401 / 552
恋しい人
恋しい人 第115話
しおりを挟む
「ち、『ちーちゃん』……?」
シンと静まり返った教室に響く悠栖の間の抜けた声。
こちらを振り振り返ってポカンとした表情の友達の姿に僕は大きく深呼吸をして心臓を落ち着けると「大丈夫だから」と苦笑いを浮かべた。
「その人は僕の従兄弟だから」
「! い、イトコ?!」
「え、でも、どう見ても不良……」
驚きの声を上げる姫神君と、『嘘だろ?』って言葉を零す悠栖。
また『不良』と口にした悠栖に、ちーちゃんの顔がぴくっと引き攣ったのを見た僕は、慌てて悠栖とちーちゃんの間に割って入った。
「! 退けよ、まー」
「やだ! ちーちゃん、悠栖のこと殴ろうとしたでしょ!?」
「人の面見て『不良』とかわけわかんねぇーこと言いやがるからちょっと絞めてやろうとしただけだろうが」
振り上げた拳を宙で止めたちーちゃんは僕に凄んで見せるけど、僕は一歩も引かずその手を下ろしてと逆に凄み返した。
切れ長で威圧感を感じる目元にキラキラと輝く金色の髪。両耳のたくさんのピアスと胸元が大きく開いた学生服。その姿はどう頑張っても『優等生』とは程遠い。
振り上げられている拳にはごつごつした指輪が沢山嵌められていて、それがお洒落のために身に着けているものじゃないと知っている僕は「自業自得でしょ」とちーちゃんを睨んだ。
「そんな格好してたら誰だって怖い人に思うからね?」
「俺の何処が怖いって言うんだよ?」
「『怖い』って言うか完全に危ない人だよ。今の千景君」
「! ……お前、慶史か?」
「そ。久しぶりだね。千景君」
睨み合いをする僕とちーちゃんの間に割って入ってくるのは笑いを堪えてる慶史で、ちーちゃんは一瞬慶史だと分からなかったのか確認するまでに間が空いた。
慶史は笑顔で手を振ると「なんで千景君がクライストに居るの?」と質問を投げかける。
それは僕も知りたかったことだったから、思わず慶史に続いて「そう! なんで!?」と詰め寄ってしまった。
「『なんで』って、編入したからに決まってるだろうが」
「『編入したから』って……。僕何も聞いてないよ!?」
「それはまーが正月家に居なかったからだろうが。俺のせいじゃねーぞ」
落ち着けとおでこを指で弾かれる。手加減してくれてると思うけど、それでも痛い事には変わりなくて、僕はおでこを擦りながら頬を膨らませた。
ちーちゃんは今ので説明が終わったつもりなのか、慶史に視線を向けると自分の何処が『危ない』のかと不機嫌な顔をして見せた。
「危なさが分かってないところがもう危ないから」
「何が? 別に普通だろうが」
「普通じゃないから。さっきのなんかどう見ても『殴り込み』だったからね? その証拠にこいつらに滅茶苦茶警戒されたでしょ?」
慶史が指さすのは悠栖と姫神君で、二人はヤバい上級生から友達を守るために立ちはだかったんだと説明した。
「目つきはどうにもならないから仕方ないとして、せめてピアス外すとか、制服ちゃんと着るとか、努力しようよ」
「別に普通だろうが。これぐらい」
「千景君にとって『普通』でも、クライストでは『不良』なの。そんなんじゃクラスで浮いちゃうよ?」
「んなの『三谷』って時点で浮いてる」
顔を顰めるちーちゃんは「どいつもこいつもうるせぇ」って吐き捨てた。
そんなちーちゃんに慶史は肩を竦めると後ろを振り返り、「見世物じゃねーよ?」と満面の笑顔を見せた。
次の瞬間、静かだった教室に音が戻る。
僕達の様子を窺っていたクラスメイト達はそれぞれのお喋りに戻ったものの、その声は不自然な程明るくて楽し気だった。
(こんな場所で騒いじゃったんだし、仕方ないよね)
好奇の目を向けられることは苦手。でも、今回は自業自得だから仕方ない。
こっそり溜め息を吐いていれば、ポケットから振動が伝わってきた。
(あ。虎君だ)
ディスプレイに表示される名前だけでホッとしてしまう。
僕はアプリを開いてメッセージを確認する。『着いたよ』という短い文面。でも、心が温かくなるのはどうしてだろう?
