特別な人

鏡由良

文字の大きさ
419 / 552
恋しい人

恋しい人 第133話

しおりを挟む
 触れるだけのキスはやがてチュッチュッと音を奏で、再び舌を絡める濃厚なものへと変わる。
 虎君の唇の感触にうっとりしていた僕はだらしなく口を半開きにしていたのかもしれない。
(すごぃ……キスって、こんなにきもちぃーんだ……)
 身体は熱くなる一方。でも頭は夢見心地なんて、すごく不思議。口内を撫でられ、胸を撫でられ、下肢の疼きはより強くなっているのは確かなのに。
 血が下半身に集中するのを感じながら、背骨を伝ってくる切なさにもっと虎君の傍にいたいと腕を大好きな人の首に回し、引き寄せた。
「! あぁっ!」
 さっき感じた鮮明な刺激にまた身体が跳ね、唇が離れて声が上がる。でもさっきとは違ってその刺激は消えて無くなることなく、今もずっと身体を駆け巡っている。
 僕は虎君の唇から離れた口からいやらしさしか感じない喘ぎ声をあげ、翻弄された。
「葵は敏感なんだな。初めてだと感じない人もいるらしいのに」
 耳のすぐそばで聞こえる虎君の声は熱がこもって色っぽい。吐息交じりのその声は耳から脳に響き、そして下肢を痺れさせてしまう。
 今自分がどうなっているのか、全然分からない。ただ身体に微弱な電流が走っているように内側から痺れて気持ちいいという思考以外削ぎ落されてゆく。
「とらくっ、なに、っこれ、なにっ、わかんないっ、わかんないよぉっ」
「大丈夫だ。……此処は葵が気持ちよくなれるところだよ」
 見える?
 耳元から唇を離す虎君は僕の身体を触る手を緩め、僕に視線を指先に向けるよう促してくる。
 言われるがまま惚けた頭と涙が滲む目で虎君の指を探せば、それは露わになった僕の胸元で乳首を避けるように円を描いて愛撫を続けていた。
 僕はおっぱいなんてないのにどうしてこんな気持ちよくなるのか分からず、虎君を呼ぶ。女の子じゃないのにどうして……? と。
「男でも乳首は性感帯らしいから普通のことだよ。……ほら、こんなにぷっくりしてる」
「んぁっ!」
 避けられていた乳首を柔く摘む虎君はそのまま指の腹でそれを捏ねるように潰して、優しく引っ掻いて、また摘んで僕の身体にそこが『気持ちいい』を生み出すと教えた。
 僕はその指の動きにまた頭に電流が流れ込んだように思考と途切れさせ、身体を仰け反らせ腰を引いて身悶えた。
 初めて味わう今まで感じたことのない快楽は僕の思考をぐずぐずに蕩けさせてしまって、これ以上味わったらおかしくなってしまうと本能が働いたのか嬌声として快楽を体躯の外に逃がそうと喘ぎ続けた。
 その声を聞いて虎君がどう思うかとかそんな気を回す余裕はなくて、ただ無我夢中で下半身から生み出される熱量と快感に声を上げる僕。
 でも、気持ちいいと頭の中で叫ぶ本能の声の合間で、虎君の「可愛い」という声が聞こえた気がしたのは気のせい……?
「と、と、らく、――っとらくん、あぁん! だめぇっ、なに、なにかきてるっ、きちゃうぅっ!」
「大丈夫。来ていいんだよ」
「! やぁっ! み、みみ、だめっ……だめぇぇ……」
 耳から流れ込む吐息。そして、湿った何かが耳を塞いだ。
 本当にもう何が起こった分からない。僕の身体の至る所から快楽が生み出され、脳がこれ以上の快楽には耐えられないと警鐘を鳴らしている気さえする。
 僕は虎君の腕にギュっとしがみつき、身体中で燻り暴れていた熱を下肢から吐き出したいと意識を全て其方に注いだ。
 そして、僕の世界から音が一瞬全て消え、身体中で暴れまわっていた快楽が頭からすーっと引いていく感覚にある種の爽快感を覚えた。
「と、らく……?」
「ん……。上手にイけたな」
 瞬きすれば涙に濡れたまつ毛のせいかちょっと冷たい。
 まだ僅かにはっきりしない頭で虎君を見上げれば、虎君は優しく微笑み、僕の目尻にチュッとキスを落としてきた。
 よくできましたと大きな手で頭を撫でてくれる虎君。その手が心地良くて、それでいて安心できて、僕は「うれしい……」と心のままに呟き、笑った。
「服、気持ち悪いだろ? 脱がしていい……?」
「うん……。脱がして……?」
 遠慮がちな虎君の声に、僕は頷き、身を任せる。虎君は今度は唇にキスを落とすと、「愛してる」と想いをまた伝えてくれた。
 ふわふわと夢見心地な僕は、虎君に言われるがまま足を上げ、腕を上げ、気が付けば裸になっていた。
 虎君は服を脱ぐどころか着衣の乱れすらないのに自分だけ裸にされて、さっきまでの夢見心地から一転、込み上げてくるのは羞恥心だ。
「葵? どうした?」
「は、恥ずかしいよぉ……」
 僕を見下ろしまじまじと眺めていた虎君の視線が居た堪れなくて、僕は寝返りを打つように横を向いて身を丸め、身体を隠そうと試みる。
 でも、既に僕は裸だし、僕に覆いかぶさっている虎君の視線からは全然逃げられていない。それでもまだ子供のままの下肢は隠せているはずだからそれでいい。
「そんな可愛いこと言うなよ。意地悪したくなるだろ?」
「な、なんでっ?」
「恥ずかしがってる葵が滅茶苦茶可愛いからに決まってるだろ」
 虎君になら何をされてもいいと思っているとはいえ、『初めて』なのに意地悪されるのはやっぱり嫌だ。
 夢見がちとか乙女思考とか言われるかもしれないけど、『初めて』はやっぱりちゃんと愛し合っていっぱい幸せになりたいから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...