くと、頼りない表情で僕を見つめてくる悠栖に「でも次は許さないからね?」と、だから今回はもういいよと笑った。
「うぅ……、マモ、本当にごめんな……」
「だからもういいってば。……それに、謝るのは僕にじゃなくて虎君に対してだからね?」
「ん……分かった……」
しょんぼりする悠栖の姿に、僕は悪戯して叱られた子犬みたいだと思ってしまう。
(本当、ずるいんだから)
こんな風に可愛く反省されたら、許すしかない。
僕は『やっぱり可愛いって得だな』と思う。だって、僕は凄く怒っていたはずなのに、今は悠栖が愛しくて堪らないんだから。
「悠栖ってズルいよね」
「え……? なんで……?」
僕の言葉の真意が分からず身構える悠栖。その姿も可愛いと思ってしまう僕は、実は性格が悪いのかもしれない。
(好きな子ほど苛めたいって思う人がいるっていうことは知っていたけど、こういう気持ちなのかも?)
まぁ僕は悠栖のことをそういう意味で好きなわけじゃないんだけど。
「僕、慶史の気持ちちょっとわかっちゃった」
「……なにそれ。なんか、凄く勘違いされてる気がするんだけど」
「ふふ、秘密。でも、勘違いじゃないと思うよ?」
「えぇ……こわっ……」
悠栖と慶史はもちろん、朋喜も姫神君も僕が何を言っているのか分からないと顔を見合わせて肩を竦ませたり首を傾げたりしてる。
僕はそんな友人達を余所に、笑顔で待ちに待ったお弁当を頬張った。
本当にごめん! 頼むから許して!!
そう大きな声で僕にせっついてくる悠栖。
昼休みで騒がしい教室でもその声はよく響いて、周りにいたクラスメイトは……いや、教室にいたクラスメイトは何事だと僕達に視線を向けてくる。
目立つことが嫌いな僕は悠栖の謝罪よりも周囲の好奇の目に負けて不機嫌なままではいられなくなってしまった。
「も、もういいよ……」
「本当に!? もう怒ってない!?」
「怒ってないから、そんなに大きな声出さないで……」
土下座から勢いよく顔を上げる悠栖にお願いだから静かにしてと僕は人目を気にする。
でも悠栖は全然人目が気にならないのか、僕の機嫌を窺うようになおも声を大きく詰め寄ってきて困ってしまう。
「悠栖、ストップ」
「え? 何が?」
「それ以上葵君を困らせると親衛隊隊長に泣かされちゃうよ?」
「何言って―――! も、もう喋りません!!」
朋喜の言葉の意味が僕も分からない。でも悠栖はすぐに分かったのか、僕から離れて両手を挙げて降参ポーズで口を噤んで……。
本気で怯えている様子の悠栖。
僕は悠栖の視線の方向に顔を向ける。と、大きな目を半分以下にして睨んでいる慶史の姿が目に入った。
「け、慶史、怖いよ……?」
「……だってギャンギャン煩いんだもん。俺は静かに昼ご飯を食べたいのに」
「とりあえず、話の続きはお昼食べながらにしよっか?」
「だな。いい加減腹減った」
バカ騒ぎをしていないで座れと悠栖に命令するのは姫神君。
その有無を言わさぬ口調に悠栖は素直に従って、僕達は無言で机を囲った。
「……三谷、体調は本当に大丈夫なんだよな?」
「! うん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
お弁当を広げる僕を気にしてくれる姫神君は口はちょっぴり悪いけど、やっぱり優しい。
頷きを返せば、姫神君は食べきれなかったら無理せず残すようにとなおも心配してくれる。
僕は「そうするね」ともう一度頷いて手を合わせてお昼ご飯を食べ始める。
と、正面から感じる視線。
「……もう怒ってないから、そんな目で見ないでよ」
「! ご、ごめん」
虎君を軽んじた発言をまだ完全に許すことはできないけど、縋るような目で見つめられたら良心が痛むと言うものだ。
僕は小さく息を吐くと、頼りない表情で僕を見つめてくる悠栖に「でも次は許さないからね?」と、だから今回はもういいよと笑った。
「うぅ……、マモ、本当にごめんな……」
「だからもういいってば。……それに、謝るのは僕にじゃなくて虎君に対してだからね?」
「ん……分かった……」
しょんぼりする悠栖の姿に、僕は悪戯して叱られた子犬みたいだと思ってしまう。
(本当、ずるいんだから)
こんな風に可愛く反省されたら、許すしかない。
僕は『やっぱり可愛いって得だな』と思う。だって、僕は凄く怒っていたはずなのに、今は悠栖が愛しくて堪らないんだから。
「悠栖ってズルいよね」
「え……? なんで……?」
僕の言葉の真意が分からず身構える悠栖。その姿も可愛いと思ってしまう僕は、実は性格が悪いのかもしれない。
(好きな子ほど苛めたいって思う人がいるっていうことは知っていたけど、こういう気持ちなのかも?)
まぁ僕は悠栖のことをそういう意味で好きなわけじゃないんだけど。
「僕、慶史の気持ちちょっとわかっちゃった」
「……なにそれ。なんか、凄く勘違いされてる気がするんだけど」
「ふふ、秘密。でも、勘違いじゃないと思うよ?」
「えぇ……こわっ……」
悠栖と慶史はもちろん、朋喜も姫神君も僕が何を言っているのか分からないと顔を見合わせて肩を竦ませたり首を傾げたりしてる。
僕はそんな友人達を余所に、笑顔で待ちに待ったお弁当を頬張った。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる