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恋しい人
恋しい人 第92話
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「ねぇ、虎君。何があっても、絶対に危ない事はしないでね?」
僕のことを護ってくれるのは嬉しい。でも、もしそれで虎君に何かあったら、僕は絶対に陽琥さんを恨んでしまうだろう。たとえ虎君が自らの意思でボディーガードになると言っていたとしても。
だから僕はきっと受け入れられないだろうと分かりつつも約束を求めた。危険なことは絶対にしないと約束して。それがたとえ僕のためであっても、絶対に。と。
真剣に訴える僕。虎君は困ったように笑う。
「努力はするけど、絶対に考えるよりも先に身体が動くしなぁ……」
「こういう時は嘘でも『分かった』って言ってよ」
「でも、もし『分かった』って言っても嘘だって怒るだろ?」
「それは、そうだけど……」
「なら嘘を吐かずに本心を伝えた方が良いと思うんだけど、どう思う?」
虎君は僕の頬を撫でながら苦笑交じりに尋ねてくる。言葉も仕草も表情も全部優しいのに、こんな風に聞いてくるのは全然優しくない!
僕は不満を訴えるように頬を膨らませてアピール。
すると虎君は目じりを下げて笑う。僕は不機嫌だと言っているのにこんな風に愛しくて堪らないと言わんばかりの眼差しで見つめて来るなんて本当に狡い。
「……そんな顔しないでよ」
「『そんな顔』ってどんな顔?」
「! なんでそんなに意地悪するのっ」
分かってるくせに酷い!
恥ずかしさに耐えられず涙目になる僕。虎君はそんな僕にごめんと謝ってぎゅっと抱きしめてきた。
「拗ねる顔も恥ずかしがる顔も可愛すぎる」
「可愛くないしっ」
「可愛いよ。本当、凄く可愛い」
繰り返される『可愛い』。それは誉め言葉だけど、僕は嬉しくない。
(だって僕は可愛くないし、お世辞に聞こえるし……)
きっとこれを口に出せば、虎君は自分に自信を持てと言うだろう。そして僕に自身を与えるためにもっともっと『可愛い』と言うに決まってる。だから僕は『可愛い』という言葉が好きじゃないと嘘を吐くのだ。
(本当は虎君に『可愛い』って言われると凄く嬉しいんだけどね……)
自分を知ることは大事なこと。僕もできるだけ客観的に自分のことを見れるように常日頃意識はしている。だから、知っている。僕の容姿がどんなものか。
僕の見た目は、別に悪いわけじゃない。でも、とびぬけているわけでもない。いたって平均的な容姿だと思ってる。
別にそれに対して酷い劣等感を抱いているわけではない。でも、とびぬけてカッコイイ虎君やとびぬけて綺麗な姉さんからもらう誉め言葉は僕に劣等感を植え付ける。
褒められると素直に嬉しい。でも、それと同時に『慰められている』と穿った捉え方をしてしまう自分もいて、結果、自分の容姿に劣等感を持ってしまうというわけだ。
(虎君のこと好きになってからそれが強くなった気がするんだよね)
いや、理由は分かってる。僕は自分に自信がないから、そのせいでこんな風に感じてしまうんだ。虎君がくれる『可愛い』に見合う自分には程遠いから、卑屈になってしまうんだ。
(僕も努力すればちょっとぐらい自信、持てるかな……?)
漸く何の努力もせず嘆いているだけの自分に気づいた僕は、自分に自信を持てるよう今日から努力しようと心に決めた。
「虎君」
「ん? どうした?」
「僕、頑張るね!」
突然の宣言に虎君は「何を?」って不思議そうな顔をする。いつも僕の心を読んでしまう虎君でも、流石にこれは分からなかったみたいだ。
僕は「いろいろ!」と『何を』頑張るのか明言せずにできることを頑張ると決意を伝えた。
「よく分からないけど、葵が頑張りたいなら全力で応援するよ」
「うん! ありがとう、虎君」
「恋人なんだから当然だろ?」
でもあんまり頑張り過ぎちゃダメだぞ? って言いながら虎君は額にキスをくれる。
ちゅっと音を響かせる額に、僕は唇にもちょうだいと上を向いた。虎君は優しい笑顔を見せ、望むままにキスをくれた。
(虎君が僕を大事にしてくれてるだけ、僕も虎君のために何かしたい。ううん、それ以上に虎君のために努力したい)
僕にはどう頑張っても虎君を護る力は身につけられそうにない。そしてどんなに努力しても虎君以上の知識も身につけることも難しいだろう。
そんな僕にできることは何か、今はまだ全然分からない。
でも、それでもいつか虎君を支えられるように、虎君の隣に僕がいることが当然となるように、虎君の愛に胡坐をかかずに努力したい。
(きっと虎君もいっぱい考えてくれたんだろうな……。いっぱい考えて、いっぱい努力してくれたんだろうな……)
本来であれば習う必要のない武術を習得したのも、きっと僕のため。僕を自分の力で護るため……。
さっきまで僕のボディーガードをしているなんてめちゃくちゃだと思っていたけど、虎君もこうやって僕のことを沢山考えてくれた結果だと思ったらとても嬉しいと思ってしまう。
(きっとこれが『愛』なんだろうな……)
虎君の想いは何度も貰った『愛してる』に相応しい。
だから思う。今はまだ『大好き』としか言えない拙い想いを、いつか虎君と同じ『愛してる』に変えたい。と。
僕のことを護ってくれるのは嬉しい。でも、もしそれで虎君に何かあったら、僕は絶対に陽琥さんを恨んでしまうだろう。たとえ虎君が自らの意思でボディーガードになると言っていたとしても。
だから僕はきっと受け入れられないだろうと分かりつつも約束を求めた。危険なことは絶対にしないと約束して。それがたとえ僕のためであっても、絶対に。と。
真剣に訴える僕。虎君は困ったように笑う。
「努力はするけど、絶対に考えるよりも先に身体が動くしなぁ……」
「こういう時は嘘でも『分かった』って言ってよ」
「でも、もし『分かった』って言っても嘘だって怒るだろ?」
「それは、そうだけど……」
「なら嘘を吐かずに本心を伝えた方が良いと思うんだけど、どう思う?」
虎君は僕の頬を撫でながら苦笑交じりに尋ねてくる。言葉も仕草も表情も全部優しいのに、こんな風に聞いてくるのは全然優しくない!
