402 / 552
恋しい人
恋しい人 第116話
しおりを挟む
「ちょ、ちょっと待ってよちーちゃん! ちーちゃんってば!!」
「なんだよ? 来須君待ってんだろ?」
「待ってるけ―――」
「なら行こうぜ!」
強引なちーちゃんは僕の話を聞かず再び手を引いて歩き出す。本当、こうやって話を聞かないところ、昔のままだ!
僕は「離して!」とちーちゃんの手を振りほどくと、来た道を戻るように廊下を走った。
「まー! おい、まー! なんで戻るんだよ? 帰んねーの?」
後ろから聞こえるちーちゃんの声は大きくて、否が応でも視線が突き刺さってる感じがする。
(目立ってる……。物凄く目立ってるっ……)
恥ずかしさを耐えて教室に戻った僕は勢いに任せてドアを開いた。
教室はまた一瞬で静まり返ったけど、僕の姿を見て慌てて会話を続けるクラスメイト達。気を使われてる感が凄くて居た堪れなかった。
「おはよう、葵。随分早い登校だね?」
「そういう冗談は今は笑えないよ。……葵君、大丈夫?」
みんなのもとに駆け寄る僕に、朋喜は物凄く心配してくれる。もちろん、悠栖も姫神君も。
友達の優しさを改めてかみしめる僕だけど、すぐに聞こえる「まー! 帰るって言ってるのに教室戻んなよ!」ってちーちゃんの声が聞こえて、ため息が漏れてしまった。
「ほら、来須君待ってるんだから行くぞ」
「千景君、堂々と一年の教室入ってこないでよ。めちゃくちゃ目立ってるよ?」
「しかたねーだろ。まーが逃げるし」
再び僕の手を取るとちーちゃんはまたも強引に僕を引っ張って歩き出す。
でも、再び僕が抗う前に今度はちーちゃんの手首を掴んだ姫神君がそのままあらぬ方向に腕を捻りあげた。
ちーちゃんは僕手を放すと腕が動くうちに姫神君の手を振りほどく。それに姫神君は驚いた顔をして見せた。どうやら腕が振りほどかれるとは思っていなかったようだ。
「……お前、なんかやってんの?」
目を見開いている姫神君にちーちゃんが見せるのは楽しそうな笑い顔。
それはとてもまずいもので、僕はちーちゃんと姫神君の間に割って入って「虎君が待ってるから帰ろ!?」と声をあげた。
「まー、退けよ。別に急いでないんだろ? まーの用事が終わるまで俺は遊んどくから―――」
「僕の用事は姫神君にあるの!」
「え? 俺?」
高揚した表情のちーちゃんに「絶対ダメだからね!?」と両手を広げて姫神君を護る僕。
姫神君は僕の大声にまたも驚いた様子だ。
「姫神君、少しだけ付き合ってくれる?」
「何に?」
「虎君が姫神君に逢いたいって言ってて……」
正門まででいいから一緒に付いてきて欲しい。
そう言葉を続けながらも尻すぼみになるのは、横から感じる視線のせいだ。
「これ、『品定め』かな?」
「だろうな。あの人、全然変わってないじゃん」
「まぁまぁ。葵君が大切だから余計に心配になってるんじゃないかな?」
できることなら慶史達にはバレないようにって思ってたのに、ちーちゃんのせいでぜんぶつつぬけになっちゃったじゃない。
居た堪れなくて項垂れそうになる僕だけど、姫神君の「『虎君』って三谷の恋人だよな……?」って小さな声が聞こえて呆けてる場合じゃないと慌てて我に返った。
「そ、そう、だよ。……やっぱり、抵抗、ある……?」
「あ、いや。そうじゃなくて……。なんで俺に逢いたいのかが分からなくて……」
困惑の表情を浮かべる姫神君の耳には慶史達の大きな内緒話が聞こえてなかったようだ。
僕は苦笑交じりに「ごめんね」と謝った。
「虎君、凄く心配症なんだ。それで、僕の友達がどんな人か気になるから話をしたいって」
「つまり、『三谷の友人として相応しいか』確認したいってことか?」
「それは……。ごめん……」
虎君はただ心配してくれているだけ。でもそれは僕の視点の話で、他の人からすれば『品定め』と捉えられても仕方がなかった。
一応、虎君と僕の思いは伝えるんだけど、姫神君の表情を見るにそれが伝わっているとは思えなかった。
「やっぱり、嫌、だよね……」
「『嫌』っていうか、……嫌とかじゃなくて、その人に『ダメだ』って言われたら俺は三谷と友達にはなれないんだろ……?」
僕が無理なら無理と言って欲しいと作り笑いを浮かべると、姫神君から返ってきたのは予想してなかった言葉だった。
「なんだよ? 来須君待ってんだろ?」
「待ってるけ―――」
「なら行こうぜ!」
強引なちーちゃんは僕の話を聞かず再び手を引いて歩き出す。本当、こうやって話を聞かないところ、昔のままだ!
