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恋しい人
恋しい人 第109話
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「……ちょっと。今は控えなさいよ」
「! 姉さんっ」
「葵が可愛いのは分かるけど、もう少し周りのことを考えて行動してよね」
そう言って姉さんは繋いでいた手を引き離すように僕と虎君の間に割って入ってきた。
嫌がらせかと一瞬思ったけど、姉さんは僕を振り返ると「葵も、今は我慢ね」と珍しく注意してきた。姉さんに注意されるとか本当片手で数える程度しかなかったから、この注意が本気だと伝わってくる。
僕は素直に頷き、茂斗の恋しさを刺激しないように虎君と触れ合ったりしないように気を付けようと思った。
(でも、我慢できるかな……)
気を抜くとすぐに虎君にくっついてしまう自分の行動を見越して覚える不安。すると姉さんは「リビングにいる時は私も注意するからね?」と苦笑を漏らす。どうやら僕の意志の弱さが顔に出ていたようだ。
「うん。……ありがとう、姉さん」
「いいのよ。葵も茂斗も私にとって可愛い弟なんだから」
可愛い弟のためならちょっとぐらい悪役になってあげる。
そう笑う姉さんに虎君は「ちょっとで済ませろよ」と呆れ口調。
(もう。虎君てばまたそんな怒らせるようなことを言うんだから)
案の定、虎君と姉さんの軽口の応酬が始まる。
僕はそれをちょっぴり複雑な思いで聞きながら、ぐずっていた妹を思い出し、母さんに向き直った。
目尻に涙の痕を残すめのうは、母さんの腕の中眠りに落ちていた。どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ。
「めのう寝ちゃったね」
「そうなの。ごはんまだなのに困ったわ」
困ったと言いながらも母さんの表情は笑顔で、とても優しい。
めのうが眠りやすいように身体を揺らし背中をポンポンと一定のリズムで優しく叩く母さんの姿に、僕も小さい頃母さんに抱っこされて眠るのが好きだったことを思い出した。
(あ……、でもそう言えば虎君に抱っこしてもらうのが一番好きだった気がする……)
今の今まで忘れいたけど、母さんに抱っこを強請った回数よりも虎君に抱っこを強請った回数の方が多い気がする。
「ねぇ、母さん」
「ん? なぁに?」
「もしかして僕、昔から虎君に物凄く甘えてた……?」
「? 今更何言ってるの? お母さんより虎にべったりだったのよ?」
キョトンとした顔で何を当然のことを聞いてくるんだと言いたげな母さん。母親として虎にヤキモチ妬いたぐらいだったのよ。と。
僕はやっぱりそうかと空笑い。
(自覚してなかっただけで僕もずっと虎君のこと大好きだったんだろうな……)
そもそも、『自慢のお兄ちゃん』というだけでは無理があったんだ。
そう考えると、つい最近までこの想いに気づかなかった自分の鈍さに失笑を覚えた。
「樹里斗、めのうが寝たならもう言っていいだろ?」
「! そうだね。もう明日のことだし、もしめのうにバレても大丈夫だよね」
いつまで床に寝転がっているんだと茂斗の頭を叩く父さんは母さんを見上げ、めのうが眠ったなら教えてやっていいだろう? と尋ねる。
母さんはその問いかけに苦笑交じりに頷き、念のためめのうを部屋に寝かせてくるとリビングを後にしようとした。
「! 陽琥」
「敷地内に不審な動きはありません」
「そうか。……何かあったらすぐに呼べよ?」
「ふふ。大丈夫だよ。心配し過ぎ」
陽琥さんの報告に安堵した父さんは母さんがめのうの部屋に行くのを少しの心配を滲ませながらも見送る。母さんは心配性な父さんに笑っていたけど、父さんの気持ちも分かるからか「叫んだらすぐに助けに来てね」と微笑んでリビングを後にした。
「……そんなに母さんが心配ならついて行けばいいだろうが」
「母さんとめのうの心配な。俺もそうしたいけど、腐りそうな息子を放っては置けないだろうが」
「っるせぇな……親父に何ができんだよ……」
俺のことは放っておけよ。
そうまた床に額をぶつける茂斗。すると父さんはそんな茂斗の頭をもう一度軽く叩き、「そんなに腐るな」と苦笑いを浮かべた。
「凪ちゃんなら明日うちに来るから」
「! え!?」
父さんの言葉に僕や姉さんが反応を示す前に茂斗は既に床から起き上がってどういうことだと父さんに詰め寄っていた。
「明日はめのうの誕生日だろ? だから凪ちゃんに外泊許可を貰って泊まりに来てくれないかって前々から頼んでたんだよ」
「はぁ!? なんだよそれ!! 初耳だぞ!?」
「言ってないんだから当然だろうが。……言っとくが、ビックリさせたいって凪ちゃんの案だからな?」
「なっ……、ならめのうにだけ黙ってりゃいいだろうが!」
「だから、お前も驚かせたかったんだろうが。鈍い奴だな」
「え?」
俺の息子のくせに。って笑う父さんは茂斗の頭をちょっぴり乱暴に撫でる。さすがの茂斗も父さんの前じゃ普通の子供みたいだ。
