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恋しい人
恋しい人 第87話
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通話を終えた僕は携帯をポケットに片づけながら虎君を見上げる。すると虎君は僕を見下ろしていて、優しく笑いかけてくれた。
「安心できた?」
「うん。安心した! 朋喜と姫神君が仲直りしてくれて本当によかったぁ」
本意じゃない言葉のせいで友達が仲違いするなんて、とても悲しいこと。僕は安心して明日も学校に行けそうだと安堵の息をはいた。
虎君は家に入ろうって僕を促すように抱き締めていてくれる腕を解くと手を繋いでくる。僕はそれに素直に頷いて、玄関へと歩き出した。
心配事が無くなって上機嫌の僕の足取りは心なしか軽い。すると、いつもは僕の隣を歩いてくれる虎君が何故か今少し後ろを歩いていて、必然的に僕が手を引く形になっていた。
きっと他の人なら変だと思わないことだろう。僕も相手が虎君じゃなければ特に気にもしなかった。
でも、今僕が手を繋いでいるのは虎君だから、どうしても違和感を覚えてしまう。
「どうしたの……?」
玄関は目前。けど僕は足を止めて虎君を振り返った。
何でもないならそれでいい。でも、もし違ったら?
そう思ったら確かめずにはいられなかったのだ。
「え? 何が?」
「どうして隣を歩いてくれないの? いつもは絶対隣にいてくれるよね……?」
驚いた顔をする虎君に、僕の気のせいかと尋ねる。すると虎君は驚いた顔の後困ったように苦笑いを浮かべ、頭を掻いた。
「ごめん、無意識だった」
「! ご、ごめんっ! 僕、自意識過剰だったよね!?」
謝られて、自分が勘違いしていたと知った僕はほっぺたが一気に熱くなった。いつも隣を歩いていたとしても、ガレージから玄関までの僅かな距離で隣を歩いてもらえなかったからなんだと言うのか。
虎君は必ず僕の隣を歩いてくれる。なんて、自意識過剰過ぎる自分が恥ずかしくて堪らない。
慌てて気にしないでと伝える僕。恥ずかしさのあまり俯けば伸びてきた虎君の手が頬を包み込んできて強引に上を向かされた。
「自意識過剰なんかじゃないよ」
「ふぇ……?」
「……ガキっぽい独占欲を抑えてた」
頬を撫でる指がくすぐったいけど心地いい。僕は低く甘い声にドキドキしながらどういうことか尋ねた。『独占欲』って何? と。
虎君は苦笑いを浮かべると身を屈め額を小突き合わせてくる。
「俺だけの葵でいて欲しいって考えてた」
「? 僕は虎君だけだよ?」
「うん。……でも、藤原や天野達も大事だろ?」
「それは、大事、だけど……」
真っ直ぐ見つめてくる虎君の言葉に『もしかして……』とある可能性が頭に過った。
(これってもしかしてヤキモチ?)
そう。どうやら虎君は僕の友達にヤキモチを妬いてるみたいだ。
僕は虎君の手に手を重ね、慶史も悠栖も朋喜も大切だけど友達としてだよ? と伝えた。もちろん姫神君も。
「僕が好きなのは虎君だけだよ?」
「分かってる。でも、これから先こうやってライバルが出てくると思うと可愛すぎるのも考え物だと思ったんだよ」
「??」
「葵が可愛いってことは前から分かり切ってたけど身近にライバルが増殖するのは本気で困る」
「えっと……、虎君、何言って―――」
「そうだ。今度姫神君と会わせてくれる? 葵は俺の恋人だからちょっかい掛けないように釘を刺しておきたい」
(え? これって冗談?)