僕は「離して!」とちーちゃんの手を振りほどくと、来た道を戻るように廊下を走った。
「まー! おい、まー! なんで戻るんだよ? 帰んねーの?」
後ろから聞こえるちーちゃんの声は大きくて、否が応でも視線が突き刺さってる感じがする。
(目立ってる……。物凄く目立ってるっ……)
恥ずかしさを耐えて教室に戻った僕は勢いに任せてドアを開いた。
教室はまた一瞬で静まり返ったけど、僕の姿を見て慌てて会話を続けるクラスメイト達。気を使われてる感が凄くて居た堪れなかった。
「おはよう、葵。随分早い登校だね?」
「そういう冗談は今は笑えないよ。……葵君、大丈夫?」
みんなのもとに駆け寄る僕に、朋喜は物凄く心配してくれる。もちろん、悠栖も姫神君も。
友達の優しさを改めてかみしめる僕だけど、すぐに聞こえる「まー! 帰るって言ってるのに教室戻んなよ!」ってちーちゃんの声が聞こえて、ため息が漏れてしまった。
「ほら、来須君待ってるんだから行くぞ」
「千景君、堂々と一年の教室入ってこないでよ。めちゃくちゃ目立ってるよ?」
「しかたねーだろ。まーが逃げるし」
再び僕の手を取るとちーちゃんはまたも強引に僕を引っ張って歩き出す。
でも、再び僕が抗う前に今度はちーちゃんの手首を掴んだ姫神君がそのままあらぬ方向に腕を捻りあげた。
ちーちゃんは僕手を放すと腕が動くうちに姫神君の手を振りほどく。それに姫神君は驚いた顔をして見せた。どうやら腕が振りほどかれるとは思っていなかったようだ。
「……お前、なんかやってんの?」
目を見開いている姫神君にちーちゃんが見せるのは楽しそうな笑い顔。
それはとてもまずいもので、僕はちーちゃんと姫神君の間に割って入って「虎君が待ってるから帰ろ!?」と声をあげた。
「まー、退けよ。別に急いでないんだろ? まーの用事が終わるまで俺は遊んどくから―――」
「僕の用事は姫神君にあるの!」
「え? 俺?」
高揚した表情のちーちゃんに「絶対ダメだからね!?」と両手を広げて姫神君を護る僕。
姫神君は僕の大声にまたも驚いた様子だ。
「姫神君、少しだけ付き合ってくれる?」
「何に?」
「虎君が姫神君に逢いたいって言ってて……」
正門まででいいから一緒に付いてきて欲しい。
そう言葉を続けながらも尻すぼみになるのは、横から感じる視線のせいだ。
「これ、『品定め』かな?」
「だろうな。あの人、全然変わってないじゃん」
「まぁまぁ。葵君が大切だから余計に心配になってるんじゃないかな?」
できることなら慶史達にはバレないようにって思ってたのに、ちーちゃんのせいでぜんぶつつぬけになっちゃったじゃない。
居た堪れなくて項垂れそうになる僕だけど、姫神君の「『虎君』って三谷の恋人だよな……?」って小さな声が聞こえて呆けてる場合じゃないと慌てて我に返った。
「そ、そう、だよ。……やっぱり、抵抗、ある……?」
「あ、いや。そうじゃなくて……。なんで俺に逢いたいのかが分からなくて……」
困惑の表情を浮かべる姫神君の耳には慶史達の大きな内緒話が聞こえてなかったようだ。
僕は苦笑交じりに「ごめんね」と謝った。
「虎君、凄く心配症なんだ。それで、僕の友達がどんな人か気になるから話をしたいって」
「つまり、『三谷の友人として相応しいか』確認したいってことか?」
「それは……。ごめん……」
虎君はただ心配してくれているだけ。でもそれは僕の視点の話で、他の人からすれば『品定め』と捉えられても仕方がなかった。
一応、虎君と僕の思いは伝えるんだけど、姫神君の表情を見るにそれが伝わっているとは思えなかった。
「やっぱり、嫌、だよね……」
「『嫌』っていうか、……嫌とかじゃなくて、その人に『ダメだ』って言われたら俺は三谷と友達にはなれないんだろ……?」
僕が無理なら無理と言って欲しいと作り笑いを浮かべると、姫神君から返ってきたのは予想してなかった言葉だった。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
リンドグレーン大佐の提案
高菜あやめ
BL
軍事国家ロイシュベルタの下級士官テオドアは、軍司令部のカリスマ軍師リンドグレーン大佐から持ちかけられた『ある提案』に応じ、一晩その身をゆだねる。
一夜限りの関係かと思いきや、大佐はそれ以降も執拗に彼に構い続け、次第に独占欲をあらわにしていく。
叩き上げの下士官と、支配欲を隠さない上官。上下関係から始まる、甘くて苛烈な攻防戦。
【支配系美形攻×出世欲強めな流され系受】
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる