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恋しい人
恋しい人 第129話
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この先何が起こるか。それは誰にも分からない。だから『絶対』という言葉は絶対ではない。
でも、それでも僕はこの想いがこの先変わらないと自信を持って言える。ずっとずっと虎君のことが大好きだと確信を持ってる。
「だから大丈夫。姉さんが心配してるようなことは絶対に起こらないから」
僕には後にも先にも虎君だけだから。虎君だけが欲しいと思うから……。
そう姉さんに伝えれば、姉さんは少し困ったような笑顔を浮かべながらも「分かったわ」と頷いてくれた。
「けど、今からもう憂鬱だわ」
「どうして?」
「ずっと欲しいと思っていた服やバッグを手に入れたら毎日でも身につけたいって思うもの。私は」
溜め息交じりで頬杖を突く姉さんは「週末以外の外泊は許さないからね」と視線を向けてくる。
姉さんが何を言いたいのか理解するのに時間がかかったものの、ちゃんと姉さんが言わんとしていることが分かった僕は熱くなる頬に俯き、しどろもどろになりながらも「分かってるっ」と返事をする。
恥ずかしさのあまり膝に置いた手をぎゅっと握り締める自分の身体に、何故か羞恥がさらに増した気がした。
(僕がエッチしたがってることはバレてるって分かってるけど、でも、凄く恥ずかしいっ)
明日を境にきっと僕は虎君と二人きりで過ごす時間が増えるだろう。そしてその場所は姉さんが言った通り僕の家ではなく、虎君の家になる気がする。
恋人同士が二人きりで一夜を過ごす。それどういうことか、普通の人なら想像できるだろう。
そこまで考えて、姉さんの言葉に眩暈がしそうなほど羞恥心で一杯になる僕。
「こんなに可愛いんだから、まぁ仕方ない、か……」
羞恥に震えている僕の髪を撫でる姉さんは、自分が虎君の立場なら間違いなく閉じ込めてしまうと笑う。
優しい姉さんの笑顔にからかわないでと僕も苦笑いを返した。
「見て。あんな風に嫉妬に狂った目で睨むなら傍にいればいいのにって思わない?」
姉さんが指さすのは此方を睨む虎君。海音君がいなかったら今にも殴りかかってきそう。と。
僕をとても愛してくれている虎君の嫉妬の眼差しにドキドキしながら、姉さんの言葉に頷きを返すのは本当にその通りだと思ったから。
僕は虎君の傍にいたい。虎君に抱きしめて欲しいし、キスして欲しい……。
「仕方ない。可愛い弟と面倒な兄のために優しいお姉ちゃんが一肌脱いであげる」
「それ、どういう意味?」
「黙って見てて? ママ!」
意味深な笑みを象る赤い唇が呼ぶのは虎君じゃなくて母さん。ますます意味が分からない僕は姉さんが言ったように黙ってみているしかなかった。
キッチンで父さんと仲良く後片付けをしていた母さんは姉さんの声に僅かに上気して赤くなった肌を隠すように両手で首を抑え、どうしたの? と平静を装う。
父さんと母さんがとても仲良しで二人が子どもの前でも夫婦として過ごすことがあるなんて本当、今更。それなのにこんな風に母さんが照れるなんてキッチンで何をしていたのやら……。
(いいな……。僕も虎君にくっついて過ごしたい……)
母さんの様子に羨望を抱く僕はまた虎君と二人きりで過ごすことを考えてしまう。早く明日になって欲しい。と。
「葵、今日は虎の家に泊まりに行くって」
「え?」
「おまっ、何言ってんだ!?」
姉さんの言葉を僕が反応する前に聞こえるのは虎君の怒鳴り声。振り返れば海音君の制止を振り払って険しい顔でこちらに歩み寄ってくる虎君の姿が……。
「虎、煩い。ママ、パパ、いいでしょ?」
「い、いいけど……」
「虎が良くない雰囲気だな」
姉さんの問いかけに、母さんは驚きながらも外泊はいいけどと口籠る。それは父さんが言った通り、虎君がそれを望んでいるとは思えなかったから。
虎君の反応に僕はショックを受ける。
僕は少しでも早く虎君の傍にいたいと思っていたから姉さんのお節介が素直に嬉しかった。でも、虎君は姉さんのお節介に怒りを露わにしてる。まるで迷惑だと言わんばかりに。
「なによその態度。葵と一緒に過ごすのが嫌なわけ?」
「そんなこと一言も言ってないだろうが!」
「ならどうしてそんな風に怒ってるのよ?」
「お前が余計な気をまわすからだろうが!」
虎君は乱暴に姉さんの胸倉を掴み、首を突っ込んでくれるなと凄む。
虎君を追いかけてきた海音君が「バカ! 女相手に何してんだ!」って虎君を止めるんだけど、虎君はその手を放そうとしなかった。
「虎。逆上する気持ちは分かるが落ち着け。親の前だぞ」
「! ―――っ、すみませんっ……」
父さんの声はまさに鶴の一声。虎君は抑えられない怒りを何とかおさめ、姉さんから手を放した。