虎君を想いながら『すぐに行くね』と返信すれば、『姫神君もできれば一緒に』ってメッセージが届いた。
(『いじめない?』っと)
僕のメッセージに『たぶん』の文字。心配性な虎君に表情からは笑顔が零れて、幸せな気持ちが胸を満たした。
「それ、来須君からか?」
「! ちーちゃん! 覗かないでよ!」
虎君のことを考えて幸せに浸っていた僕を現実に戻すのは耳元で聞こえるちーちゃんの声。
人の携帯を覗くなんてデリカシーなさ過ぎ! そう言って僕が怒ってもちーちゃんは全然反省する素振りもなく、「帰ろうぜ」と僕の手を掴んで歩き出してしまう。
シンと静まり返った教室に響く悠栖の間の抜けた声。
こちらを振り振り返ってポカンとした表情の友達の姿に僕は大きく深呼吸をして心臓を落ち着けると「大丈夫だから」と苦笑いを浮かべた。
「その人は僕の従兄弟だから」
「! い、イトコ?!」
「え、でも、どう見ても不良……」
驚きの声を上げる姫神君と、『嘘だろ?』って言葉を零す悠栖。
また『不良』と口にした悠栖に、ちーちゃんの顔がぴくっと引き攣ったのを見た僕は、慌てて悠栖とちーちゃんの間に割って入った。
「! 退けよ、まー」
「やだ! ちーちゃん、悠栖のこと殴ろうとしたでしょ!?」
「人の面見て『不良』とかわけわかんねぇーこと言いやがるからちょっと絞めてやろうとしただけだろうが」
振り上げた拳を宙で止めたちーちゃんは僕に凄んで見せるけど、僕は一歩も引かずその手を下ろしてと逆に凄み返した。
切れ長で威圧感を感じる目元にキラキラと輝く金色の髪。両耳のたくさんのピアスと胸元が大きく開いた学生服。その姿はどう頑張っても『優等生』とは程遠い。
振り上げられている拳にはごつごつした指輪が沢山嵌められていて、それがお洒落のために身に着けているものじゃないと知っている僕は「自業自得でしょ」とちーちゃんを睨んだ。
「そんな格好してたら誰だって怖い人に思うからね?」
「俺の何処が怖いって言うんだよ?」
「『怖い』って言うか完全に危ない人だよ。今の千景君」
「! ……お前、慶史か?」
「そ。久しぶりだね。千景君」
睨み合いをする僕とちーちゃんの間に割って入ってくるのは笑いを堪えてる慶史で、ちーちゃんは一瞬慶史だと分からなかったのか確認するまでに間が空いた。
慶史は笑顔で手を振ると「なんで千景君がクライストに居るの?」と質問を投げかける。
それは僕も知りたかったことだったから、思わず慶史に続いて「そう! なんで!?」と詰め寄ってしまった。
「『なんで』って、編入したからに決まってるだろうが」
「『編入したから』って……。僕何も聞いてないよ!?」
「それはまーが正月家に居なかったからだろうが。俺のせいじゃねーぞ」
落ち着けとおでこを指で弾かれる。手加減してくれてると思うけど、それでも痛い事には変わりなくて、僕はおでこを擦りながら頬を膨らませた。
ちーちゃんは今ので説明が終わったつもりなのか、慶史に視線を向けると自分の何処が『危ない』のかと不機嫌な顔をして見せた。
「危なさが分かってないところがもう危ないから」
「何が? 別に普通だろうが」
「普通じゃないから。さっきのなんかどう見ても『殴り込み』だったからね? その証拠にこいつらに滅茶苦茶警戒されたでしょ?」
慶史が指さすのは悠栖と姫神君で、二人はヤバい上級生から友達を守るために立ちはだかったんだと説明した。
「目つきはどうにもならないから仕方ないとして、せめてピアス外すとか、制服ちゃんと着るとか、努力しようよ」
「別に普通だろうが。これぐらい」
「千景君にとって『普通』でも、クライストでは『不良』なの。そんなんじゃクラスで浮いちゃうよ?」
「んなの『三谷』って時点で浮いてる」
顔を顰めるちーちゃんは「どいつもこいつもうるせぇ」って吐き捨てた。
そんなちーちゃんに慶史は肩を竦めると後ろを振り返り、「見世物じゃねーよ?」と満面の笑顔を見せた。
次の瞬間、静かだった教室に音が戻る。
僕達の様子を窺っていたクラスメイト達はそれぞれのお喋りに戻ったものの、その声は不自然な程明るくて楽し気だった。
(こんな場所で騒いじゃったんだし、仕方ないよね)
好奇の目を向けられることは苦手。でも、今回は自業自得だから仕方ない。
こっそり溜め息を吐いていれば、ポケットから振動が伝わってきた。
(あ。虎君だ)
ディスプレイに表示される名前だけでホッとしてしまう。
僕はアプリを開いてメッセージを確認する。『着いたよ』という短い文面。でも、心が温かくなるのはどうしてだろう?
虎君を想いながら『すぐに行くね』と返信すれば、『姫神君もできれば一緒に』ってメッセージが届いた。
(『いじめない?』っと)
僕のメッセージに『たぶん』の文字。心配性な虎君に表情からは笑顔が零れて、幸せな気持ちが胸を満たした。
「それ、来須君からか?」
「! ちーちゃん! 覗かないでよ!」
虎君のことを考えて幸せに浸っていた僕を現実に戻すのは耳元で聞こえるちーちゃんの声。
人の携帯を覗くなんてデリカシーなさ過ぎ! そう言って僕が怒ってもちーちゃんは全然反省する素振りもなく、「帰ろうぜ」と僕の手を掴んで歩き出してしまう。
0
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる