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恋しい人
恋しい人 第91話
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「どうしてそんなに僕のこと大事にしてくれるの……?」
「今言っただろ? 『葵は俺の全てだ』って」
尋ねれば、返ってくるのは苦笑い。そのままの意味なんだけど。って。
でも、僕が知りたいのはそこまで想ってくれる理由だ。僕は、自分には虎君にこんなに大事にしてもらえる価値があるとはどうしても思えない。
そもそも虎君は僕と出会った時から好きだと言ってくれたけど、それが何故か、どんなに考えてもどうしても分からない……。
「どうしてそんなに好きでいてくれるの……? 僕にはそんな魅力、ないよ……?」
「! そんな悲しいこと言わないでくれ。俺には葵程魅力的な存在、世界中を探したって見つからないんだからな?」
「だって、だって分からないんだもん……」
虎君の愛を疑っているわけじゃない。でも、自分はその愛の深さに見合う存在じゃないから困惑するのだ。
悲し気な眼差しを受け止めることができず俯く僕。すると虎君は僕の手を取り、その指先にチュッとキスを落とした。
「ごめん……」
「なんで謝るの……?」
「どんなに言葉を探しても、その質問に対して葵が納得してくれる説明はできないよ」
おずおずと顔を上げれば、虎君は優しく微笑んでる。その眼差しが少しだけ悲しそうに見えるのはどうして……?
虎君は僕の手を握り直すと、それは自分にとってそれは当たり前のことだと言った。
「昔、海音にも桔梗にも同じことを聞かれたけど、俺の言ってることが理解できないって言われた」
「な、なんて言ったの?」
「俺にとって葵への想いは『息をするぐらい自然なことだ』って言った」
当時を思い出してか、虎君の表情は苦笑交じりの笑顔に変わる。きっと今僕はその時の海音君と姉さんと同じ顔をしているのだろう。虎君は「理解できないだろ?」と困ったように笑ったから。
僕は素直に頷くと、そう想ってくれる理由が知りたいんだと訴える。僕の何に惹かれてそんな風に想ってくれているの? と。
すると虎君はますます困ったように笑って、やっぱり伝わらないよなと言ってきた。
「だって全然理由になってないんだもん。僕が知りたいのは、そう想ってくれる『理由』だもん」
「分かってるよ。桔梗も同じこと言って怒ったしな」
「なら、なんで―――」
「これは『卵が先か鶏が先か』と一緒のことだよ」
言葉を遮る虎君は、僕を見つめて問いかけてくる。それはとても答えに困る質問だった。
「葵は、好きだから一緒にいたいと思う? それとも、一緒にいたいから好きだと思う?」
「え……? 何、その質問……」
「はは。ごめんな? 分からないよな?」
僕は好きだから一緒にいたいと思うし、一緒にいたいから好きだとも思う。だからその質問には『どちらも』以外答えられない。
すると虎君は、それと同じことだと笑った。
「どういうことか分からないよ……」
「俺は、葵が好きだから大事にしたいと思ってるし、大事にしたいから好きだと思ってる」
「だ、だからなんで大事に想ってくれてるか知りたいんだってば!」
「好きだからだよ」
「! じゃあなんで僕のこと好きなの?」
「大事だからだよ」
尋ねる僕に虎君が返す言葉は堂々巡りになるものだった。
からかってる!? って僕が怒ろうとしたら、それを見越したのか「俺は真剣だよ」って虎君は苦笑を漏らして……。
「葵の何処が好きなのか、どうしてこんなにも葵に惹かれるのか、今まで何十回も自分自身に問いかけたよ。それこそ葵を愛してると自覚してからだから10年以上」
「なら、分かってるんでしょ? ちゃんと教えてよっ」
どうしてはぐらかすの? 僕のことを焦らして遊んでいるの?
そう突っかかれば、虎君は苦笑を濃くして「違う」と否定した。否定して、答えられないんだと言った。
「葵を愛してるって自分の心ははっきりしてるのに何度考えてもその理由が言葉にできないんだ」
でも決して分からないというわけじゃない。ただ言葉に出して表現できないだけ。
虎君は僕を見つめ、何年も自問自答して漸くみつけた一番近い言葉がさっきの言葉だと笑った。
「『さっきの言葉』って、どれ……?」
「『葵は俺の全てだ』ってやつ。……葵がいないと生きていても仕方ないって思ってる俺には一番しっくりくる言葉なんだよ」
虎君は僕の頬に手を添えると、きっと納得できないと思うって目尻を下げながら僕の心中を察してくれる。そして、納得できないって分かってるのに説明できなくてごめんって謝ってくれる。
「虎君にとって僕は空気と一緒だってことで納得しとく……仕方ないから……」
「そう言われると誤解を生みそうなんだけど」
生きる上でなくてはならないものって意味の『空気』だからな?