虎君の手から解放された姉さんは顔色一つ変えず服を整えると「私の可愛い弟に悲しい想いをさせるからよ」と冷めた声で言い放った。
でも、それでも僕はこの想いがこの先変わらないと自信を持って言える。ずっとずっと虎君のことが大好きだと確信を持ってる。
「だから大丈夫。姉さんが心配してるようなことは絶対に起こらないから」
僕には後にも先にも虎君だけだから。虎君だけが欲しいと思うから……。
そう姉さんに伝えれば、姉さんは少し困ったような笑顔を浮かべながらも「分かったわ」と頷いてくれた。
「けど、今からもう憂鬱だわ」
「どうして?」
「ずっと欲しいと思っていた服やバッグを手に入れたら毎日でも身につけたいって思うもの。私は」
溜め息交じりで頬杖を突く姉さんは「週末以外の外泊は許さないからね」と視線を向けてくる。
姉さんが何を言いたいのか理解するのに時間がかかったものの、ちゃんと姉さんが言わんとしていることが分かった僕は熱くなる頬に俯き、しどろもどろになりながらも「分かってるっ」と返事をする。
恥ずかしさのあまり膝に置いた手をぎゅっと握り締める自分の身体に、何故か羞恥がさらに増した気がした。
(僕がエッチしたがってることはバレてるって分かってるけど、でも、凄く恥ずかしいっ)
明日を境にきっと僕は虎君と二人きりで過ごす時間が増えるだろう。そしてその場所は姉さんが言った通り僕の家ではなく、虎君の家になる気がする。
恋人同士が二人きりで一夜を過ごす。それどういうことか、普通の人なら想像できるだろう。
そこまで考えて、姉さんの言葉に眩暈がしそうなほど羞恥心で一杯になる僕。
「こんなに可愛いんだから、まぁ仕方ない、か……」
羞恥に震えている僕の髪を撫でる姉さんは、自分が虎君の立場なら間違いなく閉じ込めてしまうと笑う。
優しい姉さんの笑顔にからかわないでと僕も苦笑いを返した。
「見て。あんな風に嫉妬に狂った目で睨むなら傍にいればいいのにって思わない?」
姉さんが指さすのは此方を睨む虎君。海音君がいなかったら今にも殴りかかってきそう。と。
僕をとても愛してくれている虎君の嫉妬の眼差しにドキドキしながら、姉さんの言葉に頷きを返すのは本当にその通りだと思ったから。
僕は虎君の傍にいたい。虎君に抱きしめて欲しいし、キスして欲しい……。
「仕方ない。可愛い弟と面倒な兄のために優しいお姉ちゃんが一肌脱いであげる」
「それ、どういう意味?」
「黙って見てて? ママ!」
意味深な笑みを象る赤い唇が呼ぶのは虎君じゃなくて母さん。ますます意味が分からない僕は姉さんが言ったように黙ってみているしかなかった。
キッチンで父さんと仲良く後片付けをしていた母さんは姉さんの声に僅かに上気して赤くなった肌を隠すように両手で首を抑え、どうしたの? と平静を装う。
父さんと母さんがとても仲良しで二人が子どもの前でも夫婦として過ごすことがあるなんて本当、今更。それなのにこんな風に母さんが照れるなんてキッチンで何をしていたのやら……。
(いいな……。僕も虎君にくっついて過ごしたい……)
母さんの様子に羨望を抱く僕はまた虎君と二人きりで過ごすことを考えてしまう。早く明日になって欲しい。と。
「葵、今日は虎の家に泊まりに行くって」
「え?」
「おまっ、何言ってんだ!?」
姉さんの言葉を僕が反応する前に聞こえるのは虎君の怒鳴り声。振り返れば海音君の制止を振り払って険しい顔でこちらに歩み寄ってくる虎君の姿が……。
「虎、煩い。ママ、パパ、いいでしょ?」
「い、いいけど……」
「虎が良くない雰囲気だな」
姉さんの問いかけに、母さんは驚きながらも外泊はいいけどと口籠る。それは父さんが言った通り、虎君がそれを望んでいるとは思えなかったから。
虎君の反応に僕はショックを受ける。
僕は少しでも早く虎君の傍にいたいと思っていたから姉さんのお節介が素直に嬉しかった。でも、虎君は姉さんのお節介に怒りを露わにしてる。まるで迷惑だと言わんばかりに。
「なによその態度。葵と一緒に過ごすのが嫌なわけ?」
「そんなこと一言も言ってないだろうが!」
「ならどうしてそんな風に怒ってるのよ?」
「お前が余計な気をまわすからだろうが!」
虎君は乱暴に姉さんの胸倉を掴み、首を突っ込んでくれるなと凄む。
虎君を追いかけてきた海音君が「バカ! 女相手に何してんだ!」って虎君を止めるんだけど、虎君はその手を放そうとしなかった。
「虎。逆上する気持ちは分かるが落ち着け。親の前だぞ」
「! ―――っ、すみませんっ……」
父さんの声はまさに鶴の一声。虎君は抑えられない怒りを何とかおさめ、姉さんから手を放した。
虎君の手から解放された姉さんは顔色一つ変えず服を整えると「私の可愛い弟に悲しい想いをさせるからよ」と冷めた声で言い放った。
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