特別な人

鏡由良

文字の大きさ
414 / 552
恋しい人

恋しい人 第128話

しおりを挟む
 姉さんに促されるまま椅子に座る僕の視線は下がったまま。虎君の傍にいたくて、虎君に必要とされたくて、苦しいほど恋焦がれてしまう。
 今虎君に触れられたら、きっと僕は愛し合いたい気持ちを抑えきれないだろう。虎君を困らせると分かっていても、触れ合いたいと我儘を言ってしまうだろう。
 我慢できない自分を、堪え性のない子どもだと思う。でも、子どもには相応しくない欲を抱いているから性質が悪いと思う。
「虎のこと、そんなに好きなんだ?」
 僕の髪を撫でる姉さんの問いかけは、言葉だけ見ると僕の想いを軽んじているように思えた。でも、少し困った笑い顔は僕を慈しんでいるように思えたから、素直に頷くことができる。
 虎君が大好きで苦しい。傍にいるのに、愛されているのに、こんなにも焦がれて苦しい……。
 恋愛って楽しくて幸せなだけだと思っていたけど、今の心は『楽しい』や『幸せ』というよりもっともっと禍々しいものに満たされている気がした。
(虎君にもっと僕だけを見て欲しい。もっと僕のことを欲しいと思って欲しい。もっと、もっと虎君のこと、独占したい……)
 虎君は物じゃないって分かってる。意思のある一人の男の人だってちゃんと理解してる。
(でも、それでも僕だけの虎君にしたいよ……)
 自分の中にこんな感情があるなんて知らなかった。それは驚きであり恐怖でもあった。僕はいつか自分の欲に負けて虎君を縛り付けてしまうのではないか。と。
「好き過ぎて苦しいぐらいに好きなのね」
「僕、声に出してた……?」
「んーん。声には出してないけど、顔に出してた。……凄く辛そうな表情してるわよ?」
 きっと虎が見たら心配しすぎて血相変えて飛んでくるぐらい。
 そう笑う姉さんは瞳を伏せ、「愛し合ってるんだものね」と呟いた。
「姉さん?」
「虎は20歳で葵は15歳。年齢的に考えて正直姉としては手放しで応援はできないけど、傍にいたい気持ちは理解できるから本当、複雑」
「えっと……、何が……?」
「明日、虎の家に行くんでしょ? ……それがどういう意味か、私に分からないと思う?」
 僕を見つめる姉さんの言葉に、僕は頭が湯立つ程恥ずかしくなる。
(バレてる……。明日僕達がエッチするって、バレてる……)
 きっと顔は真っ赤になっているだろう。心臓は物凄くドキドキしていて、呼吸が浅くなって、眩暈がしそうだった。
「やっぱり葵も男の子だったのね」
「ど、いう意味……?」
「んー……。愛し合いたいって望んだのは、葵、じゃない?」
「え?」
「虎から愛し合いたいって言われたわけじゃないでしょ?」
 苦笑交じりの姉さんの言葉に、僕は『そんなことない!』と反発しようと思った。虎君も愛し合いたいって思ってくれている。と。
 でも、思い返せば姉さんが言った通り、僕が望んで虎君がそれに応えてくれただけだった。
 もちろん、虎君が本当はエッチしたいと思っていないとは思っていない。けど、虎君から求めてくれたわけじゃないという事実は変わらない。
「あいつ、面倒なぐらい拗らせてるからね……」
「どういう事?」
「大切過ぎて触れるのが怖い」
「え? いきなり何?」
「虎が言ったの。『葵のことが大切過ぎて触れるのが怖い』って。……『一度でも触れたら、もう二度と戻れない』って」
「それって……」
「虎の『想い』を受け入れる事がどういう事か、葵はちゃんと理解してる?」
 姉さんは僕を真っ直ぐに見据え、尋ねてくる。さっき言った言葉は虎本人から聞いた言葉よ。そう言いながら。
 僕は姉さんの言いたいことが分からないと思いながらも『理解している』と頷いた。ちゃんと分かっているつもりだ。と。
「虎を受け入れたら最後、この先他の誰かに心変わりしても虎から逃げられない。……私が言ってるのはそういう事よ?」
 もちろん葵が別れたいって助けを求めてくれるのなら私は全力で虎を排除するつもりだけど、それでも虎から逃げ切れる保障はできない。
 姉さんはそう言葉を続け、その覚悟があるのかと尋ねてくる。
 それはきっと僕を脅すための言葉だろう。一時の感情に流されただけなら、中途半端な覚悟なら、虎君と愛し合ってはいけない。と、警告を込めて。
 僕な姉さんの言葉にその真意を探る。僕達が愛し合うことをよく想っていないのか。それとも―――?
「……姉さんは優しいね」
「! ……どうしてそう思うの?」
「僕のことも、虎君のことも大切に想ってくれてる。……だから、話してくれたんでしょ?」
 僕が恐怖に怯える未来が来ないように。虎君が絶望する未来が来ないように。そのためにちゃんと本当の想いに向き合って欲しい。
 それがきっと姉さんの願い。僕は自分達を心配してくれる優しい姉さんに「安心して」と笑った。虎君と愛し合いたいと願うこの気持ちは一時の感情じゃないよ。と。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...