そう念を押してくる虎君に、僕は分かってるよと笑った。
「今言っただろ? 『葵は俺の全てだ』って」
尋ねれば、返ってくるのは苦笑い。そのままの意味なんだけど。って。
でも、僕が知りたいのはそこまで想ってくれる理由だ。僕は、自分には虎君にこんなに大事にしてもらえる価値があるとはどうしても思えない。
そもそも虎君は僕と出会った時から好きだと言ってくれたけど、それが何故か、どんなに考えてもどうしても分からない……。
「どうしてそんなに好きでいてくれるの……? 僕にはそんな魅力、ないよ……?」
「! そんな悲しいこと言わないでくれ。俺には葵程魅力的な存在、世界中を探したって見つからないんだからな?」
「だって、だって分からないんだもん……」
虎君の愛を疑っているわけじゃない。でも、自分はその愛の深さに見合う存在じゃないから困惑するのだ。
悲し気な眼差しを受け止めることができず俯く僕。すると虎君は僕の手を取り、その指先にチュッとキスを落とした。
「ごめん……」
「なんで謝るの……?」
「どんなに言葉を探しても、その質問に対して葵が納得してくれる説明はできないよ」
おずおずと顔を上げれば、虎君は優しく微笑んでる。その眼差しが少しだけ悲しそうに見えるのはどうして……?
虎君は僕の手を握り直すと、それは自分にとってそれは当たり前のことだと言った。
「昔、海音にも桔梗にも同じことを聞かれたけど、俺の言ってることが理解できないって言われた」
「な、なんて言ったの?」
「俺にとって葵への想いは『息をするぐらい自然なことだ』って言った」
当時を思い出してか、虎君の表情は苦笑交じりの笑顔に変わる。きっと今僕はその時の海音君と姉さんと同じ顔をしているのだろう。虎君は「理解できないだろ?」と困ったように笑ったから。
僕は素直に頷くと、そう想ってくれる理由が知りたいんだと訴える。僕の何に惹かれてそんな風に想ってくれているの? と。
すると虎君はますます困ったように笑って、やっぱり伝わらないよなと言ってきた。
「だって全然理由になってないんだもん。僕が知りたいのは、そう想ってくれる『理由』だもん」
「分かってるよ。桔梗も同じこと言って怒ったしな」
「なら、なんで―――」
「これは『卵が先か鶏が先か』と一緒のことだよ」
言葉を遮る虎君は、僕を見つめて問いかけてくる。それはとても答えに困る質問だった。
「葵は、好きだから一緒にいたいと思う? それとも、一緒にいたいから好きだと思う?」
「え……? 何、その質問……」
「はは。ごめんな? 分からないよな?」
僕は好きだから一緒にいたいと思うし、一緒にいたいから好きだとも思う。だからその質問には『どちらも』以外答えられない。
すると虎君は、それと同じことだと笑った。
「どういうことか分からないよ……」
「俺は、葵が好きだから大事にしたいと思ってるし、大事にしたいから好きだと思ってる」
「だ、だからなんで大事に想ってくれてるか知りたいんだってば!」
「好きだからだよ」
「! じゃあなんで僕のこと好きなの?」
「大事だからだよ」
尋ねる僕に虎君が返す言葉は堂々巡りになるものだった。
からかってる!? って僕が怒ろうとしたら、それを見越したのか「俺は真剣だよ」って虎君は苦笑を漏らして……。
「葵の何処が好きなのか、どうしてこんなにも葵に惹かれるのか、今まで何十回も自分自身に問いかけたよ。それこそ葵を愛してると自覚してからだから10年以上」
「なら、分かってるんでしょ? ちゃんと教えてよっ」
どうしてはぐらかすの? 僕のことを焦らして遊んでいるの?
そう突っかかれば、虎君は苦笑を濃くして「違う」と否定した。否定して、答えられないんだと言った。
「葵を愛してるって自分の心ははっきりしてるのに何度考えてもその理由が言葉にできないんだ」
でも決して分からないというわけじゃない。ただ言葉に出して表現できないだけ。
虎君は僕を見つめ、何年も自問自答して漸くみつけた一番近い言葉がさっきの言葉だと笑った。
「『さっきの言葉』って、どれ……?」
「『葵は俺の全てだ』ってやつ。……葵がいないと生きていても仕方ないって思ってる俺には一番しっくりくる言葉なんだよ」
虎君は僕の頬に手を添えると、きっと納得できないと思うって目尻を下げながら僕の心中を察してくれる。そして、納得できないって分かってるのに説明できなくてごめんって謝ってくれる。
「虎君にとって僕は空気と一緒だってことで納得しとく……仕方ないから……」
「そう言われると誤解を生みそうなんだけど」
生きる上でなくてはならないものって意味の『空気』だからな?
そう念を押してくる虎君に、僕は分かってるよと笑った。
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