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恋しい人
恋しい人 第102話
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「此処まで殺意を剥き出しにされていたら俺じゃなくても分かるさ」
「『殺意』って。そこまで物騒じゃねぇーよ」
「はは。そうだな。……さてと。急いで手を洗ってリビングに戻ろう?」
虎君は茂斗と軽口を交わした後、僕の手を取り歩き出す。僕は手を引かれるがまま虎君の後ろをついて歩き、洗面所へとたどり着くと二人並んで手を洗った。
泡で覆われた両手。僕は手元に下げていた視線を少し上げ、鏡越しに虎君を見る。
虎君は視線を落として手を洗っている。でも僕の視線にすぐ気づいたのか顔を上げ、鏡越しに笑いかけてきた。もう見慣れているはずの笑い顔。でも、何度見てもドキドキする笑顔。
僕は頬が熱くなるのを感じながら、何故か気恥ずかしくて再び視線を下げる。
虎君は僕より早く手を漱ぎはじめ、僕も少し遅れて手を漱いだ。
「……なんで黙ってるの?」
「んー……、喋ったらみんなを待たせることになるからかな?」
分かってて聞いてるだろ。
そう笑う虎君に、僕は分かってるけど確認しただけだと悪戯に笑う。傍にいるのに言葉を交わせないのはやっぱり寂しいと思いながら。
手を洗い終え、再び手を繋ぐ僕達。
そのまま言葉を交わさずリビングに戻るために廊下を歩くんだけど、虎君はドアの前で足を止める。
どうして立ち止まったのかなんて、野暮なことは聞かない。僕も虎君と同じ気持ちだから。
虎君を見上げれば、虎君は僕を見下ろしていて、そのまま言葉を交わすことなくキスを交わした。
チュッと優しく触れる虎君の唇に、深いキスが欲しくなっちゃう。でもリビングは目の前だから、触れ合いたい欲求はグッと我慢。
僕の我慢を察したのか、それとも虎君も同じ想いだからか、もう一度降ってくるキス。
二度目のキスは唇に吸い付くように触れてきて、甘い気持ちがますます溢れちゃうから困った。
(虎君にもっと触って欲しい……)
身を起こす虎君に離れないでと寄り添えば、虎君は何も言わず肩を抱き寄せてくれる。伝わる温もりに、欲が止められない。
できるなら夕飯も食べず部屋に戻りたいのが本音。けど、エッチな奴だと思われたくないからこの本音は僕だけの秘密だ。
「! 早かったな」
虎君が開けてくれたドアをくぐれば驚いた顔をした茂斗がこちらを見ていて、まるでもっと時間がかかると思っていたと言わんばかり。自分が何度も急かしたくせにいざ僕達が早く戻って来ると驚くなんて酷い反応だ。
僕は思わずムッとする。でも、突っかかることはしなかった。というか、我慢した。
「茂さんは? さっき帰ってきたと思ったんだけど……」
「察しろよ」
リビングを見渡す虎君の言葉に、僕は父さんが帰って来ていたことを知る。でも、父さんの姿はリビングにはなくて……。
(母さんも居ない……)
虎君の勘違いでまだ帰って来ていないのでは? と一瞬考えたけど、母さんの姿が見えないことに気づいて茂斗の言った『察しろ』の意味を理解した。
父さんと母さんは、おそらく夫婦としての時間を過ごしているのだろう。
親のラブシーンを見たくないと言っていた茂斗はダイニングテーブルに肘を突いて不機嫌な面持ち。虎君も理解したのか「相変わらず仲が良いな」と困ったような笑みを浮かべていた。
そして僕はと言うと、二人きりの時間を過ごす父さんと母さんに羨望を覚えた。僕だって虎君と二人きりで過ごしたいのに。と。
「ちゃいにぃ、どうしたの? おなかいたいの?」
「! 大丈夫だよ。めのう、おなかすいたよね? 父さんと母さん、僕が呼んでくるよ」
「パパ達はすぐ戻って来るわよ。着替えに行っただけだし、座って待ってましょ」
父さんと母さんが羨ましいと思っていた心が顔に表れていたのか、心配してくれる可愛い妹。僕は流石に本当のことは言えないから何とか誤魔化すように笑う。
そんな僕に姉さんはちょっぴり不機嫌な表情で食卓を囲うよう促してくる。不機嫌な理由は、もしかしなくとも僕の本心をなんとなく察したからだろうか?
