特別な人

鏡由良

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恋しい人

恋しい人 第132話

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 虎君の舌は僕の舌に絡みつくと優しく僕を内側から舐め、上顎を、頬の内側をなぞり、僕の全てを喰らい尽くしたいと言わんばかりに求めてくれた。
 口づけに頭がぼんやりとするも、身体は熱を持って内側からどんどん熱くなる。そして身体を巡る熱はある一点に―――下肢に集約して、しだいに僕の頭は欲を吐き出したいと強く願うようになってゆく。
(キス、きもちぃ……)
 夢中で虎君の唇を求める僕。
 虎君はそんな僕を更に求めてくれて、僕の腹部に触れ、服の上から身体のラインを確かめるように何度も撫でてきた。
 きっと普段ならその動きをくすぐったいと感じるだろう。でも、今はくすぐったさよりも気持ちいい感覚が勝っていて、今よりもっと気持ちよくなりたいと快楽を追い求めた。
「っ、ぁ」
 キスに夢中になっていた僕の喉の奥から漏れるくぐもった声。
 それはこの快楽を吐き出すためのものだったけど、僕をとても大切に想ってくれている虎君の手を止めてしまうものでもあった。
 唇を離す虎君は僕を見下ろし、何か言っている。でも、ぼーっとしてる頭では何を言われているかまでは分からない。
 ただ、呼吸を乱し苦しそうな表情の虎君が堪らなくセクシーで、もっと触って欲しくて堪らなくなる。
 僕は早くもう一度キスして欲しいと虎君の首に手を伸ばし、離れた距離を戻すように引き寄せた。
「はやく……、とらく、はやくぅ……」
 もっとキスして。もっと触って。もっと僕を欲しがって……。
 そう願いを込めてほっぺたにちゅっちゅっとキスを落とせば、虎君が息を呑む喉の動きを感じた。
 欲が溢れて止まらなくなった僕は呂律が回らないながらも何度も何度も虎君を呼んだ。
 すると虎君は僕の声に応えるように口づけをくれる。さっきと同じような荒々しいけど甘くて心まで蕩けてしまいそうなキスにもっともっとと欲が出た。
 呼吸さえままならないから『もっと』と口に出して強請ることはできない。
 けど、虎君は僕を分かってくれているから、僕の望み通り『もっと』僕を求めてくれる。
 虎君の大きな手が僕の服の下に入ってきて、素肌に触れた。その指はとても優しくて、指先から虎君の『愛してる』が伝わってくる。
 こうやって触れられたのは初めてじゃない。何ならつい数日前に触れてもらったばかりだ。
 それなのに何故だろう?
(変なの……初めて虎君に触ってもらえた気がする……)
 どうしてそんな風に思うのか。きっと意識がはっきりしている時でも分からないだろう答えは快楽に蕩けた思考で分かるわけがない。
 僕はただ目の前にある快楽を追い求め、虎君とのキスに溺れた。
「! っ、あっ」
 夢中になって虎君がくれる甘く痺れるような浮遊感に満たされた心地良さを追い求めていれば、突然脳に直接響くような鮮明な刺激に思わず身が竦んで唇が離れてしまう。
 響いた音はおおよそ自分の口から漏れたとは考えられない程艶めいたもので、僕が口にしたものとは僕自身思わなかった。
 でも、熱っぽい眼差しで虎君は僕を見下ろし押し殺したような声で「可愛い」と笑ったから、僕の声だと分かった。
「んっ、……と、らくっ……、っぁあっ」
 熱に浮かされた僕が虎君の声に反応を返す前に身体にもたらされるのは新たな快楽で、唇からは悩まし気な嬌声が零れた。
 正直、今自分の身体に何が起こっているのか全然分からなかった。ただ下肢に燻っていた熱がどんどん燃え上がっていっていることだけは分かった。
「とらくっ、ん、んんっ」
 自分の口から零れる甘えた声が恥ずかしい。でも、恥ずかしいよりもずっとずっと気持ちよくて僕は虎君に縋りついてしまう。
 虎君はそんな僕の唇を再びキスで塞ぐと、僕の身体をもっとずっと熱くする。
(気持ちいぃ……、気持ちいぃよぉ……)
 目を閉じているせいか、僅かな快楽も逃がさないよう感覚が研ぎ澄まされているように感じる。
 僕の舌に絡みつく虎君の舌の感触や熱さに、身体に触れる指のぬくもりや感覚に、身体を巡る熱が下肢に集中していくのを感じた。
「気持ちいい……?」
「うん……、すご、きもちぃ……」
 離れた唇に目を開ければ、僕を愛しむ虎君と目が合った。
 さっきまでは部分的にしか聞こえていなかった声。だけど今は何故かちゃんと聞こえて、答えることができた。
 蕩けていた心と身体はさっきよりもずっとトロトロになっているのに、変なの。
「っ、エッチな顔してる」
「! んぁ……」
 頬を撫でられただけなのに、身体が跳ねる。脳を痺れさすような強烈な快楽が触れた箇所から生まれ、それは脳から脊髄を通り、下肢に降りてゆく……。
「耳もダメ?」
「んんっ、ぁ、とらくんっ」
 触れるか触れないかのもどかしい手の動きで耳に触れる虎君。僕はその手から逃げるように身悶えたつもりなのに、気が付けば自分からその手に擦り寄ってしまっていた。
 虎君はそんな僕を見下ろし、愛しくて堪らないと目を細め、今度は触れるだけのキスをくれた。
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