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恋しい人
恋しい人 第103話
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姉さんに虎君と仲良くして欲しいと何度も言っていたのは他でもなく僕自身。それなのに今の言い方は姉さんが虎君に突っかからないことを不満に思っていると思われても当然な言い方だった。
二人には仲良くして欲しいと思ってる。それは心からの本心だ。でも、姉さんがライバルになったらどうしようと思ってしまっているのもまた本心だった。
虎君は何度も僕だけだと言ってくれている。けど、それは姉さんに他に好きな人がいると知っているからでは……?
頭に過るそんな疑心。僕は自分自身に『違う』と、『そんなわけない』と想像を否定する。
イヤな想像を頭から追い出すように首を振る僕にかけられるのは姉さんの心配そうな声。
「葵? 大丈夫? って、そんな泣きそうな顔しないでよ。責めてるわけじゃないんだから。ね?」
「ご、ごめん……」
俯く僕に姉さんは仕方ないと言いたげに苦笑を漏らすとめのうを抱き上げ、隣に座るように促してくる。
僕は姉さんに言われるがまま、隣に座る。目の前には呆れ顔の茂斗がいて、なんだかすごく居た堪れない気持ちになった。
「葵は私と虎がどうこうなるって心配してるのよね?」
「! そ、それは……。ちょっと、してる……」
「昨日虎から話を聞いたのに、それでもまだ心配?」
姉さんは朗らかな口調で尋ねてくる。責められているわけじゃないって分かってるけど、それでも僕は答えに詰まってしまう。だって、僕の抱く疑心は虎君の想いも姉さんの想いも貶しているものだから。
俯く僕。すると姉さんは笑いながら僕の頭を撫でてくる。
「心配しなくても私も虎もお互いをそういう対象として見ることは絶対にないわよ」
だから安心しなさい。
そう笑う姉さんだけど、僕は虎君から同じ言葉を貰っているにも拘わらず未だにこんな疑心を持ってしまっている。いくら姉さんから同じ言葉を貰っても、僕にとっては安心する理由にはならない。
二人が仲直りしたのはお互いに惹かれるところがあるからじゃないの? と、そんなことまで考えてしまう。
「今まで僕がどれだけ言っても仲直りしてくれなかったじゃない……」
小さな声でぽつりと呟くのは、姉さんがどういう心境の変化で虎君と仲直りしたのか知りたかったから。
もし少しでも虎君への好意が感じられたらどうしよう。そんな不安を抱きながら姉さんの答えを待つと、姉さんはちょっぴり困った声で「嫌いにならないでくれる?」と尋ねてきた。
(姉さんはやっぱり虎君のこと、好きだったんだ……)
だから『嫌いにならないで』って言ったんだよね? そうじゃなきゃ、僕が姉さんを嫌いになるなんて考えるわけないもん……。
できることなら、姉さんの口から虎君を好きになったと聞きたくない。決定打を貰いたくない。
でも、僕の思いとは裏腹に姉さんは喋り出してしまう。
「私ね、昔、虎に凄く酷い事を言ったの。本当に、とても酷いことを言っちゃったの……」
「おねーちゃん……?」
「めのう、こっちこい。お姉ちゃんとちゃいにぃは大事な話してるから」
「わかった……。おねーちゃん、ちゃいにぃ、なかないでね……?」
小さな手が僕の頭を撫でる。かと思えば立ち上がった茂斗がめのうを抱き上げ、あやすように僕達から少し離れて……。
茂斗にもめのうにも気を使わせてしまったと落ち込む僕。恐る恐る姉さんに目を向ければ、姉さんはとても儚げで綺麗な笑顔を僕に向けていた。
「初めて虎が葵を好きだって知った時、私、虎に『異常だ』って言っちゃったの」
「! え……?」
「私にとって虎は本当の兄と言っても過言じゃない存在だったから、虎にとっても私や葵達は本当の妹、弟だと思ってたの」
驚いた僕に姉さんは悲し気な笑顔で言い訳を聞いて欲しいと手を握ってきた。虎君に酷い言葉を投げかけてしまった理由を弁解させて欲しい。と。
そんな姉さんの手を振りほどけるわけもなく、僕は小さく頷き、姉さんの言葉に耳を傾けた。
虎君を兄として慕っていた姉さんは、虎君が僕のことを恋愛対象として『愛してる』ことを知って、虎君にとって自分達は―――自分は妹じゃないんだと酷くショックを受けたらしい。
そして、受けたショックに気が付けば虎君を傷つける言葉を口にしてしまっていたということだった。
姉さんはその後、虎君に謝ったらしい。『異常だなんて思っていない』と、ちゃんと伝えたらしい。でも、虎君から返ってきたのは、謝罪を受け入れる言葉ではなくて……。
「虎に『葵への想いが異常だってことは分かってる』って言わせちゃったの。人が人を好きになる気持ちに間違いなんてあるわけないのに、『間違いだ』って言わせちゃったの」
「姉さん……」
「私が何度謝っても、何度そんなことないって言っても、虎は私の言葉を聞き入れてはくれなかったの」
それが関係が険悪になった切欠だと苦笑を漏らす姉さん。逆ギレだと分かっていても、自分が『異常』だと思っている感情を大事な弟に向けるな! と苛立ってしまった。と。
「でもね、この前、漸く私の言葉をちゃんと聞いてくれたの。私の謝罪を、ちゃんと受け入れてくれたの」
姉さんは僕に向かって笑う。葵のおかげで漸く兄妹に戻れた。と。
「『葵を愛してる気持ちは異常なんかじゃない。俺にとって当たり前の感情なんだ』って、本当、漸く虎の口から聞けた……」
「姉さん……」
安心したようなその笑い顔に、僕は誰よりも虎君の幸せを願っていたのは姉さんだったことを知る。そしてそれが恋愛感情ではなく家族としての親愛なのだということもすんなりと受け入れることができた。
僕な姉さんの手を握り返すと、ヤキモチを妬いてごめんなさいって謝った。二人の想いを穿ったように捉えてしまってごめんなさい。と。
「葵、今幸せ?」
「うん。凄く幸せだよ」
「ならよかった。私は私の家族が幸せであればそれでいいから」
綺麗な笑顔を見せる姉さんが言った『家族』には、きっと虎君も含まれている。
僕は、僕も虎君も最高に幸せだと姉さんに笑顔を返すことができた。
二人には仲良くして欲しいと思ってる。それは心からの本心だ。でも、姉さんがライバルになったらどうしようと思ってしまっているのもまた本心だった。
虎君は何度も僕だけだと言ってくれている。けど、それは姉さんに他に好きな人がいると知っているからでは……?
頭に過るそんな疑心。僕は自分自身に『違う』と、『そんなわけない』と想像を否定する。
イヤな想像を頭から追い出すように首を振る僕にかけられるのは姉さんの心配そうな声。
「葵? 大丈夫? って、そんな泣きそうな顔しないでよ。責めてるわけじゃないんだから。ね?」
「ご、ごめん……」
俯く僕に姉さんは仕方ないと言いたげに苦笑を漏らすとめのうを抱き上げ、隣に座るように促してくる。
僕は姉さんに言われるがまま、隣に座る。目の前には呆れ顔の茂斗がいて、なんだかすごく居た堪れない気持ちになった。
「葵は私と虎がどうこうなるって心配してるのよね?」
「! そ、それは……。ちょっと、してる……」
「昨日虎から話を聞いたのに、それでもまだ心配?」
姉さんは朗らかな口調で尋ねてくる。責められているわけじゃないって分かってるけど、それでも僕は答えに詰まってしまう。だって、僕の抱く疑心は虎君の想いも姉さんの想いも貶しているものだから。
俯く僕。すると姉さんは笑いながら僕の頭を撫でてくる。
「心配しなくても私も虎もお互いをそういう対象として見ることは絶対にないわよ」
だから安心しなさい。
そう笑う姉さんだけど、僕は虎君から同じ言葉を貰っているにも拘わらず未だにこんな疑心を持ってしまっている。いくら姉さんから同じ言葉を貰っても、僕にとっては安心する理由にはならない。
二人が仲直りしたのはお互いに惹かれるところがあるからじゃないの? と、そんなことまで考えてしまう。
「今まで僕がどれだけ言っても仲直りしてくれなかったじゃない……」