「葵、先に座ってて。……陽琥さん、ちょっといいですか?」
繋いでいた手が突然離される。
僕が驚いて虎君を見上げれば、虎君は僕の頭をポンポンと優しく叩くといつもの定位置に座っていた陽琥さんのもとへと歩いて行ってしまった。
同じ空間にいるし、虎君の姿が見えなくなったわけでもない。それなのに置いてけぼりになった気がしたのは、どうしてだろう?
虎君と陽琥さんは何か話をしているけど、声は聞こえない。きっと僕のことを話しているのだろう。僕はそれが凄く複雑だった。虎君を危険に晒したくない思いと、虎君に大事にして欲しい思いがせめぎ合っているから。
「聞いたわよ、葵。陽琥さんと虎の契約、知らなかったのね」
「! 姉さんは知ってたの?」
「そりゃ知ってるわよ。中学生になってから葵にボディーガードが付いてないんだもん。まぁ、だから心配で陽琥さんにしつこく聞いちゃったから知ってるんだけどね」
当時を思い出しているのか、姉さんは懐かしそうに目を細めて笑った。
僕はその笑い顔に、ある疑問が頭に過った。そしてその疑問は考えるよりも先に口から零れていて……。
「姉さん、最近虎君と喧嘩しなくなったね……」
「! なぁに? 喧嘩して欲しいの? あんなに『仲良くして』って言ってたのに」
姉さんは僕の言葉に困ったように笑う。仲良くしても仲良くしなくてもダメなの? と。
「『殺意』って。そこまで物騒じゃねぇーよ」
「はは。そうだな。……さてと。急いで手を洗ってリビングに戻ろう?」
虎君は茂斗と軽口を交わした後、僕の手を取り歩き出す。僕は手を引かれるがまま虎君の後ろをついて歩き、洗面所へとたどり着くと二人並んで手を洗った。
泡で覆われた両手。僕は手元に下げていた視線を少し上げ、鏡越しに虎君を見る。
虎君は視線を落として手を洗っている。でも僕の視線にすぐ気づいたのか顔を上げ、鏡越しに笑いかけてきた。もう見慣れているはずの笑い顔。でも、何度見てもドキドキする笑顔。
僕は頬が熱くなるのを感じながら、何故か気恥ずかしくて再び視線を下げる。
虎君は僕より早く手を漱ぎはじめ、僕も少し遅れて手を漱いだ。
「……なんで黙ってるの?」
「んー……、喋ったらみんなを待たせることになるからかな?」
分かってて聞いてるだろ。
そう笑う虎君に、僕は分かってるけど確認しただけだと悪戯に笑う。傍にいるのに言葉を交わせないのはやっぱり寂しいと思いながら。
手を洗い終え、再び手を繋ぐ僕達。
そのまま言葉を交わさずリビングに戻るために廊下を歩くんだけど、虎君はドアの前で足を止める。
どうして立ち止まったのかなんて、野暮なことは聞かない。僕も虎君と同じ気持ちだから。
虎君を見上げれば、虎君は僕を見下ろしていて、そのまま言葉を交わすことなくキスを交わした。
チュッと優しく触れる虎君の唇に、深いキスが欲しくなっちゃう。でもリビングは目の前だから、触れ合いたい欲求はグッと我慢。
僕の我慢を察したのか、それとも虎君も同じ想いだからか、もう一度降ってくるキス。
二度目のキスは唇に吸い付くように触れてきて、甘い気持ちがますます溢れちゃうから困った。
(虎君にもっと触って欲しい……)
身を起こす虎君に離れないでと寄り添えば、虎君は何も言わず肩を抱き寄せてくれる。伝わる温もりに、欲が止められない。
