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恋しい人
恋しい人 第114話
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「三谷葵ってこのクラスにいるか?」
授業が終わり放課後に突入した教室で友達とお喋りを楽しんでいたのは僕達だけじゃない。他のクラスメイトもいくつかのグループを作ってそれぞれ盛り上がっていて、ちょっぴり騒がしかった教室。
そんな空間に突如響いた声は不自然な程よく通り、一瞬にして教室から笑い声や話し声を消してしまった。
静まり返った教室。呼ばれたのは確かに僕の名前で、誰だろう? って僕は振り返ろうとした。
でも、振り返った僕の目に訪問者は映らない。それは僕の前に悠栖と姫神君が立っていたから。
「えっと、悠栖……? 姫神君……?」
「三谷、隠れてろ」
「え? なんで?」
見えないんだけど……って僕が二人を避けようとしたら、朋喜がぎゅっと抱き着いてきて『動かないで』と言わんばかり。
朋喜の様子に困惑していれば、姫神君が前を向いたまま僕に大人しくしてろと言ってきた。その声には緊張が滲んでいて、恐怖も感じているようだった。
「天野。お前、喧嘩できるか?」
「正直、やったことねー。でも、二人でならマモが逃げるぐらいの時間は稼げるだろ」
「そうだな。藤原、深町。三谷のこと任せたぞ」
小声で言葉を交わす二人の会話は物騒なものだった。一体どうして悠栖と姫神君がこんなに殺気立っているのか、僕には分からない。
すると朋喜が僕が動くより先に「動かないで」と声を潜めて注意してきて……。
「何? どうしたの……?」
「凄く怖そうな人が葵君のこと探してる」
「え?」
「大丈夫。葵君のことは僕達が守るからっ」
ぎゅっと抱きしめてくる朋喜の腕。でも、その手は震えていて本当は怖いのだと分かる。
そして僕を隠すように立っている姫神君と悠栖の手も僅かに震えていて、二人も恐怖に耐えて僕を守ろうとしてくれているのだと知った。
僕を探している人が誰かは分からない。でも、三人の様子からその人がとても怖そうな人だと言うことは分かった。
きっと三人に従って大人しくしていることが僕の安全を考えると最善なのだろう。
でも、僕は友達を危険に晒してまで自分の身を護りたいとは思わない。
僕は優しい友達に感謝しながらも僕を抱きしめる朋喜の手から抜け出し、姫神君と悠栖を押し退け僕を呼ぶ訪問者の前に姿を見せた。
「葵君っ!」
「三谷!!」
「マモ、バカっ! 戻ってこい!!」
背後から聞こえる焦ったような声。
でも僕の耳に三人の声は何処か遠くに聞こえた。
それはとても驚いたから。本当、凄く、物凄く驚いてしまったから。
(え……。なんで……? なんで此処にいるの……?)
「! やっぱりこのクラスだったか」
呆然と立ち尽くす僕。そんな僕に向かって教室の入り口でにやりと笑うのは――。
「マモに近づくな!」
「三谷になんの用かは知らないが、用件は俺らが聞く!」
「! ゆ、悠栖、姫神君、ちが、この人は―――」
「葵君には指一本触らせません! お引き取り下さい!!」
再び僕の前に立つ悠栖と姫神君の背中に慌てて説明しようとするんだけど、朋喜に力いっぱい抱きしめられて僕は言葉に詰まってしまった。
その間も悠栖と姫神君は殺気だって僕を守ろうとしてくれていて、混乱と感動と焦りで僕の頭は真っ白になってしまいそうだった。
「あぁ? なんだてめぇら」
「俺らはマモのダチだ!!」
耳に届く、不機嫌な声。それには苛立ちが混じっていて、僕の意識を引き戻す。
噛みつくように声を荒げる悠栖は、「マモはお前みたいな不良が絡んでいい相手じゃねぇーんだよ!」なんて叫んでる。
(ちがっ、悠栖、違うから!!)