僕は不満を訴えるように頬を膨らませてアピール。
すると虎君は目じりを下げて笑う。僕は不機嫌だと言っているのにこんな風に愛しくて堪らないと言わんばかりの眼差しで見つめて来るなんて本当に狡い。
「……そんな顔しないでよ」
「『そんな顔』ってどんな顔?」
「! なんでそんなに意地悪するのっ」
分かってるくせに酷い!
恥ずかしさに耐えられず涙目になる僕。虎君はそんな僕にごめんと謝ってぎゅっと抱きしめてきた。
「拗ねる顔も恥ずかしがる顔も可愛すぎる」
「可愛くないしっ」
「可愛いよ。本当、凄く可愛い」
繰り返される『可愛い』。それは誉め言葉だけど、僕は嬉しくない。
(だって僕は可愛くないし、お世辞に聞こえるし……)
きっとこれを口に出せば、虎君は自分に自信を持てと言うだろう。そして僕に自身を与えるためにもっともっと『可愛い』と言うに決まってる。だから僕は『可愛い』という言葉が好きじゃないと嘘を吐くのだ。
(本当は虎君に『可愛い』って言われると凄く嬉しいんだけどね……)
自分を知ることは大事なこと。僕もできるだけ客観的に自分のことを見れるように常日頃意識はしている。だから、知っている。僕の容姿がどんなものか。
僕の見た目は、別に悪いわけじゃない。でも、とびぬけているわけでもない。いたって平均的な容姿だと思ってる。
別にそれに対して酷い劣等感を抱いているわけではない。でも、とびぬけてカッコイイ虎君やとびぬけて綺麗な姉さんからもらう誉め言葉は僕に劣等感を植え付ける。
褒められると素直に嬉しい。でも、それと同時に『慰められている』と穿った捉え方をしてしまう自分もいて、結果、自分の容姿に劣等感を持ってしまうというわけだ。
(虎君のこと好きになってからそれが強くなった気がするんだよね)
いや、理由は分かってる。僕は自分に自信がないから、そのせいでこんな風に感じてしまうんだ。虎君がくれる『可愛い』に見合う自分には程遠いから、卑屈になってしまうんだ。
(僕も努力すればちょっとぐらい自信、持てるかな……?)
漸く何の努力もせず嘆いているだけの自分に気づいた僕は、自分に自信を持てるよう今日から努力しようと心に決めた。
「虎君」
「ん? どうした?」
「僕、頑張るね!」
突然の宣言に虎君は「何を?」って不思議そうな顔をする。いつも僕の心を読んでしまう虎君でも、流石にこれは分からなかったみたいだ。
僕は「いろいろ!」と『何を』頑張るのか明言せずにできることを頑張ると決意を伝えた。
「よく分からないけど、葵が頑張りたいなら全力で応援するよ」
「うん! ありがとう、虎君」
「恋人なんだから当然だろ?」
でもあんまり頑張り過ぎちゃダメだぞ? って言いながら虎君は額にキスをくれる。
ちゅっと音を響かせる額に、僕は唇にもちょうだいと上を向いた。虎君は優しい笑顔を見せ、望むままにキスをくれた。
(虎君が僕を大事にしてくれてるだけ、僕も虎君のために何かしたい。ううん、それ以上に虎君のために努力したい)
僕にはどう頑張っても虎君を護る力は身につけられそうにない。そしてどんなに努力しても虎君以上の知識も身につけることも難しいだろう。
そんな僕にできることは何か、今はまだ全然分からない。
でも、それでもいつか虎君を支えられるように、虎君の隣に僕がいることが当然となるように、虎君の愛に胡坐をかかずに努力したい。
(きっと虎君もいっぱい考えてくれたんだろうな……。いっぱい考えて、いっぱい努力してくれたんだろうな……)
本来であれば習う必要のない武術を習得したのも、きっと僕のため。僕を自分の力で護るため……。
さっきまで僕のボディーガードをしているなんてめちゃくちゃだと思っていたけど、虎君もこうやって僕のことを沢山考えてくれた結果だと思ったらとても嬉しいと思ってしまう。
(きっとこれが『愛』なんだろうな……)
虎君の想いは何度も貰った『愛してる』に相応しい。
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