虎君の飛躍しすぎた思考についていけず、からかわれているのかと本気で思った。
でも僕を見下ろす虎君の眼差しは何処までも真剣で、冗談を言っているわけでもからかっているわけでもないようだ。
戸惑う僕に、虎君は「お願い」と抱きしめてくる。
「虎君、姫神君は友達、だよ? 姫神君もそう思ってるよ……?」
まだ知り合って二日しか経っていないから姫神君のことはよく知らない。けど、姫神君も僕のことを友達だと思ってくれていると信じてる。
でもそれだけ。友達以上の感情を僕も姫神君もお互いには持っていない。それはどんなに仲良くなろうとも変わらないだろう。
「今はそうでも、これからは分からないだろ?」
「そうだけど、でも、やっぱり大丈夫だと思う」
「どうして?」
「だって姫神君は男の人を好きになりたくないって思ってると思うもん」
姫神君が負った過去のトラウマはそう簡単に乗り越えられるものじゃないと思うから、男の僕を友達以上に好きになることは無いだろう。
「安心できた?」
「うん。安心した! 朋喜と姫神君が仲直りしてくれて本当によかったぁ」
本意じゃない言葉のせいで友達が仲違いするなんて、とても悲しいこと。僕は安心して明日も学校に行けそうだと安堵の息をはいた。
虎君は家に入ろうって僕を促すように抱き締めていてくれる腕を解くと手を繋いでくる。僕はそれに素直に頷いて、玄関へと歩き出した。
心配事が無くなって上機嫌の僕の足取りは心なしか軽い。すると、いつもは僕の隣を歩いてくれる虎君が何故か今少し後ろを歩いていて、必然的に僕が手を引く形になっていた。
きっと他の人なら変だと思わないことだろう。僕も相手が虎君じゃなければ特に気にもしなかった。
でも、今僕が手を繋いでいるのは虎君だから、どうしても違和感を覚えてしまう。
「どうしたの……?」
玄関は目前。けど僕は足を止めて虎君を振り返った。
何でもないならそれでいい。でも、もし違ったら?
そう思ったら確かめずにはいられなかったのだ。
「え? 何が?」
「どうして隣を歩いてくれないの? いつもは絶対隣にいてくれるよね……?」
驚いた顔をする虎君に、僕の気のせいかと尋ねる。すると虎君は驚いた顔の後困ったように苦笑いを浮かべ、頭を掻いた。
「ごめん、無意識だった」
「! ご、ごめんっ! 僕、自意識過剰だったよね!?」
謝られて、自分が勘違いしていたと知った僕はほっぺたが一気に熱くなった。いつも隣を歩いていたとしても、ガレージから玄関までの僅かな距離で隣を歩いてもらえなかったからなんだと言うのか。
虎君は必ず僕の隣を歩いてくれる。なんて、自意識過剰過ぎる自分が恥ずかしくて堪らない。
慌てて気にしないでと伝える僕。恥ずかしさのあまり俯けば伸びてきた虎君の手が頬を包み込んできて強引に上を向かされた。
「自意識過剰なんかじゃないよ」
「ふぇ……?」
「……ガキっぽい独占欲を抑えてた」
頬を撫でる指がくすぐったいけど心地いい。僕は低く甘い声にドキドキしながらどういうことか尋ねた。『独占欲』って何? と。
虎君は苦笑いを浮かべると身を屈め額を小突き合わせてくる。
「俺だけの葵でいて欲しいって考えてた」
「? 僕は虎君だけだよ?」
「うん。……でも、藤原や天野達も大事だろ?」
「それは、大事、だけど……」
真っ直ぐ見つめてくる虎君の言葉に『もしかして……』とある可能性が頭に過った。
(これってもしかしてヤキモチ?)
そう。どうやら虎君は僕の友達にヤキモチを妬いてるみたいだ。
僕は虎君の手に手を重ね、慶史も悠栖も朋喜も大切だけど友達としてだよ? と伝えた。もちろん姫神君も。
「僕が好きなのは虎君だけだよ?」
「分かってる。でも、これから先こうやってライバルが出てくると思うと可愛すぎるのも考え物だと思ったんだよ」
「??」
「葵が可愛いってことは前から分かり切ってたけど身近にライバルが増殖するのは本気で困る」
「えっと……、虎君、何言って―――」
「そうだ。今度姫神君と会わせてくれる? 葵は俺の恋人だからちょっかい掛けないように釘を刺しておきたい」
(え? これって冗談?)
虎君の飛躍しすぎた思考についていけず、からかわれているのかと本気で思った。
でも僕を見下ろす虎君の眼差しは何処までも真剣で、冗談を言っているわけでもからかっているわけでもないようだ。
戸惑う僕に、虎君は「お願い」と抱きしめてくる。
「虎君、姫神君は友達、だよ? 姫神君もそう思ってるよ……?」
まだ知り合って二日しか経っていないから姫神君のことはよく知らない。けど、姫神君も僕のことを友達だと思ってくれていると信じてる。
でもそれだけ。友達以上の感情を僕も姫神君もお互いには持っていない。それはどんなに仲良くなろうとも変わらないだろう。
「今はそうでも、これからは分からないだろ?」
「そうだけど、でも、やっぱり大丈夫だと思う」
「どうして?」
「だって姫神君は男の人を好きになりたくないって思ってると思うもん」
姫神君が負った過去のトラウマはそう簡単に乗り越えられるものじゃないと思うから、男の僕を友達以上に好きになることは無いだろう。
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