そんな乱暴な言葉であんまり刺激しちゃダメだと焦った僕は、この細い腕の何処にこんな力がるのかと思う位力いっぱい抱きしめてくる朋喜の腕からなんとか抜け出し、自分ができる限り大きな声を張り上げた。
「ちーちゃん!!!」
と。
授業が終わり放課後に突入した教室で友達とお喋りを楽しんでいたのは僕達だけじゃない。他のクラスメイトもいくつかのグループを作ってそれぞれ盛り上がっていて、ちょっぴり騒がしかった教室。
そんな空間に突如響いた声は不自然な程よく通り、一瞬にして教室から笑い声や話し声を消してしまった。
静まり返った教室。呼ばれたのは確かに僕の名前で、誰だろう? って僕は振り返ろうとした。
でも、振り返った僕の目に訪問者は映らない。それは僕の前に悠栖と姫神君が立っていたから。
「えっと、悠栖……? 姫神君……?」
「三谷、隠れてろ」
「え? なんで?」
見えないんだけど……って僕が二人を避けようとしたら、朋喜がぎゅっと抱き着いてきて『動かないで』と言わんばかり。
朋喜の様子に困惑していれば、姫神君が前を向いたまま僕に大人しくしてろと言ってきた。その声には緊張が滲んでいて、恐怖も感じているようだった。
「天野。お前、喧嘩できるか?」
「正直、やったことねー。でも、二人でならマモが逃げるぐらいの時間は稼げるだろ」
「そうだな。藤原、深町。三谷のこと任せたぞ」
小声で言葉を交わす二人の会話は物騒なものだった。一体どうして悠栖と姫神君がこんなに殺気立っているのか、僕には分からない。
すると朋喜が僕が動くより先に「動かないで」と声を潜めて注意してきて……。
「何? どうしたの……?」
「凄く怖そうな人が葵君のこと探してる」
「え?」
「大丈夫。葵君のことは僕達が守るからっ」
ぎゅっと抱きしめてくる朋喜の腕。でも、その手は震えていて本当は怖いのだと分かる。
そして僕を隠すように立っている姫神君と悠栖の手も僅かに震えていて、二人も恐怖に耐えて僕を守ろうとしてくれているのだと知った。
僕を探している人が誰かは分からない。でも、三人の様子からその人がとても怖そうな人だと言うことは分かった。
きっと三人に従って大人しくしていることが僕の安全を考えると最善なのだろう。
でも、僕は友達を危険に晒してまで自分の身を護りたいとは思わない。
僕は優しい友達に感謝しながらも僕を抱きしめる朋喜の手から抜け出し、姫神君と悠栖を押し退け僕を呼ぶ訪問者の前に姿を見せた。
「葵君っ!」
「三谷!!」
「マモ、バカっ! 戻ってこい!!」
背後から聞こえる焦ったような声。
でも僕の耳に三人の声は何処か遠くに聞こえた。
それはとても驚いたから。本当、凄く、物凄く驚いてしまったから。
(え……。なんで……? なんで此処にいるの……?)
「! やっぱりこのクラスだったか」
呆然と立ち尽くす僕。そんな僕に向かって教室の入り口でにやりと笑うのは――。
「マモに近づくな!」
「三谷になんの用かは知らないが、用件は俺らが聞く!」
「! ゆ、悠栖、姫神君、ちが、この人は―――」
「葵君には指一本触らせません! お引き取り下さい!!」
再び僕の前に立つ悠栖と姫神君の背中に慌てて説明しようとするんだけど、朋喜に力いっぱい抱きしめられて僕は言葉に詰まってしまった。
その間も悠栖と姫神君は殺気だって僕を守ろうとしてくれていて、混乱と感動と焦りで僕の頭は真っ白になってしまいそうだった。
「あぁ? なんだてめぇら」
「俺らはマモのダチだ!!」
耳に届く、不機嫌な声。それには苛立ちが混じっていて、僕の意識を引き戻す。
噛みつくように声を荒げる悠栖は、「マモはお前みたいな不良が絡んでいい相手じゃねぇーんだよ!」なんて叫んでる。
(ちがっ、悠栖、違うから!!)
そんな乱暴な言葉であんまり刺激しちゃダメだと焦った僕は、この細い腕の何処にこんな力がるのかと思う位力いっぱい抱きしめてくる朋喜の腕からなんとか抜け出し、自分ができる限り大きな声を張り上げた。
「ちーちゃん!!!」
と。
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