できるなら夕飯も食べず部屋に戻りたいのが本音。けど、エッチな奴だと思われたくないからこの本音は僕だけの秘密だ。
「! 早かったな」
虎君が開けてくれたドアをくぐれば驚いた顔をした茂斗がこちらを見ていて、まるでもっと時間がかかると思っていたと言わんばかり。自分が何度も急かしたくせにいざ僕達が早く戻って来ると驚くなんて酷い反応だ。
僕は思わずムッとする。でも、突っかかることはしなかった。というか、我慢した。
「茂さんは? さっき帰ってきたと思ったんだけど……」
「察しろよ」
リビングを見渡す虎君の言葉に、僕は父さんが帰って来ていたことを知る。でも、父さんの姿はリビングにはなくて……。
(母さんも居ない……)
虎君の勘違いでまだ帰って来ていないのでは? と一瞬考えたけど、母さんの姿が見えないことに気づいて茂斗の言った『察しろ』の意味を理解した。
父さんと母さんは、おそらく夫婦としての時間を過ごしているのだろう。
親のラブシーンを見たくないと言っていた茂斗はダイニングテーブルに肘を突いて不機嫌な面持ち。虎君も理解したのか「相変わらず仲が良いな」と困ったような笑みを浮かべていた。
そして僕はと言うと、二人きりの時間を過ごす父さんと母さんに羨望を覚えた。僕だって虎君と二人きりで過ごしたいのに。と。
「ちゃいにぃ、どうしたの? おなかいたいの?」
「! 大丈夫だよ。めのう、おなかすいたよね? 父さんと母さん、僕が呼んでくるよ」
「パパ達はすぐ戻って来るわよ。着替えに行っただけだし、座って待ってましょ」
父さんと母さんが羨ましいと思っていた心が顔に表れていたのか、心配してくれる可愛い妹。僕は流石に本当のことは言えないから何とか誤魔化すように笑う。
そんな僕に姉さんはちょっぴり不機嫌な表情で食卓を囲うよう促してくる。不機嫌な理由は、もしかしなくとも僕の本心をなんとなく察したからだろうか?
「葵、先に座ってて。……陽琥さん、ちょっといいですか?」
繋いでいた手が突然離される。
僕が驚いて虎君を見上げれば、虎君は僕の頭をポンポンと優しく叩くといつもの定位置に座っていた陽琥さんのもとへと歩いて行ってしまった。
同じ空間にいるし、虎君の姿が見えなくなったわけでもない。それなのに置いてけぼりになった気がしたのは、どうしてだろう?
虎君と陽琥さんは何か話をしているけど、声は聞こえない。きっと僕のことを話しているのだろう。僕はそれが凄く複雑だった。虎君を危険に晒したくない思いと、虎君に大事にして欲しい思いがせめぎ合っているから。
「聞いたわよ、葵。陽琥さんと虎の契約、知らなかったのね」
「! 姉さんは知ってたの?」
「そりゃ知ってるわよ。中学生になってから葵にボディーガードが付いてないんだもん。まぁ、だから心配で陽琥さんにしつこく聞いちゃったから知ってるんだけどね」
当時を思い出しているのか、姉さんは懐かしそうに目を細めて笑った。
僕はその笑い顔に、ある疑問が頭に過った。そしてその疑問は考えるよりも先に口から零れていて……。
「姉さん、最近虎君と喧嘩しなくなったね……」
「! なぁに? 喧嘩して欲しいの? あんなに『仲良くして』って言ってたのに」
姉さんは僕の言葉に困ったように笑う。仲良くしても仲良くしなくてもダメなの? と。
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