小さな声でぽつりと呟くのは、姉さんがどういう心境の変化で虎君と仲直りしたのか知りたかったから。
もし少しでも虎君への好意が感じられたらどうしよう。そんな不安を抱きながら姉さんの答えを待つと、姉さんはちょっぴり困った声で「嫌いにならないでくれる?」と尋ねてきた。
(姉さんはやっぱり虎君のこと、好きだったんだ……)
だから『嫌いにならないで』って言ったんだよね? そうじゃなきゃ、僕が姉さんを嫌いになるなんて考えるわけないもん……。
できることなら、姉さんの口から虎君を好きになったと聞きたくない。決定打を貰いたくない。
でも、僕の思いとは裏腹に姉さんは喋り出してしまう。
「私ね、昔、虎に凄く酷い事を言ったの。本当に、とても酷いことを言っちゃったの……」
「おねーちゃん……?」
「めのう、こっちこい。お姉ちゃんとちゃいにぃは大事な話してるから」
「わかった……。おねーちゃん、ちゃいにぃ、なかないでね……?」
小さな手が僕の頭を撫でる。かと思えば立ち上がった茂斗がめのうを抱き上げ、あやすように僕達から少し離れて……。
茂斗にもめのうにも気を使わせてしまったと落ち込む僕。恐る恐る姉さんに目を向ければ、姉さんはとても儚げで綺麗な笑顔を僕に向けていた。
「初めて虎が葵を好きだって知った時、私、虎に『異常だ』って言っちゃったの」
「! え……?」
「私にとって虎は本当の兄と言っても過言じゃない存在だったから、虎にとっても私や葵達は本当の妹、弟だと思ってたの」
驚いた僕に姉さんは悲し気な笑顔で言い訳を聞いて欲しいと手を握ってきた。虎君に酷い言葉を投げかけてしまった理由を弁解させて欲しい。と。
そんな姉さんの手を振りほどけるわけもなく、僕は小さく頷き、姉さんの言葉に耳を傾けた。
虎君を兄として慕っていた姉さんは、虎君が僕のことを恋愛対象として『愛してる』ことを知って、虎君にとって自分達は―――自分は妹じゃないんだと酷くショックを受けたらしい。
そして、受けたショックに気が付けば虎君を傷つける言葉を口にしてしまっていたということだった。
姉さんはその後、虎君に謝ったらしい。『異常だなんて思っていない』と、ちゃんと伝えたらしい。でも、虎君から返ってきたのは、謝罪を受け入れる言葉ではなくて……。
「虎に『葵への想いが異常だってことは分かってる』って言わせちゃったの。人が人を好きになる気持ちに間違いなんてあるわけないのに、『間違いだ』って言わせちゃったの」
「姉さん……」
「私が何度謝っても、何度そんなことないって言っても、虎は私の言葉を聞き入れてはくれなかったの」
それが関係が険悪になった切欠だと苦笑を漏らす姉さん。逆ギレだと分かっていても、自分が『異常』だと思っている感情を大事な弟に向けるな! と苛立ってしまった。と。
「でもね、この前、漸く私の言葉をちゃんと聞いてくれたの。私の謝罪を、ちゃんと受け入れてくれたの」
姉さんは僕に向かって笑う。葵のおかげで漸く兄妹に戻れた。と。
「『葵を愛してる気持ちは異常なんかじゃない。俺にとって当たり前の感情なんだ』って、本当、漸く虎の口から聞けた……」
「姉さん……」
安心したようなその笑い顔に、僕は誰よりも虎君の幸せを願っていたのは姉さんだったことを知る。そしてそれが恋愛感情ではなく家族としての親愛なのだということもすんなりと受け入れることができた。
僕な姉さんの手を握り返すと、ヤキモチを妬いてごめんなさいって謝った。二人の想いを穿ったように捉えてしまってごめんなさい。と。
「葵、今幸せ?」
「うん。凄く幸せだよ」
「ならよかった。私は私の家族が幸せであればそれでいいから」
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僕は、僕も虎君も最高に幸せだと姉さんに笑顔を返すことができた。
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