「! 姉さんっ」
「葵が可愛いのは分かるけど、もう少し周りのことを考えて行動してよね」
そう言って姉さんは繋いでいた手を引き離すように僕と虎君の間に割って入ってきた。
嫌がらせかと一瞬思ったけど、姉さんは僕を振り返ると「葵も、今は我慢ね」と珍しく注意してきた。姉さんに注意されるとか本当片手で数える程度しかなかったから、この注意が本気だと伝わってくる。
僕は素直に頷き、茂斗の恋しさを刺激しないように虎君と触れ合ったりしないように気を付けようと思った。
(でも、我慢できるかな……)
気を抜くとすぐに虎君にくっついてしまう自分の行動を見越して覚える不安。すると姉さんは「リビングにいる時は私も注意するからね?」と苦笑を漏らす。どうやら僕の意志の弱さが顔に出ていたようだ。
「うん。……ありがとう、姉さん」
「いいのよ。葵も茂斗も私にとって可愛い弟なんだから」
可愛い弟のためならちょっとぐらい悪役になってあげる。
そう笑う姉さんに虎君は「ちょっとで済ませろよ」と呆れ口調。
(もう。虎君てばまたそんな怒らせるようなことを言うんだから)
案の定、虎君と姉さんの軽口の応酬が始まる。
僕はそれをちょっぴり複雑な思いで聞きながら、ぐずっていた妹を思い出し、母さんに向き直った。
目尻に涙の痕を残すめのうは、母さんの腕の中眠りに落ちていた。どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ。
「めのう寝ちゃったね」
「そうなの。ごはんまだなのに困ったわ」
困ったと言いながらも母さんの表情は笑顔で、とても優しい。
めのうが眠りやすいように身体を揺らし背中をポンポンと一定のリズムで優しく叩く母さんの姿に、僕も小さい頃母さんに抱っこされて眠るのが好きだったことを思い出した。
(あ……、でもそう言えば虎君に抱っこしてもらうのが一番好きだった気がする……)
今の今まで忘れいたけど、母さんに抱っこを強請った回数よりも虎君に抱っこを強請った回数の方が多い気がする。
「ねぇ、母さん」
「ん? なぁに?」
「もしかして僕、昔から虎君に物凄く甘えてた……?」
「? 今更何言ってるの? お母さんより虎にべったりだったのよ?」
キョトンとした顔で何を当然のことを聞いてくるんだと言いたげな母さん。母親として虎にヤキモチ妬いたぐらいだったのよ。と。
僕はやっぱりそうかと空笑い。
(自覚してなかっただけで僕もずっと虎君のこと大好きだったんだろうな……)
そもそも、『自慢のお兄ちゃん』というだけでは無理があったんだ。
そう考えると、つい最近までこの想いに気づかなかった自分の鈍さに失笑を覚えた。
「樹里斗、めのうが寝たならもう言っていいだろ?」
「! そうだね。もう明日のことだし、もしめのうにバレても大丈夫だよね」
いつまで床に寝転がっているんだと茂斗の頭を叩く父さんは母さんを見上げ、めのうが眠ったなら教えてやっていいだろう? と尋ねる。
母さんはその問いかけに苦笑交じりに頷き、念のためめのうを部屋に寝かせてくるとリビングを後にしようとした。
「! 陽琥」
「敷地内に不審な動きはありません」
「そうか。……何かあったらすぐに呼べよ?」
「ふふ。大丈夫だよ。心配し過ぎ」
陽琥さんの報告に安堵した父さんは母さんがめのうの部屋に行くのを少しの心配を滲ませながらも見送る。母さんは心配性な父さんに笑っていたけど、父さんの気持ちも分かるからか「叫んだらすぐに助けに来てね」と微笑んでリビングを後にした。
「……そんなに母さんが心配ならついて行けばいいだろうが」
「母さんとめのうの心配な。俺もそうしたいけど、腐りそうな息子を放っては置けないだろうが」
「っるせぇな……親父に何ができんだよ……」
俺のことは放っておけよ。
そうまた床に額をぶつける茂斗。すると父さんはそんな茂斗の頭をもう一度軽く叩き、「そんなに腐るな」と苦笑いを浮かべた。
「凪ちゃんなら明日うちに来るから」
「! え!?」
父さんの言葉に僕や姉さんが反応を示す前に茂斗は既に床から起き上がってどういうことだと父さんに詰め寄っていた。
「明日はめのうの誕生日だろ? だから凪ちゃんに外泊許可を貰って泊まりに来てくれないかって前々から頼んでたんだよ」
「はぁ!? なんだよそれ!! 初耳だぞ!?」
「言ってないんだから当然だろうが。……言っとくが、ビックリさせたいって凪ちゃんの案だからな?」
「なっ……、ならめのうにだけ黙ってりゃいいだろうが!」
「だから、お前も驚かせたかったんだろうが。鈍い奴だな」
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俺の息子のくせに。って笑う父さんは茂斗の頭をちょっぴり乱暴に撫でる。さすがの茂斗も父さんの前じゃ普通の子供みたいだ。
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